レース展望

第68回日本選手権競輪が京王閣競輪場で開催される。
先の全日本選抜で復活を遂げた山崎芳仁のグランドスラム挑戦に注目が集まるが、武田豊樹と平原康多のダブルエースで迎え撃つ地元・関東勢の反撃必至だ。全日本選抜では優出に失敗したが連日圧倒的なスピードを見せつけていた新田祐大や、充実一途の機動力で決勝5着と健闘した稲垣裕之の初タイトルにも期待がかかる。持ち味のクレーバーな立ち回りで決勝3着と見せ場をつくった浅井康太と、完全復活を目指して力走を誓う深谷知広の中部SSコンビの動向からも目が離せない。
復活の山崎芳仁が史上4人目のグランドスラムに挑む
 地元・関東勢が結束力を発揮して別線を封じ込める
山崎芳仁選手
 華麗な復活劇だった。大ギアの先駆者である山崎芳仁は4回転のギアで8つタイトルを獲得、4回転モンスターの異名で輪界に君臨していたが、周りも大ギアを使うようになって4回転マジックが通用しなくなり、この2年余りはタイトル争いから遠ざかっていた。さらにギア規制が始まりますますの苦戦が予想されていたが、全日本選抜決勝では3.92のギアで大捲りを決めて復活優勝を果たした。ギア規制に備えて昨年11月頃から自転車も練習方法も変え、研究と努力を積み重ねて準備万端の状態で臨んだ結果であり、決して展開に恵まれただけの優勝ではない。まだ優勝のないタイトルは日本選手権のみであり、今大会でいよいよ史上4人目となるグランドスラムに挑戦する。
武田豊樹選手
 ギア規制の思わぬ落とし穴にはまってしまったのが武田豊樹だ。全日本選抜決勝はグランプリと同様に平原康多が主導権を奪い、武田には絶好の展開。しかし、グランプリのときは4.33のギアだったが、全日本選抜は3.93だった。おそらく頭ではわかっていても、4回転で走っていたときの感覚が体に染みついていて、平原との車間を空けすぎたのが敗因の一つだろう。3カ月前からギア規制に備えてきた山崎と、年末ぎりぎりのグランプリまで4回転を使わざるを得なかった武田との差が出たと言ってもいい。もちろん。このまま終わる武田ではない。同期・山崎の復活を称賛していた武田だが、今大会までにしっかり修正して、グランドスラムに挑む山崎の前に立ちふさがるだろう。
 武田豊樹と平原康多のダブルエースを擁する地元・関東勢はやはり強力だ。平原も全日本選抜の走りを見る限りではギア規制にまだ対応しきれていない印象だったが、決して後手を踏まない積極性とテクニックでカバーして決勝進出を決めているのは超一流ならではの技と言っていいだろう。ギア規制に関しては今はまだ誰もが試行錯誤を繰り返している段階であり、近況の実績と勢いからやはり武田と平原の関東コンビが一歩だけリードしていると言っていい。お馴染みの神山雄一郎や2年前の当地オールスターで見事な地元優勝を決めた後閑信一らとともに、関東の結束力をフルに発揮して別線を封じ込めてくるだろう。
目覚ましい充実ぶり稲垣裕之が初タイトルに近づく
 安定感抜群の浅井康太が得意の自在戦で一発を狙う
稲垣裕之選手
 近況の目覚ましい充実ぶりから、念願の初タイトルに限りなく近づいていると言っていいのが稲垣裕之だ。全日本選抜の稲垣は特選予選は平原康多の巻き返しを完全に封じ込め、村上義弘の猛追を振りきっての堂々の逃げ切り、準決は稲毛健太の逃げを目標に新田祐大の捲りに合わせての番手捲りで1着と、超一流を相手に一歩も引かない強気の攻めで決勝進出を決めた。決勝は武田豊樹ともがき合う形となって5着に敗れたが、位置取りや仕掛けのタイミングは完璧だったと言ってよく、GI決勝の大舞台で見せ場をつくれたのは大きな自信になっているはずだ。今大会も超一流の選手を相手に自信あふれる強気の走りで決勝へと勝ち上がっていくだろう。
浅井康太選手
 浅井康太も全日本選抜の決勝は3着に終わったが、稲垣裕之と同様に次につながる大きな収穫のあったレース内容だった。単騎戦のために勝負どころでは7番手と展開的にはよくなかったし、結果的には山崎芳仁を引き出す形になってしまったが、武田豊樹と稲垣裕之をあっさり捲りきったスピードには出色のものがあり、ギア規制後もタイトル争いの舞台でしっかり戦える自信がついたはずだ。準決も深谷知広が不発で絶体絶命の8番手となってしまったが、内に切り込んでからの直線強襲で3着と、輪界一と言ってもいい安定感の高さは相変わらずで、今大会も持ち味の自在戦で勝機を呼び寄せ、3つ目のタイトル奪取を目指してくるだろう。
 深谷知広の復活はあるのか? 全日本選抜の深谷は二次予選こそは捲りで2着に届いているが、準決は特選予選のときと同様に浅井康太に切り替えられて9番手とまったくレースになっていなかった。おそらく、全日本選抜のときのような走りを繰り返していたら復活にはまだまだ時間がかかるだろう。昔から言われているとおり、実戦でもがいてもがいてもがき切るのが不調脱出のための一番の良薬なのである。安易に捲りに構えるのではなく、結果を恐れずに突っ張りに突っ張って主導権を奪いにいくレースができるようになれば、復活への道がきっと開けてくるだろう。本人のためにも、競輪界のためにも、今大会では深谷知広のがむしゃらな逃走劇が見られることを期待したい。
スピードスター・新田祐大が初優勝に向かって突っ走る
 度胸たっぷりの自在戦で桐山敬太郎が金星を挙げる
新田祐大選手
 誰もが認める輪界一のスピードスターは新田祐大だ。全日本選抜の新田は残念ながら準決で敗れたが、特選予選は貫禄の逃げ切り、スタールビー賞は8番手からの仕掛けで武田豊樹の逃げを捲りきり、2着の平原康多に4車身差をつけての圧勝劇で上がりタイムは11秒2、最終日特選も6番手から捲って3勝目を挙げている。準決は絶好の4番手を取れたのがかえってアダとなり、大事を取り過ぎての仕掛け遅れが敗因と言ってよく、決して近畿の2段駆けに力負けしたわけではない。2年前のオールスターでは準優勝と京王閣バンクとの相性もよく、今度こそのタイトル奪取が期待できるだろう。
中川誠一郎選手
 スピード勝負なら中川誠一郎も負けてはいない。中川も全日本選抜では準決で敗れたが、特選予選は7番手からの捲り追い込みで武田豊樹の捲りを捕らえて1着、最終日特別優秀は6番手からの捲りで2着に6車身の差をつけてぶっちぎり、上がりタイムは10秒9をマークしている。相変わらず位置取りは淡白で後方待機のレースが多いが、ギア規制でレース全体の流れが早くなり、その流れにつられて中川も以前よりツーテンポぐらい早く巻き返していけるようになったので取りこぼしも少なくなってきている。そういう意味ではギア規制も、中川や新田ような捲り選手にとっては恩恵が大きかったと言えるかもしれない。
桐山敬太郎選手
 なんでもやるの自在戦でGI初優出を決めたのが桐山敬太郎だ。一次予選は原田研太朗の番手を奪って1着、二次予選は7番手からの捲りで2着、そして見事だったのが準決だ。先手ラインの3番手の位置を取り切り、そのまま黙って付いていっても3着までには入れるだろうという展開だったが、桐山は一か八かで最終バックから捲りを打ち、武田豊樹、山崎芳仁を下す大金星を挙げている。自在型といいながら、自分に展開が向いてくるのを待っているだけの消極的な選手が多い中で、桐山の度胸たっぷりの走りは天晴としか言いようがなく、今大会でも変幻自在の走りで一発を狙ってくるだろう。
早坂秀悟選手
 全日本選抜で積極的な走りが光っていたのが早坂秀悟だ。二次予選は十八番のカマシ先行で3着、GI初の準決も脇本雄太、平原康多を相手にしっかりカマシして菊地圭尚の決勝進出に貢献、最終日特選も深谷知広を後方に追いやるカマシ先行で主導権を奪っている。ギア規制はまだ始まったばかりでなにが正解なのかわからないが、早坂のように元からカマシが得意な選手たちは規制後も元気一杯だ。ただ「元から軽いギアを踏んでいた選手はギア規制を追い風に活躍が期待できる」と言われていたのは間違いだったのは確かなようで、今大会もカマシ得意な選手の走りに注目してみたい。
 ギア規制で最も苦しんでいるのはやはり追い込み選手だろう。「脚がスカスカする」はもうお決まりのコメントで、番手絶好の展開でも差し切れずに終わっているケースが増えている。全日本選抜でも全47レースのうち差しの1着は22回あったが、その大半は自力選手の捲り追い込みや直線強襲で、純粋な追い込み選手の差し切りは12回のみだ。大塚健一郎が決勝進出と健闘しているが、勝ち上がり戦では前を一度も抜けていない。今大会でも自力のある選手が番手を回ったときには差し切りが期待できるが、純粋な追い込み選手たちにはもうしばらく苦しい戦いが続きそうだ。
思い出のレース
2003年 第56回大会 山田裕仁
山田裕仁が小嶋敬二の先行を目標に2年連続でGI連覇を達成

 山田裕仁は02年の年末に2度目のグランプリ優勝を飾ると、年明け1月の競輪祭では02年に続いての連覇を達成、その勢いのまま臨んだ平塚での第56回日本選手権でも特選予選こそは4着だったが、二次予選、準決を連勝で勝ち上がり、決勝戦は小嶋敬二の先行を目標に第55回大会に続いての連覇を達成と圧倒的な強さを見せつけた。決勝戦は齋藤登志信-神山雄一郎-東出剛の混成ラインが前受け、小嶋敬二-山田裕仁-松本整の中近ラインが中団、吉岡稔真-池尻浩一-中塚記生の九州ラインが後攻めで周回を重ねる。赤板から吉岡が上昇して打鐘とともに先頭に立つが、中バンクに登っていた小嶋が一気に発進して主導権を奪ってしまう。そのまま最終バックまで一本棒の状態が続き、7番手に引いていた吉岡がバック過ぎから捲るが車が伸びず、4番手の齋藤も仕掛けられない。番手絶好となった山田が楽々抜け出して優勝、松本が2着、齋藤が3着。
バンクの特徴
自力選手にとっては仕掛けどころが難しい
自力選手が苦戦するぶん追い込み選手の勝機が高い

 クセがなく、直線の長さも標準的な400バンクだが、多摩川が近くてバンクやや重く、逃げ切りは少ない。カントが若干緩く、捲りも3角で外に膨れやすいので、自力選手にとっては仕掛けどころの難しいバンクとなっている。
 13年9月に開催されたオールスターの決まり手を見てみると、全55レース(2着同着を1回含む)のうち1着は逃げが4回、捲りが18回、差しが33回、2着は逃げが6回、捲りが12回、差しが21回、マークが17回となっている。
 捲りの1着の18回はGIの大会では少ないほうである。しかも細切れ戦で3番手や4番手の絶好位からの捲りがほとんどで、後方の7、8番手からの仕掛けではよほど脚力差がない限り不発に終わっている。
 今年からギア規制がかかり、ギアが軽くなったおかげで先手ラインの追い込み選手がきっちり仕事をこなして捲りを止めるレースが増えてきているので、今大会でも捲り主体の選手はますます仕掛けどころが難しくなるだろう。
 好位置を狙って積極的に動き、バック手前までに捲り切ってしまうような早めの仕掛けができる選手でないと捲りは決まらない。
 逆に先行選手は別線の早めの巻き返しを許さないように、最終ホームからカマシ気味に一気に仕掛けてしまえばペースをつかんで駆けることができるので、末を欠いて逃げ切りは難しくても、ラインでの上位独占が期待できる。
 直線ではとくに伸びるコースはないというのが定説だが、オールスターの決まり手を見てもわかるとおり、自力選手が苦戦しているぶん追い込み選手の勝機は高い。
 不発の捲り選手にスピードをもらった追い込み選手がイエローライン上をぐっと伸びてきたり、先手ラインの番手の選手が捲りをブロックしてぽっかり空いたコースを後方で脚をためていた選手が伸びてきたりする。
 とくに伸びるコースがないというのはどのコースを取っても不利はないということで、オールスターでも後方で脚をためていた選手の直線強襲がよく見られた。

京王閣競輪場
京王閣競輪場

周長は400m、最大カントは32度10分34秒、見なし直線距離は51.5m。バックスタンド裏が道路を挟んで多摩川の河川敷のため冬場は2角から4角にかけて川風が吹き込み、バック追い風になることがよくある。ホーム側に5階建てのメインスタンドが建ってからは1角付近が向かい風で2角まではバンクが重くなり、先行選手が踏み出しで脚力をロスするケースが多い。バンクレコードは95年10月に山田裕仁がマークした10秒7。