レース展望

 今年最初のGI、第30回全日本選抜競輪が静岡競輪場で開催される。グランプリ覇者の武田豊樹が昨年後半からの勢いそのままに今大会も圧倒的なパワーとテクニックでシリーズをリードしていくだろうが、グランプリのリベンジに燃える近畿勢と中部勢の反撃も必至で、王国復活を狙う北日本勢や九州勢、地の利を活かす地元・南関東勢の台頭も侮れない。また、大ギアへの規制がかかってからの初のビッグレースとなるので、今後の競輪競走の進化と発展を占うためにも決して見逃すことのできない4日間となるだろう。
武田豊樹率いる関東勢がシリーズをリードしていく
 村上義弘が縦横無尽の攻めで関東勢撃破を狙う
武田豊樹選手
 王者・武田豊樹が年末のグランプリで競輪界の頂点に立った。9月のオールスターでは神山雄一郎との関東ワンツー決着で通算5回目のGI制覇、11月の競輪祭では平原康多を連れての先行で平原をグランプリへと導くとともに神山を含めた関東3車で上位独占、そしてグランプリでは打鐘から積極的に逃げた平原の番手から捲って圧勝と、昨年後半は武田率いる関東勢が競輪界を完全に支配していた。その勢いはとどまるところを知らず、今大会も関東勢がシリーズをリードしていく。今年からギア規制がかかったが、桁外れの脚力とレースを組み立てる抜群のテクニックを併せ持った武田にはまったく問題はなく、もちろん今大会も不動の大本命だ。
平原康多選手
 平原康多は、昨年は出場したビッグレースすべてに決勝進出しているが、決勝は大きな着ばかりだった。競輪祭の時点ではグランプリ出場に赤信号が灯っていたが、武田の逃げを目標に優勝、グランプリでは逆に武田を優勝へと導いた。大げさではなく、競輪祭の優勝が平原の競輪人生のターニングポイントになったはずだ。展開に恵まれただけではない。展開に恵まれながら勝ちきれなかった選手は過去にごまんといる。GIの大舞台で、与えられた役割をきっちり果たし、義務づけられた勝利を手にしたことは平原を精神的に大きく成長させ、それがグランプリでの積極的な走りにつながったはずだ。精神的なタフさを身につけた平原が、今大会でも武田と好タッグを組んでいくだろう。
 村上義弘は関西地区で初めて開催されたグランプリでさすがの走りを見せた。ライン的に優勢だった関東勢に対して自らレースを動かして全力で勝機を掴もうとした。「グランプリは1着以外は2着も9着もいっしょ」と言う選手も多いが、村上弟2着、村上兄3着は全面的とは言えないまでも地元ファンも納得の結果だろう。残り2周の赤板ホームで村上と平原が並んだ瞬間、両者の魂がぶつかり合う音が聞こえたファンも多かったのではないだろうか。今年初出走となった立川記念決勝では、浅井康太の捲りに切り替えゴール寸前で差し切って優勝と、相変わらずの強さを発揮しており、今大会も縦横無尽な攻めで関東勢撃破を狙っていく。
完全復活間近、深谷知広が怪物パワーを取り戻す
 積極性の増した新田祐大が自慢のスピードを見せつける
深谷知広選手
 深谷知広は、昨年は7月の寬仁親王牌で待望の2つ目のタイトルを獲得したが、9月のオールスターで落車、長期欠場明けのぶっつけ本番で臨んだグランプリでは捲り不発の8着に終わった。年明けの立川記念では二次予選で9着敗退、3日目選抜は逃げ切っているが、4日目特選は捲り届かずの3着と、まさかまさかの連続だった。しかし、次場所の大宮記念では初日特選こそ逃げて5着に沈んだが、二次予選は7番手から豪快に捲り切って1着、準決は堂々の逃げ切りと日毎に強さを取り戻して復活をアピール、決勝も8番手からの大捲りで3着に突っ込んでいる。大宮記念から約1カ月後の今大会では、完全復活なった深谷が唯一無比の怪物パワーで大暴れしてくれるだろう。
 浅井康太は、昨年は出場した5大会のGIはすべて決勝進出、獲得賞金ランキング4位でグランプリ出場と年間を通してハイレベルな安定性を披露した。グランプリでは深谷知広と共倒れの5着に終わったが、その反省を胸に今年はより積極的な攻めを見せてくれるだろう。年頭の立川記念では初日特選は7番手から捲り、いったん5番手で後閑信一と絡んでスピードが止まったかに見えたが、そこからまた踏み直してきれいに捲り切って1着、準決では脇本雄太の番手で飯嶋則之に競り負けたが、最後は自ら捲って2着に突っ込んでおり、3・85の軽いギアのおかげで動きは軽快だった。もともと瞬発力に優れている選手だけに、ギア規制が浅井には追い風となって今年も大活躍が期待できる。
新田祐大選手
 新田祐大は賞金争いが佳境に入った10月の熊本記念で落車、欠場明けとなった競輪祭も二次予選で敗れてグランプリ出場には手が届かなかった。それでも残り2走は逃げ切りの1着、12月の佐世保記念の準決は逃げて2着、年明けの和歌山記念でも初日特選が逃げ切り、2日目優秀が逃げて2着と、意欲的に主導権取りにいくレースが目立っている。和歌山記念の準決での落車が気がかりだが、稀代のスプリンターの新田にはギア規制は問題ないし、ギア規制で競りや牽制などの動きが厳しくなり、捲り不発、先手ライン有利のレースが増えているので、より積極性を増した新田がスピードスターぶりを存分に発揮してくれるだろう。
ギア規制は無関係の脇本雄太が華麗な逃走劇を見せる
 回転力に優れている石井秀治の快進撃はまだまだ続く
脇本雄太選手
 ギア規制後の初の記念開催となった立川記念で一躍「時の人」となったのが脇本雄太だ。脇本は大ギア全盛時代も4回転をかけることなく戦ってきたので、ギア規制が強力な追い風になると見られていた。そして決勝こそは浅井康太の捲りに屈したが、初日特選は村上義弘を連れて先行、番手で競りがあったとはいえ村上の猛追を振りきっての逃げ切り。準決も最終ホームから一気に叩いての主導権取りで、2着の浅井に3車身の差をつけての逃げ切りと期待どおりの走りを披露した。今はまだ誰もがギア規制で試行錯誤を繰り返している中、脇本は我関せずの華麗な逃走劇で勝ち上がっていくだろう。
中川誠一郎選手
 ギア規制によって回転力のある選手が有利になると言われており、中川誠一郎も飛躍を期待されている1人だ。中川は昨年暮れの佐世保記念決勝では打鐘先行で九州勢を引っ張り井上昌己の優勝に貢献、自身は4着と好調さをアピールしていた。1月の立川記念では準決で内に詰まって勝ち上がりに失敗したが、4日目特別優秀では6番手からの捲りで快勝して上がり11秒4をマークしている。ギア規制後は軒並み上がりタイムが下がり、よくても11秒7ぐらいが普通になっている中で、中川はさすがのスピードを見せつけており、今大会でも世界レベルの回転力でファンを魅了してくれるに違いない。
石井秀治選手
 地元・南関東勢では石井秀治が好調だ。4・33の特大ギアを踏み切り、昨年は10月の大垣で記念初優勝を飾るなどブレイクした石井だったが、ギア規制でその勢いが止まるのではないかと不安視もされていた。しかし、1月の岐阜F1は2連勝の勝ち上がりで決勝7着、次場所の小倉F1も2連勝で決勝6着と、自慢の捲りのスピードは鈍っておらず不安は完全に解消された。もともと回転力のある選手で、ギアが軽くなったおかげで脚への負担も減っており、大ギアのときよりもむしろ調子がいいくらいだ。昨年の競輪祭では準決まで勝ち上がっており、今大会では競輪祭以上の結果を目指す。
原田研太朗選手
 中四国勢では原田研太朗が注目株だ。F1戦だが、1月の四日市の決勝では5番手からの捲りで後ろをぶっちぎり、上がり11秒6で優勝している。冬場のナイターの重いバンクで11秒6は好タイムだ。原田はS級に上がった頃は捲り主体だったが、一昨年7月に1班に昇班してから突然の徹底先行宣言、以後はバックを取ることに専念して地脚を鍛えてきた。ギア規制で回転力のある選手が有利となったが、ただ回転力あるだけでは強さは伴わない。基礎となる地脚がしっかりしていないと回転力は上がらないし、ダッシュ力もつかない。強地脚の原田はギア規制を追い風に今年はきっと大化けしてくれるだろう。
 ギア規制直後の開催では自力選手(とりわけS級に上がりたての若手)の活躍が目立ち、追い込み選手が苦戦して番狂わせとなるレースが目立っていた。しかし、ギア規制は追い込み選手にとって悪いことばかりではない。軽いギアなら惰性がつかないので逃げも捲りも普通にタレるから番手の選手が有利だ。ギアが軽ければ追走での脚の負担が減るので、せっかく勝ち上がりで好走しても肝心の決勝で脚がなくなっているという心配も少なくなる。競りや牽制や位置取りなどでの脚の消耗も少なくなるので、新しいギアに慣れてくれば、追い込み選手の活躍がもっと増えてくるだろう。
静岡バンク
先行は抑えて駆けるよりカマシが向いている
捲りは最終2角から仕掛けるときれいに決まる
 どんな戦法でも実力を発揮できるように設計された平均的な400バンクで、走路自体にクセはなく、直線もとくに伸びるコースはないので、力どおりの決着になるバンクとなっている。基本的には先行選手が粘りにくく、捲りが決まりやすいと言われているが、そこは選手も仕掛けどころを遅らせるなど考えて走っているので、なかなか基本どおりとはいかない。
 昨年2月に開催された記念の結果を見てみると、全44レース(2着同着を1回含む)のうち1着は逃げが8回、捲りが10回、差しが26回、2着は逃げが5回、捲りが11回、差しが15回、マーク14回となっている。
 先行選手は打鐘で先頭に立ってもすぐには駆けず、最終ホームまで流してからスパートするとゴール前まで粘り込める。
 ただ、打鐘後に流していると、別線の自力選手に叩かれる危険がある。鐘が鳴っても後方待機でぐっと我慢して、最終ホームから一気にカマして主導権を奪ってしまうのが理想だ。最終ホーム過ぎに一列棒状の展開に持ち込めれば、簡単には捲られない。
 昨年の記念の二次予選では坂本亮馬が深谷知広を相手に最終ホームからカマして堂々と逃げ切っているし、準決では打鐘から早めに先行した深谷が5着に沈んでいる。先行は抑えて駆けるよりカマシのほうが向いているバンクだ。
 捲りは最終2角から仕掛けるときれいに決まる。2角から仕掛けて3角過ぎに、遅くとも4角まで捲り切ってしまうのが理想のパターンだ。
 2角からの仕掛けなら、絶好の4番手からはもちろん、後方の7、8番手からの仕掛けでもスピードに乗って捲り切れる。
 だが、2角を過ぎてからの遅めの仕掛けになると、捲りは極端に決まりにくくなる。最終4角過ぎて直線に入ると外側のコースはまったく伸びないので、遅めの捲り追い込みもほとんど決まらない。
 絶好の4番手にはまりながら、展開がよすぎて仕掛け遅れてしまい、そのまま何もできずに終わってしまうケースも珍しくない。

周長は400m、最大カントは30度43分22秒、みなし直線距離は56.4m。バック側の特別観覧席と選手宿舎の間から吹き込んでくる風で、3角から4角にかけて向かい風になる。とくに風の強い日が多い冬場はホーム、バックともに向かい風になることがあり、先行選手は苦しくなる。直線ではとくに伸びるコースはないので、後方になったときには車を外に持ち出すよりは、コースが空くのをじっと待ってからインや中に突っ込んでいった方がよく伸びる。