レース展望

 今年最後のGI戦、第56回競輪祭が小倉競輪場で開催される。前橋オールスターで自粛欠場前と変わらぬ強さと上手さを発揮して通算5度目のGI優勝を成し遂げた武田豊樹を中心に推すが、地元地区でのグランプリ開催を1カ月後に控えて結束力を強める近畿勢や、昨年のKEIRINグランプリ覇者ながら今年のグランプリ出場に黄色信号が灯る金子貴志ら中部勢の反撃にも期待がかかる。優勝争いのみならず、グランプリ出場権を巡る賞金争いからも目が離せず、競輪発祥の地・小倉で男たちの熱い戦いが繰り広げられる。
復活した王者・武田豊樹がファンの熱い声援に応える
 神山雄一郎が5年ぶりのグランプリ出場を狙う
武田豊樹選手
 武田豊樹は昨年7月の高知記念での失格(追走義務違反)により、あっせん保留2カ月とあっせん停止4カ月の処分を受けた。今年1月に競走に復帰したが、その後、選手会からの脱会騒動により5月から7月まで自粛欠場となった。この1年余りは苦難の日々が続いたが、武田は復活の日を信じて練習に打ち込んだ。それは自分自身のためであると同時に、自分の行為により裏切る形となったファンへの謝罪のためだった。
 前橋オールスターの決勝戦。武田はオッズで自分が1番人気に推されているのを確認すると、勝利への執念を燃え上がらせ、見事に復活優勝を果たした。それも神山雄一郎とのワンツーという最高の形で、自分を支え続けてくれたファンに恩返しを果たした。今大会でも武田は、ファンの熱い声援に応える最高のパフォーマンスを見せてくれるだろう。
神山雄一郎選手
 今、オールドファンが最も関心を寄せているのは、競輪界のレジェンド・神山雄一郎がグランプリ出場なるかどうかだろう。10月18日現在の獲得賞金ランキングで神山は8位につけている。まさに当落線上のぎりぎりの位置だ。
 46歳という年齢を考えればオールスターの準優勝でも立派すぎるが、9月青森記念と10月宇都宮FIで武田豊樹と同乗し、青森記念の初日特選で武田の捲りを差して1着、宇都宮FIの初日特選と準決勝の2日間で武田を差し切り、状態は万全だ。
 今大会でも武田との連係から決勝進出はもちろん、松本整が持つGI最高齢優勝記録(45歳0ヶ月19日)の更新も十分に期待できる。また、悲願のグランプリ初制覇への夢にも繋がっていくだろう。
 神山雄一郎と熾烈な賞金争いを演じているのが岩津裕介だ。獲得賞金ランキングは7位で、神山との賞金差は300万円ほどだ。7位といっても安全圏ではなく、もっと賞金の上積みが欲しいため、本大会ではがむしゃらに決勝進出を目指してくるだろう。
 今年の岩津は共同通信社杯、高松宮記念杯、オールスターの3大会で決勝3着と好成績を挙げてきた。オールスター直後の川崎FIでも、先手ライン3番手からの差し切りで優勝と気合い溢れる走りを見せており、今大会でも大暴れが期待できる。
安定感抜群の浅井康太が3個目のタイトル取りに燃える
 金子貴志がGP覇者のプライドにかけて力走する
浅井康太選手
 浅井康太は全日本選抜、高松宮記念杯、寬仁親王牌、オールスターで決勝進出と年間を通して安定した成績を残してきた。10月18日現在の獲得賞金ランキングも5位につけており、グランプリ出場安全圏内といえるが、ベストはGIタイトルを取ってのグランプリ出場だ。2011年に2個のタイトルを獲得して以来、GI優勝から遠ざかっているだけに、そろそろ3個目のタイトル獲得といきたいところだ。
 今年の浅井は勝ち上がり戦で輪界屈指といえるスピードを発揮しているが、決勝になると後手を踏んでしまう傾向が出ている。2009年以後は本大会での決勝進出がなく相性はあまりよくないが、今年のGI決勝での反省点を胸に刻み、しっかりと軌道修正をしてくるだろう。
金子貴志選手
 昨年のグランプリ覇者である金子貴志は、今年、白のチャンピオンユニフォームをまとって戦ったが、10月18日現在の獲得賞金ランキングは10位にとどまり、グランプリ出場に黄色信号が灯っている。前半戦のGIでは決勝進出がなかったが、オールスターでは3連勝の勝ち上がりで決勝に進出した。3日目のシャイニングスター賞では、目標の深谷知広が不発の展開となると、自力に転じて捲り1着となりグランプリ覇者の意地と底力を見せつけた。愛弟子の深谷が落車による長期欠場中という不安材料はあるが、今大会でもチャンピオンユニフォームのプライドにかけて力強い走りを見せてくれるだろう。
 獲得賞金ランキング6位でグランプリ出場に王手をかけているのが新田祐大だ。新田は共同通信社杯を優勝、自粛欠場後のオールスターでも決勝進出を果たし、GIタイトル獲得に期待がかかったが、勝負どころで仕掛けが遅れ、9番手から捲り届かず4着と沈んだ。しかし、新田はそこから奮起し直後の青森記念決勝では積極的な攻めで武田-神山ラインの3番手を確保し、直線追い込んで優勝し賞金の上積みに成功している。今大会もより積極的な攻めでGI初優勝を狙ってくるだろう。
村上義弘を中心にますます結束力を固める近畿勢
 井上昌己が九州勢を連れて積極果敢な走りを見せる
村上義弘選手
 今年は岸和田競輪場でグランプリが開催されるが、地元・近畿地区からは村上博幸(全日本選抜優勝)、村上義弘(日本選手権優勝)、稲川翔(高松宮記念杯優勝)の3人がすでに出場資格を満たしている。しかし、グランプリでより有利に戦うためにも、競輪祭では村上義弘を中心にさらに結束力を固め競走に臨んでくるだろう。
 村上義弘はオールスターでは準決勝で5着と敗れているが、3日目シャイニングスター賞では深谷知広と真っ向からもがき合うなど、その走りは自粛欠場前にも増して積極的だ。選手会脱会騒動に対するファンへの謝罪と、走れることの感謝の表れだろう。今大会でも村上は、若手自力型を相手に先行争いも辞さない"魂の走り"を見せてくれるだろう。
稲垣裕之選手
 近畿勢では稲垣裕之が相変わらずの好調ぶりを見せている。オールスターでは準決勝で武田豊樹の捲りに屈して4着と敗れたが、今年は日本選手権と共同通信社杯で決勝進出している。自粛欠場からの復帰戦となった7月の京都向日町記念決勝では、深谷知広を相手に松岡健介-稲垣裕之-村上義弘の並びで対抗、松岡の先行に乗って稲垣が番手捲りを打ち、村上1着、稲垣2着の地元ワンツーを決め、近畿の結束力を見せつけた。近況、FI戦の優勝を固め打ちして勢いに乗っており、今大会も近畿勢の援護を受けて強さを発揮してくる。
井上昌己選手
 地元・九州勢では大塚健一郎が獲得賞金ランキングで11位、井上昌己が13位で、賞金でのグランプリ出場は厳しい状況だが、寬仁親王牌では九州勢4人が決勝進出するなど活躍が目立っており、今年最後のGIで地の利を生かした九州勢の一発逆転があるかもしれない。
 とりわけ安定した強さを発揮しているのが井上昌己だ。井上は寬仁親王牌で決勝3着と健闘、続くオールスターでも決勝進出を果たした。2日目オリオン賞では大塚健一郎と2車のラインだったが、果敢に先行して3着に粘り、決勝も岩津裕介との2車のラインだったが、武田豊樹や新田祐大らを相手に先行策に出た。結果9着となったが全盛期を思わせる積極的な攻めだった。
 井上がGI初タイトルを獲得したのは2006年の花月園オールスターで、そのときも奇襲的な先行策に出ての逃げ切り優勝だった。今年のオールスター決勝でも同じく逃げ切り優勝を狙っていたはずで、今大会でも九州勢を連れての先行策がきっと見られるだろう。
石井秀治選手
 南関東勢は石井秀治、桐山敬太郎、新田康仁などの一発の力を秘めた選手が揃っているが、GI戦となると実力を発揮しきれずに苦しい戦いが続いている。10月の大垣記念決勝では南関東勢4車が結束し、石井秀治がうれしい記念初優勝を飾っており、GI戦でもラインの強さを発揮できれば、南関東勢の一発のチャンスがあるはずだ。
 桐山敬太郎も8月の小田原記念で新田祐大、浅井康太らを敗って優勝、オールスターでは二次予選であっさり敗れてしまったが、一次予選、4日目特選、5日目優秀で3勝と勝負強さを見せており、今大会での南関東勢の頑張りに期待してみたい。
小倉競輪祭の思い出
第52回大会 海老根恵太
海老根恵太が7番手から豪快に捲り切って2度目のGI優勝
 単騎の海老根恵太が前受け、その後ろに新田祐大-岡部芳幸の福島コンビ、中団に村上義弘-村上博幸-市田佳寿浩の近畿トリオ、深谷知広-山口富生-飯嶋則之が後ろ攻めで周回を重ねる。青板の2センターから深谷がゆっくり上昇すると、村上義が7番手まで車を下げる。海老根、新田は深谷の動きに合わせて踏み込んでいって誘導を下ろすが、打鐘前に深谷が叩いて先頭に立つ。そこで深谷がペースを緩めると、打鐘とともに村上義が一気にスパート、最終ホームから両者の壮絶なもがき合いとなる。村上義は深谷を叩き切れず、1センターで後退、続いて村上博がバックから捲り上げるが、飯嶋の外で一杯になる。すると、7番手で脚をためていた海老根が2コーナーから発進、4コーナーで逃げる深谷を豪快に捲り切ると、最後の直線は海老根を追った新田とのマッチレースとなるが、海老根が新田をわずかに振り切って優勝、新田が2着、岡部が3着。
小倉バンクの特徴
スピードのある自力選手に向いた高速バンク
基本は先手ライン有利だが、捲りも決まりやすい
 小倉バンクはドーム内にあるので天候に左右されることなく、常にベストに近い状態で走れるのが最大の特徴だ。走路も軽くて走りやすく、タイムの出やすい高速バンクなので、先行でスピードのある選手に向いている。打鐘から全開でスパートしても、スピードに乗ってマイペースに持ち込めれば2着、3着に粘り込めるので、先手ライン有利が基本である。
 だが、400バンクの中では最もきついカントを有しており、緩和曲線(コーナーから直線に移るつなぎ部分)を長くとってスムーズに踏み切れるように設計されているので捲りも決まりやすい。全国から脚力上位の選手が集うGI戦ではやはり基本どおりとはいかず、力のある選手なら7、8番手からの逆転劇も十分に可能だ。
 また、競輪祭は毎年の開催によって、先手ライン有利の傾向が強いときもあれば捲りのライン有利の傾向が強いときもあるので注意が必要だ。一昨年の第54回大会では、全47レースのうち先手ラインの選手が1着を取ったのが10回のみで捲りのラインが優勢だったが、昨年の大会では19回で先手ラインの選手が健闘していた。
 ちなみに昨年の大会の1着、2着の決まり手を見てみると、全47レースのうち(1着同着を1回含む)1着は逃げが6回、捲りが16回、差しが26回、2着は逃げが11回、捲りが9回、差しが12回、マークが14回となっている。
 また、全47レースのうち、1着、2着が同じラインの選手同士で決まったスジ決着が27回、別線の選手同士で決まったスジ違いの決着が20回となっている。
 スピードの出やすい高速バンクなので、すんなりした流れの展開ならスジ決着になりやすいが、4分戦などの細切れラインのときは、最後の直線で4、5番手の位置にいた追い込み選手が中割り強襲で2着に突っ込んでスジ違いの決着を生むパターンが昨年の大会では多く見られたし、4、5番手から内に斬り込んでいき、中コースを一気に伸びて頭に突き抜け好配当になったケースも何度かあった。

小倉競輪場

周長は400m、最大カントは34度01分48秒、見なし直線距離は56.9m。前橋に次ぐ2番目のドーム競輪場として98年に誕生した小倉は「走りやすさ」をテーマに、当時50場あった全国の競輪場のデータから最もよい組み合わせを割り出して設計された。最高上がりタイムは06年にスペインのホセ・アントニオ・エスクレドが叩き出した10秒5。直線は外帯線から1、2mのところを、外に膨れないように追い込んでいくとよく伸びる。