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昨年のケイリンGP2018を制したのは奈良県・三谷竜生選手。その獲得賞金は何と2億5千5百万円と競輪史上最高額を達成しました。三谷選手の前には先行日本一の脇本雄太選手が風を切り、後ろには伝説のレジェンド村上義弘選手、そして弟の村上博幸選手と完璧な援軍に固められての有終の美を飾り、近畿絶頂期をアピールしました。近畿地区といえば南潤選手をはじめ、若手の先行選手が続々と急成長をし、中堅どころでは古性優作選手や山田久徳選手がタイトルへ近い存在となり、それを見守る形で伝説の村上兄弟と正に完璧なローテーションに入った近畿地区。この勝利のスパイラルはこの先も当分崩れやしないと誰もが思っていると思います。 私は28年間、現役選手としてS級の上位で戦い、いくつもの世代を経験し、変わる時代の瞬間を目の当たりにして来ました。競輪は絶対的な強さに抵抗する強さが現れてファンは惹きつけられるものだと思います。ここ数年の競輪界は村上義弘選手率いる近畿勢が勢いを強め完全なる勢力図を確立して来ました。

しかし昨年、徳島県・太田竜馬選手が少しずつ頭角を現し、G2やG1の決勝戦に乗る姿が見られました。ただそのレース内容からはタイトルには程遠いと思えるものばかり。私は彼を見ていて、相手のラインがスピードを上げてくれて、そのスピードを生かせれば捲りが決まる。そして太田竜馬選手の速さ(あくまでも速さ)が光り、華麗にも映るが、自分でスピードを立ち上げる力が足りないように私には見えていました。彼は競輪祭の決勝戦のように後ろから押さえてのレースになると見ていられない程、太田選手の存在感が無くなってしまう。前にも表現しましたが、(速さ)はあるが、(強さ)はない。競輪のレースで勝つ為には、自らスピードを上げてレースを作る脚力が無いと自力選手としてタイトルへは届かない絶対に必要な要素だと私は思っています。

その太田竜馬選手が昨年のヤンググランプリを優勝して1年を締めくくり、2019年を迎えました。新年は武雄F1からの出走でした。ヤンググランプリから中6日。彼の中で何が起こったのか?初日特選では打鐘から叩いての先行逃げ切りでの1着。2日目準決勝ではホームからカマして1着。決勝戦では打鐘前から突っ張り先行で1着に、3日間ともバックを取るレースを見せてくれました。「やれば出来るじゃん!!」私は太田選手の潜在能力の高さに惚れ惚れしました。その後も太田竜馬選手を期待して見続けましたが、太田選手はその期待を裏切りませんでした!走るレースでは殆ど先行。後手を踏む展開になっても、早めに巻き返して最終バックはしっかりと先頭で通過し、強いレースを見せるようになりました。なかでも圧巻だったのは1月に行われた地元地区で開催された高松記念です。初日特選では赤板(残り2周)から先行して平原選手に捲られ8着に敗れたものの最終4コーナーまで粘り込むものでした。2日目2次予選では全国でも3本の指に入る先行選手の竹内雄作選手を相手に打鐘から合わせての先行逃げ切り。3日目準決勝では後手を踏む展開でもホームから巻き返し、最終バックを取る競走で1着。と危なげなく決勝戦に勝ち進みました。そして決勝戦では山崎賢人選手や平原康多選手を相手にスプリントで鍛えた総合的能力を遺憾なく発揮し冷静に立ち回り掴んだ記念初優勝!積極的な走りをした者に勝利の女神は微笑む事を彼自身、気付いたのではないでしょうか?そして先日行われた玉野記念では初日特選で落車のアクシデントに見舞われながらも決勝戦まで勝ち上がり残りの3日間しっかりとバックを取るレースに徹し、メンタル面での強さも見せてくれました。そして決勝戦では同県の先輩・阿竹智史選手を連れて赤板から仕掛け打鐘ではしっかりとライン3車を出し切っての先行策を取り、番手を回った阿竹選手を優勝へと導きました。今年に入り、心技体全てが整い、本格化してきた太田竜馬選手の活躍に四国の先輩、後輩達は刺激を受けているに違いありません。そうなると、更に相乗効果を受けるのは中四国ラインを形成できる中国勢だと私は思います。今年の後半戦は四国勢、中国勢の活躍が更に競輪界を盛り上げてくれるのではないか?と私は思っています。