第65回高松宮記念杯が宇都宮競輪場で開催されるが、S級S班5人をはじめとするトップレーサーたちが自粛欠場に入ってから初めてのGI戦となるだけに否が応でも注目度は高まる。深谷知広、金子貴志、浅井康太の中部トリオの独壇場のシリーズとなってしまうのか。迎え撃つ地元・関東勢はベテラン・神山雄一郎を中心に結束、地の利を活かした総力戦で中部トリオの猛攻を跳ね返すことができるか。先行力の戻った脇本雄太や稲川翔を擁する近畿勢や南関東勢も層は厚く、競輪には絶対がないだけにニューヒーローの誕生も大いに期待できる。
深谷知広が格上のパワーでファンの期待に応える
地元・関東勢が強い結束力で中部勢撃破に燃える
S級S班3人を擁する中部勢が絶対的なパワーとスピードで他地区を圧倒しており、当然ながら優勝候補の筆頭となるのが深谷知広だ。
深谷は共同通信社杯決勝では捲り不発の9着に終わったが、中2日の強行軍で出場した平塚記念決勝では、5車で結束した鉄壁の南関東ラインを力でねじ伏せて久しぶりの優勝を飾り、パワーの違いをまざまざと見せつけていた。今大会では格上の存在となる深谷にとっては決して負けられないというプレッシャーがこれまで以上に重くのしかかってくることになるが、若さと強い責任感で重圧をはねのけてファンの期待にしっかりと応えてくれることだろう。
金子貴志も白のチャンピオンユニフォームのプレッシャーがあったのか、今年前半は思うような成績を残せておらず、共同通信社杯ではまさかの二次予選敗退となってしまった。それでも5月の松阪記念決勝では7番手からのロング捲りで今年初優勝を飾っており、この優勝をきっかけに本来の強さを取り戻してくるだろうし、もちろん深谷と同乗ならば最強の師弟コンビぶりを遺憾なく発揮してくれるはずだ。
宇都宮バンクが舞台のビッグレースとなれば、神山雄一郎の名前を挙げないわけにはいかないだろう。近況は落車による長期欠場明けで本調子とはいえない状態だが、2月の全日本選抜では決勝進出を果たしており46歳のベテランは今なお健在だ。やや古い話だが、4年前に宇都宮で開催された全日本選抜でも神山は決勝に乗っており、宇都宮バンクを走る神山は3割増し、いや、4割、5割増しの力を発揮する。
盟友の後閑信一や成長著しい池田勇人らが地元のエースを大いに盛り立ててくれるだろうし、神山を中心に関東勢は強く結束して中部勢撃破に燃えてくるだろう。
池田勇人は共同通信社杯では一次予選で敗れたが、2日目特一般で1着、3日目選抜で2着と得意の捲りを炸裂させて鬱憤を晴らしている。4日目特選では神山雄一郎と連係、残念ながら川村晃司に叩かれて主導権は取り切れなかったが、積極的に攻めた池田のおかげで神山が2着に突っ込んでおり、今回も関東勢を連れての攻めの走りを見せてくれるだろう。
多士済々のメンバーが揃った南関東勢が台風の目だ
スピード自慢の若手が好調で北日本勢の一発も十分
今大会で台風の目になりそうなのが南関東勢だ。先行強力な根田空史、自在性が切れる桐山敬太郎、差し脚鋭い林雄一など多士済々のメンバーが揃って層は厚い。根田空史は昨年の高松宮記念杯で準決まで勝ち上がり一躍注目の的となった。その後は7月の高知記念での追走義務違反で3ヶ月の斡旋停止処分を受けてしまったが、今年3月の日本選手権でも準決へ進出、先行力にさらに磨きをかけて戻ってきた。今大会でも南関東勢を牽引して大活躍してくれるだろうし、3度目の正直で準決突破も十分にありそうだ。
林雄一が鋭脚ぶりを発揮して近況好調だ。5月の平塚記念の2日目優秀では桐山敬太郎—松坂洋平—林雄一の並びで結束、桐山の先行に乗って番手捲りを打った松坂をズブリと差し切り、捲りで迫る深谷知広を押さえ込んでの1着、準決も田中勝仁—桐山敬太郎—林雄一の並びから桐山の番手捲りを差し切って1着、決勝こそは深谷知広のハイパワー捲りに優勝をさらわれてしまったが、やはり南関東ラインの3番手から3着に突っ込んでみせた。4月の共同通信社杯では準決進出を果たしており、今大会も勝ち上がりが期待できる。
北日本勢はトップクラスが自粛欠場ですっぽり抜けてしまい戦力的にはかなりダウンしてしまったが、それでもまだ小松崎大地、菊地圭尚、飯野祐太らのスピード自慢の選手が控えており、一発の魅力は十分にある。
小松崎大地は共同通信社杯では期待外れの結果に終わったが、直前の武雄記念では連日の先行策で決勝進出、5月のいわき平FIでは堂々の逃げ切りで今年3度目の優勝を飾っており、自慢の先行力はパワーアップ中だ。初のGI出場となった全日本選抜では一次予選、二次予選で主導権を奪っており、今大会でも連日の主導権取りを狙ってくるだろう。
菊地圭尚は日本選手権では特選予選スタートから準決までの勝ち上がりと好走、ビッグレースでも十分に戦えるパワーと切れ味がついてきたことを示した。共同通信社杯でも敗者戦ながら2勝を挙げており、今大会でも巧みな
位置取りと切れ味のいい捲りの合わせ技でチャンスを掴んでくる。
グランプリ出場を目指して近畿勢が熱い走りを見せる
混戦得意な中・四国の追い込み勢の活躍に期待
今年は大阪の岸和田競輪場でグランプリが開催されるとあって、出場を目指す近畿勢の意気込みが熱い。とりわけ岸和田が地元の稲川翔は気合い溢れる走りで好成績を続けており、日本選手権、共同通信社杯と連続で決勝進出を決めている。
共同通信社杯の二次予選では333バンク(伊東)が舞台とはいえ丸々1周駆けての逃げ切りで1着、準決は新田祐大に捲られて万事休すの状態に陥ったが、新田ラインの3番手の選手をどかしての執念の走りで3着に突っ込んでおり、今大会でもグランプリ出場という大きな目標に向かって力強い走りを見せてくれるだろう。
脇本雄太は全日本選抜で約1年5ヶ月ぶりのGI優出を決めて復活を果たし、FI戦ながら3月の平塚と5月の小倉をともに逃げ切りで優勝と先行力はほぼ完全に戻っている。しかし、日本選手権では二次予選を逃げ切りの1着で突破したものの準決は牛山貴広に突っ張り切られて8着敗退、共同通信社杯では二次予選Aで深谷知広とのもがき合いに敗れて9着敗退と波に乗り切れずにいる。このままでは再びずるずると落ち込んでいく危険性もないとはいえず、本人もそれは強く意識しているはずで、今大会ではなりふりかまわずの主導権取りを狙ってきそうだ。
中国勢では岩津裕介が調子を上げてきている。岩津は昨年の落車の影響で優勝回数ゼロの低調な1年に終わってしまった。しかし、今年は3月の地元・玉野記念で石丸寛之の捲りを差して久しぶりの記念優勝を飾り、それをきっかけに本来の鋭さが徐々に戻ってきている。共同通信社杯の一次予選では3番手から直線強襲で1着、準決では深谷知広の先行をズブリと差し切って決勝進出を果たした。番手無風の絶好の展開だったとはいえ、深谷のハイパワー先行を差し切ったのは大きな自信になったはすで、今後はますます差し脚に鋭さを増していくことだろう。
四国のベテラン・小倉竜二にも復活の兆しがある。全日本選抜では準決で落車したが、二次予選と4日目特選で1着、日本選手権では一次予選で敗れたが、4日目特一般、6日目選抜で1着とビッグレースでの勝ち星が増えている。そして、共同通信社杯の二次予選では最終バック8番手の大ピンチを迎えたが、最終4角からの巧みなコース取りで1着に突き抜け、準決も3着で突破して決勝進出を果たしている。
今大会はメンバー的にも勝ち上がり戦での大混戦が必至なだけに、岩津裕介や小倉竜二のようなレース巧みな追い込み選手の活躍が数多く見られることだろう。
九州勢では井上昌己が多彩な攻めを駆使して安定した成績を挙げている。共同通信社杯では二次予選得Aで敗れたが、一次予選は7番手から捲って1着、3日目特選では松岡貴久の捲りを差して1着と、組み合わせや展開に応じて自力勝負と追い込み勝負をうまく使い分けられるのが井上の強みだ。5月の松阪記念では準決で敗れたが、残り3走はオール1着で、とくに4日目特別優秀では中川誠一郎の上がり10秒5のハイスピード捲りを差し切り、上がり10秒4をマークしてバンクレコードを更新している。
そのほかの九州勢では日本選手権で準決まで勝ち上がった吉本卓仁や捲り強烈な菅原晃なども好調で、彼らを目標にしての井上昌己の台頭が十分に期待できるだろう。
第60回高松宮記念杯
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宮杯の思い出
武田豊樹の番手を守り抜いた平原康多が初のGIタイトルを奪取
武田豊樹と平原康多の関東の2人はこれまでは平原が前回りの連携が圧倒的に多かったが、第60回高松宮記念杯決勝では武田が前回りとなり、番手を死守した平原が念願のGI初制覇を達成した。初手は山崎芳仁—渡邉晴智、武田豊樹—平原康多—阿部康雄—諸橋愛、浅井康太—小嶋敬二—南修二の並びで周回を重ねる。赤板から上昇を開始した浅井が打鐘とともに山崎を押さえると、山崎が小嶋のインで粘り、捌かれた小嶋は4番手まで下がる。それでも浅井は打鐘の4角から先行態勢に入ろうとするが、同時にスパートした武田が一気に浅井を叩いて主導権を奪取する。すると今度は浅井が平原のインで粘るが、平原はこれを凌いで番手をキープ、浅井は1車下がって3番手に入り、山崎が6番手、小嶋が8番手となる。番手絶好となった平原が最終4角から早めに抜け出して先頭でゴール、捲り気味に追い込んできた山崎が外を伸びて2着、浅井が3着。
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