レース展望

GIのタイトルを奪取して年末のグランプリへ
 新田祐大が本領発揮の快速捲りでGI初制覇を狙う
深谷知広選手
 若き王者・深谷知広にとってはここが正念場だ。今年のGI戦線では全日本選抜、日本選手権、寬仁親王牌で準優勝と戦歴は申し分ない。獲得賞金もすでに1億円を突破していて、3年連続のグランプリ出場もほぼ大丈夫だ。しかし、深谷にしてみれば、賞金ではなくタイトルを獲ってグランプリに出場したいというのが本音だろう。「決勝では1着以外は2着も9着も同じ」という厳しい見方もあるし、近況の記念を見ても7月の豊橋、9月の青森、10月の熊本と準優勝が続いている。深谷は勝ち味に遅いという印象を与えてしまえばライバルたちへの威圧感が薄れていくばかりで、今年最後のGIとなる競輪祭ではなりふりかまわずの勝ちに徹した走りを見せてくれそうだ。
 深谷とは対照的に、寬仁親王牌で初タイトルを獲得してからすっかり勝ちグセがついて一段とパワーアップしたのが金子貴志だ。7月の地元・豊橋記念、9月の青森記念ではまたもや深谷知広とのワンツーを決めて優勝、オールスターでは深谷との連係はなかったが、3連勝の勝ち上がりで決勝進出を果たした。とりわけ準決勝では目標の浅井康太が不発の展開から自ら捲って1着に突き抜けてタイトルホルダーの貫禄を見せつけている。今大会でも深谷との連係から2度目のGI制覇が期待できるし、強い絆で結ばれた師弟コンビは年末のグランプリに向けてますます勢いを増していくだろう。
新田祐大選手
 小倉のドームバンクで初タイトルを狙ってくるのが新田祐大だ。7月の松阪FIでは上がり10秒6の快速捲りでバンクレコードを更新するなどスピードならば輪界ナンバーワンの新田だが、高松宮記念杯とオールスターの決勝ではともに準優勝に甘んじているだけに、今度こその気持ちは強いはずだ。オールスター決勝ではゴール前で後閑信一に差し交わされたが、打鐘から一気にカマして藤木裕を叩いていったレース内容は満点に近い。小倉の高速バンクではとにかく前へ前へと踏んでいく度胸と積極性がないと勝負にならないので、今大会でもオールスターのときと同様の走りができれば、念願のGI初制覇に手が届くだろう。
戦力充実の関東勢による競輪祭3連覇に期待がかかる
 昨年も決勝進出の藤木裕が近畿勢を引き連れて奮起
 現在、戦力的に最も充実しているのは関東勢といっていいだろう。残念ながら昨年の大会覇者の武田豊樹は不在だが、後閑信一、平原康多、長塚智広、岡田征陽、池田勇人など近況勢いに乗っている選手が目白押しで、3年連続の関東勢による競輪祭制覇が十分にありうる。
長塚智広選手
 一昨年の大会でGI初優勝、昨年は準優勝と競輪祭との相性が抜群なのが長塚智広だ。今年は共同通信社杯の優勝はあるもののGIでの決勝進出がなく乱調気味だったが、9月の青森記念から新調したフレームがぴったりフィット、10月の熊本記念では深谷知広、脇本雄太、成田和也らの強豪を相手に完全優勝を遂げた。とくに初日特選では5番手からの仕掛けで上がり13秒5と、 本来の切れ味鋭いスピードが戻ってきている。10月末時点での賞金獲得ランキングが8位だが、熊本記念の優勝で後を追う9位の浅井康太との差を再び広げており、今大会でも3年連続のグランプリ出場を目指して圧巻の走りを見せてくれるだろう。
 関東勢の強い結束力を見せつけたのが10月の千葉記念だ。平原康多と成長著しい池田勇人を先導役に関東勢から4人が決勝進出、決勝は池田-平原-岡田征陽-後閑信一の並びで折り合い、池田の仕掛けに乗って捲り追い込んだ平原を岡田が差して今年初優勝を飾っている。岡田はこれで賞金ランキングが11位とアップ、競輪祭での頑張り次第では関東勢からのグランプリへの大量出場がありそうだ。
藤木裕選手
 近畿勢ではエースの村上義弘が寬仁親王牌や9月の京都向日町記念での落車の影響でやや本調子を欠いているが、藤木裕が今年は全日本選抜、高松宮記念杯、オールスターで決勝進出と頑張っている。10月の千葉記念では決勝進出ならず、初日特選では村上義弘-藤木裕の並びも見られたが、4日目特別優秀では藤木-村上の並びで逃げて見事にワンツーを決めており、ハイレベルの先行力も健在だ。近畿勢では稲川翔が賞金ランキング14位、藤木が15位とやや厳しい状況だが、藤木は昨年の競輪祭でも決勝進出を果たしており、今年のグランプリでまたもや村上義弘を単騎にしないためにも、藤木が近畿勢を引き連れての力強い走りを見せてくれるだろう。
井上昌己を中心とする九州勢が地元の意地を見せるか
 これがラストチャンスの賞金争いも見どころだ
井上昌己選手
 地元・九州勢は今年のGIでは高松宮記念杯で荒井崇博が、寬仁親王牌で井上昌己が決勝進出しているが、賞金ランキングでは井上昌己が九州勢での最高位で21位と寂しい状況だ。競輪祭ではこの2年間九州勢からの決勝進出がなく、グランプリに至っては08年に井上昌己が優勝した以後は出場がないので、今大会ではぜひとも地元勢の意地を見せてほしいところだ。井上昌己は昨年は度重なる落車に悩まされたが、今年5月に平塚記念を優勝して復活した。近況もオールスターは二次予選で敗れたが、10月の防府記念は準優勝と好調を維持している。捲りのスピードは全盛期と比べるとまだ物足りない印象はあるが、非凡なレースセンスは健在で、地の利を生かしての逆転一発が十分にあるだろう。
桐山敬太郎選手
 南関東勢も今年は全日本選抜で海老根恵太が、オールスターでは勝瀬卓也が決勝進出を果たしているが、GIではどうしても北日本勢や関東勢や近畿勢の猛攻に押されて沈滞気味だ。そんな状況下でも近況のグレードレースで目覚ましい活躍ぶりを見せているのが桐山敬太郎だ。オールスターの一次予選では稲毛健太の番手を奪って1着、二次予選は藤木裕の番手を奪って高木隆弘と南関東ワンツー、準決勝は一転して先行して9着に敗れたが、勝瀬卓也のGI初優出に貢献した。何をするかわからない変化自在の桐山の走りは対戦相手にとっては脅威のはずで、今大会でも強豪相手にレースをかきまわしての金星が大いに期待できる。
原田研太朗選手
 中・四国勢も今年のビッグレースでは目立った活躍がないが、積極先行で売り出し中の原田研太朗が桐山敬太郎と同様に各地で大物食いの快走を見せており、今大会でも原田の頑張り次第では中・四国勢の浮上が侮れない。サマーナイトフェスティバルの初日予選ではゴール前で成田和也のさすがの差し脚につかまって惜しくも2着だったが、打鐘発進の先行で粘りに粘り、6番手からの金子貴志の捲りを不発に終わらせている。オールスターの一次予選は逃げての3着で、原田ラインの柏野智典が1着、二次予選は牛山貴広に叩き返されて8着に敗れたが小倉竜二の準決勝進出に貢献しており、小倉の高速バンクでも自慢のスピードを生かした逃走劇で波乱を呼び起こしてくれるだろう。
佐藤友和選手
 グランプリの出場権を賭けた賞金ランキングの当落線上で、厳しい戦いを強いられているのが佐藤友和だ。10月末時点での佐藤の順位は10位。10月の防府記念では浅井康太に優勝をさらわれ、9位の浅井から約400万円の差をつけられてしまった。この後は11月の松阪記念で再び浅井と対決してから競輪祭へ乗り込むことになるが、もはや一戦たりとも落とせない状態だ。佐藤は今年は日本選手権と高松宮記念杯で決勝進出、サマーナイトフェスティバルでは深谷知広、村上義弘、池田勇人らを相手に上がり10秒8の快速捲りで初優勝と調子は悪くないだけに、最後の最後での逆転劇は十分に可能だ。
 もちろん9位の浅井や8位の長塚智広も決して安穏とはしていられない。彼らが賞金争いのプレッシャーに打ち勝って、GIの大舞台で本来の実力を存分に発揮できるかどうかも今大会の見どころになるだろう。
小倉競輪祭の思い出
2009年1月25日決勝 第50回大会
8番手から捲った山崎芳仁が大外伸びて2年ぶり2度目の優勝
 山田裕仁-山内卓也-坂上樹大の中部勢が前団、山崎芳仁-伏見俊昭の福島コンビが中団、北津留翼-井上昌己-小野俊之の九州勢が後攻めで、 単騎の飯嶋則之が井上のアウトで並んだまま周回を重ねる。青板前には井上が一車下げて飯嶋が番手に入り、赤板前から北津留が上昇して山田を抑えにいくと、山田はすんなり車を下げる。打鐘とともに北津留が中バンクに上がってから一気にスパートして先行態勢に入ると、井上はインからすくって飯嶋から番手を取り返し、小野も飯嶋を牽制して飯嶋は4番手まで下がり、山田が5番手、山崎が8番手となる。最終2コーナーから山田が捲っていくと、合わせて井上が番手から発進して最終4コーナーで は山田と井上の壮絶なもがき合いとなる。そこに8番手から猛然と捲ってきた山崎が襲いかかり、イエローラインの外側を伸び切った山崎が2年ぶり2度目の競輪祭優勝を果たす。伏見が2着に入り、山内が3着に入線した。
優勝:山崎芳仁(福島・88期)
優勝:山崎芳仁(福島・88期)
第55回朝日新聞社杯競輪祭(GI)を読み解く
小倉ドーム400mの特徴
スピードタイプの選手が有利な高速バンク
脚力上位の選手でもタイミング次第で不発になりやすい
 前橋に次ぐ2番目のドームバンクとして誕生した小倉競輪場は、天候に左右されることなく、常にベストコンディションで走れるのが最大の特徴だ。走路も軽くて走りやすく、タイムの出やすい高速バンクなので、先行でスピードのある選手に向いている。打鐘から全開でスパートしても、スピードに乗ってマイペースに持ち込めれば2着、3着に粘り込めるので先手ラインの有利が基本となっている。だが、追い風などのアシストを受けることができないので重く感じるという先行選手もいるし、カントがきつくて捲りも決まりやすいので必ずしも先行有利とはいえず、全国から脚力上位の選手が集うGI戦ではやはり基本どおりとはいかない。
 とくに競輪祭では毎年の開催によって、先手ライン有利の傾向が強い大会もあれば、捲りのラインが有利な大会もあるので難解だ。一昨年の第53回大会では全47レースのうち先手ラインの選手が1着になったのが19回あったが、昨年の大会ではわずかに10回のみだった。加えて昨年の大会では2車単での万車券が13本も出ており、全47レースの平均配当が7127円と波乱続きの4日間となっている。ちなみに昨年の大会の決まり手を見てみると、1着は逃げが3回、捲りが19回、差しが25回、2着は逃げが8回、捲りが12回、差しが14回、マークが13回だった。
 波乱の決着となったレースの大半は、脚力上位の自力型が仕掛けのタイミングを逸して不発というパターンだ。高速バンクの小倉では、組み合わせや展開に関係なく、勝負どころではとにかく前へ前へと踏んでいないと不発になりやすい。
 先行争いが予想されて展開的には絶好の捲りごろになるとしても、先行争いを待っていては遅い。先行争いが始まったときにはすでに踏み出していないと、前をとらえきれずに不発になってしまう。どうしても遅めの仕掛けになるのなら、最終4コーナーまで待ってから、イエローラインの外寄りを目がけて追い込んで いったほうがよく伸びる。
小倉競輪場バンクデータ 
周長は400m、最大カントは34度01分48秒、見なし直線距離は56.9m。全国の競輪場のデータを参考に「走りやすさ」を追求して設計された小倉バンクは日本有数の高速バンク。自力型有利で、追い込みは3番手以内が絶対条件。直線は外帯線から1、2mのところを外に膨れないように締めて回って追い込むとよく伸びる。最高上がりタイムは06年の国際競輪でスペインのホセ・アントニオ・エスクレドが叩き出した10秒5。