レース展望

 第64回高松宮記念杯(GI)が岸和田競輪場で開催される。大津びわこ競輪場の廃止後、11年は前橋競輪場、12年は函館競輪場で開催された同大会だが、3年ぶりに近畿地区に戻ってくるとあって村上義弘が率いる地元勢の奮闘に注目が集まるが、連覇の期待がかかる王者・武田豊樹や圧倒的なスピードで旧勢力に世代交代を迫る若武者・深谷知広が近畿勢の牙城崩しに闘志を燃やす。ここへきて急成長を遂げている新田祐大を先導役とする北日本勢も選手層の厚さで侮れず、混戦になれば復活の兆しが見えてきた九州勢や南関東勢の一発も十分だ。
GI初制覇のゲンのいいバンクで武田豊樹が連覇を狙う
今年急成長の新田祐大が北日本勢を勝利へと導く
武田豊樹選手
 武田豊樹は昨年の当大会(函館)の覇者だ。加えて岸和田は09年の日本選手権で初タイトルを獲得したゲンのいいバンクとくれば、高松宮記念杯連覇への期待はいやが上にも高まる。GI優勝2回、GII優勝2回、GIII優勝3回の昨年の活躍ぶりと比べると今年前半はやや存在感が薄くなっていたが、相変わらずの高い安定感を維持しているし、5月に岸和田で開催された全プロ記念記念では王者復活を強く印象づける走りを見せつけた。スーパープロピストレーサー賞は結果こそ5着だったが、新田祐大の先行に対して打鐘4コーナーからの早めに巻き返し、一旦は新田を叩けずに終わったかに見えながら、そこから態勢を立て直して再び捲りにいき、1周近く新田ともがき合った豪脚ぶりはライバルたちにはとてつもない脅威に映ったことだろう。
 天性のダッシュ力と技巧的なレース運びで4月の共同通信社杯を制覇した長塚智広、全プロ記念で武田豊樹を目標に連日2着と健闘したベテラン・神山雄一郎、2月の全日本選抜競輪での復活優勝のあとはやや低調だった平原康多も全プロ記念の2日目に脇本雄太-村上義弘の近畿最強コンビを豪快に捲り切っており、今大会も彼らが武田豊樹と好連係を決めてくれば、地元・近畿勢にとっては最大の難敵となるはずだ。
新田祐大選手
 北日本勢では新田祐大が今年に入ってから急成長を遂げている。2月の四日市記念決勝では深谷知広の先行で8番手となった新田だが、最終ホームから早めに巻き返して捲り切り記念初優勝。5月の武雄記念決勝は成田和也の猛追を振り切って優勝、そして全プロ記念競輪のスーパープロピストレーサー賞では打鐘先行で武田豊樹と丸々1周もがき合いながら、強靭な粘り脚を発揮して逃げ切っている。ちなみに翌日に開催された全プロ選手権の1kmタイムトライアルでも1分03秒台の好タイムで優勝しており、同じ岸和田バンクで開催される今大会ではGI制覇も決して夢ではないだろう。北日本勢は今年のビッグ決勝では大敗が続いているが、山崎芳仁、佐藤友和、渡邉一成、鈴木謙太郎と機動力の充実ぶりは他地区を圧倒しているだけに、今大会では新田祐大を先導役に一気呵成の巻き返しが期待できる。
村上義弘率いる近畿勢が地元ファンの熱い声援に応える
スピード王・深谷知広が今度こその優勝を狙う
村上義弘選手
 村上義弘率いる地元勢にとっては絶対に負けられないシリーズとなる。同じく近畿地区で開催された共同通信社杯(福井)では近畿勢から決勝に勝ち上がれたのは村上義弘ひとりで、最終的に村上の番手から長塚智広が優勝をさらっている。岸和田で開催された全プロ記念競輪でも初日優秀3個レースに近畿勢は4人乗っていたが、スーパープロピストレーサー賞に勝ち上がれたのは藤木裕ひとりだっただけに、同じ岸和田で開催される今大会では是が非でも地元勢の意地を見せたいところだ。
 村上義弘は昨年暮れのグランプリ初制覇に続き、3月には2度目の日本選手権制覇を成し遂げているが、38歳という年齢、そして共に単騎の戦いから勝ち取った栄光だけに、逆境に屈せずに勝利を目指す不屈の精神力はまさに超人的といっていい。今大会もいつもどおりの全身全霊を込めた走りでライバルたちを迎え撃ち、地元ファンの熱い声援に応えてくれるだろう。
深谷知広選手
 村上と同様に、いや、村上以上に気合いを込めて臨んでくるのが、藤木裕、脇本雄太、川村晃司、稲垣裕之らの後輩たちだろう。地元戦のGIでまたもや村上に単騎の戦いを強いるわけにはいかず、今度こそはの決勝進出を目指してくるだろう。とりわけ村上と一緒に初日白虎賞に選ばれている藤木と脇本は責任重大だ。白虎賞で4着にまでに入れば準決勝進出の権利を引き寄せることができるので、村上博幸と南修二を含めた近畿勢5人の連係がどうなるかは現時点ではわからないが、初日から気合い満々の走りを見せてくれるはずだ。
 輪界のスピード王は深谷知広だ。日本選手権の準決勝では絶体絶命の8番手から大捲りで上がり10秒6の驚異的なタイムでバンクレコードを更新、5月の平塚記念の最終日にも7番手からの捲りで上がり10秒5のバンクレコードタイを叩き出しいる。だが、勝ち上がり戦では比類なき強さを発揮している深谷だが、決勝になると後手を踏んでの捲り届かずばかりで、全日本選抜、日本選手権、共同通信社杯と3大会連続で準優勝に甘んじている。脚力や体調面では万全の状態を維持していながら気持ち的な面が課題となっており、今大会ではいかに軌道修正してくるかに注目が集まる。
松川高大、菅原晃らが好気配の九州勢に復活の兆し
GI初出場となる新鋭・原田研太朗の好走に期待
松川高大選手
 現在の競輪界は北日本、関東、中部、近畿の4大勢力のせめぎ合いの構図になっており、その他の地区は4大勢力の猛攻の前にタジタジになっている印象があるが、そんな中でも徐々にながら九州勢に復活の種が芽生え始めてきており、4大勢力の激突の隙を突いての逆転一発が決して侮れない。
 松川高大は昨年の西王座戦でビッグ初優出を果たしながらも後半戦に入ってから調子落ちになっていたが、今年1月の高知FIを優勝してから復調モードに入った。2連対を決めた4 月の川崎記念や準決勝進出を決めた共同通信社杯の走りを見る限りでは脚力的には完全に戻っており、あとは気持ち的な問題だけだろう。全プロ記念記念では連絡みこそなかったが2日間先行と積極的な走りを見せており、今大会でトップクラスを相手に思い切りのいい仕掛けができれば、GI初優出が十分に手が届くだろう。
三宅達也選手
 全プロ記念競輪でスーパープロピストレーサー賞に勝ち上がった大塚健一郎と菅原晃の大分の2人も近況の気配は良好だ。直前の地元・別府記念でも2人は共に決勝進出を果たしている。さらに菅原は10年の岸和田記念決勝で、村上義弘後位の南修二を捌いて番手を奪取、村上の捲りを差し切って記念初優勝を飾っており、今大会でもゲンのいいバンクでの一発が狙えそうだ。
 中国勢ではベテラン・三宅達也の頑張りが光っている。近況は捲りも撃てる追い込み型の競走スタイルを確立すると共に成績も上昇してきた。3月の玉野記念の準決勝では5番手からの捲りで2着に突っ込んで優出し、地元選手の意地を見せている。共同通信社杯の準決勝では目標に選んだ深谷知広のハイスピード捲りにぴったり食らいついていってやはり2着となり、昨年の西王座戦以来のビッグ優出を決めている。全プロ記念競輪では4着、5着の成績だったが、初日特選では川村晃司、矢口啓一郎らを相手に打鐘と共に一気にカマして番手追走の柏野智典の連絡みに貢献と、成績上昇と共に気力も充実してきているのが見て取れる。
原田研太朗選手
 四国勢では98期のヤングパワー・原田研太朗の走りに注目だ。原田は共同通信社杯がビッグレース初出場となったが、一次予選では浅井康太の先行を捲り切り、S級S班を撃破する金星を挙げた。4日目特選でも最後は山崎芳仁の捲りに屈したが、小倉竜二を連れての先行で2着に粘り込んでいる。2月の高松記念では連日の先行策で記念初優出も達成、4月の奈良FIでは坂本亮馬、神山拓弥らを下して完全優勝、5月の千葉FIも優勝と勢いに乗っており、今大会でもトップクラスを相手の好走はもちろん、ラッキーボーイとなっての上位進出が期待できるだろう。
根田空史選手
 南関東勢では根田空史の快進撃が続いている。4月に別府FIと青森FIで2場所連続の完全優勝を達成すると、5月の平塚記念では初日特選と準決勝でやはりS級S班の山崎芳仁を2度にわたって下して決勝進出を決めている。全プロ記念競輪では初日選抜は見せ場なく4着に終わったが、2日目特選は得意の捲りで圧勝しており、体調面も岸和田バンクとの相性も悪くない。南関東勢は全日本選抜で海老根恵太が決勝進出を果たしているが、日本選手権、共同通信社杯では決勝進出がなかっただけに、今大会では根田を先導役にしての巻き返しに期待したい。
 
高松宮記念杯の思い出

第55回大会 大津びわこ競輪場
2004年6月8日決勝
45歳の松本整が村上義弘の先行を目標に4度目のGI優勝
 岡部芳幸-佐藤慎太郎-金古将人、村上義弘-松本整-小野俊之、吉田敏洋-山口富生-小川圭二の並びで周回を重ねる。打鐘前から吉田がゆっくりと上昇開始、打鐘後に先頭に立つが、7番手になった村上が打鐘過ぎの3コーナーから一気にスパート、最終ホームで村上は吉田を叩いて主導権を奪い、吉田はすんなり引いて4番手を確保、岡部が7番手となる。最終バック過ぎから岡部が捲り発進、最終3コーナーでは岡部に合わせて吉田も捲りに出るが、車が進まない。岡部は吉田の横を素通りして近畿コンビに迫るが、今度は松本が最終4コーナーから岡部の捲りに合わせて発進、松本は外から迫る岡部、内を突いた小野を振り切って先頭でゴールを駆け抜けて4度目のGI優勝を飾った。2着は岡部、3着は佐藤が入線。当時45歳になったばかりの松本は自身3度目となるGI最高齢優勝記録の更新となったが、直後の優勝記者会見の席上で現役引退を表明した。
第55回大会 大津びわこ競輪場2004年6月8日決勝
第55回大会 大津びわこ競輪場2004年6月8日決勝
高松宮記念杯を読み解く
岸和田400mバンクの特徴

海岸に近く、浜風と山風の影響を受けやすい
直線は長いが、先行はバック追い風に乗って粘り込める
 走路はクセのない走りやすいバンクで直線も比較的長いので、戦法や脚質による有利・不利は少ない。以前は直線が長めで追い込み有利とされていたが、02年のバンク改修で滑り止めのウォークトップを手塗りにしてから軽いスピードバンクに生まれ変わり、先行でも粘れるオールラウンドなバンクになっている。また海岸に近い平地にあるため、大阪湾からの浜風と南東の山から吹き下ろす山風のせいで全国でも有数の風の影響を受けやすいバンクとなっている。
 通常はバック追い風が多く、先行はその風に乗っていけるので粘り込めるが、天候が悪くなると山風に変わり、バック追い風になるときもある。バック追い風のときなら先行は打鐘で抑えて、ホームから駆けるオーソドックスな仕掛けで十分に粘り込める。捲りはカントのきついバンクなので、2コーナーから早めに仕掛けても、3、4コーナーを粘りきれば直線で一気に突き抜けることができる。ただし3コーナーからの遅めの仕掛けになると、4コーナー過ぎの直線立ち直りのところで先手ラインの選手に牽制されて不発になりやすい。
 11年8月に開催された全日本選抜競輪の決まり手を見てみると、全47レースのうち1着は逃げが4回、捲りが18回、差しが25回、2着は逃げが6回、捲りが9回、差しが15回、マークが17回となっている。ちなみに先手ラインの選手が1着になったのは16回で捲りのラインがやや優勢だったが、先手ラインと捲りのラインがもがき合って混戦になったところを、後方で脚を溜めていた選手が中割りや大外強襲で突き抜けたケースも少なくなかった。2日目第6レースの二次予選では先手を取った鈴木謙太郎の北日本ラインと中団から捲った木暮安由でもがき合いになり、8番手にいた大塚健一郎がイエローライン上を上がり11.0の好タイムで突き抜けて1着になっている。
 直線ではコース取りに関係なく、インも中も大外を同じように伸びるので、追い込み選手にとっては走りやすいバンクとなっている。
岸和田バンクデータ 
周長は400m、最大カントは30度56分00秒、見なし直線距離は56.7m。通称は浪切りバンク。最高上がりタイムは88年9月に坂本勉が記録した10秒6。直線が長めで捲り追い込みが決まりやすく、捲りや捲り脚のある追い込み選手に若干有利。競りもカントがきついので外も内も互角に戦える。直線はどのコースも伸びるので、ゴール前で無理にインに切り込んでいく必要はなく、中バンクだけが伸びるというクセもない。