レース展望

 今年の競輪界をリードしていくのは誰か? 2014年のタイトル戦線の幕開けを告げる第29回読売新聞社杯全日本選抜競輪(GI)が高松競輪場で開催される。中心なるのは年末のグランプリで別戦を完封する圧倒的な走りを見せつけた深谷知広だろう。昨年果たせなかったGI制覇を目指して激走する。昨年覇者の平原康多を始め3人のS級S班を擁する関東勢の充実ぶりも素晴らしく、日本一の追い込み選手・成田和也を司令塔とする北日本勢の一発や地の利を活かす地元・四国勢の奮起にも期待したい。
得意バンクで深谷知広が自慢のスピードを見せつける
 安定感一番の成田和也がグランプリのリベンジに燃える
深谷知広選手
 年末のグランプリの深谷知広はやや仕掛けが早いかなという印象もあったが、冬場の立川の重いバンクでそうそうたるグランプリレーサーたちに微塵の反撃も許さない超ド級の逃げを披露、師匠の金子貴志にGP初制覇の栄冠をもたらした。深谷自身は6着に終わったが、そのパワーとスピードは輪界一といって間違いない。加えて今開催の舞台となる高松は深谷にとっては相性抜群のバンクだ。昨年2月の記念開催では完全優勝を達成、2日目優秀では9番手からの捲りで上がり11秒1の好タイムをマークし、決勝では後続を完封しての逃げ切り優勝だった。今開催でも逃げてよし、捲ってよしのパーフェクトな走りで今年こそはの2度目のGI制覇を目指してくる。
 もちろん今開催でも愛弟子の深谷知広との連係が実現すれば、金子貴志の3度目ならぬ4度目の栄冠も十分だ。グランプリ初出場で初優勝を飾った金子は今年は1番車のチャンピオンユニフォームをまとっての競走となるが、心技体ともに最高の充実期を迎えているベテラン選手だけに、プレッシャーに押しつぶされる心配はないはずだ。
 デビュー18年目にしてグランプリ覇者という最高の栄誉を手にした遅咲きの苦労人は、決して現状に満足することなく、深谷との二人三脚でさらなる高みを求めていくだろう。かつては輪界一のスプリンターとして鳴らしていた非凡なダッシュ力と、苦労人ならではのたゆまぬ努力を武器に、今年も最強の師弟コンビが競輪界を席巻していくだろう。
成田和也選手
 グランプリでの成田和也は深谷知広の先行の前に絶望的な9番手となり、直線で必死に追い込むも5着が精一杯だった。その悔しさを胸に、新田祐大とともに今大会でのリベンジに燃えてくる。昨年の成田は競輪祭を除く5大会のGIで決勝進出と、安定感はS級S班の中でもピカ一で、高松宮記念杯では新田の捲りを差して優勝している。スピード勝負なら新田も深谷に負けていないし、北日本勢の絆の強さも金子と深谷の師弟愛にヒケは取らない。昨年の全日本選抜の決勝では成田は鈴木謙太郎の番手を平原康多にさばかれるという苦い経験をしているだけに、今年こそはしっかり番手を守り切っての北日本ワンツーを狙ってくる。
機動力充実の関東ラインから平原康多が連覇を狙う
 レース巧者ぞろいの地元・四国勢が地の利を活かす
平原康多選手
 平原康多は昨年の大会の覇者だ。全日本選抜を優勝後は度重なる落車の影響で低迷したが、9月頃から強さとスピードが戻ってきて上昇気配に入り、11月の大垣記念を優勝して復活、競輪祭では決勝進出を果たした。グランプリでは深谷知広のあまりのスピードのよさに前を任せた長塚智広が仕掛け切れず、平原自身も力を余らしたままの消化不良の結果に終わったが、同じ立川バンクが舞台の1月の立川記念決勝では池田勇人を先導役に関東4車で結束、最終的には早めに巻き返してきた深谷を平原が捲って優勝、2着、3着も関東勢で上位独占と見事にリベンジを果たした。今大会も関東勢はS級S班3人を始めとする充実の戦力を誇っているだけに、強い結束力で別線を蹴散らして上位独占を狙ってくる。
 池田勇人は昨年大ブレイクした。6月の久留米記念で記念初優勝を飾ると、GII初優出となったサマーナイトフェスティバル決勝では深谷知広、村上義弘、佐藤友和らのビッグネームを相手に先行して3着と健闘した。オールスターでは準決勝で敗れたが、一次予選と二次予選では地元・後閑信一の勝ち上がりに大きく貢献している。そして今年初戦となった立川記念では、準決勝で地元・佐久間仙行の勝ち上がりに貢献するとともに、2日目優秀と決勝では深谷知広を苦しめる大逃走で見せ場を作っており、今大会でも関東勢の頼もしい先導役として大活躍してくれるだろう。
香川雄介選手
 地元・四国勢は他地区と比べるとどうしても機動力の面で劣勢を強いられるせいか、昨年の松山の全日本選抜では決勝進出者がゼロと寂しい結果だった。それでも、機動力面の劣勢をカバーするレース巧者ぶりが四国の選手たちのセールスポイントで、昨年は香川雄介や小倉竜二が高松宮記念杯や寛仁親王牌で準決勝まで駒を進めており、今開催では地の利を活かしての決勝進出に期待してみたい。とりわけ高松がホームバンクの香川雄介は今大会に向けて気合いと練習たっぷりで臨んでくるはず。1月の高松FIでは優勝こそならなかったが、初日特選と準決勝は三宅達也を目標に鋭い差し脚を発揮して連勝と地元選手の意地を見せつけている。
藤木裕が度胸満点の走りでGI初制覇へと突き進む
 石井秀治が勝ち星量産の強烈捲りで大ブレイク
藤木裕選手
 近畿勢では総大将の村上義弘がケガの影響でやや精彩を欠いているが、藤木裕に勢いがあり、そろそろ初タイトルが期待できそうだ。昨年の全日本選抜では村上義弘とともに決勝進出、決勝は落車という残念な結果に終わったが、その後も高松宮記念杯、オールスター、競輪祭で決勝進出を果たし、獲得賞金ランキングで12位と超一流の証であるグランプリ出場にあと一歩まで迫った。オールスターの準決勝は新田祐大、池田勇人らを相手に打鐘先行で3着、競輪祭の準決勝も新田祐大、長塚智広らを相手に打鐘先行で2着と、勝ち上がり戦での度胸満点の走りが藤木の最大の持ち味で、今大会でも強気の攻めを貫いて勝ち上がってくる。
川村晃司選手
 川村晃司も好調の波に乗っている。昨年は寛仁親王牌で決勝進出しているが、オールスターで2度落車して1カ半の欠場を余儀なくされ、復帰3場所目の競輪祭は一次予選で敗退した。しかし、12月の広島記念決勝で松岡健介の先行に乗っての番手捲りで待望の記念初優勝を飾ると、続く佐世保記念決勝では山田英明の先行に乗って番手捲りを打った井上昌己を、8番手からの圧巻の捲りで抜きさって連続優勝を達成した。さらにFI戦ながら年末の久留米FIを優勝、年明けの熊本FIも捲り、逃げ、捲りの3連勝で4場所連続優勝と勢いが止まらない。
石井秀治選手
 南関東勢では今期2班ながら石井秀治が強烈な捲り連発で勝ち星を量産、大ブレイク中だ。主戦場がFI戦とはいえ、直近4カ月の勝率が7割 りを超えている。近況は記念でも大活躍で、9月の京都向日町記念では3連勝の勝ち上がりで決勝5着、準決勝では藤木裕-村上義弘の地元ラインを相手に逃げ切っている。11月の取手記念も3連勝の勝ち上がりで、準決勝ではまたもや脇本雄太-村上義弘の近畿ラインを撃破、12月の伊東温泉記念でも準決勝で藤木裕-市田佳寿浩の近畿ラインを敗っての3連勝の勝ち上がりだ。GI初出場となる今大会でも大物食いぶりをたっぷりと披露してくれそうだ。
中川誠一郎選手
 桐山敬太郎も4.50の特大ギアを操っての自在戦で相変わらずの大物食いぶりを発揮している。競輪祭では準決勝で敗れたが、一次予選は先手ラインの3番手に切り込んでからの追い込みで1着、二次予選は3番手からの捲りで1着、4日目優秀は稲垣裕之ラインの番手をさばいての1着と3勝を挙げている。同じく大捲りの一発に定評がある山賀雅仁や先行・捲りのスピードが戻ってきた新田康仁、昨年の大会で決勝進出している海老根恵太など決して侮れない選手が多く、今大会でも勝ち上がり戦で南関東勢が波乱を呼び起こしてくれそうだ。
 九州勢は井上昌己を始め、 園田匠、坂本亮馬、小川勇介、合志正臣など一発の力を秘めた選手が多いが、GIでは今一歩突き抜けられず苦戦が続いている。そんな中で注目したいのが中川誠一郎だ。中川は12月に行われたワールドカップの1kmタイムトライアルで1分00秒017の日本新記録を樹立している。もちろんトラック競技と競輪では自転車そのものからして違うのだから、競輪でも1分0秒台のスピードが出せるわけではないが、脚力が着実にレベルアップしているのは間違いない。昨年の競輪祭では準決勝で敗れたが、2日目と4日目に勝ち星と好走しており、競輪でも大きな勲章が十分に期待できるだろう。
読売新聞社杯全日本選抜競輪の思い出
第25回大会優勝:山崎芳仁(福島・88期)
2009年8月4日決勝・大垣競輪場
豪快に捲り切った山崎芳仁が2年ぶり2度目の全日本選抜制覇
 石丸寛之-加倉正義、市田佳寿浩-村上博幸、山崎芳仁-伏見俊昭、海老根恵太、平原康多-兵藤一也の並びで周回を重ねる。青板バックから平原が早めに上昇して先頭の石丸に並びかけると、続いた山崎が赤板ホーム過ぎに先頭に立ちペースを緩める。すると今度は市田が叩いて先頭に立つが、打鐘とともに石丸が上がってきて再び先頭に立ち、最終的には仕切り直しの8番手となった平原が一気にカマして主導権を奪う。すかさず市田が石丸の内を突いて3番手を確保、5番手は内に石丸、外に山崎で並走となるが、山崎は2コーナーから山おろしをかけて捲っていく。グングン加速する山崎が平原に迫ると、平原は自ら牽制、そのあおりで伏見が山崎とハウスして後退するが、山崎は平原の牽制をものともせずにそのまま押し切って1着でゴール、空いた内を伸びてきた市田が2着、村上が3着に入線した。

第29回読売新聞社杯全日本選抜競輪(GI)を読み解く
高松400mバンクの特徴を知る
カントの立った高速バンクで捲りが有利
直線は長いが、逃げ選手もそこそこ粘り込める
 高松バンクはカントの立った高速バンクで、走路自体もクセがなく好タイムが出やすいので、スピードタイプの選手に向いている。400バンクの中では直線が長いほうなので先行は苦しく、捲りのライン有利が基本である。ただ、カントがきつくてコーナーでは登る感じが強いので、捲りは早め早めに仕掛けてスピードに乗っておくことが必要だ。遅めの仕掛けでは3、4コーナーの登りでスピードを殺されて不発になりやすい。バック線を取る勢いで最終ホーム過ぎから仕掛けるのが理想だが、遅くとも2コーナー手前から仕掛けてバック過ぎにはハナに立っていたい。バック過ぎにハナに立っていれば、後続の選手に捲り返される心配は少ないので、スピードに乗ったままゴールまで駆け抜けることができる。
 昨年2月に開催された記念の決まり手を見てみると、全44レースのうち1着は逃げが5回、捲りが16回、差しが23回、2着は逃げが9回、捲りが5回、差しが19回、マークが11回となっている。やはり捲りがよく決まっているが、直線が長いわりには逃げがそこそこ粘れている。高松バンクは直線は長いけれど、直線ではとくに伸びるコースはない。他の直線の長い400バンクとは違い、遅めの捲り追い込みや大外強襲の逆転劇が決まりにくいので、 最終4コーナーを先頭で抜け出してきた逃げ選手が粘り込めるのだ。ちなみに昨年の記念は深谷知広が堂々の逃げ切り優勝を飾っており、完全優勝のおまけ付きだった。
 気をつけたいのは自在型と呼ばれている選手だ。レースを捌いて中団を取っても、位置がよすぎると仕掛け遅れて不発になりやすいし、脚を溜めての直線強襲を狙っても伸び切れないまま終わってしまうケースが多い。直線では車を外に持ち出しても伸びないので、後方の5、6番手になったら4コーナーから思い切ってインに切り込み、ゴール前では中割りを決める感じて踏んでいけば1着に突き抜けることもできる。

高松バンクデータ
 周長は400m、最大カントは33度15分50秒、見なし直線距離は54.8m。昭和25年の開設当初は333バンクだったものを昭和46年に400バンクに改修したのだが、幅が広げられずに伸ばしたので直線がかなり長く、333の名残でカントもきつい。四方をスタンド等で囲まれているので風の影響は受けにくいが、冬場にはバック向かい風が強い日もある。バンクレコードは平成12年7月の記念で高城信雄がマークした10秒6。