レース展望

 第57回オールスター競輪が前橋競輪場で開催される。主役を務めるのはファン投票で2年ぶり2度目の第1位に選ばれた深谷知広だ。寬仁親王牌で2度目のGIタイトルを奪取すると、続くサマーナイトフェスティバルを優勝と勢いに乗っており、今大会でも一段とパワーアップした強さを見せつけてくれるだろう。武田豊樹と平原康多の二枚看板が率いる地元。関東勢や村上義弘率いる近畿勢が打倒・深谷に闘志を燃やしてくるが、高速バンクの前橋ドームでスピードスターぶりを発揮する新田祐大のGI初制覇にも期待がかかる。
深谷知広が相性抜群の前橋で桁外れのパワーを発揮する
 武田豊樹が地元・関東勢をまとめて打倒・深谷を目指す
深谷知広選手
 タイトルは「2つ取って本物」と昔から言われているが、けだし至言だった。
 深谷知広は11年に前橋で開催された高松宮記念杯でデビュー最速のGI制覇を成し遂げたが、今年の寬仁親王牌で2つ目のタイトルを奪取するまで3年もかかってしまった。しかし、2つ目を取ったことで深谷の強さが一段とパワーアップ、サマーナイトフェスティバル決勝では4人揃った鉄壁の関東勢を粉砕して逃げ切り優勝を飾っている。
 以前の深谷なら後手を踏んでの捲り不発のパターンが濃厚な組み合わせだったが、関東勢を一気に叩いての主導権取りはまさに2つ目のタイトルを手にした誇りと自信の表れだろうし、今大会も初タイトルを取った相性のいい前橋バンクで桁外れのパワーを存分に発揮してくれるだろう。
武田豊樹選手
 関東勢の二枚看板である武田豊樹と平原康多はサマーナイトが自粛欠場からの復帰戦だったが、2人とも初日予選は圧勝と相変わらずの強さを見せつけた。武田は稲垣裕之との3番手の取り合いを制してからの捲り、平原は逃げる松岡健介の番手に追い上げてからの差し切りと、不安視されていたレース勘も全くの問題なしだ。
 とりわけ武田は、決勝こそは深谷知広の桁外れのパワーに屈したが、前を任せた平原が浅井康太に牽制されて失速するとすかさず深谷ラインの3番手に切り替え、直線外を強襲して2着と意地を見せた。
 今大会も地元・関東勢をしっかりまとめ、打倒・深谷知広を目指して力強い走りを見せてくれるだろう。
 浅井康太も11年の寬仁親王牌とオールスターを立て続けに優勝してトップレーサーの仲間入りを果たしたが、その後はビッグレースでの優勝がなく、そろそろ3つ目のタイトルが欲しいところだ。浅井は今年は全日本選抜、高松宮記念杯、寬仁親王牌で決勝進出と好調をキープしており、サマーナイトの初日予選では自身初のイン粘りを敢行して1着と新境地もみせている。
 決勝は深谷知広の番手で、3番手から捲った平原康多をきっちり止めて深谷の優勝に貢献したが、ゴール前では武田豊樹に交わされて3着と悔しい思いをしているだけに、今大会ではその悔しさを思い切りぶつけて今度こその優勝を狙ってくる。
村上義弘を中心に近畿勢が鉄の結束で強敵に立ち向かう
 新田祐大が圧巻のスピードを披露して優勝を狙う
村上義弘選手
 村上義弘は3カ月の自粛欠場からの復帰戦が地元の京都向日町記念だった。決勝は2つ目のGIタイトルを取ったばかりの深谷知広との対戦だったが、近畿勢は松岡健介―稲垣裕之―村上義弘の並びで結束、逃げる松岡を目標に番手捲りを打った稲垣を村上がゴール寸前で追い込み、ファンの大歓声を浴びながら復帰戦を見事に優勝で飾った。続くサマーナイトは初日予選で先行して5着と敗れたが、2日目順位決定では松岡健介の捲りを差してきっちり近畿ワンツーを決めている。
 魂の走りでファンのみならず選手仲間も魅了するカリスマ・村上義弘がいる限り、近畿勢の鉄の結束は決して崩壊することはなく、今大会も近畿勢は一丸となって深谷知広や武田豊樹らの強敵たちに立ち向かっていくだろう。
 京都向日町記念では稲垣裕之の強さも光っていた。稲垣にとっても自粛欠場後の復帰戦だったが、一次予選は7番手からの捲りで上がりタイム11秒3、二次予選は4番手から捲りで上がりが11秒1と完璧な勝ち上がり。準決は村上義弘を連れての先行で3着に粘り込んでいる。
 今年の稲垣は日本選手権で優出して村上義弘の優勝に貢献、共同通信社杯でも村上とともに優出して果敢な先行を見せており、37歳と遅咲きながら今は競輪選手として最高の充実期を迎えているといっても過言ではない。07年のふるさとダービー松阪以外にビッグレースでの優勝はないが、昨年金子貴志が37歳でGI初制覇を飾ったように、稲垣にもGI制覇のチャンスは十分にありそうだ。
新田祐大選手
 新田祐大は復帰戦となったサマーナイトの初日予選では番手で競り合っていた選手たちが離れるという展開上の不利もあって3着に沈んだが、2日目順位決定では7番手からスカッと捲って後続をぶっちぎり、欠場前と変わらぬスピードスターぶりを見せつけていた。
 今はまだ展開に勝敗を左右される面があり、自ら展開を作っていくほどの器用さもないが、共同通信社杯では稲垣裕之ー村上義弘の近畿勢や深谷知広らの強敵を撃破して初制覇とツボにはまったときのスピードは輪界一と言ってよく、今大会も優勝候補の一角としてシリーズを大いに盛り上げてくれるだろう。
グランプリ出場権をかけた賞金争いもいよいよ佳境に
 今年前半大活躍の岩津裕介がグランプリ初出場を目指す
岩津裕介選手
 岩津裕介はオールスター恒例のファン投票で7位に選ばれ、ドリームレースからのスタートとなる。岩津は共同通信社杯決勝3着、高松宮記念杯決勝3着、2月の玉野記念と5月の川崎記念を優勝と今年前半の活躍が目覚ましく、ファン投票上位も納得の結果といえる。後半戦に入ってからはやや下り坂の気配が見られるが、岩津にとってはここが踏ん張りどころだろう。8月17日現在の獲得賞金ランキングが7位で、今大会で好成績を挙げればグランプリ初出場が視界に入ってるからだ。高松宮記念杯の準決では深谷知広相手の先捲りで1着と大金星を挙げており、ドリームレース・スタートの利を活かしての活躍を期待したい。
石井秀治選手
 石井秀治はファン投票で8位に選ばれた。FI戦が中心ながら直近4カ月の勝率が4割3分と立派な数字を挙げており、7月のいわき平FIではスピード抜群の捲りの3連発で完全優勝している。8月の京都向日町記念では渡邉一成―成田和也の福島コンビを相手に堂々の逃げ切りで準決を突破、決勝3着と健闘した。高松宮記念杯では2次予選で敗れたが、一次予選と4日目特別優秀で2勝を挙げ、サマーナイトでは初日予選は深谷知広ラインを追走して3着、2日目順位決定は新田祐大に捲られながらも逃げ粘りの2着とビッグレースでも存在感を見せており、今大会のドリームレースでも強敵揃いだが、必ずや見せ場を作ってくれるだろう。
池田勇人選手
 池田勇人はファン投票9位でドリームレースに滑り込んだ。今年の池田は全日本選抜の準決では5番手から仕掛け切れずに9着、高松宮記念杯の準決は松岡健介の逃げを叩き切れずに9着と準決の壁を突破できずにいたが、寬仁親王牌では逃げる脇本雄太の3番手を確保、落ち着いて最終2センターから仕掛けて1着となり、GI初優出を達成した。しかし、決勝の大舞台では勝負どころで9番手に下がったままなにもできずに終わっており、後閑信一や神山雄一郎との連係となるドリームレースでは、寬仁親王牌の反省も含めてより積極的な仕掛けが見られそうだ。
井上昌己選手
 井上昌己はファン投票10位でオリオン賞レースからのスタートになる。今年前半の井上はビッグレースでの優出がなかったが、寬仁親王牌の準決では8番手からの豪快な捲りを決め、大塚健一郎1着、井上2着の九州ワンツーで決勝進出を果たした。続く京都向日町記念の準決も稲垣裕之-村上義弘の強力地元勢を7番手から捲って1着と、ようやく本来の井上らしい強さが戻ってきている。8月17日現在の獲得賞金ランキングでは11位につけており、今大会でのがんばり次第ではグランプリ出場も見えてくるだけに、最低でも決勝進出を目標に力走してくれるだろう。
 同じく九州の大塚健一郎もファン投票14位でオリオン賞からのスタートとなるが、獲得賞金ランキングも9位とグランプリ初出場を狙える位置に付けている。共同通信社杯の初日に落車して1カ月の欠場を余儀なくされたが、欠場明けの高松宮記念杯の準決では浅井康太の捲りを追走しての差し切りの1着で決勝進出、寬仁親王牌で決勝5着と好成績が続いている。九州勢では中川誠一郎も寬仁親王牌の準決で逃げ粘りの2着で決勝進出と調子を上げてきているだけに、今大会でも井上や中川らの機動力を目標に大塚が鋭い差し脚を発揮して決勝戦へ駒を進めてくるだろう。
オールスター競輪の思い出
2009年 第52回大会 武田豊樹
平原康多の打鐘先行を目標に武田豊樹が2度目のGI優勝
 2009年は武田豊樹と平原康多の関東の両雄がタイトル戦線を席巻した年だった。日本選手権で武田豊樹がGI初制覇を達成すると、高松宮記念杯では武田の先行に乗った平原が番手から抜け出してGI初優勝、そして松山で開催された第52回オールスターでは平原の番手を回った武田が2度目のGI優勝を飾っている。決勝戦は山崎芳仁―海老根恵太―稲村成浩、石丸寛之―合志正臣、永井清史―村上博幸、平原康多―武田豊樹―神山雄一郎の並びでスタート。赤板ホームから永井が上昇、海老根を押さえて誘導を外すが、打鐘前2角から平原が一気に叩いて先頭に躍り出る。永井は4番手となるが、前との車間が空いてしまい、すかさず追い上げてきた石丸が関東勢の後位に入り込む。平原は打鐘とともに猛然とスパート、縦長の一本棒の展開となり、最終3角から番手捲りを打った武田がそのまま先頭でゴールを駆け抜け、2着に神山、3着に石丸が入る。
前橋バンクの特徴
日本一カントがきついスピードバンク
小回りバンクだが、直線が長いので逃げ切りは難しい
 前橋ドームはカントが日本一きつい小回りバンクで、先手ライン有利が基本だ。12年に前橋で開催された第55回オールスターでは、全54レースのうちほぼ半数の28レースで先手ラインの選手が1着になっている。
 ちなみに全54レースの1着、2着の決まり手を見てみると、1着は逃げが9回、捲りが19回、差しが26回、2着は逃げが7回、捲りが7回、差しが16回、マークが24回となっている。
 前橋は1周335mの小回りバンクだが、直線が400バンク並みに長いので、先手ライン有利といっても逃げ切りは容易でない。屋内バンクで風の影響を受けない代わりに追い風によるアシストも期待できないので、屋外バンクよりも重く感じて直線も粘りにくいという選手も少なくない。
 先手有利が基本の小回りバンクでは勝負どころでの出入りが激しく、先手取りに必要以上に脚を使わされるので、うまく主導権を奪って駆けることができても、ゴール前で粘りを欠いて3、4着に沈んでしまうケースが多い。
 カントがきつくてスピードに乗りやすいので、捲りも決まりやすい。先手ライン有利の小回りバンクだが、打鐘過ぎから仕掛け、最終ホーム過ぎには先手ラインを交わす勢いで早めに仕掛けていけば、7、8番手からの巻き返しも可能だ。
 そそり立つ壁のようなコーナーを利してのカマシも有効だが、カマシの場合は番手の選手が離れてしまい、裸逃げとなって別線の自力選手に番手に入られてしまう危険性が高く、うまくカマシが決まってもスジ違いの決着になりやすい。
 追い込み選手も4角のきついカントを使って山おろしをかけると直線で外が伸びるので、中団で脚をためての直線強襲を決めることができる。そのため、差し―差しや逃げ―差しといった決まり手の出現率が高くなっている。
 小回りバンクの割に直線が長いので、ラインの3番手の選手がインを突いての直線抜け出しというケースも少なくない。

 周長は335m、最大カントは36度、見なし直線距離は46.7m。屋内バンクは風の影響を受けないので選手は持てる力を存分に発揮できるが、脚力や調子が直にスピードに反映されるのでごまかしが効かず、ベテラン選手には前橋を苦手としている選手が多い。競りはイン有利が基本で、引くに引けなくなった先行選手がイン粘りに出るケースも多い。最高上がりタイムは昨年7月にフランソワ・ペルビスがマークした08秒9。