レース展望

若き王者・深谷知広がビッグタイトルの量産態勢に入る
 新田祐大が得意の短走路で自慢のスピードを見せつける
深谷知広選手
 深谷知広が先の寬仁親王牌でついに2つ目のGIタイトルを獲得した。11年の高松宮記念杯でGI優勝のデビュー最短記録を更新した深谷だったが、その後も次代の輪界を担う若き王者としてタイトル戦線で常に優勝争いを演じる活躍も見せながらも、優勝にはなかなか手が届かなかった。GIタイトルは2つ獲って本物と言われているだけに、本人のみならずファンにとっても待ちに待ったタイトル奪取だった。
 寬仁親王牌決勝ではこれまでの戦いぶりとは違い、前受けから押さえられても単純には引かず、インを突いての好位置奪取と巧さも見せつけていた。これまではパワーでねじ伏せるレースが多かった深谷だが、今後は圧倒的なパワーだけではなく、展開負けしない柔軟な立ち回りによって、いよいよタイトルの量産態勢に入っていくだろう。
 ファンは常にニューヒーローの誕生を待ち望んでいる。ファンのみならず、競輪界全体が発展続けるためにもニューヒーローの誕生は常に必要不可欠な要素だ。そして、深谷知広の2つ目のタイトル奪取とともにファンが待ち望んでいたのが新田祐大の復帰だろう。
新田祐大選手
 新田は4月の共同通信社杯GIIで初めて4日制のビッグレースを優勝、次はいよいよGIタイトル取りだという時に自粛欠場に入ってしまっただけに、ニューヒーロー候補の最右翼である新田に対する期待の大きさはかなりのものがあるはずだ。
 今大会の舞台である松戸競輪場は共同通信社杯の伊東温泉競輪場と同様の333バンクであり、自転車競技で短走路を得意としている新田にとってはもってこいのステージだ。まずは今大会でGII連覇、そして9月のオールスターでGIタイトルに挑戦と、ファンの期待に応える最高の走りを見せてくれるだろう。
 共同通信社杯の時と同様に新田祐大と北日本ワンツーを狙うのが成田和也だ。
 成田は追い込み選手であるが、短走路の松戸バンクとの相性はよく、11年に松戸で開催されたSSシリーズ風光るでは北日本ラインの3番手からGI初優勝を飾っている。ビッグ初優勝も10年に函館で開催されたサマーナイトと本大会との相性もよく、今大会も優勝候補の1人と言って間違いはない。
村上義弘らの復帰で近畿勢の勢いがますます加速する
 好調な自力型が揃った地元・南関東勢の台頭も十分
 今年のタイトル戦線をふりかえってみると、2月の全日本選抜では村上博幸が優勝、3月の日本選手権では兄の村上義弘が優勝、6月の高松宮記念杯では稲川翔がGI初優勝と、近畿勢の勢いが他地区を圧倒的にリードしている。
 さらに8月からは自粛欠場中だった村上義弘を始め、稲垣裕之、藤木裕、川村晃司らの強力自力型がビッグレースに戻ってくるとなれば、近畿勢の勢いはますます加速していくだろう。
村上義弘選手
 2日間の短期決戦のサマーナイトは初日予選が1着権利と厳しい勝ち上がりだが、過去の大会を見てみると、初日予選は思い切りよく仕掛けた先手ラインの選手の勝ち上がりが圧倒的に多い。しかも今大会は短走路の松戸が舞台となれば、強力自力型が揃った近畿勢の優位は揺るがないだろうし、近畿勢を強い絆でまとめる総大将の村上義弘が優勝に最も近い位置にいると言っていいだろう。
 もちろん短走路の松戸バンクが舞台だけに、自力型の押し切りも十分だ。とりわけ今年前半のビッグレースで絶好調だった稲垣には、07年のふるさとダービー松阪以来のビッグ優勝が期待できる。
桐山敬太郎選手
 稲垣は日本選手権で決勝進出、決勝は9着はだったが、深谷知広を不発に終わらせる果敢な逃げで村上義弘の日本選手権連覇に大きく貢献した。そして短走路の伊東温泉バンクで開催された共同通信社杯でも決勝進出、決勝は8着に終わっているが、勝ち上がり戦は3日間主導権を取って1着、1着、2着の文句なしの成績で、今大会も2日間逃げまくって押し切りを狙ってくるだろう。
 地元・南関東勢も根田空史、田中晴基の強力先行に捲り強烈な石井秀治などの若手自力型が好調で、一気の台頭も十分にありうる。
 そして、根田や田中を目標に今度こそのビッグ初優出を狙ってくるのが、自在戦で近況絶好調の桐山敬太郎だ。桐山は寬仁親王牌では準決で5着に敗れたが、初日特選予選では根田の先行を目標に1着、2日目ローズカップでは関東ラインの3番手から追い込んで1着、4日目特別優秀では4番手から捲って1着と3勝を挙げている。今大会も展開と組み合わせに応じた多彩な戦法を駆使して勝ち上がってくるだろう。
武田豊樹が力強い走りでファンの期待に応える
 勝ち星量産の原田研太朗が中四国勢を引っ張る
武田豊樹選手
 武田豊樹と平原康多の2枚看板が戻ってくる関東勢も強力だ。
 武田は昨年7月の高知記念での追走義務違反により5ヶ月間強のあっせん停止処分を受けた。今年1月から実戦に復帰、3月の日本選手権は約8ヶ月ぶりのGI参戦となったが、空白の時間があったことをまったく感じさせない力強い走りで当然のように決勝進出、決勝では稲垣裕之の先行を目標に番手捲りを打った村上義弘を猛追しての準優勝と好勝負を演じてみせた。
平原康多選手
 今大会も3ヶ月の自粛欠場明けの参戦となるが、武田は09年の川崎と12年の四日市で開催されたサマーナイトを優勝と本大会との相性もよく、日本選手権の時と同様に最高のパフォーマンスを演じてファンの期待に応えてくれるだろう。
 平原康多も今年前半は絶好調をキープしていた。年頭の立川記念で深谷知広を捲って優勝と好スタートを切ると、2月の奈良記念も優勝、そして全日本選抜、日本選手権、共同通信社杯と3大会のビッグレースできっちり連続優出を決めている。
 3大会とも決勝では大敗を喫しているのがやや気がかりだが、全日本選抜の準決は稲垣裕之―村上博幸の近畿コンビを捲って1着、日本選手権の準決も深谷知広の先行を追い込んで1着、共同通信社杯の準決も稲垣裕之ー村上義弘の近畿コンビを捲って1着と勝ち上がり戦では無類の強さを発揮しており、今大会も初日予選を1着で突破して決勝進出を果たしてくるだろう。
原田研太朗選手
 関東勢では池田勇人も好調だ。寬仁親王牌の初日特選では捲って2着で神山拓弥と関東ワンツーを決めると、2日目ローズカップでは果敢に先行して深谷知広を不発に終わらせ、準決では脇本雄太―稲川翔の3番手を奪取しての追い込みで1着となりGI初優出を決めている。池田は昨年のいわき平のサマーナイトでビッグ初優出を経験、決勝では思い切りよく先行して3着と大健闘しており、今大会での活躍も期待できる。
 中四国勢は原田研太朗が頼みの綱か。原田は共同通信社では一次予選で8着と敗退したが、2日目からは捲り、逃げ切り、捲りで3連勝、その後も5月の岐阜と高知のFIを連続で完全優勝すると、川崎記念の初日特選まで10連勝と快進撃が続いた。さらには7月の地元・小松島記念で決勝進出を果たしており、トップクラスを相手にはまだまだ力不足の印象があるが、短走路が舞台の今大会だけに、原田が思い切りよく仕掛けることができれば、原田を目標の中四国勢にワンチャンスが巡ってきそうだ。
大塚健一郎選手
 九州勢は寬仁親王牌では4人が決勝進出と大活躍だった。その4人のうち今大会も出場予定の選手は大塚健一郎だけだが、寬仁親王牌での勢いを持続できていれば今大会でも九州勢は侮れない存在となるだろう。
 大塚は高松宮記念杯でも決勝進出を果たしており、決勝では4番手からの鋭い追い込みで準優勝と健闘している。寬仁親王牌の二次予選では目標の大西祐が不発の展開から先手ラインの番手へ強引に斬り込んでいって2着と捌きの巧さも見せつけており、今大会も自慢の差し脚と強気の攻めで難関の予選突破を目指してくる。
サマーナイトフェスティバルの思い出(2013年8月2・3日 いわき平競輪場)
第9回サマーナイトフェスティバル
佐藤友和が絶好の3番手から捲り追い込んで初優勝
 脇本雄太―村上義弘―松岡健介、深谷知広、坂本健太郎、佐藤友和―成田和也、池田勇人―岡田征陽の並びで周回を重ねる。青板の3角過ぎから池田が上昇開始、佐藤、深谷、坂本の順で後を追い、赤板で池田が前団を押さえると、脇本はすんなり引いて7番手まで下がる。池田はペースを落として後方の様子をうかがうが、後方からの仕掛けはなく、池田は打鐘とともに踏み込んで先行態勢に入る。同時に脇本が7番手から早めにスパートして前団に迫ってくるが、最終1角と2角で岡田から2度のブロックを受けて後退してしまう。5番手の深谷と6番手の坂本は外に並んだ村上と坂本にフタをされる形になって仕掛けきれない。脇本へのブロックで池田との車間が空いた岡田が懸命に前へ詰めていくが、終始絶好の3番手を回っていた佐藤が最終4角から捲り追い込んで関東コンビを飲み込み、先頭でゴールを駆け抜ける。成田が2着、逃げ粘った池田が3着。

松戸バンク
直線が短くカントも浅いので先手ライン有利
後手を踏まされると、後方からの巻き返しは難しい
 1周333mの松戸バンク直線が短く、カントも333バンクの中で最も浅いので先行ラインが有利だ。実力上位で本命を背負っている選手でも後手を踏まされると巻き返しは困難で、勝負どころで悪くても4、5番手の位置が取れないと勝機はない。
 10年に開催された日本選手権や11年に開催されたSSシリーズ風光るでは捲りもよく決まっていたが、そのほとんどが3、4番手からの仕掛けだった。
 そして、07年に開催された第3回サマーナイトフェスティバルではもっと極端な結果がでいる。
 2日間全20レース(国際競輪2レースを含む)の1着、2着(1回の2着同着を含む)の決まり手は次のとおりだ。
 1着は逃げが5回、捲りが5回、差しが10回、2着は逃げが8回、捲りが2回、差しが5回、マークが6回で、この数字だけを見ると捲りもまずまず決まっているように思えるが、1着5回の捲りのうち3回は番手捲りで、あとの2回は3番手と4番手からの仕掛けだ。2着に2回の捲りがあるが、これはともに7番手からの仕掛けで、松戸バンクではどんなに捲りが得意な選手であっても、後方からの巻き返しになると2着までが精一杯なのである。
 とりわけサマーナイトフェスティバルは初日予選の勝ち上がりが1着権利と厳しく、勝ちを意識した自力選手の仕掛けがどうしても遅めになるので、結果を恐れずに飛び出していった先手ラインが断然有利となる。前回の大会でも全20レースのうち14レースで先手ラインの選手が1着になっており、決勝も永井清史の先行を番手から追い込んだ濱口高彰の優勝だった。
 先行は2周駆けのつもりで早めに仕掛けて、踏み直しの利くタイプが理想的だ。打鐘の音を聞いてからの仕掛けでは、前受けの選手との先行争いになる可能性が高いし、引くにひけなくなった前受けの選手がイン粘りに出て、番手を奪った自力選手に番手捲りをくらってしまう危険性も高くなる。松戸バンクではとにかく早め、早めの仕掛けが肝心なのである。


周長は333m、最大カントは29度44分42秒、見なし直線距離は38.2m。バンク全周が透明板のポリカーボネートとスタンドなどの建物に囲まれているので場内には風の逃げ場がなく、風向きによってはバンク内で風が渦巻くことがあり、突風が吹くこともある。そのため選手は風の影響を受けやすく、バンクを重く感じるという選手が多く、タイムも上がりにくい。最高上がりタイムは08年8月に中村浩土がマークした09秒0。