レース展望

 第31回共同通信社杯競輪が防府競輪場で開催される。2月の全日本選抜では山崎芳仁が復活優勝、3月の日本選手権では新田祐大が悲願の初タイトルを獲得と北日本勢が勢いを取り戻してきているが、総合力ではやはり武田豊樹と平原康多の黄金タッグが牽引する関東勢が一歩リードか。抜群の安定感と強さを維持する浅井康太と復活が待たれる深谷知広の走りにも注目が集まる。また共同通信社杯は他のビッグレースよりも若手選手の出場が多いのが特徴で、今大会は小回りバンクが舞台だけにヤングパワーの激走による熱い戦いが期待できる。
ダービー王・新田祐大が自慢のスピードで連覇を決める
 状態は最高の平原康多が2着惜敗のリベンジを期す
新田祐大選手
 新田祐大が日本選手権でついに4日制以上のGI初制覇を達成した。3番手から捲った武田豊樹、その番手から抜け出した平原康多を6番手からの捲りで捉えての優勝だけにその価値は大きく、ダービー王の称号にふさわしい力強い勝ち方だったといえる。
 新田はこれまでGI決勝戦に10回乗っているが、うち2着が3回と力はあるのに優勝には手が届かず、精神的にも苦しい戦いが続いてきたはずだ。しかし、GIタイトルを一本獲ったことで今後は嫌な緊張感から開放され、これまで以上にスピードスターぶりを発揮してくれるだろう。今年はS級S班が不在の北日本勢だが、昨年の本大会の覇者でもある新田が全日本選抜で復活した山崎芳仁とともに再び北日本旋風を巻き起こしてくれるだろう。
平原康多選手
 日本選手権決勝では微差で新田祐大に優勝をさらわれてしまったが、総合力ではやはり武田豊樹と平原康多の黄金コンビが最上位だ。
 日本選手権でとりわけ仕上がりのよさが光っていたのが平原だ。ゴールデンレーサー賞での平原-武田の並びとは逆に、決勝では地元・関東勢での必勝を期した武田が前回りを選択したことがなによりの証拠だ。
 特選予選の平原は絶好の4番手を奪取、先行する深谷知広の番手の岩津裕介から執拗にブロックを受けるが力で捲り切って1着、準決も難なく3番手を取り切ってからの捲りで圧勝と、決して後手を踏まないクレーバーな組み立ては現時点ではナンバーワンといっていいだろう。

 武田豊樹も特選予選は池田勇人の先行を目標に番手捲りで1着、準決は5番手を取ってからの遅めの捲り追い込みで1着と、平原康多と同様に勝ち上がりは盤石だった。
 しかし、ゴールデンレーサー賞では3番手から捲った平原との車間が空いてしまい、新田祐大の捲りに屈しているのがやや気がかりだ。全日本選抜決勝でも平原の先行で番手絶好の展開になりながら結果を残せずに終わっており、昨年後半戦の怒涛の快進撃の疲労がたまって本調子とは言えない状態なのかもしれない。それでも、輪界の第一人者である武田には弱音を吐くことは許されない。今大会も平原との巧みな連係から、今度こその優勝を狙ってくる。
安定感抜群の浅井康太が得意バンクで優勝を目指す
 完全復活を目指す深谷知広が連日の主導権取りを狙う
浅井康太選手
 GIレースで抜群の安定感を誇っているのが浅井康太だ。昨年の全日本選抜からGIの決勝に連続で乗っており、これまで優出経験のなかった日本選手権も先の大会で初の決勝進出を決めている。2月の全日本選抜は決勝3着、日本選手権決勝も8番手と展開的に苦しかったが力で巻き返して3着と、安定感だけでなく大舞台での成績も良好だ。GI優勝からは3年半近く遠ざかっているが、大舞台での失敗を糧に一歩一歩して修正して現在の高い安定感を築き上げてきただけに今後のますますの活躍が期待できる。
 昨年の伊東温泉の共同通信社杯では二次予選敗退となっているが、短走路を苦手としているわけではなく、防府では09年と13年の記念を優勝とバンクとの相性もいい。
深谷知広選手
 深谷知広が順調に回復してきている。日本選手権では確定板に上がったのは二次予選の3着1回のみだったが、勝ち上がり戦でのレース内容はよかった。
 特選予選では打鐘発進の先行で5着、二次予選は7番手から巻き返しての叩き先行で3着、準決は前受からの突っ張り先行で4着と、先行でもがきにもがいて見せ場をつくっている。最終日順位決定は川村晃司の先行を叩き切れずに後退しており、それが現状の力と調子であることは本人も十分に承知しているはずだ。今大会は短走路の防府バンクが舞台だけに後手を踏んだら巻き返しは難しく、深谷は日本選手権のとき以上に積極的な走りで主導権取りを目指してくるだろう。

 近畿勢は日本選手権では優出者がなく、日本選手権3連覇の偉業を目指していた村上義弘も二次予選で敗れている。それでも、脇本雄太、川村晃司、三谷竜生の3人が準決進出と奮闘しており、今大会での近畿勢の巻き返しに注目したい。

 近畿勢の中でもとりわけ力走ぶりが目立っていたのが脇本雄太だ。脇本は全日本選抜で落車骨折、日本選手権は欠場明けの一戦となったが、深谷知広と同様に主導権取りに並々ならぬ意欲を見せていた。準決は金子貴志の勝ち上がりに貢献するも9着、最終日優秀は天田裕輝とのもがき合いを制するも9着と成績はよくなかったが、今大会も復活を目指しての主導権取りに燃えてくるだろう。
岩津裕介がS級S班の貫禄と地元の意地を見せつける
 若手機動力型がそろった南関東勢の決勝進出も十分だ
岩津裕介選手
 地元・中四国勢のリーダーを務めるのは岩津裕介だ。日本選手権では優出はならなかったが、二次予選では7番手から中川誠一郎の快速捲りにしっかり食らいついて2着、最終日順位決定では目標の深谷知広が捲り不発の展開となったが、先行する川村晃司の番手に俊敏に切り替え、直線ではズブリと差し切っている。
 昨年10月の防府記念決勝も目標の中川誠一郎と村上義弘がもがき合う展開となったが、岩津はインに切り込んでからの巧みなコース取りで優勝と防府バンクとの相性もいい。
桑原大志選手
 地元山口県から唯一の出場となった桑原大志が侮れない存在だ。日本選手権では二次予選で敗れているが、一次予選では最終4角6番手から直線鋭く伸びて頭に突き抜け高配当を演出、5日目特選も6番手から直線伸びて2着に突っ込みまたまた高配当を演出、最終日優秀は3着と3度確定板に載っている。
 もちろんホームバンクの防府との相性もよく、昨年の記念開催では決勝進出を果たしている。圧巻だったのは2日目の優秀競走で、展開がもつれにもつれて目標にしていた近畿勢とは連結が外れてしまい、最終バックでは8番手となってしまったが、そこからホームバンクの利点を活かしての見事なコース取りで2着に突っ込んでいる。
 共同通信社杯は未来のスター候補生の登竜門的な位置づけで、他のビッグレースよりも若手選手の出場が多いのが特徴の一つだ。今大会も各地区から将来有望な若手選手が参戦してくるが、とりわけ目を引くのが中四国勢の充実ぶりで、岩津裕介や桑原太志にとってはかなり心強い。

 原田研太朗は日本選手権では予選を2連勝で勝ち上がり、準決も2着で突破してGI初優出を決めた。ビッグレース初出場となる才迫開も注目の若手だ。才迫は徹底先行で売り出し中で、S級での優勝はまだないが、3月の名古屋記念で決勝進出を決めている。山形一気は捲りを得意としているが、昨年12月の小松島FIでS級初優勝達成、今年2月の奈良記念でやはり決勝進出を決めている。
海老根恵太選手
 今大会では南関東勢にも粋のいい機動力がそろっている。敗者戦ながら日本選手権で2勝を挙げた小埜正義、3月の防府FIで今年2度目の優勝を飾った和田真久留、目下FI戦で3場所連続優勝と勢いに乗っている近藤隆司、そしていよいよ本格的に復調してきた海老根恵太もいる。
 日本選手権では南関東勢からの決勝進出はなかったが、海老根を始めとする4人が準決進出とムードは盛り上がっている。海老根は昨年10月の防府FIを優勝とバンクとの相性もいい。得意の捲りだけでなく、目標をつかんだときのマーク戦も器用にこなすだけに、今大会でも後輩たちとうまく連携して決勝進出と完全復活を目指してくるだろう。
井上昌己選手
 九州勢では井上昌己が相変わらず好調だ。日本選手権の二次予選では北津留翼の先行を目標に1着、準決ではうまく捌いて平原康多ラインの3番手を奪取、直線では前を差し込めなかったが3着で決勝進出を決めている。井上は防府バンクとの相性も抜群で、10年の記念は6番手からの捲りで優勝、12年の記念も上がりタイム9秒1の圧巻の捲りで優勝している。日本選手権で2勝を挙げて復調気配の北津留翼や、勝ち上がり戦で世界レベルのスピードを見せつけていた中川誠一郎の存在も頼もしく、今大会でも井上の決勝進出が大いに期待できる。
共同通信社杯の思い出
2007年 第20回大会 村上博幸
村上博幸が3番手から捲り、地元バンクでうれしいビッグ初優勝
 号砲と同時に単騎の新田康仁が飛び出してスタートを取り、山崎芳仁-佐藤慎太郎-有坂直樹-榊枝輝文の北日本勢が続くが、2周回目に新田が車を外し、北日本勢後位の5番手の位置まで下がる。6番手以降は武田豊樹-室井竜二の即席ラインに村上博幸-北川紋部の近畿勢が続いて周回を重ねる。青板から武田が上昇して山崎を抑え込むが、山崎は突っ張る構えを見せ、両者の併走がしばらく続く。赤板を過ぎると武田が誘導を交わし、新田は切り替えて5番手に付き、山崎が6番手まで下がる。武田は一旦スローペースに落とし、打鐘とともに一気に踏み上げて先行態勢に入り、山崎は踏み遅れて車間の空いた一本棒の状態となる。最終2角から新田が仕掛けるが、これに合わせて村上が3番手から先捲りを打つ。村上は3角で武田を抜き去り、そのまま力強く押し切って地元バンクでビッグ初優勝を達成、北川が2着、大外を捲り追い込んだ山崎が3着。
防府バンクの特徴
クセがなくて走りやすく、タイムも出やすい
基本は先手ライン有利だが、捲りも決まりやすい
 防府は333バンクの中でもクセがなくて走りやすく、タイムの出やすい高速バンクだ。直線も333バンクのわりには長めで、コーナーも流れるので、どんな戦法でもチャンスがある。どちらかという400バンクの感覚に近い。
 基本的には短走路バンクなので先手ラインが有利だが、仕掛けが早くなるため展開に左右される面が大きく、S級上位の選手が集うグレードレースではやはり捲りも決まりやすい。
 昨年10月に開催された記念の決まり手を見てみると、全48レースのうち1着は逃げが9回、捲りが19回、差しが20回、2着は逃げが8回、捲りが11回、差しが6回、マークが23回となっている。
 ちなみに優勝は地元地区の岩津裕介で、脇本雄太の先行を目標に番手捲りを売った村上義弘と4番手から捲った中川誠一郎がもがき合う展開となり、岩津は空いたインコースから俊敏に抜け出して高配当の決着となっている。
 まさに短走路らしい力と力のぶつかり合いの好レースだった。
 先行は小回りバンクなので、抑えにいくのが遅いと合わされて突っ張られてしまう。赤板で抑えて思い切りよく仕掛けていくことが大切だ。早めでも強引に先行態勢に入ったほうが、バンクが軽いので粘り込める。
 捲りもクセのないきれいな走路なのでどこからでも捲れるが、最終ホームで前を交わす勢いで早めに仕掛けていくのがベストだ。打鐘の2センターから4コーナーにかけて踏み込んで、最終ホームでスピードに乗せていけば決まりやすい。
 2センターから直線の中コースがよく伸びるので、遅めの捲り追い込みも有効だ。4コーナーのカントをうまく使い、前の踏み出しに合わせて仕掛けていくと、中団の4、5番手からでも直線一気に突き抜けることができる。
 逆に番手絶好の好位回りでも、差し脚のスピードかがないと、2着、3着どまりで差し込めないケースが多い。
 防府の小回りバンクでは、展開プラス力がないと勝ち切れない。

周長は333m、最大カントは34度41分09秒、みなし直線距離は42.5m。競輪場は防府市内を見下ろす高台にあり、ホーム側約5㎞先が瀬戸内海。風の影響はほとんどないが、西からの風が強いときはホームもバックも向かい風になり、捲りよりも逃げが有利になる。競りはルール上からもイン有利だが、外でもコーナーを締めて走ると好勝負ができる。最高上がりタイムは11年の記念開催の準決で市田佳寿浩がマークした09秒0。