第70回日本選手権競輪(GI)は初めてゴールデンウイークに開催されるGIとなりました。関東圏からも関西圏からも足を伸ばせる距離に位置する静岡競輪場でトップ選手たちの競演をぜひご観戦ください。
今回は穴目選手をS級2班から3選手あげてみました。
第70回日本選手権競輪が静岡競輪場で開催される。従来は3月開催だった日本選手権競輪だが、平成28年度からは5月のゴールデンウィーク期間中に開催されることとなり、今年は3月の名古屋に続いて2回目の開催となる。名古屋で4回目の日本選手権制覇を達成した村上義弘の最多優勝記録への挑戦に注目が集まるが、地元開催で苦杯をなめた深谷知広らの中部勢や快速・新田祐大の反撃必至だ。今年に入ってから急ブレーキがかかってしまった武田豊樹率いる関東勢の巻き返しや地元・南関東勢の頑張りにも期待したい。
3月の名古屋・日本選手権は村上義弘の優勝で幕を閉じた。4回目の日本選手権優勝は最多優勝記録タイ、41歳での最年長優勝、名古屋開催に限れば11年、14年に続く3連覇と記録づくめの優勝だった。決勝戦のレース内容も先行・三谷竜生の番手から捲りを打った川村晃司を援護しつつ、外から迫る新田祐大をプロック、内を突いてきた岩津裕介を押し込んでから直線鋭く追い込んで川村とワンツー決着と、ライン戦の教科書のような完璧な走り。これにより近畿の結束力がますます高まったのはまちがいなく、村上の最多優勝記録更新へ視界は良好だ。3月の名古屋1か月余りの開催だけに、近畿勢は前回の勢いと好調さを維持したまま静岡に乗り込んできて再度の頂点制覇を目指してくる。
新田祐大は日本選手権連覇はならなかったが、特選予選は7番手からの3角捲りで上がりは11秒0、準決は6番手から仕掛けで上がりは11秒3とスピードスターぶりは健在だ。日本選手権後の玉野記念決勝では川村雅章―武田豊樹の関東2段駆けを大外からの捲りで仕留めて今年初優勝を飾っている。唯一気になるのは、近況は仕掛けのタイミングが遅くなっているところか。日本選手権決勝も、すんなり4番手が確保できたために大事を取り過ぎたのが一番の敗因といっていい。後方7、8番手からの3角捲りが多くなっている新田だが、静岡バンクは大外のコースがあまり伸びないので、日本選手権の反省を胸に、より積極的な仕掛けで今度こその優勝を狙ってくるだろう。
渡邉一成は日本選手権の準決では深谷知広を叩ききれずに敗退したが、二次予選は最終ホーム7番手からの巻き返しで1着、最終日優秀も8番手の展開になってしまったが、最終ホームからすかさず捲り返して1着と好調を維持している。新田祐大と同様に位置取りがうまいほうではないが、巻き返しの早さは魅力的で、絶対的なスピートも新田に引けをとらない。特選予選では竹内雄作を相手に突っ張り先行を敢行、結果は6着に終わったが、タイトルホルダーとなった自信と貫禄を見せつけた走りだった。2月の全日本選抜で好連係を決めた渡邉と新田の2人が今大会も北日本勢をぐいぐい引っ張っていくだろう。
地元・南関東勢の気持ちを込めた走りでチャンスを掴む
徐々に動きのよくなってきた武田豊樹の復活に期待
静岡では過去に4回日本選手権競輪が開催されているが、08年の第61回大会では山崎芳仁の先行に乗った地元の渡邉晴智が見事にGI初優勝を飾っている。
もちろん「地元3割増し」の神通力でどうにかなるほどGIは甘くはないが、それでも近況は南関東勢の自力選手が各地で善戦しており、上位陣の厚い壁に風穴を開けるチャンスは十分にある。地元勢の気持ちを込めた走りでの健闘を期待したい。
郡司浩平は1月の和歌山記念で稲毛健太―東口善朋の地元勢、稲垣裕之―村上義弘の京都勢らを7番手からの大捲りで撃破してうれしい記念初優勝を達成した。2月の全日本選抜では二次予選で敗れたが、最終日特選で1勝、3月の日本選手権では2連勝で準決進出と勢いに乗っている。
和田真久留も急成長中だ。昨年12月の伊東温泉記念では最後は深谷知広の捲りに屈したものの郡司浩平の先行に乗っての番手捲りで準優勝、落車欠場明けの日本選手権は一次予選で敗れたが、次場所の平塚FIでは深谷知広や山本伸一―村上博幸の京都勢相手に優勝と大金星を挙げている。
近藤隆司も引き続き好調だ。近藤は全日本選抜でGI初優出を達成、日本選手権では勝ち星こそなかったが、特選予選で8番手からの捲り追い込みで3着に突っ込み準決進出を果たしている。次場所の玉野記念では準決で敗れたが、2日目優秀では武田豊樹、新田祐大らを相手に堂々と逃げ切っている。
武田豊樹は1月の和歌山記念で落車してからリズムが狂ってしまった。全日本選抜は準決敗退、日本選手権はまさかの二次予選敗退で、3月の玉野記念まで17走して1着がまだ取れていない。
それでも、玉野記念では2日目優秀と準決で捲って2着と、動きはかなりよくなってきているし、レース捌きも以前のとおりに格上の技を見せていた。神山雄一郎が2月の静岡記念の二次予選で今年初勝利を挙げると、その後はトントン拍子の3連勝で優勝しているように、不調の選手にとっては1着がなによりの良薬だ。今大会の前に4月の高知記念に出場予定となっているが、そこでどんな形でもいいから1着が取れれば、強い武田がきっと戻ってきてくれるだろう。
先行力の戻った深谷知広が完全復活へ向けて突っ走る
岩津裕介がしぶとさと巧みなコース取りで一発を狙う
深谷知広は日本選手権では1年8か月ぶりのGI優出を決めて復調ぶりをアピールした。残念ながら地元優勝には手が届かなかったが、特選予選は逃げて2着で浅井康太とワンツー、準決も逃げて2着で金子貴志とワンツーと勝ち上がりも力強かった。ただ、後方で捲りに回されると不発になりやすく、完全復活にはもう少し時間がかかりそうだ。次場所の平塚FIでも準決こそは4番手からの捲りで圧勝したが、初日特選は7番手、決勝は8番手となって不発に終わっている。静岡バンクでは昨年の全日本選抜の準決で浅井康太に切り替えられて9番手という苦い経験があるだけに、今大会も先行主体の走りで勝ち上がりを目指していくだろう。
浅井康太は全日本選抜では準決で5着敗退、日本選手権では準決で痛恨の失格と決勝進出を逃しているが、高い位置での安定した強さをずっとキープしている。2月の奈良記念では333バンクでは絶体絶命の8番手に置かれてしまったが、最終ホーム手前から一気にスパートすると前団をあっさりゴボウ抜きにして優勝と、グランプリ覇者の名に恥じない自信と強さに溢れた走りを見せつけていた。中部連係で番手戦になったときに目標の選手に引きずられて仕掛け遅れの不発のケースが目立っており、それが今の唯一の課題といえるが、名古屋の日本選手権は地元戦で決勝進出を逃しているだけに、今大会は勝ちに徹した走りでファンの期待にしっかり応えてくれるだろう。
九州の機動力型では吉本卓仁が上り調子だ。名古屋の日本選手権は準決で4着に敗れたが、一次予選は7番手から大外を捲り追い込んで1着、二次予選では勝負どころで4番手のインに詰まる苦しい展開となったが、3番手の選手を捌いて好位を奪取すると、最終2角から捲って園田匠と福岡ワンツーを決めている。レースの組み立てが甘いのが難点だが、難局を強引に打ち破ってくるパワーは魅力的だ。2月の静岡記念でも連日7、8番手の苦しい展開だったが、二次予選、準決、決勝と3日連続で大外を捲り追い込んで3着に届いており、静岡バンクとの相性も悪くない。
岩津裕介は全日本選抜に続いて名古屋の日本選手権でも決勝進出と健闘している。全日本選抜の決勝で落車、日本選手権は欠場明けの参戦だったが、特選予選は原田研太朗の先行を車間を空けて援護して3着、準決は浅井康太の失格による繰り上がりの3着だったが、落車のあおりを受けての縦長の9番手から諦めずに踏んでの4着入線だ。決勝は4着に終わったが、最終2センターから内に切り込んでいき、ゴール前まで村上義弘ともがき合ったコース取りは的確だった。今大会でも混戦を突いての一発が十分に期待できる。
原田研太朗は1月の立川記念で新田祐大、平原康多、脇本雄太らの錚々たるメンバーを打ち破って記念初優勝と今年は好スタートを切った。全日本選抜は準決9着、名古屋の日本選手権は準決4着とあと一歩及ばなかったが、GIの大舞台でもトップクラスに決して引けをとらない存在感のある走りを見せている。日本選手権の準決は後手を踏んでの8番手と組み立てに失敗したが、特選予選は逃げて2着、4日目ゴールデンレーサー賞も逃げて7着と積極性も高く、今大会もスケールの大きな走りで2度目のGI優出を目指してくる。
2011年 第64回大会 村上義弘
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村上義弘が3番手確保から2角捲りで日本選手権を初優勝
表彰
決勝ゴール
第64回大会の決勝戦は近畿ラインの先頭をまかされた市田佳寿浩が残り2周の赤板で落車するハプニングがあったが、村上義弘が冷静沈着に自力に切り替えて7年半ぶりのGI優勝を飾った。市田佳寿浩―村上義弘―山口幸二、長塚智広―太田真一、鈴木謙太郎―山内卓也、松岡貴久の並びで周回。青板3角から鈴木が上昇、追った松岡までの3車が前に出ると、市田は4番手に下げるが、追い上げてきた長塚が外から押し込んで市田は赤板ホームで落車。目標を失った村上は内へ切り込んでいってスルスルと上昇、打鐘前に山内の横まで行くが、1車引いて3番手に収まる。すかさず長塚が追い上げてくるが、村上が長塚をブロックして3番手を確保。最終ホーム手前から鈴木がスパートして軽快に逃げるが、最終2角から村上が捲り、4角手前で鈴木を捉えるとそのまま先頭でゴールを駆け抜けてガッツポーズ、追走の山口が2着、中を伸びた兵藤が3着。
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バンクの特徴 ―静岡競輪場―
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どんな戦法でも力を発揮できる400バンク
捲りが有利だが、遅めの仕掛けになると決まりにくい
静岡バンク
走路自体にクセはなく、直線も変に伸びるコースはない。見なし直線距離やカントも400バンクとしては平均的な数値を示しており、どんな戦法でも、どんなタイプの選手でも存分に力を発揮できる。
基本的には逃げが残りにくく、捲りが決まりやすいバンクと言われており、昨年2月に開催された全日本選抜の結果を見てみると、全47レースのうち1着は逃げが9回、捲りが16回、差しが22回、2着は逃げが7回、捲りが7回、差しが13回、マークが20回となっている。
やはり捲りがよく決まっているが、数字的には逃げもかなり健闘している。GIに出場するトップクラスの選手たちはバンクの特性を考慮しながら仕掛けのタイミングを図っていくので、なかなか基本どおりの結果とはならない。ほぼ半数の23レースで先手ラインの選手が1着になっているので、必ずしも先手ラインが不利とは言いがたい結果となっている。
確かにバンクの特性は先行選手向きとは言えないが、打鐘で先頭に立ってもすぐには駆けず、最終ホームまで流してからスパートするとゴール前まで粘り込める。
捲りはカントがやや緩めなので、先行選手のペースにはまってしまうと簡単には捲れない。先行選手がペースに乗る前に、遅くとも最終2角から仕掛けて3角過ぎには捲り切ってしまうのが理想だ。
2角を過ぎてからの遅めの仕掛けになると捲りは決まりにくくなるし、4角を過ぎて直線に入ると外側のコースがまったく伸びないので、脚をためての捲り追い込みもほとんど決まらない。
打鐘から最終ホームにかけての仕掛けのタイミングが勝敗を決すると言ってよく、逃げるにしても捲るにしても、結果を恐れずに最終ホームから早め早めに仕掛けていく勇気のある選手に勝機が向いていく。
そのため、勝負どころで自力選手同士が牽制しあっているスキを突いて、一番格下の自力選手が一気にカマして主導権を奪ってしまい、そのまま逃げ切って高配当というパターンもよく見られる。
周長は400m、最大カントは30度43分22秒、見なし直線距離は56.4m。バック側の特別観覧席と選手宿舎の間から吹き込んでくる風のためにホーム、バックともに向かい風になることがあり、風の強い日は先行選手には厳しい。競りもルール上ではインが有利だが、風のある日はバンクが重くなるのでインもアウトも互角に戦える。直線はとくに伸びるコースはなく、最終4角から外のコースを狙っていくとゴール前は伸び切れない。
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