ビッグレースでは唯一のナイター競走となる第9回サマーナイトフェスティバル(GII)が福島県のいわき平競輪場で開催される。7月の寬仁親王牌で師匠の金子貴志を涙のGI初優勝へと導いて勢いに乗っている深谷知広を本命に推すが、今や追い込み型ナンバーワンの呼び声が高い成田和也を司令塔とする北日本勢が地元の牙城死守に全力を傾けてくる。北日本勢と同じく村上義弘を中心として、川村晃司、藤木裕、脇本雄太らの豊富な機動力を擁する近畿勢の台頭も十分で、近況やや精彩を欠いているが武田豊樹率いる関東勢の動向にも注目が集まる。
真夏の夜にスター選手が激突、興奮と熱気を呼び起こす
先行に自信を取り戻した深谷知広が輝く星となる
7月の寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントでは伏兵的存在だった金子貴志が8年ぶりのGI優出、思いきりよく駆けてくれた弟子の深谷知広を差し切ってGI初優勝を飾った。前評判で最も期待を集めていた新田祐大は準決勝で8番手となって脱落、特選予選、ローズカップを豪快な捲りで連勝した藤木裕も準決勝で敗退するなど、強く、調子がいいだけでは勝てない競輪の面白さ、怖さを改めて知らされるシリーズとなった。そして、今大会のサマーナイトフェスティバルは初日が自動番組編成のオール予選で勝ち上がりが1着権利と厳しいだけに、自力型の選手はより難しい戦いを迫られることになるだろう。
そこで、今大会では寬仁親王牌で素晴らしい走りを見せてくれた深谷知広を本命に推したい。結果的には今年3回目のGI準優勝に終わったが、全日本選抜や日本選手権のときのような捲り届かずの2着とは違い、打鐘から仕掛けてのタイヤ差の準優勝だけに負けて強しの内容のあるレースだった。初日の日本競輪選手会理事長杯も浅井康太に差し切られての2着だったが、新田祐大、武田豊樹らを不発に終わらせている。準決勝は最終ホームからの仕掛けで逃げ切り、金子貴志とのワンツーで上がりタイムは10秒9と先行に対する自信を完全に取り戻している。今大会の舞台となるいわき平バンクは弥彦バンクと同様に直線が長くて先行不利とされているが、今の深谷ならば打鐘からでも迷わず発進して押し切ってしまうだろう。
浅井康太も単騎戦を選んだ決勝は展開が向かずに8着に終わったが、勝ち上がり戦の3日間はオール連対と抜群の状態だった。深谷の番手を回った初日・日本競輪選手会理事長杯は好スピードの新田祐大の捲りを牽制してからの差し切りで1着、深谷の前回りを選択した2日目ローズカップは武田豊樹を捌いての3番手取りで2着と、王者・武田のお株を奪うレース巧者ぶりを遺憾なく発揮している。今年初めは精彩を欠いていた浅井だが、5月の宇都宮記念では9番手からの上がり13秒4の捲りで2着以下をぶっちぎって優勝、6月の前橋記念では8番手からコースを見極めての直線強襲で優勝と捲り脚も完全に復活している。
成田和也を中心に結束して地元ファンの期待に応える
昨年の屈辱をバネに近畿勢が今度こその優勝を狙う
地元・北日本勢にとっては絶対に負けられない2日間となる。新田祐大、渡邉一成、山崎芳仁、鈴木謙太郎、佐藤友和らの充実の機動力を誇りながらも寬仁親王牌では勝ち上がり戦で次々と脱落、決勝戦に駒を進められたのは成田和也だけだった。高松宮記念杯で成田和也と新田祐大がワンツーを決めて勢いを取り戻していただけに、このつまずきは痛い。今大会では成田和也を中心に再び結束力を固め、万全の状態で地元優勝を目指してくるだろう。
成田和也は寬仁親王牌では結局未勝利に終わったが、連日目標の選手が不発の厳しい展開をしのいで4日間オール3着とさすがのしぶとさを見せつけた。とくに準決勝では最終バック9番手の絶体絶命の展開になりながらも、コースを伸び切って3着と鋭い差し脚を発揮している。もちろん今大会は3着では勝ち上がれないが、地元選手の意地とプライドを賭けてゴール前では鬼脚を爆発させてくるだろう。
寬仁親王牌でGI初制覇の期待が高まっていた新田祐大は準決勝で惜しくも4着と敗れたが、二次予選Aは5番手から豪快に捲って上がりタイムが11秒0、4日目特別優秀は8番手から捲って2着と調子自体は好調をキープしている。準決勝は好調さゆえに展開を見すぎてしまったのが一番の敗因と思われるが、今大会では寬仁親王牌の失敗を反省材料に、より攻撃的に動いて地元ファンの期待に応える走りを見せてくれるはずだ。
北日本勢と同様に充実の機動力を擁する近畿勢も寬仁親王牌では決勝進出が川村晃司のみと不本意な結果に終わっており、今大会での巻き返しを図ってくるだろう。加えて昨年のサマーナイトフェスティバルの決勝では藤木裕-川村晃司-村上義弘の並びで強力なライン態勢を取りながら武田豊樹の捲りに屈しているだけに、今年の優勝への執念は地元の北日本勢以上のものがありそうだ。
川村晃司は37歳とすでに中堅クラスに入っているが、寬仁親王牌の二次予選Aでは村上義弘を連れて先行してワンツーを決めるなどレース内容は若々しい。一次予選は捲りで圧勝と得意のダッシュ力も健在で、今大会も藤木裕、脇本雄太らとともに近畿勢を盛り上げてくれるだろう。
苦しい戦いが続く王者・武田豊樹の立て直しに期待
原田研太朗の逃げに乗って中・四国勢の浮上も十分
武田豊樹は昨年の本大会では主導権を握った近畿勢を捲って優勝しているが、残念ながら近況の武田はやや精彩を欠いており、共同通信社杯、高松宮記念杯に続いて寬仁親王牌でも決勝進出を逃してしまった。しかし、輪界の王者・武田がこのまま新世代の台頭を黙って許すはずはない。寬仁親王牌では4日間確定板に名前を挙げることはできなかったが、連日しっかりと中団確保には成功しており、レース巧者ぶりは健在だった。春先から座骨神経痛などに悩まされてリズムが狂っているが、アスリート魂でしっかりと立て直しを図ってくるはずで、今大会でも連覇に向けて並々ならぬ闘志を燃やしてくるだろう。
九州勢はビッグレースでの天下取りはなかなか実現しないが、今年は共同通信社杯で安東宏高が、高松宮記念杯では荒井崇博が、寬仁親王牌では井上昌己が決勝進出を果たしてシリーズを盛り上げていた。今大会もどうしても伏兵的な存在になるが、松岡貴久や松川高大らの自力型が積極的な走りで各地で好走しているので、九州勢からの勝ち上がりが期待できるだろう。
松岡貴久は寬仁親王牌では一次予選で敗れたが、川村晃司や石川雅望を相手に突っ張りに突っ張って主導権を取り切り、番手の合志正臣の勝ち上がりに貢献。3日目一般でも前受けから郡司浩平を相手に突っ張って逃げ切り、4日目選抜では主導権を取った原田研太朗の番手を内から奪って1着と2勝を挙げている。松岡自身はビッグレースの決勝からしばらく遠ざかっているが、今大会も前へ前への強気の攻めで九州勢を引っ張ってくれるだろう。
四国の快速先行・原田研太朗も注目の機動力型だ。共同通信社杯では一次予選で浅井康太、海老根恵太のビッグネームを敗る金星を挙げ、高松宮記念杯の2日目特一般では新田康仁の逃げを捲って1着となり、佐々木則幸とワンツーを決めている。寬仁親王牌でも勝ち上がりには失敗したが、新鋭らしく4日間とも主導権取りに挑んで見せ場をつくっており、2日目特一般では逃げ切って再び佐々木則幸とワンツーを決めている。サマーナイトフェスティバルは1着権利と勝ち上がり条件が厳しいのでトップクラスの選手たちにとっても仕掛けどころが難しく、思いきりのいい逃げが功を奏して番手の選手が恵まれるケースが意外と多く、今大会でも原田の先行に乗っての中・四国勢の浮上があるかもしれない。
同じ理由で今大会では南関東勢も侮れない存在になりそうだ。近況の充実ぶりが目覚ましい根田空史の活躍はもちろんだが、今期2班ながら大物食いに定評がある山賀雅仁をはじめ、吉原友彦、松谷秀幸、小林則之らの積極性の高い機動力型が揃っており、彼らの逃げがツボにはまって波乱を呼び起こすシーンが必ずどこかでありそうだ。根田空史は寬仁親王牌では二次予選Aで敗れてたが、一次予選は捲って1着、4日目優秀では渡邉一成、菅原晃らを相手に打鐘から一気に仕掛けて逃げ切りと引き続き調子はよく、今大会では初のビッグレース制覇も十分に狙えるだろう。
サマーナイトフェスティバル(GII)決勝プレイバック
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第8回 優勝:武田豊樹(茨城・88期)
2012年8月18日(土)決勝 四日市競輪場
武田豊樹が京都トリオをハイパワー捲りで粉砕して優勝!
菅田壱道-渡邉一成、武田豊樹-長塚智広、深谷知広-中村浩士、藤木裕-川村晃司-村上義弘の並びで周回。赤板前の4コーナーから藤木が上昇すると、深谷がこれを追う。赤板で京都3人が出切ると深谷は4番手を取りにいくが、菅田もその位置は譲らず、京都勢の後ろは内に菅田、外に深谷で並走となり、武田は8番手まで車を下げる。藤木は出切った直後からグングンとスピードを上げ、打鐘とともに一気にハイスペースに持ち込む。4番手は菅田が取り切り、深谷は5番手に下がるが、菅田と連結を外していた渡邉が追い上げて深谷はさらに後退。渡邉を追う形で上昇した武田はいったん菅田の横で止まるが、最終1センターから川村が番手捲りを打つと同時に踏み込み、圧倒的なスピードで京都勢を飲み込んでしまう。村上が武田後位に切り替え、最後の直線では武田と村上の一騎打ちとなるが、武田がそのまま押し切って優勝、村上が2着、深谷が3着に入線した。
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サマーナイトフェスティバルを読み解く
いわき平400mバンクの特徴を知る
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直線の長い高速バンクで逃げ選手には厳しい
直線には伸びるコースがあり、大外強襲も決まりやすい
06年10月にリニューアルオープンしたいわき平はクセのない標準的な400バンクだが、リニューアルに伴いみなし直線が旧バンクより10m長くなり、追い込み有利のバンクとなっている。直線が長くなっただけでなく、ゴール線が1コーナー寄りにあるため、4コーナーを回ってきた逃げ選手にとってはゴールまでが長く感じられ、感覚的には500バンクに近いという選手が多い。ちなみに見なし直線距離やセンター部のカントの数値などは7月に寬仁親王牌が開催された弥彦バンクとよく似ており、決まり手の出現率も似通っている。
10年9月に開催された第53回オールスター競輪(GI)の決まり手を見てみると、全55レースのうち1着は逃げが6回、捲りが25回、差しが24回、2着は逃げが9回、捲りが6回、差しが20回、マークが20回となっている。直線が長いだけでなく、走路が軽くてカントも立っているので、捲りが面白いように決まっており、先手を取ったラインの選手が1着になったのは17回しかない。
基本的には位置取りのうまい自力型が有利となるが、タイムの出る高速バンクなので、展開的に後方になっても中団から先に捲った選手を追いかけるようにして仕掛けていけば7、8番手でも十分にチャンスはある。オールスターでは捲りの1着が25回だったが、そのうちの11回が7、8番手からの捲りだったし、決勝戦では3番手から先捲りを打った武田豊樹の上を地元の山崎芳仁が7番手から豪快に捲って優勝している。山崎は準決勝でも8番手から捲って上がり10秒5のバンクレコードを叩き出しており、力のある選手ならば展開に関係なく狙っていけるバンクといえる。
直線ではイエローラインの内寄りと外寄りによく伸びるコースがあり、捲りだけではなく、後方からの大外強襲の追い込みも決まりやすく、差し-差しの出現率も高くなっている。最終バックで9番手の絶体絶命の展開になっても、コース取りを間違えなければ上位進出が可能だ。
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いわき平バンクデータ
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周長は400m、見なし直線距離は62.7m、最大カントは32度54分45秒。屋外では日本で唯一となる構造物上に設置された空中バンクであり、バンク内からでもレースを観戦できるのが最大の特徴となっている。選手が間近な上に視界を遮るものがなにもない開放的な空間となっているが、バンクは外側も内側も全周を透明板のポリカーボネートで覆われているので、走路に吹き込んだ風の逃げ場がなく、選手は風の影響を受けやすい。
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