レース展望

第22回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(GI)が弥彦競輪場で開催される。先の高松宮記念杯では上がり10秒台の好タイムが続出、新たなスピード競輪の時代の到来を予感させるシリーズとなったが、もちろん今大会も決勝戦でワンツー決着を決めた成田和也と新田祐大の福島コンビが中心となるだろう。深谷知広と浅井康太の中部コンビ、藤木裕、脇本雄太、川村晃司らの近畿勢もスピード比べでは決して負けておらず、武田豊樹や村上義弘らのベテラン勢が世代交代を迫るヤングパワーに対していかに受けて立つかが最大の見どころになりそうだ。
ニューヒーロー・新田祐大が新たな時代を切り開く
追い込みの第一人者・成田和也が技と切れ味を発揮
新田祐大選手
 今最も強い男は新田祐大だ。これには誰も異論はないだろう。5月の全プロ記念競輪のスーパープロピストレーサー賞では王者・武田豊樹とのもがき合いを制して逃げ切り、全プロ選手権の1kmタイムトライアルでは1分03秒台の好タイムで第1位となり、今大会の初日、日本競輪選手会理事長杯の権利を勝ち取った。そして高松宮記念杯では、一次予選は4番手からの捲りで上がりタイムは11秒0、二次予選は7番手からの捲りで2着に終わったが、個人の上がりタイムは10秒4、雨中の準決勝は深谷知広を捲り切って11秒0、決勝は成田和也に差されたが、逃げての上がりが11秒0だから成田でなければ差せなかっただろう。今大会もハイスピード競輪の新時代を切り開くニューヒーロー・新田祐大を中心にシリーズが進んでいくのは間違いない。
成田和也選手
 高松宮記念杯は好タイム続出でスピードタイプの選手ばかりが目立っていたが、その中で昨年の日本選手権以来の2度目のGI制覇(4日制以上)を飾った成田和也の存在感がひときわ光っていた。最終ホームでは巻き返してきた藤木裕を牽制して、最後の直線ではきっちり内を締めてからの差し切りと、追い込み選手としての仕事をパーフェクトにこなしての優勝だった。大ギアが全盛になって以来、競輪ならでは横の動きや巧みなコース取りがさっぱり見られなくなったと嘆くファンは多いが、成田のような選手がいる限り競輪の魅力が失われることはないだろうし、他の追い込み選手たちも成田の活躍を発奮材料にますますのレベルアップを図って競輪界全体を盛り上げてくれるだろう。
 昨年の寬仁親王牌覇者の佐藤友和も高松宮記念杯では絶好調だった。決勝こそは最終バックで内に詰まって5着に終わったが、青龍賞では最終バック7番手からの怒濤の捲りで上がりタイムが10秒9、2着の武田豊樹に2車身の差をつけての一人旅、雨走路の準決勝もバック8番手からの捲り追い込みで10秒9だ。佐藤は例年、夏場になるとグングンと調子を上げてくる夏男だ。昨年の本大会の決勝は単騎戦からの鋭い追い込みで優勝、高松宮記念杯の青龍賞と準決勝も単騎戦で強さを見せつけており、今大会も福島コンビとは別線勝負で連覇を狙ってくるだろう。
中川誠一郎が得意のスプリント力で九州勢を盛り上げる
積極性の戻った深谷知広が今度こそ栄冠を勝ち取る
中川誠一郎選手
 新田祐大と共に昨年のロンドン五輪に出場、世界レベルのスプリント力を誇る中川誠一郎の活躍にも期待したい。中川は全プロ選手権のスプリントでは予選である200mフライングタイムトライアルで10秒207の1番時計をマーク、決勝では河端朋之を下して貫禄の初優勝を飾り、今大会は日本競輪選手会理事長杯からのスタートだ。五輪から帰国後は渡邉一成や新田祐大と比べると競輪での成績がいま一つの印象があったが、高松宮記念杯の二次予選では最終2コーナーから仕掛けて後続をぶっちぎりバンクレコードタイの10秒6を叩き出し、準決勝では果敢な先行策に出ている。今大会も理事長杯スタートのアドバンテージを利して、積極的な攻めでシリーズを盛り上げてくれるだろう。
 九州勢では園田匠も全プロ選手権のケイリンで初優勝を飾り、理事長杯スタートの権利を獲得している。高松宮記念杯では3日目一般で松川高大の先行を目標に1勝と調子はまずまずで、今大会では中川誠一郎との連係から上位への勝ち上がりが十分に狙えそうだ。高松宮記念杯では菅原晃、松川高大、吉本卓仁らの積極的な仕掛けに乗って4人が準決勝進出、荒井崇博が決勝進出と九州勢のムードも良くなってきている。
深谷知広選手
 深谷知広は高松宮記念杯では準決勝で敗れたが、初日、2日目のレース内容は良かった。初日白虎賞は4番手から捲って番手追走の浅井康太が1着、深谷が2着の中部ワンツー。2日目龍虎賞は打鐘から早めに仕掛けて主導権を取り切り、浅井の連勝に貢献している。深谷は全日本選抜、日本選手権、共同通信社杯と3大会連続で決勝2着と惜敗しているが、今大会でも高松宮記念杯のときような積極的な仕掛けができれば、別線の包囲網を突破して今度こそ栄冠を勝ち取ることができるだろう。日本選手権の準決勝では上がり10秒6のバンクレコードを叩き出しており、もちろんスピード勝負でも負けてはいない。
 中部勢では金子貴志も、高松宮記念杯で抜群の仕上がりを見せていた。一次予選が逃げ切り、二次予選では4番手からの捲りで後続をぶっちぎり上がりタイムが10秒8、4日目特別優秀は4番手から捲って2着になっており、今大会でも深谷と金子の師弟コンビが大暴れしてくれるだろう。
武田豊樹と村上義弘の東西両雄が巻き返しを狙う
成長著しい藤木裕がさらなるステップアップを図る
武田豊樹選手
 武田豊樹は高松宮記念杯では準決勝で敗れ、共同通信社杯に続いて決勝進出を逃しているが、このままヤングパワーの攻勢に飲み込まれてしまうのだろうか? 今後の競輪界の流れを占う意味でも、寬仁親王牌は絶対に見逃せない大会となるだろう。近況の武田は本調子とはいえない状態が続いているが、年齢を感じさせない果敢な仕掛けや巧みなレース運びには変わりはなく、高松宮記念杯でも勝ち上がりに失敗したとはいえ、勝負に賭ける強い気持ちがひしひしと伝わってくる走りを見せていた。今大会は関東で開催される地元戦だけに、持てる力と技の全てをぶつけてヤングパワーに立ち向かっていくだろう。
 大ベテランの神山雄一郎も元気一杯だ。追い込み選手に転向してから今が最高の充実期を迎えているといっても過言ではなく、今年は全日本選抜と共同通信社杯で決勝進出していたが、高松宮記念杯の準決勝でも目標の武田豊樹が不発の展開からコースを見極めて3着に突っ込み、ファイナリストに名前を連ねた。高松宮記念杯終了時での獲得賞金ランキングは9位、もちろんまだまだ安全圏でないが、今大会も4年ぶりのグランプリ出場を目指しての力走が見られるだろう。
村上義弘選手
 村上義弘も武田豊樹と同様に今大会での巻き返しを誓ってくる。体調不良の状態で臨まざるを得なかった高松宮記念杯では、地元戦ながら1度も連絡みを果たすことができずファンの期待に応えることができなかった。誰よりもファンを大事にし、誰よりも強い責任感を持っている村上だけに、今度こそはの固い決意で乗り込んでくるだろう。近畿勢は後輩たちが順調に伸びてきているが、村上はまだまだ近畿のエースの座を明け渡すつもりはないはずだ。2日目龍虎賞では深谷知広と真っ向からもがき合うなど、武田と同様にレースへの燃えるような情熱は健在で、体調さえ戻れば再び一走入魂の熱い走りを見せてくれるだろう。
藤木裕選手
 近畿勢は藤木裕、脇本雄太、川村晃司らの若手選手が好調で、機動力の充実ぶりでは北日本勢に引けを取らないが、その中でも近況の成長ぶりが著しいのが藤木裕だ。藤木は昨年の競輪祭でGI初優出を決めると、今年は全日本選抜でも決勝進出。4月の武雄記念では初日特選こそは新田祐大に逃げ切られて3着だったが、2日目以降は3連勝で武雄記念連覇を達成、新田祐大、佐藤友和、深谷知広らを敗っての3連勝だけにその価値は大きい。そして高松宮記念杯でも二次予選、準決勝を連勝して決勝進出した。決勝は9着と敗れたが、その悔しさと反省を糧にさらに大きく成長した姿を今大会で披露してくれるだろう。
根田空史選手
 南関東勢では根田空史がいよいよ本格化してきた。高松宮記念杯では準決勝で5着と敗れたが、大塚健一郎と荒井崇博の九州勢を連れての先行で荒井の決勝進出に貢献している。しかもあの雨の中で赤板から発進して、個人の上がりタイムが11秒7だから、その粘り脚は強靭だ。二次予選は捲りに回され、1度は牽制を受けて大きく膨らみ終わったかに見えたが、そこから態勢を立て直して捲り切るという驚異的な二の脚も見せている。スプリンタータイプが全盛の現在の競輪界では貴重な地脚タイプであり、今大会も南関勢を引き連れて逃げまくってくれるだろう。
寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントの思い出
第18回大会優勝:海老根恵太(千葉・86期)
2009年7月7日決勝 青森競輪場
デビューから8年、海老根恵太が直線鋭く伸びてGI初優勝
 平原康多-武田豊樹-神山雄一郎、永井清史-山口富生、井上昌己-大塚健一郎、海老根恵太-伏見俊昭の並びで周回。青板2コーナーから海老根が上昇して前団を抑えにかかるが、平原は3コーナー手前から中バンクまで上がって牽制する。上昇を阻まれた海老根は4番手に入り直し、永井は6番手まで車を下げる。平原は赤板ホーム過ぎから誘導との車間を空けてジワジワ踏み上げると、打鐘前2コーナーから全開で発進する。6番手に引いた永井も最終ホーム手前からすかさず巻き返して3番手の外まで迫るが、武田が2コーナーから番手捲りを打ち、合わされた永井は最終バックで力尽きる。8番手と後手を踏んだ井上も内に突っ込んでいくが、コースが空かず万事休す。最後の直線に入ると、神山が渾身の力を込めて武田の番手から抜け出すが、神山の後ろで脚を溜めていた海老根がゴール寸前の差しで交わして嬉しいGI初優勝、神山が2着、海老根マークの伏見が3着入線した。
第18回大会 青森競輪場2009年7月7日決勝
第18回大会 青森競輪場2009年7月7日決勝
寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントを読み解く
弥彦400mバンクの特徴
直線が長くて先行は苦しく、追い込みが有利
遅めの捲り追い込みが有効で、ラインでは決まりにくい
 弥彦は400バンクの中では一宮、武雄に次いで3番目に直線が長く、追い込みや捲り追い込みが断然有利だ。先行はもちろん捲りでも差し交わされるケースが少なくなく、自力型は苦しい。
 昨年も弥彦で開催された寬仁親王牌決勝では、川村晃司の逃げを目標に最終2コーナーから番手捲りを打った稲垣裕之が先頭で最後の直線に入ってきたが、3番手の佐藤友和、5番手の長塚智広に直線だけで交わされて5着までに落ちている。弥彦は直線に入ってからゴール前までにもう一つドラマが待ち受けているバンクなのである。
 昨年の大会の決まり手を見てみると、全47レースのうち1着は逃げが4回、捲りが11回、差しが32回、2着は逃げが6回、捲りが11回、差しが18回、マークが11回となっており、他の400バンクのビッグレースと比べると、捲りの1着がやや少なめだ。
 先行はもちろん捲りでも長い直線に入ってから後方で脚を溜めていた選手に交わされたりするので、筋違いの差し-差しの出現率が高く、ラインでは決まりにくい。昨年の大会でも、半数以上の29レースが筋違いで決着している。
 先行はいかに4コーナーまで脚力を温存できるかがポイントとなる。コーナーがけっこう流れるので、コーナーをうまく回って脚を溜めれれば粘りきれる。走路自体も毎年4月にウォークトップを塗り直すので春は重くなるが、夏場になれば軽くなる。
 捲りは2コーナー前からの早めのだと先手ラインに牽制されて不発になりやすく、バック過ぎからの遅めの捲り追い込みが有効だ。バック向かい風の日でも3コーナーを過ぎると影響がなくなるので、捲り追い込みに向いている。
 直線は中バンクから少し内寄りのコースがよく伸びる。うまく脚を溜めていれば4、5番手からの追い込みでも頭に突き抜けることができるが、インに差したり、外寄りのコースを取ると伸びない。
 捲り追い込みも外、外と踏んでいくとゴール前で膨らんでしまうので、直線に入ってからのコース取りが重要になってくる。

 周長は400m、最大カントは32度24分17秒、見なし直線距離は63.1m。日本唯一の村営の公営競技場で、1コーナー後方にはパワースポットとして有名な弥彦神社がある。その裏手が弥彦山で、競輪場は四方をうっそうとした森に囲まれており、通称弥彦おろしと呼ばれる風が3コーナーから吹き込んでバック向かい風の日が多い。最高上がりタイムは10年6月の記念決勝で山崎芳仁が7番手からの捲り追い込みで叩き出した10秒6。
弥彦競輪場
弥彦競輪場