レース展望

 第66回高松宮記念杯が2年ぶりに岸和田競輪場で開催される。今年の戦歴が抜群のダービー王・新田祐大を中心に推すが、武田豊樹、平原康多の関東コンビが相変わらず強力で、先の共同通信社杯を制した神山雄一郎のビッグ連覇も十分だ。迎え撃つ地元・近畿勢は村上義弘を中心に結束、同じく岸和田で開催されたグランプリ2014の雪辱を誓う。ようやく本来の怪物パワーが戻ってきた深谷知広の完全復活にも期待がかかるが、岸和田の高速バンクで真価を発揮する中川誠一郎や原田研太朗の活躍で勢いを増してきた中四国勢の一発も侮れない。
ダービー王・新田祐大がスピードスターぶりを発揮
 武田豊樹がGP初制覇のバンクで巻き返しを狙う
新田祐大選手
 新田祐大は3月の日本選手権でダービー王の称号を手にすると、次場所の静岡FIは貫禄の完全優勝、共同通信社杯では決勝こそ2着に終わったが、勝ち上がり戦は3連勝、二次予選Aでは上がり8秒8でバンクレコードを更新のおまけ付き。5月・平塚記念の決勝も村上義弘や矢口啓一郎を相手に突っ張りに突っ張っての主導権取りで4着と、大本命を背負った選手としてはやや疑問符の残る走りだったが、初日特選と準決は逃げ切り、2日目優秀は捲りの3連勝と近況の成績は抜群だ。2年前の高松宮記念杯も上がり11秒0の捲りを連発し、決勝は成田和也とのワンツーで準優勝と岸和田バンクとの相性もよく、今大会もスピードスターぶりをたっぷりと披露してくれるだろう。
武田豊樹選手
 武田豊樹がグランプリ初制覇を果たした岸和田バンクに戻ってくる。今年の武田は記念優勝がすでに3回、GIも全日本選抜が決勝4着、日本選手権が決勝6着とまずまずの成績だったが、共同通信社杯ではまさかの一次予選敗退、5月の平塚記念も準決敗退で4日間勝ち星なしと急降下してしまった。もちろんこのまま終わるわけはなく、誰よりも競輪を愛している武田だけに、今大会に向けてしっかり立ち直しを図ってくるはずだ。仮に今大会までに本調子に届かなかったとしても、グランプリのときと同様に平原康多、神山雄一郎の黄金トリオでタッグを組めばパワーは2倍、3倍と膨れあがるので、他地区のライバルたちと互角の戦いを演じてくれるだろう。
 共同通信社杯で武田豊樹、平原康多らが次々と脱落していく中で、関東勢から唯一人決勝進出を果たしたのが神山雄一郎だ。準決では目標の平原がブロックを受けて不発の展開からインに切り込み、直線に入ってからは中を割っての鋭い抜け出しで1着と、追い込み選手としては満点に近い走り。迎えた決勝戦は近畿ラインの3番手を選択、最終2角から番手捲りを打った稲垣裕之をズブリと差し切り、捲りで迫る新田祐大を退けて6度目の共同通信社杯制覇を達成した。47歳でのビッグ制覇はもちろん最年長記録。追い込み選手として第2の競輪人生を邁進する神山が再び頂点を極めた瞬間と言ってもよく、今大会でのGI制覇も十分に狙える。
村上義弘が地元ファンの声援に応えて勝ち上がる
 村上義弘の魂を受け継ぐ稲垣裕之が悲願の優勝を狙う
村上義弘選手
 村上義弘が地元地区で初めて開催されたグランプリの雪辱を期して、より一層の魂のこもった走りを見せてくれるだろう。グランプリの村上は持てる力と技の全てを出し尽くして戦ったが、弟の博幸が2着、村上は3着に終わった。さらに2年前の高松宮記念杯でも近畿勢からは藤木裕と稲川翔が決勝進出しているが、村上兄弟は揃って準決で敗れているだけに、今年こそは地元ファンの声援に応えるためになりふりかわまずの勝ち上がりを目指してくるだろう。今年の村上は後輩たちの後ろを回るケースが多くてなかなか成績が安定せず、全日本選抜、日本選手権、共同通信社杯と優出を逃しているが、5月の平塚記念では自力捲りで今年2度目の記念優勝を達成と調子は上向きだ。
稲垣裕之選手
 稲垣裕之の悲願のタイトル奪取にも期待がかかる。稲垣は全日本選抜決勝では絶好の4番手から仕掛けるも、武田豊樹のブロックを受けてまたもや悔し涙を飲んだ。これまでにも何度もチャンスがありながらタイトルに手が届かなかったのは、稲垣にはなにかが足りなかったからだ。しかし、共同通信社杯の決勝は違っていた。結果的には3着に終わったが、逃げる山田久徳の番手から早めの発進、さらには新田祐大の捲りを自らブロックし、これまでの最大の欠点である「甘さ」をかなぐり捨てて勝利への飽くなき執念を見せつけた。それこそが先輩・村上義弘の魂を受け継ぐ走りであり、共同通信社杯でひと皮むけた稲垣が今度こそのタイトル奪取を現実のものとしてくれるだろう。
 得意バンクで一発を狙うのが中川誠一郎だ。中川は2年前の高松宮記念杯の二次予選では7番手からの2角捲りで上がり10秒6の驚異的なタイムをマークしている。後続をぶっちぎって後ろを確認しながらの余裕のゴールだったが、あれで最後まで踏み切っていたらもっとタイムが出ていただろう。今年のギア規制後も捲くりの威力は全く変わらず、そのスピードスターぶりは新田祐大と双璧をなしている。ビッグレースでは残念ながら準決が壁になっており、全日本選抜、日本選手権、共同通信社杯と連続で準決で敗れているが、今大会では高速バンクの岸和田で真価を発揮して昨年の寬仁親王牌以来の決勝進出が十分に狙えるだろう。
怪物パワーが戻った深谷知広が完全復活を目指す
 ビック連続優出の原田研太朗が中四国勢を盛り上げる
深谷知広選手
 深谷知広は4月の川崎記念では連日の豪快な捲りで準優勝、2日目優秀では8番手からの仕掛けで後続をぶっ千切り、上がり10秒7のバンクレコードタイをマークして完全復活かと思われた。しかし、次場所の共同通信社杯では一次予選が9番手から仕掛けきれずに5着、二次予選Bも7番手から全く動けずに7着と敗れている。パワーはほぼ戻っているが、以前のように展開無用で力でねじ伏せてしまうような凄みはまだ感じられず、現状は展開次第の仕掛けになってしまうので今大会も過信はできない。ただ、川崎記念のように初日にうまくハマれば、その後も勢いに乗っていけそうで、初日白虎賞の走りに注目してみたい。
金子貴志選手
 深谷知広の復調に呼応するかのように、師匠の金子貴志も調子を上げてきている。近況はFI戦の出場が多いが、FI戦ではスピード切れる捲りで格の違いを見せつけている。2年前の高松宮記念杯では準決で敗れているが、二次予選では4番手からの捲りで後続をぶっちぎり上がりは10秒8の好タイムをマークと岸和田バンクとの相性も抜群だ。日本選手権では準決を2着で突破して決勝進出、共同通信社杯は準決で敗れたが、一次予選では8番手からの捲りでやはり後続をぶっちぎり、4日目特別優秀では久々に深谷とワンツーを決めており、今大会でも最強の師弟コンビの復活劇が期待できる。
原田研太朗選手
 原田研太朗が乗りに乗っている。日本選手権の準決では8番手の展開と組み立てには失敗したが、大外を捲り追い込んで武田豊樹の2着に突っ込みGI初優出を達成。続く共同通信社杯も深谷知広や稲垣裕之らを敗って準決に駒を進めると、やはり8番手からの大捲りを決めて1着で決勝進出、同じ四国の渡部哲男の6年ぶりのビッグ優出にも貢献している。1回だけならまぐれもあるが、2回連続のビック優出は本物の証だ。決勝は山田久徳を強引に叩きにいくも叩き切れずに終了とあっけなく散ってしまったが、その攻めの姿勢は決して悪くなかったし、今大会も中四国勢力を連れての快進撃があるだろう。
岩津裕介選手
 岩津裕介は今年は1月のいわき平記念を優勝しているが、ビッグレースでの目立った活躍がなく、地元地区の共同通信社杯でも二次予選Aで敗れてしまった。しかし、岩津ならではの独特な競走センスとハンドル捌きは健在で決して調子は悪くない。共同通信社杯も一次予選、3日目特選、4日目特別優秀で3勝を挙げS級S班のプライドを見せつけている。次場所の平塚記念でも決勝は惜しくも2着に終わったが、準決では武田豊樹の番手を奪い、ゴール前でズブリと差し切って1着で突破しており、今大会でも原田研太朗とともに中四国勢を盛り上げてくれるだろう。
 南関東勢は機動力の面で今大会も苦しい戦いが避けられそうにないが、破壊力抜群の捲りを秘めた石井秀治が初日青龍賞に選出されている。石井は2月の千葉FI決勝で深谷知広の逃げを7番手から捲り、ゴール前できっちり捉えて優勝している。日本選手権では準決までの勝ち上がりと活躍しており、今大会も一発大駆けがありそうだ。ようやく復活した海老根恵太が共同通信社杯では萩原孝之の決勝進出に貢献しているし、FI戦が中心ながら勝ち星を量産中の和田真久留のスピードも上位戦で十分に通用するものがあり、南関東勢の台頭も決してないとは言えないだろう。
2008年 第59回大会 渡邉晴智
空いたインコースを鋭く伸びた渡邉晴智がGI連覇を達成
 山崎芳仁-伏見俊昭、新田康仁-渡邉晴智、単騎の小倉竜二が5番手、以下は武田豊樹-神山雄一郎、平原康多-手島慶介の細切れ戦で周回を重ねる。打鐘から武田がゆっくり上昇して山崎を抑えると、続いた平原が打鐘の4角から一気にスパートして主導権を奪い、武田が3番手に入る。5番手に新田、7番手に小倉、引いた山崎は8番手となり一本棒の状態で最終バックを通過する。3角から新田が仕掛けて捲っていくと、これに合わせて武田も車を外に持ち出してスパートする。すると4角手前でインがガラ空きとなり、これを見た渡邉が新田を追わずにインに突っ込んでいく。4角過ぎの直線立ち直りのところで平原が外帯線を外した一瞬を見逃さず、渡邉は最短距離のインコースを鋭く伸び、3月の日本選手権に続いてGI連覇を達成、外を伸びた新田が2着で現地集合の南関東ワンツーの決着となり、さらに新田の上を捲り追い込んできた山崎が3着に入る。
第59回高松宮記念杯 優勝 渡邉晴智
第59回高松宮記念杯 優勝 渡邉晴智
決勝ゴール
決勝ゴール
直線が長めで、タイムの出やすい高速バンク
通常はバック追い風で2角からの捲りが決まりやすい
 岸和田は標準的な400バンクで、走路はクセがなくて走りやすく、直線も比較的長いので、どんな戦法でも力を発揮できる。昨年12月にはグランプリシリーズが、13年6月には高松宮記念杯が開催されているが、冬場でも初夏でも捲りが決まりやすいスピードバンクの印象が強い。
 海岸に近い平地に立地しているため風の影響を受けやすいバンクだが、通常はバックで追い風のためか2コーナーからの捲り、追い込みがよく決まる。昨年7月にはフランスのフランソワ・ペルビスが5番手からの2角捲りで上がりタイム10秒3をマーク、400バンクの日本記録を更新している。
 ちなみに昨年のグランプシリーズの決まり手を見てみると、全33レースのうち1着は逃げが3回、捲りが18回、差しが12回、2着は逃げが4回、捲りが7回、差しが5回、マークが17回となっている。
 やはり捲りがよく決まっていて、先手ラインの選手が1着になったのはわずか3回だけである。
 さらに注目すべき点は、2着の差しがわずかに5回と極端に少ないことだ。真冬の重いバンクで先手ラインが苦戦を強いられたのは仕方がないところだが、それでも捲くりの選手と先手ラインの番手の選手の絡みというよくあるパターンが3日間で1回しか出ていない。2角捲りがきれいに決まるとラインの選手とのワンツー決着が多く、先手ラインの前残りの連絡みはほとんど期待できない状態で、昨年のグランプリシリーズは文字どおりの捲り天国だった。
 直線ではコース取りに関係なく内も中も大外も同じように伸びるので、自力選手だけでなく追い込み選手にとっても戦いやすいバンクとなっている。グランプリシリーズでは先手ラインの番手の選手が伸び切れないケースが目立っていたが、3番手や4番手を回ってきた選手が内を突いたり外へ車を持ち出して連絡みを果たすことが多かった。直線が長めでスピードに乗りやすいので、4角手前で5、6番手の位置からでも捲り追い込みで頭に突き抜けることもできる。
周長は400m、最大カントは30度56分00秒、見なし直線距離は56.7m。通称は浪切りバンク。北西に位置する大阪湾からの浜風と、南東の和泉葛城山からの山風によって風の影響を受けやすい。先行は打鐘から仕掛けて最終ホームで主導権を奪い、バック追い風を利してスピードに乗れれば2着や3着に粘り込める。カントが若干緩いので、捲りは遅めの仕掛けになると、4角過ぎの直線立ち直りのところで牽制を受けて不発になりやすい。
岸和田競輪場
岸和田競輪場