レース展望

第24回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントが弥彦競輪場で開催される。同大会の弥彦競輪場での開催は5年連続5回目で、平原康多、武田豊樹、神山雄一郎のS級S班3人を擁する地元・関東勢を中心に推すが、第20回大会を制した浅井康太、第22回大会を制した金子貴志、第23回大会を制した深谷知広らの中部勢の連覇も十分だ。今年の勢いからいけば北日本勢も怖い存在だ。日本選手権を制して名実ともに輪界の頂点に立った新田祐大や弥彦競輪場のバンクレコード有する山崎芳仁が自慢のスピードで他地区を圧倒してくるだろう。
平原と武田の最強タッグが地元・関東の牙城を守りぬく
 村上義弘が近畿勢の固い結束力を武器に覇権奪取を狙う
平原康多選手
 地元・関東勢で驚異の充実ぶりを発揮しているのが平原康多だ。今年初戦の1月・大宮記念で完全優勝を飾ると、その後のグレードレースでも類まれなるレースセンスとパワーで安定した成績を刻んでおり、今や輪界屈指のオールラウンダーへと成長を遂げている。4月・共同通信社杯の準決で落車、その影響が心配されたが、5月・武雄記念では優勝こそならなかったが、3連勝で勝ち上がって健在ぶりを示している。先日、行われた第66回高松宮記念杯競輪でも決勝まで進出している。
 盟友の武田豊樹が年齢的なものがあるのか近況はやや安定感を欠いたが、第66回高松宮記念杯競輪では平原と連係しGI優勝を決めた。平原-武田の最強タッグで地元・関東の牙城を守り抜いてくれるだろう。
 共同通信社杯を制してビッグレースの最年長記録を更新した神山雄一郎も当然の優勝候補の1人だ。5月の松阪記念と宇都宮記念では残念ながら決勝進出はならなかったが、松阪では2勝、宇都宮では1勝1連対と確実に勝ち星を重ねており、今大会でも衰え知らずの差し脚でファンを沸かせてくれるはずだ。
 弥彦がホームバンクの諸橋愛も見逃せない存在だ。昨年の大会では一次予選で敗れているが、残り3日の敗者戦で3勝と当たり前だが弥彦バンクとの相性は抜群だ。4月・川崎記念決勝では目標の平原康多が捲り不発に終わったが、空いたインに鋭く突っ込み、深谷知広と浅井康太の中部コンビの中を割って10年ぶりの記念優勝を達成している。
村上義弘選手
 近畿勢は総大将の村上義弘を軸に固い結束力を武器に覇権奪取を狙う。村上は今年、1月・立川記念を制して好スタートを切ったが、その後は体調を崩して全日本選抜や日本選手権では優出を逃している。しかし、5月の平塚記念決勝では新田祐大との壮絶なもがき合いを制して優勝と調子を取り戻してきており、第66回高松宮記念杯競輪ではしっかり決勝まで進出し存在を大きくアピールしている。
 今最もタイトルに近い男と言われている稲垣裕之、相変わらずの徹底先行ぶりで強さを発揮している脇本雄太や川村晃司など、近畿勢の機動力は他地区に決してヒケを取らず、村上義弘を引っ張っての一気の台頭が期待できる。
ダービー王・新田祐大が輪界一のスピードを見せつける
 中川誠一郎が世界レベルのスプリント力を発揮する
新田祐大選手
 輪界ナンバーワンのスピードスターは新田祐大だ。新田は日本選手権を制して栄えあるダービー王の称号を手にすると、次なる共同通信社杯も惜しくも準優勝に終わったが、勝ちあがり戦は3連勝、5月・平塚記念も決勝は4着だったが、勝ちあがり戦はやはり3連勝とダービー王の名に恥じない強さを発揮して勝ち星を量産している。第66回高松宮記念杯競輪では準決勝で落車失格となったが闘志溢れるレースは見応えがあった。
 唯一の不安材料はレースの組み立てか。スピードには絶対的な自信を持っている新田だが、その自信ゆえに暴走的に仕掛けて自滅することも少なくない。位置取りも苦手で7、8番手に置かれる危険性も高いが、弥彦バンクは直線が長くて捲りが決まりやすいので、今の新田ならば仮に後手を踏まされても一気の巻き返しが十分に可能だろう。
 弥彦競輪場のバンクレコードを持っているのが山崎芳仁だ。ギア規制前の10年6月の記念決勝での記録だが、7番手からの捲り追い込みで驚異の10秒6を叩き出している。当初山崎はギア規制の一番の犠牲者になるのでは思われていたが、全日本選抜で約2年半ぶりのGI制覇を成し遂げると、その後も4月・高知記念を優勝するなど好成績をキープしており、もともとパワーのある選手はギアに関係なく強さを発揮できることを自ら証明してみせた。共同通信社杯では決勝4着、6月・取手記念では決勝3着と完全に全盛期の強さと安定感を取り戻しており、今大会でも相性抜群の弥彦バンクを舞台にパワー溢れる捲りを披露してくれるだろう。
中川誠一郎選手
 スピード勝負なら中川誠一郎も負けてはいない。中川は5月に別府競輪場で開催された第62回全日本プロ自転車競技大会のスプリントで堂々の3連覇を達成、今大会の日本競輪選手会理事長杯のシード権を獲得している。
 昨年の大会も中川は理事長杯からスタートしており、理事長杯こそは6着だったが、二次予選Aが1着、準決が2着で決勝進出を決めており、今年も自慢のスプリント力を発揮しての優出が期待できる。
 昨年までの中川はレースの組み立てが甘く、世界レベルのスピードを有していても国内の競輪ではなかなか実績を残せずにいたが、今年の中川はビッグレースでも好成績を積み重ねており、GI初制覇も十分に狙える勢いがある。
相性抜群の大会で中部トリオの4度目の優勝も十分だ
 勢いが止まらない原田研太朗が中四国勢を盛り上げる
深谷知広選手
 昨年の大会の覇者は深谷知広だ。先行した中川誠一郎の番手にハマる展開となり、最終2角から番手捲りの格好で仕掛けていって2度目のGI制覇を達成、浅井康太と中部ワンツーを決めている。
 昨年9月のオールスターでの左鎖骨骨折から復帰後は安定感を欠く走りが続いているが、4月・川崎記念の2日目優秀では8番手からの捲りでバンクレコードタイの上がり10秒7を叩き出しており、脚力的には完全に戻っていると見ていいし、6月・武雄記念でも決勝進出しており体調的にはなんの不安もなさそうだ。が第66回高松宮記念杯競輪では準決勝で新田と壮絶な先行バトルを繰り広げたが不発に終わっている。
 あとは気持ちの問題だけだが、GI制覇を果たした弥彦バンクでなら強気に攻めていけるだろうし、本来の怪物パワーを取り戻しての連覇も狙えるはずだ。
浅井康太選手
 浅井康太にとってもゲンのいい大会であり、相性のいいバンクだ。11年に弥彦で開催された寬仁親王牌の決勝では、前受けから先行した渡邉一成の番手に飛びつき、直線鋭く追い込んでGI初制覇を達成している。13年と14年の大会でも決勝進出しており、寬仁親王牌は得意中の得意の大会と言ってもいいほどだ。
 浅井は5月・松阪記念の2日目に腰痛が悪化して当日欠場、全プロ記念も欠場して体調面を不安視されていたが、6月・武雄記念決勝では深谷知広の番手から捲り発進した金子貴志をゴール前で差し切り今年2度目の記念優勝を達成して不安を一掃している。
 同じく金子貴志にとってもゲンのいい大会で、13年の決勝では愛弟子・深谷知広の先行に乗って悲願のGI初制覇を達成しており、弥彦競輪場での寬仁親王牌は中部勢のために開催されている大会と言ってもいいくらいだ。
 今年はS級S班の座から陥落した金子だが、近況は得意の捲りに鋭さが戻ってきて上昇気配にあり、今大会でも中部トリオの中から再び優勝者が出ても決しておかしくはないだろう。
原田研太朗選手
 中四国勢では原田研太朗の気配が引き続き良好だ。原田は日本選手権でGI初優出を達成すると、続くビッグレースの共同通信社杯でも優出して大いに注目を集めた。
 若手自力型の場合はビッグレースで一気に大活躍したあと、その反動で急激に落ち込んでしまうというパターンがとても多いが、原田に関してはその心配はまったくなさそうだ。5月・立川FIの決勝では7番手からの大捲りを決めて今年2度目の優勝、6月・取手記念ではしっかり決勝進出と勢いは衰えていない。中四国勢は地区的に長い間劣勢を強いられてきたが、同じく近況上昇気配にあるS級S班の岩津裕介とともに、今大会でも原田が中四国勢を大いに盛り上げてくれるだろう。
和田真久留選手
 波乱を呼び起こすのは南関東勢の一発だろう。決して派手さはないが、石井秀治、根田空史、郡司浩平、和田真久留など、格上相手に一発の魅力を秘めた選手がそろっている。とりわけ大物食いの印象が強いのが、近況得意の捲りが冴えに冴えている和田真久留だ。
 4月・高知記念の準決では藤木裕-村上義弘の2段駆け相手に4番手から仕掛け、番手捲りの村上と激しくもがき合いながらも2着に突っ込んでいる。6月・武雄記念の準決でも岡崎智哉-浅井康太-金子貴志の2段駆けラインを相手に6番手から仕掛け、番手捲りの浅井の上をきれいに捲り切って1着と大金星を挙げており、今大会でも大番狂わせの逆転一発が期待できる。
近畿ライン3番手から市田佳寿浩が悲願のGI初制覇を達成
 第19回大会ではGI初出場の新鋭・脇本雄太が見事に決勝進出、決勝戦では同県・福井の市田佳寿浩が村上義弘に脇本の番手を譲り、結束力の強さをアピールした近畿勢が終始レースを支配する展開となった。並びは渡邉一成-山崎芳仁が前受け、福島別線の新田祐大-伏見俊昭が続き、中団に脇本雄太-村上義弘-市田佳寿浩、武田豊樹-山口富生が後攻めで周回を重ねる。青板から武田が上昇して渡邉に並びかけると、脇本がすかさず叩いて先行態勢に入る。4番手は渡邉が死守し、武田は引いて6番手、新田が8番手となる。脇本は赤板からガンガン引っ張っての2周先行、ハイペースの展開に後ろからの仕掛けはなく、一列棒状のまま最終ホームを通過する。最終2角から村上が番手発進、渡邉が外、武田が内へと突っ込んでいくが、直線では村上と市田のマッチレースとなり、ゴール前で交わした市田が悲願のGI初制覇、村上が2着に粘り、武田が3着。
第19回大会を制した市田佳寿浩
第19回大会を制した市田佳寿浩
第19回大会決勝ゴール
第19回大会決勝ゴール
ゴール前の直線が長く、追い込みが断然有利
バンクが軽くてタイムが出やすく、捲りが決まりやすい
 弥彦は周長400mの標準的なバンクだが、ゴール前の最後の直線は国内有数の長さを誇っており、捲りや追い込みが決まりやすく、先行は苦しい。中団好位からの捲りでもゴール前で番手の選手に交わされるケースが珍しくなく、好配当も出やすい。捲った選手があまりの直線の長さに末脚を欠いて3着まで落ち、番手の選手と別線の選手との1着、2着で高配当というケースもある。
 昨年も弥彦で開催された寬仁親王牌の決まり手を見てみると、全47レースのうち1着は逃げが3回、捲りが16回、差しが28回、2着は逃げが6回、捲りが9回、差しが18回、マークが14回となっており、やはり追い込みが断然有利だ。
 先手ラインの選手が1着になったレースは14回しかなく、先手ラインが生き残るのはなかなか難しい。
 夏場の弥彦バンクは軽く、カントもきつめでタイムも出やすいので、先行意欲のある選手ならば打鐘から最終ホームにかけてカマシ気味に仕掛けていけば比較的主導権は奪いやすい。そこから最終4コーナーまでいかに脚力を温存できるかがポイントになってくるが、コーナーがけっこう流れるので、コーナーをうまく回って脚を溜めれれば粘りきれる。
 捲りは最終2コーナーから仕掛けるのがベストタイミングだ。それより早めの仕掛けでは先手ラインに牽制されて不発になりやすく、遅めの仕掛けだと外へ外へと踏まされるので伸び切れないケースが出てくる。
 昨年の大会では3番手からの捲りがよく決まっていた。寬仁親王牌は若手自力型の出場が多いのが特徴の大会だ。そのため細切れ線のレースが中心となり、切って、切って、切って、順番がきたら仕掛けるという展開がどうしても多くなってしまう。それで、脚力的には格下だが、勝負どころでうまく3、4番手の好位置にはまった選手が先捲りで穴をあけるというレースがよく見られた。
 直線は中バンクから少し内寄りのコースがよく伸びる。インに差したり、外寄りのコースを取ると伸び切れない。

 周長は400m、最大カントは32度24分17秒、見なし直線距離は63.1m。日本唯一の村営の公営競技場で、四方を杉林で囲まれおり、国定公園に指定されている彌彦神社の境内にある。通称弥彦おろしと呼ばれる風がまわりの山から3コーナー付近に吹き込んでくるため、1角からバックにかけては向かい風、3角から直線にかけては追い風の日が多い。最高上がりタイムは10年6月の記念決勝で山崎芳仁が7番手からの捲り追い込みでマークした10秒6。
弥彦バンク
弥彦バンク