第30回共同通信社杯競輪(GII)が伊東温泉競輪場で開催される。3月の日本選手権で見事に連覇を達成した村上義弘が今大会でも強い絆で結ばれた近畿勢を引き連れてシリーズを牽引していくが、勝ち上がり戦で圧倒的なスピードを見せつけていた深谷知広や復調ぶりを力強くアピールしていた平原康多が打倒・近畿勢に闘志を燃やしてくるだろう。地元開催のビッグレースに奮い立つ南関東勢も伸び盛りの若手機動力型を中心に大暴れしてくれそうで、近況の流れはよくないが充実の機動力で巻き返しを誓う北日本勢の動向にも注目が集まる。
村上兄弟のGI連覇でまたもや近畿旋風が吹き荒れる
深谷知広がハイパワー捲りでライバルたちをねじ伏せる
近畿旋風が止まらない。2月の全日本選抜では脇本雄太の先行に乗った村上博幸がライン3番手から抜け出して4年ぶりのGI制覇、3月の日本選手権では近畿勢から4人もが決勝進出を果たし、村上義弘を中心に固く結束して、村上義弘をダービー連覇へと導いた。村上が自身の走りと生き様を見本として、若手をしっかり育ててきた成果といってもいいだろう。機動力の充実ぶりなら北日本勢や関東勢も決して負けてはいない。しかし、ファンのみならず選手仲間からも深く敬愛されている村上義弘のカリスマ性は唯一無比のものだ。総大将・村上を中心に結束する近畿勢は、他地区の選手にとっては難攻不落の牙城と同じであり、今大会でも近畿旋風が吹き荒れるだろう。
日本選手権決勝で近畿勢を引っ張った稲垣裕之が乗りに乗っている。特選予選は深谷知広の捲りに屈したが、池田勇人を相手に気合いの突っ張り先行、二次予選は打鐘先行で村上義弘とワンツー、そして圧巻だったのが準決勝だ。初手は脇本雄太を目標だったが、脇本が牛山貴広に突っ張られて行けないと見ると即座に仕掛け、強引に関東ラインに割って入って先頭に躍り出て、番手に武田豊樹に入られながらも2着に粘り込んでいる。頭で考えるより先に体が反応して前へ前へと攻め込んでいく走りは絶好調の証だ。やや古い話だが、稲垣は07年の伊東温泉記念を優勝とバンクとの相性も悪くなく、今大会でも大活躍が期待できる。
深谷知広がまたもやタイトルに手が届かなかった。特選予選は8番手からの捲りで稲垣裕之の先行をねじ伏せ、番手追走の金子貴志の交わしを許さぬ押し切りで上がりタイムは11秒0。ゴールデンレーサー賞も8番手からの捲りで、2着に6車身の差をつける圧勝劇は上がり10秒7と、脚力的には万全の状態だった。決勝も戦前の予想通りに8番手からの攻めになり、3着に終わった。もう少し位置取りにこだわっていればという考えもあるかもしれないが、深谷としてはライバルたちを力でねじ伏せたかったのだろう。タイトル奪取も大事だが、自分らしい勝ち方にこだわった結果だったのだろうし、今大会でも小手先なしのハイパワー捲りでファンを魅了してくれるだろう。
平原康多が関東勢との好連係で打倒・近畿を目指す
短走路得意な吉本卓仁がカマシ先行で勝ち上がる
日本選手権での平原康多は全日本選抜決勝での落車の影響が不安視されていたが、二次予選では6番手を奪取しての捲りで岡田征陽とワンツー、準決勝では逃げる深谷知広の番手に追い上げ、ズブリと差し切っての1着で、ゴール後にガッツポーズを見せて好調ぶりをアピールしていた。自在に立ち回っての好位置奪取が平原の真骨頂だが、2月の奈良記念決勝では2着に5車身差を付けての圧勝と、小回りバンクでの戦いにも苦手意識はない。外をどかしたりの捌きも得意なので、内に包まれる最悪の展開になっても後手を踏む心配はないだろう。今大会は盟友の武田豊樹が不在だが、長塚智広、後閑信一に同県後輩の池田勇人らと好連係から関東ラインを牽引していく。
昨年ブレイクした池田勇人は日本選手権では二次予選敗退とやや期待外れの結果に終わったが、最終日優秀では上原龍の先行に乗っての番手捲りで1着、後閑信一、岡田征陽の関東3人で上位を独占して意地を見せた。
1月の立川記念決勝では深谷知広を相手に先行して平原康多の優勝に貢献と、平原との相性も抜群だ。全日本選抜のスタールビー賞では平原が深谷、新田祐大、稲垣裕之を相手に先行、池田が番手捲りで1着と逆パターンでもしっかり結果を残しており、やはり神山雄一郎、岡田征陽の3人で上位を独占している。昨年の共同通信社杯では準決勝4着と惜敗しただけに、今大会でも関東勢の心強い大砲として大活躍してくれるだろう。
九州勢では吉本卓仁にブレイクの気配だ。日本選手権の準決勝では深谷知広に叩かれて完敗したが、一次予選は4番手から捲って1着で西川親幸とワンツー、二次予選は池田勇人を叩いてのカマシ先行で逃げ切り、井上昌己とワンツーを決めている。全日本選抜でも一次予選で敗れたが、2日目特一般で西川とワンツー、3日目特選で大塚健一郎とワンツーを決めている。吉本の最も得意なのはカマシ先行で戦法的には短走路に向いており、うまくハマればワンツーの決着率が高いので九州の追い込み勢にとっては頼もしい存在だ。一昨年の前橋が舞台のオールスターでも準決勝進出を果たしており、今大会でも九州勢を連れての勝ち上がりが期待できる。
南関東勢が一丸となってエース・新田康仁を盛り立てる
輪界屈指のスピードを武器に新田祐大が巻き返す
地元・静岡のエースは新田康仁だ。昨年、一昨年と伊東温泉記念では2年連続で準優勝と悔しい思いをしているだけに、今大会ではもちろん優勝を目指すのみだ。日本選手権では二次予選で敗れたが、5日目特選では混戦捌いての3番手奪取から捲りを決めて松坂英司とワンツー、最終日特選は松谷秀幸の先行に乗り、早坂秀悟の捲りに切り替えての差し切りで1着。全日本選抜では準決勝までの勝ち上がりと好調をキープしている。昨年の伊東温泉記念決勝で好連係を見せた石井秀治、デビュー17年目にして地元戦でビッグレース初出場を決めた遅咲きの大砲・片寄雄己、追い込み勢は林雄一や日本選手権でGI初優出を決めた内藤秀久らが一丸となって静岡のエースを盛り立ててくれるだろう。
石井秀治は日本選手権ではまさかの一次予選敗退と期待外れの結果に終わったが、全日本選抜では準決勝まで勝ち上がっている。今はまだビッグレースの雰囲気に飲まれて力を出し切れていない印象があるが、3度目のビッグ出場となる今大会こそは本領発揮の豪快な捲りを披露してくれるだろう。伊東温泉バンクとの相性も抜群で、昨年の記念では捲り3連発の3連勝で決勝進出、決勝は勝負どころで7番手と後手を踏んでしまったが、石井の捲りに乗った新田康仁が2着に突っ込んでいる。あのときの反省も含めて、今大会ではより積極な攻めで南関東勢を引っ張っていくだろう。
北日本勢はトップクラスの選手を多数揃える一大勢力だが、日本選手権での決勝進出は成田和也のみに止まり、一時期の勢いからするとかなり物足りない状況が続いている。このままでは近畿旋風に飲み込まれてますますの後退を余儀なくされそうで、そろそろ反撃を期待したい。新田祐大は日本選手権では準決勝で惜しくも4着と敗れたが、二次予選は得意のダッシュ力を生かしたカマシ先行で逃げ切って伏見俊昭とワンツーを決めており、調子自体は問題ない。レースの組み立てにやや甘さのある新田だけに、準決勝では残念ながら武田豊樹や稲垣裕之の勝利への執念に敗れたという印象が強かった。3月の松山記念決勝では深谷知広の猛追を振り切っての捲りで優勝と、スピード対決なら誰にも負けてはいない。近況は後ろに下げてから捲る組み立てが多いだけに333バンクでどう立ち回るかが注目されるが、北日本復活のカギを握っているのはやはりこの男だろう。
伊東温泉バンクを大得意にしているのが菊地圭尚だ。小回りバンクであるが、まるで自分の庭のように縦横無尽に動いて好位置を奪取し勝ち星を重ねている。昨年の記念では準決勝で思わぬ不覚を取って9着に敗れたが、初日特選は藤木裕の番手を奪っての差し切りで1着、2日目優秀は萩原孝之-新田康仁の2段駆けを3番手から鋭く追い込んで1着、4日目優秀も3番手からの捲りで3勝を挙げている。
昨年の伊東温泉記念を優勝した山崎芳仁も、06年の東王座戦でビッグ初制覇を果たした思い出のバンクだけに相性はいい。伊東温泉記念は連日、菊地圭尚や坂本貴志を目標とした競走で展開的に恵まれた印象もあるが、今年は1月の地元・いわき平記念も優勝しており復調気配だ。日本選手権手は二次予選敗退に終わったが、今大会では4.58マックスギアで力強い走りを見せてくれるだろう。
共同通信社杯の思い出
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第19回大会(2006年10月9日決勝・岐阜競輪場)
優勝:合志正臣(熊本・81期)
岡部芳幸の捲りを差し切った合志正臣が念願のビッグ初制覇
号砲とともに手島慶介、市田佳寿浩、合志正臣の3車が飛び出すが、内枠1番車の手島が誘導後位を取り切り、山崎芳仁-金成和幸を受ける。山崎-金成-手島-阿部康雄、市田-渡辺航平-前田新、岡部芳幸-合志正臣の並びで落ち着き、周回を重ねる。赤板前から岡部が上昇して戦闘開始、赤板で山崎を抑えてペースを落とすと、市田が岡部ラインを追い、山崎は6番手まで下がる。岡部は中バンクに上がって後続の動きを牽制するが、市田が内を突いて先頭に立ったところで打鐘を迎える。山崎は4コーナー手前からスパート、最終ホームで出切ると、市田が3番手の手島のインで粘る。粘られた手島は番手への追い上げをはかり、市田もさらに内を突こうとして山崎の後ろがもつれ、そこを岡部が狙い澄ましたようにバック手前から捲り発進。岡部は4コーナーで山崎を捲り切るが、番手ぴったり追走の合志がゴール寸前で差し切ってGII初優勝、岡部が2着、山崎が3着に入線した。
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第30回共同通信社杯(GII)を読み解く
伊東333バンクの特徴を知る
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短走路だが、直線が長く捲りが決まりやすい
中バンクが伸びるので、ゴール前での逆転劇もあり
周長が333mの小回りバンクだが、国内の小回りバンクの中では前橋競輪場に次いで2番目に直線が長く、どんな戦法の選手でも力を発揮できるバンクだ。
333バンクは先手ライン有利が基本とされているが、直線の長い伊東温泉は400バンクの感覚に近いという選手が多く、とりわけS級上位選手が集まるグレードレースでは基本通りとはいかない。直線が長い上に333バンクの特性としてカントが立っているので捲りが決まりやすく、先行選手にとってはやや厳しいバンクとなっている。
昨年12月の記念開催の決まり手を見てみると、全46レース(レインボーカップ・ファイナルの2個レースを含む)のうち1着は逃げが2回、捲りが22回、差しが22回、2着は逃げが6回、捲りが9回、差しが10回、マークが21回となっている。やはり捲りが圧倒的に有利で、先手ラインの選手が1着を取ったレースは11回しかなかった。
先行は打鐘で先頭に立っているのが条件で、ペース配分を考えて駆ければ粘り込める。打鐘から一気にカマして一本棒の状態に持ち込むのも有効だが、333バンクは赤板から目まぐるしくレースが動いて追い込み選手も脚を使わされるので、先行選手のカマシ に離れてしまう危険性が高い。昨年の記念でもマークが離れて裸先行になった先行選手が、別線の自力選手に番手に入られて惨敗というレースが何度もあった。
捲りは2コーナーから仕掛けてバックで出切ってしまうのが理想だが、うまく中団をキープできていれば2センターあたりからの捲り追い込みも有効だ。ただ、2コーナーと4コーナーで外に膨らみやすいので、捲りはそこで合わされたり牽制されたりすると不発の危険性が高くなる。しかし、直線では中バンクがよく伸びるので、捲りの選手が不発になっても、捲りの番手の選手がそのまま中バンクを伸びてきて連に絡んだり、頭に突き抜けたりすることもある。ゴール前での3番手からの逆転劇も少なくない。
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伊東バンクデータ
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周長は333m、最大カントは34度41分09秒、見なし直線距離は46.6m。山の中腹にあって周囲を岡に囲まれており、特別観覧席などの施設も高いので、海や山からの風の影響はほとんどない。以前は2コーナーあたりが走りづらい走路だったが、平成7年の全面改修によってクセのない走りやすいバンクとなっ た。コーナーも軽く回れるようになったので、自力選手ばかりでなく追い込み選手からも評判はよく、内外互角の激しい競り合いもよく見られる。
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