第67回日本選手権競輪(GI)が名古屋競輪場で開催される。深谷知広と金子貴志のゴールデンコンビが地元の意地とプライドをかけて必勝態勢で臨んでくるが、2月の全日本選抜競輪(GI)を制し、年末に岸和田で開催されるグランプリに向けてますます勢いを加速させてくる近畿勢の猛攻も侮れない。いよいよGI戦に戻ってくる武田豊樹と全日本選抜競輪で完全復活ぶりを見せつけていた平原康多のダブルエースが率いる関東勢の一気の台頭も十分で、今年はスタートダッシュでつまずいてしまった印象のある北日本勢の巻き返しにも注目が集まる。
最強の師弟コンビが地元のファンの期待に応える
脇本雄太の復活で近畿勢の機動力がますます厚みを増す
深谷知広と金子貴志は最強の師弟コンビとして昨年の競輪界を席巻したが、今年初のGI戦となった全日本選抜競輪では決勝進出を逃しているだけに、今大会では万全の態勢で必勝を期してくるだろう。
タイトルを一つ獲っただけでこれだけ人は変われるものなのか、と誰もが驚くほどの充実ぶりを見せているのが金子貴志だ。グランプリ覇者として新しい年を迎えた金子は、1月の開催では深谷との同乗はなかったが、38歳とは思えないスピード抜群の捲りを連発して勝ち星を量産、いわき平記念の決勝では南関東の2選手を連れて先行して3着に粘り込み、身にまとうチャンピオンユニフォームに恥じない熱い走りでファンを沸かせた。全日本選抜競輪の準決勝は魔の9番手となって、決勝には勝ち上がれなかったが、二次予選はやはり捲りの1着で突破しており、今大会も地元ファンの期待を裏切らない走りで勝ち上がっていくだろう。
深谷知広は全日本選抜競輪の準決勝では引くか突っ張るかの一瞬の判断に迷いが生じて5着と敗れたが、初日特選は浅井康太を連れての打鐘先行できっちり中部ワンツーを決めており、調子自体はまったく問題ない。最終日の特別優秀でも7番手の展開となってしまったが、準決勝での失敗を反省材料に早めに巻き返し、2着に4車身の差をつけて圧勝している。競輪には絶対はないし、今大会でも展開次第では深谷が窮地に追い込まれるシーンがないとは言えないが、全日本選抜競輪のときと同じ過ちを繰り返す心配はないはずだ。
全日本選抜競輪の準決勝で深谷知広を不発に終わらせ、決勝も積極果敢な主導権取りで村上博幸の復活優勝の立役者となったのが脇本雄太だ。脇本自身も昨年はサマーナイトフェスティバルでの優出はあったが、GI決勝は一昨年のオールスター以来で全日本選抜競輪が復活の場となった。初日特選も脇本の先行に乗った稲垣裕之が番手捲りで1着、二次予選も先行した脇本が2着、稲川翔が3着と、脇本の復活は近畿勢にとってはうれしいニュースだ。全日本選抜競輪では稲垣裕之と川村晃司が準決勝進出、松岡健介がGI初優出と機動力型が相変わらず好調で、年末の岸和田グランプリに向けてますます勢いを加速させていくだろう。
武田豊樹と平原康多のダブルエースで上位独占を狙う
石井秀治を筆頭に伏兵ぞろいの南関東勢が侮れない
武田豊樹がいよいよGI戦線に戻ってくる。武田は昨年7月の高知記念の初日に追走義務違反で失格、5カ月間のあっせん停止期間を経て、今年1月に戦線復帰を果たした。初戦の京王閣FIでは長期のブランクをものともせず完全優勝を達成、続く取手FI、 小倉FIと連続優勝を成し遂げている。1月のいわき平で実施された災害復興支援レース「チャリーズ杯」でも圧倒的なパワーで別線をねじ伏せており、気力、脚力、調子ともに万全の状態と言っていい。もちろんGI戦はFI戦ほど甘くはないし、久しぶりのトップクラスの選手たちとの対戦で苦戦を強いられる場面もあるかもしれないが、武田の最大の持ち味であるクレバーな立ち回りで激戦を制してくるだろう。
関東のもう1人のエースである平原康多も絶好調だ。今年初戦の立川記念では上がり11秒1のハイスピードで深谷知広を捲り切って優勝、次場所の大宮記念こそは決勝9着と敗れたが、2月の奈良記念は豪快な捲り連発で優勝している。全日本選抜競輪でも決勝は落車のアクシデントに見舞われてしまったが、初日特選と準決勝は捲って1着と圧巻のパフォーマンスを披露していた。全日本選抜競輪では大ベテランの神山雄一郎も準決勝での直線強襲で決勝進出を果たして健在ぶりを示しており、武田、平原、神山の3強が久々に顔を合わせる今大会では、決勝での関東勢による上位独占も十分に期待できそうだ。
南関東勢では86期の遅咲きの男・石井秀治がGI初出場とは思えない度胸満点の走りで準決勝進出と、期待以上の活躍ぶりを見せた。準決勝こそは小埜正義を目標とするレースで見せ場なく7着と敗れたが、一次予選は先手ラインの3番手に飛びついての2着、二次予選は藤木裕との先行争いに敗れていったんは後退しながらも最終バックからの執念の捲り追い込みで3着に突っ込み、最終日特選では得意の捲りで圧勝している。石井の活躍に引っ張られるようにして全日本選抜競輪では南関東勢から桐山敬太郎、新田康仁をはじめとして6人も準決勝進出を果たし、山賀雅仁がうれしいGI初優出を決めており、今大会でも伏兵ぞろいの南関東勢が侮れない存在となりそうだ。
成田和也が北日本勢の巻き返しのカギを握る
小倉竜二が切れ味健在の直線強襲で勝ち上がる
全日本選抜競輪での北日本勢は新田祐大と齋藤登志信の2人が決勝進出を果たしたが、成田和也、佐藤友和、渡邉一成らがまさかの二次予選敗退と全体的には低調だった。豊富な機動力で一時代を築いたことのある北日本勢の巻き返しなるかどうかが、今大会の見どころの一つになるだろう。
新田祐大は昨年は獲得賞金額でグランプリ初出場を決めるなどの飛躍の年となり、タイトルに最も近い男と呼ばれるまでに成長を遂げたが、レースの組み立ての甘さがアダとなって近況は勝ち星から遠ざかり、快進撃にもやや陰りが見えはじめていた。しかし、全日本選抜競輪の決勝では痛恨の失格に終わってしまったが、準決勝では8番手からの捲りで昨年11月の競輪祭の初日特選以来の勝ち星を挙げている。不調の選手にとっては1着がなによりの特効薬であり、全日本選抜競輪での勝ち星をきっかけに新田も再び上昇気流に乗ってくるだろう。
成田和也は昨年は5大会のGIで決勝進出と抜群の安定度を誇り、高松宮記念杯では新田祐大の先行を差して3度目のGI優勝を飾って日本一の追い込み選手と呼ばれるまでの存在となった。しかし、新田と同様に昨年の競輪祭で勝ち上がりに失敗してからやや歯車が狂いはじめ、全日本選抜では二次予選敗退と精彩を欠いていた。それでも3日目選抜では目標の小松崎大地が不発の展開から捌きに捌いての本来の成田らしい走りで勝ち星を挙げており、新田と同様に復調の気配が見えていた。新田のタイトル奪取には成田という心強い援軍が必要不可欠だし、北日本勢の巻き返しのカギを握っているのが成田と言っても過言ではないだろう。
全日本選抜競輪では決勝メンバーに名前を連ねることはできなかったが、地元地区の中・四国勢の選手たちの頑張りにキラリと光るものがあった。一次予選では友定祐己と濱田浩司が1着、二次予選では小倉竜二と三宅達也が1着を取り、準決勝には小倉、三宅と高松がホームバンクの香川雄介の3人が駒を進めている。とりわけ好調さが目立っていたのがベテランの小倉竜二だ。準決勝では残念ながら落車に見舞われてしまったが、二次予選では藤木裕と壮絶な先行争いを演じた濱田浩司の番手から鋭く伸びて1着、最終日特選では藤木裕の捲りに乗っての直線強襲で頭に突き抜けている。小倉と同様に全日本選抜競輪で2勝を挙げ、先行・捲りのスピードと積極性が戻ってきた濱田浩司の存在も頼もしく、今大会でも直線強襲の差し脚と得意のハンドル投げを駆使しての小倉の勝ち上がりが期待できそうだ。
全日本選抜競輪での九州勢からは井上昌己、合志正臣、松岡貴久の3人が準決勝へと駒を進めている。3人とも準決勝の壁を突破することはできなかったが、九州の選手らしいしぶとい走りで連日見せ場を作っていた。井上昌己は全日本選抜競輪では4日間連絡みなしに終わってしまい、近況の成績からするとやや脚が重い印象があったが、それでもレース勘や位置取りには確かなものがあり、準決勝も4着とあと一歩の伸びが足らなかった。1月の立川記念では2連対、宇都宮FIでは準優勝と調子は決して悪くなく、今大会でも自在に動いての好位置奪取からチャンスを掴んでくるはずで、上位への勝ち上がりが狙えるだろう。
日本選手権競輪(GI)の思い出
第62回大会(2009年3月8日決勝:岸和田競輪場)
優勝:武田豊樹(茨城・88期)
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5度目のGI決勝戦で武田豊樹が悲願の初タイトルを奪取
号砲と同時に内枠の3車が飛び出すが、渡邉晴智がスタート争いを制し、海老根恵太-鈴木誠の千葉コンビを迎え入れて前団。中団に村上義弘-加藤慎平-山口幸二-山内卓也の中近ライン、武田豊樹-兵藤一也の関東コンビが後ろ攻めで周回を重ねる。赤板前の2センターから武田がゆっくり上昇開始、赤板2コーナーで海老根を抑えて誘導員の後ろに入ると、打鐘前から村上が仕掛けて武田を叩き先頭に立つ。武田は5番手、海老根は7番手となり、後続の巻き返しを警戒しながら流していた村上が最終ホームから腹をくくって全開でスパートする。車間を切った武田が最終バックから捲りを打ち、最終4コーナーで前団に並びかける。直線に入ると、村上後位から抜け出した加藤と武田のマッチレースとなり、両者がほぼ同時にゴールを駆け抜けるが、写真判定の結果、武田が微差で加藤を交わして悲願のGI初優勝を達成、加藤が2着、大外強襲の海老根が3着に入線した。
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第67回日本選手権競輪(GI)を読み解く
名古屋400mバンクの特徴
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軽い走路でカントがきつめのスピードバンク
直線が長めで先行は苦しく、捲りが圧倒的に有利
追い込み選手に有利なやや長めの直線と、自力選手に有利なややきつめのカントを持ったスピードバンクで、どの戦法の選手にとっても戦いやすいと言われている。力と調子と展開が素直に結果につながるバンクで、基本的には先行よりも中団からの捲りが有利だ。
11年に開催された第64回日本選手権競輪(GI)の決まり手を見てみると、全66レースのうち1着は逃げが6回、捲りが27回、差しが33回、2着(2着 同着1回を含む)は逃げが9回、捲りが14回、差しが19回、マークが25回となっている。やはり1着は捲りが圧倒的に有利で、先行選手は苦しい。先手ラインの選手が1着になったレースは20回しかなく、全体の3分の1にも満たなかった。
捲りは基本的には早めの仕掛けがいいが、軽い走路でカントもきつめなのでどこから仕掛けてもスピードに乗りやすい。現在主流になっている「順番がきたら仕掛ける」というレース形態にはうってつけのバンクとも言える。
先手ラインの番手の選手がきっちり捲りを止めても、すぐに次の捲りが飛んでくるので、先手ラインの連対率は低く、捲った自力選手同士による決着の出現率も高い。
先行選手は後続が位置の取り合いでもつれるか、一気にカマして独走態勢に入らない限り、逃げ切りは難しい。11年の大会の準決勝では、抑え先行だった深谷知広は長塚智広の捲りに屈して9着に敗れているが、うまくカマシをめた鈴木謙太郎が武田豊樹や稲垣裕之を相手に堂々と逃げ切っている。
直線ではとくに伸びるコースはなく、直線に入ってから車を外に持ち出しても伸び切れないケースが多い。捲り追い込み気味の大外強襲も決まりにくい。
11年の大会でよく見られたのは、インに切り込んでからの中強襲だ。先手ラインの番手の選手が仕事をしているあいだに、3、4番手の選手が空いたインに突っ込み、直線伸びて1着や2着に入り高配当というケースが多かった。
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名古屋バンクデータ
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軽い走路でカントがきつめのスピードバンク
直線が長めで先行は苦しく、捲りが圧倒的に有利
周長は400m、最大カントは34度01分47秒、見なし直線距離は58.8m。走りやすさとスピードの出やすさを求めて設計されたバンクはこれといったクセもなく、選手間でも日本一走りやすいとの評判が高い。風は年間を通してバック追い風の日が多く、先行はうまく追い風に乗ってペースをつかめれば粘り込める。競りはルール上からもイン有利。バンクレコードは昨年9月にシェーン・パーキンスが叩きだした10秒4。
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