月刊競輪WEBをご覧の皆様、後閑信一です。早いもので去年引退をして1年が過ぎました。現役時代は常に課題を持ち、次のレースへ向けて休みなく練習にケアに生活の殆どを費やして来ました。遊んでいる間も、止まっている間もありません。どんなに辛く困難が立ちはだかり、それを乗り越えても「まだ苦しみが足りない!」と思う気持ちが強く、自分を甘えさせる事はありませんでした。今思えばそれで良かったのだと思えます。だから私はいつも悔いがない状態でいれたので突然訪れた退き際にも躊躇なく対応する事が出来たのだと思います。これは誰にでも訪れる事ですから悔いを残したり、その瞬間に躊躇したりする事の無いよう選手生活を送って貰いたいと切に思います。
今、競輪界は東京オリンピックへ向けて着々と雰囲気を作っています。競輪のレースでもナショナルチームの桁外れたトップスピードに魅せられ、向上心と志しの旺盛な日本の競輪選手達は対応策に乗り出しています。最近、現役選手から【パワーウエイトレシオ】と言う言葉を良く聞く様になりました。これは俗に言う「重量が重いとそれを動かすパワーも必要になる」ということなので、筋力を落とさず無駄な重さ(脂肪)を落としてパワーウエイトレシオを小さくするという考え方なのです。これはスポーツカーに良く使われる言葉です。そこで自転車に当てはめて考えてみました。
パワー=馬力(踏み込み漕ぐ力)。トルク=(踏む力でもなく、引く力でもない回転させる力)。そうなると自転車選手はパワーウエイトレシオもある程度は必要になりますが、それと同時に「トルクウエイトレシオ」が大きく必要になってくると私は思います。大ギヤブームを経験した選手はわかると思いますが、大ギヤはゆっくりと正確に前後左右に体重移動を行い、体全体を使ってパワーに変えて推進力を生み出してスピードに変えていきました。しかし今はギヤ比が下がり体重移動だけでは動作が追い付いて行かないのが現状です。ではどんな事に気を配らなければならないかというとトルクを上げる練習が必要となってきます。ペダリングは言わば空中動作の連続です。上半身は下半身のパワーを比例して受け止めて押さえる力が必要となります。そこで特に重要な部分は?というとそれは腹筋だと私は思います。腹筋は単体では何も用をなしません。ではいつ腹筋が必要になるのか?というと、それは上半身と下半身が繋がる時に初めて腹筋が必要になってくるのです。先にも書いた様に(押さえる力)=腹筋なのです。先程のパワーウエイトレシオの話に戻りますが、体重が軽くても自転車の速い人はトルク=回転させる力。と上半身と下半身を繋ぐ腹筋さえしっかりしていれば必要以上に重い筋肉を身につける必要はないという事だと思います。例として挙げさせてもらうと脇本選手は以前からも強かったのですが、体はスラッとしていたにも関わらずお腹だけがポッコリと出ていました。しかしナショナルチームに入ってからはひたすらに腹筋を鍛え抜き強靭な腹筋を身に付けました。あの高回転で長い距離をもがき抜く源は強靭な腹筋があるからこそだと私は思います。強靭な繋げる腹筋を身につけて「パワーウエイトレシオ」を小さくし「トルクウエイトレシオ」を磨いて現代のスピード競輪に対応して行って下さい。選手の皆様の更なる健闘を祈ります。