前回までの夏場開催から2月の冬場開催へ移動となった第28回全日本選抜競輪が松山競輪場で開催される。中心となるのは圧倒的な強さと安定感で王道をひた走る武田豊樹だ。昨年と同様に今年も王者の貫禄を見せつけて競輪界を牽引していくだろう。GPで準優勝の成田和也を擁する北日本やGPで果敢な先行策を見せた深谷知広が率いる中部もライン的に強力で、もちろん満身創痍の状態ながら全身全霊を傾けた魂の走りでGP初制覇を達成した村上義弘の一発も十分だ。
王者・武田豊樹がライバルたちを力でねじ伏せる
総合力では88期カルテットを擁する北日本が1番
武田豊樹は年末のグランプリこそはアクシデントもあり力を出し切れなかったが、昨年は2度のGI制覇に加えてG2の優勝が2回、GIIIの優勝が6回と圧倒的な強さで王者の貫禄を見せつけてきた。この1月に39歳を迎える武田だが、生活の全てを競輪に捧げている。究極のアスリートはさらなる高みを求めて進化し続けており、今年もライバルたちを力でねじ伏せて王道をひた走っていく。
武田後位は同県・長塚智広の指定席だ。昨年はGI優勝はなかったが、寛仁親王牌と競輪祭で準優勝、日本選手権で決勝6着と年間を通して安定した成績を残した。大ギアを自由自在に操っての捌きと直線での伸び脚は驚異的なものがあり、武田にとっては心強い味方であると同時に最大の敵ともいえる。
地区的な総合力では北日本が1番で、昨年は成田和也、佐藤友和、山崎芳仁の88期トリオがGI制覇を成し遂げている。中でもビッグレースでの活躍が目立っていたのが成田和也だ。日本選手権決勝で4コーナーから内に切り込んでの直線強襲でダービー王に輝くと、共同通信社杯、オールスターで準優勝、目標不在となった競輪祭決勝では武田豊樹の番手に攻め込む強気の走りを見せて4着、そしてグランプリでは、再び4コーナーからの内に切り込んでの中割り強襲でタイヤ差の2着に詰め寄り、輪界屈指の差し脚を遺憾なく発揮した。
北日本には成田、佐藤、山崎のSSトリオに加えて、もう1人の88期、渡邉一成という大砲も控えている。昨年の共同通信社杯では佐藤の先行に乗ってビッグ初優勝を飾ると、オールスターでは山崎の復活優勝に貢献と北日本の絆の強さを見せつけており、今回も88期カルテットが大暴れしてくれるだろう。
村上義弘を中心に近畿が一気の台頭を決める
深谷知広と脇本雄太の対決も見所のひとつ
深谷知広は昨年のビッグレースの優勝は西王座戦だけだったが、日本選手権、高松宮記念杯、寛仁親王牌で決勝進出と活躍した。後半戦は落車が続いて力を出し切れずに終わったが、グランプリでは2年連続で主導権を取り切って大いにアピールを果たした。若さという特権を武器に今回までにはしっかりと立て直してくるだろうし、グランプリのときと同様の積極果敢な走りでタイトル奪取に燃えてくるだろう。
浅井康太はグランプリでは番手絶好の展開から昨年に次ぐ3着と悔し涙を呑んだ。だが、浅井後位から早めに仕掛けた村上義弘にスイッチした動きは悪くなかったし、中割りの成田和也に絡まれなければゴール前で好勝負を演じられたはずだ。昨年はノンタイトルに終わった浅井だが、後半戦に入ってからはめきめき調子を上げてGIIIの優勝が4回と絶好調モードに突入、グランプリでの失敗を糧にひと回り大きくなった浅井が今年も自慢のスピードにますます磨きをかけて大活躍してくれるはすだ。
村上義弘が悲願のグランプリ初優勝を達成した。昨年前半のGIでは日本選手権、高松宮記念杯で決勝進出と順調だったが、オールスター決勝で落車して古傷が悪化してからは流れが悪くなった。さらにはグランプリ直前の練習中に落車して肋骨を骨折と満身創痍の状態だったが、一瞬のチャンスを逃さない集中力と全身全霊を傾けた魂の走りで日本一の座に就いた。
村上の優勝に日本中の競輪ファンが惜しみない拍手を送ったが、とりわけ38歳の村上の走りに心を揺さぶれたのが近畿の後輩たちだろう。昨年のGIでも脇本雄太や稲垣裕之が村上の勝ち上がりに貢献していたが、今年も村上との相性が抜群の脇本をはじめとする近畿の自力選手たちは村上譲りの熱い走りで近畿のエースを盛り上げていくだろうし、白のチャンピオンユニフォームを身にまとった村上を中心に近畿の台頭が十分に期待できるだろう。
個性的な選手が揃う地元・中四国が波乱の目
高速バンクが得意な海老根恵太の一発が侮れない
昨年のビッグレースでは最後の締めくくりのグランプリこそは近畿の村上義弘が優勝したが、5大会のGIのみならず共同通信社杯とサマーナイトフェスティバルのGIIも東日本勢が優勝と、東高西低の現状がはっきりと浮き彫りになった。
それぞれS級S班を3人ずつ擁する北日本と関東は機動力の面でも選手層の面でも強力だが、西日本勢がこの2大勢力の牙城をいかに切り崩していくかが今回の見どころになるだろう。
中四国は選手層の面では他地区に劣るのは否定できないが、個性的な選手揃いなので、グランプリで単騎の村上が優勝したように中四国の選手が波乱の立役者となる可能性は十分にある。
地元期待は濱田浩司だ。濱田は山崎芳仁が大ギアブームを起こす前から4回転を踏んでいたので、ブーム以降に踏み出した選手よりもしっかり踏みこなせているし、自在な動きもうまい。近況は中団捌いての捲りが得意戦法となっており、走り慣れたホームバンクでの一発が期待できる。
小倉竜二は12月の佐世保記念決勝でバック9番手の展開から内に切り込んで2着に突っ込むなど、持ち味の勝負強さは健在だ。大ギアブームの波に飲まれて苦戦していた時期もあったが、現在では自身も4回転を踏みこなせるようになり、4回転を踏みながらも以前と変わらぬ競走スタイルで成績が上向いてきている。
機動力なら三宅達也だ。昨年から使い始めた4.17のギアがうまくハマったのか近況は勝ち星が増えてきている。2度目の記念制覇となった昨年10月の千葉記念では、勝ち上がり戦は豪快な捲りを決め、決勝では地元ラインの番手に攻め込むシビアな走りを見せた。まだGIでの優出経験のない三宅だが、昨年の寛仁親王牌では2連勝で準決勝進出、オールスターでは小倉竜二とワンツーを決めて一次予選を突破しており、今回も勝ち上がりが期待できる。
九州では井上昌己の動向に注目だ。昨年の高松宮記念杯では10年の日本選手権以来のGI優出を決め、9月の防府記念では中団捲りの浅井康太のさらに上を捲り切って優勝と復活を遂げた。10月に落車して3カ月近くの欠場を余儀なくされたが、復帰戦となった年末の熊本FIでは優勝こそならなかったものの、連日スピード抜群の捲りを決めて準優勝と状態は問題なさそうで、今回はGIの大舞台で三たびの復活劇が見られそうだ。
徹底先行を貫く吉本卓仁も九州の追い込み勢にとっては頼もしい存在だ。昨年のオールスターでは一次予選が逃げ切りで園田匠とワンツー、二次予選は中団で稲垣裕之と絡み合う展開となったが、しぶとくしのいで2着に突っ込み準決進出、競輪祭では二次予選で敗れたが、連日の先行策で小野俊之や西川親幸の準決勝進出に貢献しており、今回も九州勢を連れて逃げまくってくれるだろう。
南関東では海老根恵太の奮起に期待したい。近況は復調気配にあるとはいえ決して好成績とはいえない状態が続いているが、松山は上がり10秒8のバンクレコードを持っている得意バンクだ。昨年の競輪祭の二次予選では、脇本雄太の先行で海老根は絶体絶命の8番手となったが、3コーナー過ぎからの仕掛けで大外を鋭く突き抜け、やはり上がりが10秒8と高速バンクで強さを発揮している。松山バンクも小倉ドームと同様にカントの立った高速バンクで、必ずや海老根の大捲りが炸裂するだろう。
全日本選抜競輪の思い出
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第24回読売新聞社杯全日本選抜競輪
12月9日(火)決勝 優勝:三宅伸(岡山・64期)
デビューから20年のベテラン・三宅伸がGI初優勝
石丸寛之-三宅伸、海老根恵太-渡邉晴智、荒井崇博-加藤慎平、山崎芳仁-佐藤友和-兵藤一也の並びで周回。赤板前の4コーナーから荒井が上昇開始、1コーナー過ぎに前団に並びかけると、石丸は車を下げ、荒井が先頭に立つが、打鐘とともに山崎がスパートして先行態勢に入る。番手の佐藤まで出切ったが、兵藤が踏み遅れて荒井が3番手にはまる。荒井後位が加藤と兵藤でもつれたところを、8番手まで下がっていた海老根が最終ホームから一気に巻き返す。2コーナーで佐藤が牽制するが、海老根はそれを乗り越えて山崎に迫る。続いて2コーナー過ぎからは満を持した石丸が捲りを放つ。海老根はバックで山崎を捕らえるが、その外を石丸が捲り切って直線へ。好追走の三宅がゴール直前で石丸を差し切り、デビュー20年目でGI初優勝を達成、石丸が2着、捲られながらも粘り込んだ海老根が3着という結果だった。
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全日本選抜競輪を読み解く
松山競輪場 400mバンクの特性を知る
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回転力のある自力型に有利な高速バンク
基本的には捲りが決まりにくく先行が残りやすい
標準的な400バンクでどんな戦法でも力を発揮できるが、カントがきつく、走路自体も軽くてタイムが出やすい高速バンクなので、回転力のある自力型が有利だ。
高速バンクの特性上、基本的には先行有利だ。ホーム手前から仕掛けて1コーナーで出切ってしまえば最後まで持つし、3コーナーの壁をきれいに先頭で回っていければ、もう1回内が伸びる感じがあるので残ることができる。
ただ、川沿いに位置している上に、バック側に建物がないので風の影響を受けやすい。通常はホームが向かい風、バックが追い風で、ホーム向かい風がきつい日でもバックで流れるので、先行はホームで駆け切ってしまえば、風はそれほど気にならない。しかし、冬場はたまにバック向かい風が吹くことがある。そうなると、バンク全体が向かい風のような感じになり、先行は苦しくなる。
09年9月に開催された第52回オールスター競輪の決まり手を見てみると、全55レースのうち1着は逃げが8回、捲りが19回、差しが28回、2着は逃げが6回、捲りが6回、差しが23回、マークが20回となっている。他のビッグレースと比べると先行が善戦していることがわかるし、先手ラインの選手が1着になったレースも26回と半数近い。
捲りは力のある選手ならば、3コーナーをスピードを持って飛び込んでいけばけっこう伸びるが、緩い捲りだと3コーナーでほとんど止まって行けなくなってしまう。できるだけ仕掛けを遅らせて、バックを加速状態で通過するのがベストだ。中途半端な捲りよりも、早めの巻き返しか、捲り追い込みのほうがいいだろう。
周長は400m、最大カントは34度01分48秒、見なし直線距離は58.6m。見なし直線は立川と同程度で長めだが、4コーナー立ち直ってからの直線は短く感じられるという選手が多く、先行が残りやすい。直線ではイエローラインのやや内寄りがよく伸びるが、捲りの選手がスピードに乗って3コーナーを回ってくれば外も伸びる。
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