第58回朝日新聞社杯競輪祭が小倉競輪場で開催される。いよいよ今年最後のGIとなるが、近況の勢いから近畿勢が中心となると見て間違いないだろう。10月の寬仁親王牌世界選手権記念トーナメントでは5人もの近畿勢が決勝進出、稲垣裕之が悲願のGI初優勝を達成して改めて絆の強さを見せつけている。寬仁親王牌世で今年初めてGIの決勝を逃した新田祐大や、ようやく本来の先行力が戻ってきた深谷知広と浅井康太の中部コンビのリベンジも見どころで、単騎戦ながら準優勝と相変わらずのレース巧者ぶりを発揮した平原康多のグランプリ出場を懸けた熱い走りにも注目したい。
近畿勢が鉄壁の絆とラインの力で別線を完封する
世界の大舞台を経験した脇本雄太がパワーアップ
今年はすでにGIが6大会開催されているが、そのうち4大会でGI初優勝者が誕生している。記念開催でも原田研太朗、郡司浩平、新山響平、吉澤純平など初優勝者が続出、S級S班を始めとするトップクラスの選手たちの力が安定せず、絶対的王者が不在の1年だったといえる。そんな波乱ムードの中で、選手個人の力ではなく、昔ながらのラインの力で台頭してきたのが近畿勢だ。8月のオールスターでは村上義弘―稲垣裕之の近畿コンビの3番手を選択した岩津裕介がGI初優勝、そして10月の寬仁親王牌ではついに稲垣裕之が悲願のGI制覇を成し遂げた。今大会でも近畿勢が別線を完封する走りでラインの強さを見せつけてくれるだろう。
近畿勢の精神的支柱はもちろん村上義弘だ。オールスター決勝では稲垣裕之―岩津裕介を連れての赤板先行で別線の反撃を許さず、寬仁親王牌世界選手権記念トーナメント決勝では脇本雄太―稲垣裕之の3番手でラインの援護に徹した。輪界のトップスターたる村上が犠牲的と言っていい走りでラインを盛り上げようとする姿に感銘を受けない者はなく、近畿の絆はますます強固なものへとなっていくだろう。さらにはタイトルホルダーの仲間入りを果たした稲垣裕之も、今後は村上の遺伝子を受け継ぐ男としてライン重視の走りに徹してきそうだし、タイトルを取った精神的余裕から一皮も二皮もむけたスケールの大きな走りが期待できるだけに、近畿勢の快進撃はまだまだ続いていくだろう。
稲垣裕之の初タイトルに大きく貢献したのが脇本雄太だ。オリンピックから帰国後は8月・豊橋のエボリューションで圧勝、9月の共同通信社杯は準決で敗れたが残り3走で1着、続く向日町記念、寬仁親王牌、熊本記念では3場所連続で決勝進出と、世界の大舞台を経験してパワーアップした姿を遺憾なく見せつけている。寬仁親王牌で近畿ラインの先導役という重責をきっちりこなしただけに、今後は村上義弘や稲垣裕之らがしっかりと脇本をサポートしてくれそうだ。レース運びがやや単調で、初手から捲り狙いのときはミエミエの走りになってしまうという欠点はあるが、近畿勢の次なるタイトル候補生は脇本で間違いなしと言っていいだろう。
新田祐大が自慢のスピードでリベンジを狙う
浅井康太が中部の強力先行を目標に強さを発揮する
輪界最速の男は新田祐大だ。これに異論をはさむ者はいないだろう。ラインの力で台頭してきた近畿勢とは対象的に、新田は自慢のスピードを武器に「個」の力で輪界の頂点へと登りつめた。漢字の競輪からカタカナのスピードケイリンへと変遷してきた競輪界の象徴的な存在と言っていい。しかし、オフシーズンのない競輪だけに、個の力にもおのずと限界がくる。今年は8月のオールスターまですべてのGIで優出と抜群の安定感を見せていた新田だが、10月の寬仁親王牌ではついに決勝進出を逃してしまった。準決で脇本雄太―稲垣裕之―村上義弘の近畿ラインを相手に捲り不発に終わっており、今大会でも近畿勢と新田とのライン対個の対決が見どころのひとつになるだろう。
浅井康太は典型的な自在型だ。中部には深谷知広や竹内雄作といった強力先行が揃っているので、近畿勢のようにラインの力で押し切ることもできるし、切れ味のいい捲りで新田祐大のように個の力を発揮することもできる。7月のサマーナイトフェスティバルでは吉田敏洋の先行を目標に優勝、昨年のグランプリでは単騎戦から前へ前への自在な立ち回りで優勝と、競輪選手としては理想的な立ち位置にいると言える。ただ、オールマイティーに戦えるところが逆に足枷になっている部分もあり、勝負どころで詰めの甘さが出てしまい大敗してしまうケースが少なくないだけに、今大会では勝ちに徹したシビアな走りでの激走を期待したい。
深谷知広は9月の青森記念決勝では7番手から捲り切った新田祐大のさらに上を捲って今年3度目の記念優勝を達成、次場所の共同通信社杯は二次予選Aでまさかの敗退となったが、寬仁親王牌では決勝進出と調子は上向きだ。捲りに回ったときにはまだ不安が残るが。先行力はほぼ戻っており、今大会も積極的に攻めていければおのずと結果がついてくるだろう。
竹内雄作も波があり、ここぞというときに捲り回されて力を出し切れないレースが目立つが、共同通信社杯で逃げ切り優勝を飾ってスケールアップしているのは確かだ。昨年の競輪祭では準決で新田祐大を不発に終わらせる逃走劇で決勝進出と小倉バンクとの相性もいい。
グランプリ出場に向けた賞金争いもヒートアップ
故郷熊本の復興を願う中川誠一郎が熱い走りを見せる
競輪祭は優勝争いとは別にグランプリの出場権をかけた賞金争いも見どころだ。今年はGI 7大会開催され、獲得賞金額でのグランプリ出場枠は2つだけと例年以上に厳しい戦いが待ち受けているだけに、勝ち上がり戦はかつてないほどの激戦模様となるだろう。
10月24日現在の獲得賞金ランキングでは浅井康太が7千万円台で6位につけていて一歩リード、吉田敏洋が6千万円台で7位と当落線上のぎりぎりにいる。以下は5千万円台で平原康多、竹内雄作、深谷知広、川村晃司、武田豊樹と続いており、今年は本当に最後の最後まで予断を許さない状況だ。
吉田敏洋は4月・静岡の日本選手権で準優勝、6月の高松宮記念杯では3連勝の勝ち上がりで決勝8着、7月のサマーナイトフェスティバルでは浅井康太を連れての男気先行で浅井の優勝に貢献と今年前半は大活躍だった。その後はビッグレースでの優出はないが、9月のオールスターでは2勝、10月の寬仁親王牌では3勝を挙げて引き続き好調をキープしている。とりわけ2日目ローズカップではサマーナイトとは逆に浅井康太の先行を目標に番手捲りを打ち、新田祐大、平原康多らの反撃を退けて完勝しており、今大会でも浅井や深谷との好連係から勝ち上がっていければグランプリ初出場が現実のものとなるだろう。
今年の平原康多は調子が上がってくると落車の繰り返しでなかなか波に乗れなかったが、寬仁親王牌では準優勝で賞金を大幅に上積みし、グランプリ出場が狙える位置まで上がってきた。寬仁親王牌決勝は関東勢どころか東日本勢が平原ただひとりという厳しいメンバー構成だったが、さすがのレース巧者ぶりを発揮してゴール前では優勝の稲垣裕之に4分の位1輪差まで詰め寄っていた。競輪祭は過去に2度の優勝があり、昨年の大会では武田豊樹とワンツーを決めて準優勝と小倉バンクとの相性もいいだけに、今年も決して本調子ではないとしても、持てるテクニックのすべてを動員して決勝進出を果たしてくるだろう。
地元・九州勢の期待は中川誠一郎だ。中川は5月・静岡の日本選手権でGI初優勝を飾っているが、今年はもうひとつ大きな仕事をやってのけた。それが10月の地元・熊本記念初優勝だ。ご存知のとおり熊本地震から半年がたった現在も熊本競輪場は休止状態のために久留米競輪場に舞台を移しての開催だったが、故郷熊本へ力と勇気を与える熱い走りで中川は先頭でゴールラインを駆け抜けた。今大会も中川は九州勢の先頭に立ち、故郷熊本の一日も早い復興を願う九州の選手たちの思いを凝縮させた力強い走りで、地元ファンの声援にしっかりと応えてくれるだろう。
107期の新星、新山響平と吉田拓矢の2人の走りにも引き続き注目したい。新山はビッグレース初出場となった共同通信社杯では一次予選で敗れたが、GI初出場の寬仁親王牌では一次予選を3着、二次予選を1着で突破して準決進出と期待どおりの走りを見せてくれた。
吉田拓矢も今大会で4回目のビッグレース出場となるが、高松宮記念杯、共同通信社杯、寬仁親王牌とすべて準決まで勝ち上がっている。さすがに準決となると思うようにレースはさせてもらえないが、そろそろビッグレースの雰囲気にも慣れてきているだろうし、今大会でもしっかりと見せ場をつくってくれるだろう。
2012年 第54回大会 武田豊樹
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武田豊樹が4番手から捲って競輪祭初優勝
2011年の第53回大会では捲った武田豊樹を差し切った長塚智広がGI初優勝を達成しているが、第54回大会では武田が長塚を振り切って競輪祭初優勝を飾っている。レースは藤木裕―山口幸二が前受け、単騎の後閑信一が続き、成田和也―伏見俊昭の福島コンビが中団、武田豊樹―長塚智広―神山雄一郎―飯嶋則之の茨栃勢が後方待機で周回を重ねる。青板のバック過ぎから武田が上昇して藤木を押さえるが、7番手まで下げた藤木が赤板の2角から猛然と巻き返して打鐘で主導権を奪い、後閑が3番手、武田が4番手に入る。すかさず成田が長塚の横まで追い上げてくるが、長塚が捌いて武田後位を死守する。最終2角から武田が満を持して捲り発進、長塚が追走するが、神山は遅れ、成田、飯嶋の順で続く。武田は逃げる藤木を3角でとらえると、そのままのハイスピードで最後の直線を駆け抜けて先頭でゴール、長塚が2着に続き、外を伸びた飯嶋が3着に入る。
表彰
ゴール
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高速バンクだが、戦法的な有利・不利はない
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ラインの選手同士によるワンツー決着の出現率が高い
ご存知のとおり競輪祭は毎年競輪発祥の地・小倉で開催されており、10月・前橋の寬仁親王牌に続いてのドームバンクでのGI開催となる。
同じドームバンクでも前橋は周長が335mの短走路で、走路にもややクセがあって自力選手が断然有利だが、小倉は標準的な400バンクで、走路もクセがなくて走りやすいので戦法的な有利・不利はあまりない。風の影響を受けない屋内バンクなので前橋と同様の高速バンクであることに変わりはないが、小倉を攻略するには選手もファンも頭の切り替えが必要だ。
昨年の競輪祭の決まり手を見てみると、全47レースのうち1着は逃げが8回、捲りが10回、差しが29回、2着は逃げが9回、捲りが8回、差しが13回。マークが17回となっている。
数字的には差しが優勢で、自力選手が有利と言われている高速バンクだが、逃げても捲ってもゴール前でズブリと差し込まれているケースが多いのがよくわかる。昨年の決勝戦も4番手から捲った平原康多を4分の1車輪差し切った武田豊樹の優勝だった。
またGI戦では一般的に、333や400などのバンクの形状に関係なく、捲りの1着の回数が逃げ切りの回数の倍近くになるのが普通だが、昨年の競輪祭では逃げ切りと捲りの1着の回数がほぼ互角で先行選手がかなり健闘していた。先手ラインの選手が1着を取ったレースもほぼ半数の23回となっている。
競輪祭はラインの選手同士でワンツーが決まるスジ決着が多いのも特徴だ。昨年の大会では全体の3分の2の31レースがスジで決まっている。最後の直線ではとくに伸びるコースがないので、ゴール勝負では紛れが生じにくい。
ただ、ラインの3番手の選手は意外と伸びないので、その直後につけていた4番手の選手が中割強襲を決めてスジ違いの決着というパターンが何度か見られた。
4、5番手から捲った選手と先手ラインの番手の選手との1着、2着というケースも少なくないが、基本的にはよほどの展開のもつれがないかぎりスジで決着しやすい。
周長は400m、最大カントは34度01分48秒、見なし直線距離56.9m。前橋に次ぐ2番目のドーム競輪場として誕生した小倉は「走りやすさ」をテーマに、当時50場あった全国の競輪場のデータから最もよい組み合わせを割り出して設計された。無風の高速バンクなので先手ライン有利が基本だが、400バンクの中では最もきついカントを有しており、コーナー部分もスムーズに踏み切れるように設計されているので捲りも決まりやすい。
小倉バンク
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