月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
競輪界の重鎮 中野浩一氏に聞く!
今回は、目前に迫った東京オリンピックでの競輪選手、日本人選手がトラック自転車競技で活躍、メダルを獲得できるかをテーマにインタビューしました。5月中旬に香港で行われたネイションズカップの成績を基に訊いています。それにしても、ネイションズカップ香港大会ではメダルラッシュで驚きの成績でしたね。
─ 先日のネイションズカップ香港大会の結果をみてどのように見られましたか。
「結果というか、まずはシステムが変わったっていうのを先に説明します。オリンピックに向けて通常だったら毎年ワールドカップが行われるのですが、今年から変わりました。特に今年はコロナウイルスの影響で初戦のネイションズカップが中止になったりしているので、選手もモチベーションを保つのが非常に難しいなかでの参加でした。また東京オリンピックを目指すメンバーにしてみれば久々の国際大会ですし、次のパリ大会を目指す選手にとってみればいい経験ができたというのは当然あります。
その中での結果ですが、当然といえば当然という結果もなかにはあるけれども、それでもやはりしっかりとメダルを獲れたというのは、今までやってきたことが間違っていないという証明なんじゃないかなと私は思っています」
─ 一般的に分かりやすいのは各々のタイムだと思うのですが、松井宏祐選手を除いて男子だとスプリント予選で9秒台という結果に対してはいかがですか?
「全員がそれだけ底上げができていると思います。使用しているブリヂストンの機材もいいのかもしれないけど(笑)。これは東京に向けて一丸となってメダル獲得に向けた中での結果です。選手の力も当然ですが、スタッフもブノワコーチを筆頭に他のスタッフの協力も大きいですね。また機材もほとんど国産で戦えるようになったというのは非常に大きいと思います」
─ 女子に関してはいかがですか?
「女子ではやっぱり(小林)優香ですね、ケイリンで初めて金メダルを獲ったし、またリーワイジーに勝ったのが非常に大きいと思います。リーワイジーといえばアジアだけではなくて、世界チャンピオンにもなっている選手ですからね。それもリーの地元の香港で勝ったというのは非常に自信になったのではないかなと。もともと(小林は)自信なさげに走るタイプですから、本当に自信持って走れば、持っている力をもっと出せると思います。ハロンも自己ベストでした。先日伊豆ベロドロームでやったとき(東京オリンピックテストイベント)も自己ベストを出しているでしょ。だからオリンピックに向けてだいぶコンディションも上がってきているのは間違いないと思いますし、楽しみになりましたね」
─ 男子スプリントは新田祐大選手が優勝しました。中野さんから見ていかがですか?
「新田は大ギヤを使っていますから、戦術において、ある程度ペースが上がっていないと踏みこんだ時に離されて追いつかない場合があります。その中で、ペースをあげて、射程距離に入ってしまえばそれは新田のほうが有利になるという大きな武器です。また新田を逃がしたとしても後半どんどん掛かってくるので追い込めるかってところですからね。それだけ新田に大ギヤを踏める力がついているということでしょう。ですがあのギヤは一歩間違えれば大失敗に繋がるかもしれないし、相手がどう考えてくるかですね。
スプリントは基本的には相手の力と自分の力を図って走るのが鉄則です。自分がどういう戦法が一番有利かっていうのをしっかり考えながら走らないといけないから、どのように自分のペースに持ち込むかがポイントです。対戦相手からいえば新田と走るときにスタートから逃げるっていうのもあるかもしれないですからね。後半は掛かってくるけど、実は焦って追いかけるとペースに乗らないですから。一気に車間があいて、射程距離に入ればいいけれど、入るまでに力を使ってしまうと意外と最後伸びなかったりします。そのようにならないようにスタートで注意はしているとは思いますけどね」
─ 小林以外の他の女子3人(太田りゆ、梅川風子、佐藤水菜)はどうですか?
「意外と頑張ったのが(佐藤)水菜。太田(りゆ)より両方(ケイリン、スプリント)上にいるっていうのは、相当頑張ったなと思います。個人のタイムとしてはまだ太田のほうが上ですがでもだいぶ追いついてきましたしね。またああいうところの一発勝負とかって結構、強いのではないかと思います。勝負度胸が水菜はあるのではないかなと。パリに向けて、本格的なトレーニングを始めたのはあの中ではまだ短いほうだから、年齢的にも若いし、これは楽しみな選手です」
─ 中距離はどのように見られました?
「中距離のほうは梶原が絶対的に世界チャンピオンですし、自信があって走っているし、国内でやったレースの中でも男子と一緒に走っても遜色ないような走りを見せています。やっぱりずいぶんスピードがついたと思いますね。それが余裕につながっているのではないかなと思うので。
世界チャンピオンだという事を、本人も自覚しているから、当然オリンピックチャンピオンにもなりたいと思っているでしょうし。これは大きな期待の中でなかなか難しいけど、やっぱり期待されて勝つのが本物ですからね。
男子のほうは(橋本)英也ですが、オムニアムは全種目トータルだから計算しながら走るというのが大きいけど、そのへん彼は如才ないと思います。だから最後行かなきゃいけないときはしっかり行くだろうし、順調にきていると言っていいですね」
─ 中野さんがいま感じている東京オリンピックでメダルの数はいかがですか?
「なんとか2つ以上は欲しいなという。梶原が一つは間違いなくメダルを獲ってくれるだろうという期待と、ケイリンでなんとかどちらかが(脇本、新田)獲ると。さらになにかもう1つくらいついてくると楽しいですね。
当然、もともとケイリンは世界選手権でずっと銀メダルですけど、あともう少しで金メダルというところまできているわけで、なんとしてでも金メダルを狙ってもらいたい。銀、銅は獲って当たり前みたいな感じにならないといけないです。(オリンピックは)世界選手権よりメンバーは軽いので、まずケイリンがメインで、スプリントはうまくすればという感じですね。まあせめてベスト4くらいには残ってほしいです。どういう選手が出てくるかにもよるけどね。まあメンバー次第ですね。
特に今年は国際大会がまったくなくて、他の国の動向がまったく分からない中で走るので、意外と分からないですからね。
突然変わる可能性もあるし。まあメンバー的にはまったく知らないやつが出てくることはないと思いますが。それは各国とも予選会というか、ポイントを取ったうえで出てくるわけだから、ある程度知っている選手ですが、その選手たちがこの状況下でどう変わってきているか。気持ちが切れずにずっと頑張れたのか、それともなんか途中でちょっと諦めかけたりしたのかとかいうのも、結果に繋がってくると思います。
その点に関して、日本はまだ競輪があるので、ある程度繋いでいけたというのがありますから、そこは有利だと思います。特に地元開催っていう気持ちも強いですから。
中距離はとにかく梶原が安定した走りさえ見せればメダルはほぼ間違いないと思うしね。負けないように英也もなにかエイやって頑張ってくれれば(笑)と思います」
※写真は2020年UCIトラック世界選手権のものです。