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東京オリンピック2020を振り返って
 東京オリンピックの結果から見れば、男女ともにロードレース、ロードタイムトライアル、マウンテン、BMXレーシング、BMXフリースタイル、トラック6種目の自転車競技がある中でメダルを獲得できたのは女子オムニアムの梶原悠未の銀メダル一つだけでした。
 これが少ないと感じるのか、よくやったと感じるのかは、各々の感覚によるものだと思います。
 競輪ファンサイドからすれば、ケイリンでどうしてメダル獲れなかったのか?と思うかもしれません。
 しかし、2001年から今までナショナルチームを取材しているなかで、今回は初めてメダルが獲得できる体制が出来たと確信できました。これはトラック中距離ではなく、トラック短距離の事です。

 大きく振り返ればシドニーオリンピック(2000年)から男子ケイリンが正式種目となりました。その時から競輪界はケイリンでメダルを獲得することを悲願としていました。
その後、アテネオリンピック(2004年)ではチームスプリントで銀メダル、北京オリンピック2008年で永井清史が男子ケイリンで銅メダルを獲得し大きな話題となりました。
その後のロンドンオリンピック(2012年)、リオデジャネイロオリンピック(2016年)ではメダル獲得はならず、リオデジャネイロオリンピック直後から東京オリンピックではメダルを獲得するために、競輪界は総力上げて、ナショナルチームを支援してきました。これも、各競輪場の施行者の理解がありトラック自転車競技支援競輪を行って頂き、それまで以上にサポートをしていただいたからでしょう。
 このサポートにより、ブノワベトゥコーチ、ジェイソンニブレットコーチを招聘し、さらにハイパフォーマンスセンターが作られ、ナショナルチーム所属選手に対するサポートが充実されました。
 また、ナショナルチームAに所属する選手(短距離、中距離含め)には、メダル獲得のため、伊豆ベロドローム近辺に居住することを条件に競輪選手、それ以外の選手を問わずサポートされました。
競輪選手には競輪に参加することを調整し、トレーニングに大きく時間を割き、身体のパフォーマンス向上に努めました。


 このように、リオデジャネイロオリンピックまでに言われていたサポート体制を作り上げ東京オリンピックに向かったのです。そうして2020年までは選手の強化と東京オリンピックの出場枠獲得に向けた国際大会で成績向上、さらに世界選手権でのメダル獲得を進めてきました。
 その結果、2018年世界選で河端朋之が男子ケイリンで銀メダル、2019年世界選で新田祐大が銀メダル、2020年世界選で脇本雄太が銀メダルと結果を出し続けたのでした。
何より驚いたのが2020年の世界選男子スプリントです。新田祐大が5位、深谷知広が8位となりました。また、この時に新田祐大が200mFDで日本記録となる9秒562を出しました。これが一番わかりやすく身体のパフォーマンスがアップしたことを示すものでしょう。
また、その間に行われたワールドカップ、ネイションズカップでは男子短距離陣だけではなく女子短距離陣の小林優香、太田りゆもメダルを獲得し確実に身体のパフォーマンスは向上しました。
 中距離陣に関しては、2020年の世界選手権で金メダルを獲得した梶原悠未が東京オリンピックの女子オムニアムで銀メダルを獲っています。
が、チーム全体で見れば海外から前コーチ(2021年9月2日現在)を招聘したにもかかわらず、様々なトラブルを引き起こし、必死の修正措置も間に合わず、確実に出遅れた結果で、目標であったチームパーシュートでの東京オリンピック出場は男女ともに叶わず。
結局獲得できた出場権は、女子マディソン、男女のオムニアムの出場権のみというもの。これらが確保できたのは日本中距離チームの選手全員がワールドカップ、ネイションズカップで頑張った結果です。
 中距離で起きたことはチーム全体にも起こりえることで、起きたことを振り返り原因を突き止め、この失敗を次に活かさなければならないと思います。

では東京オリンピック2020を種目ごとに振り返ってみましょう。
〇男子スプリント

 選手、コーチに直接、インタビューしてはいないので推測になりますが、2020年の世界選からパワーアップされたはずの新田祐大がスプリント予選9秒728で予選落ちしたことが大きな誤算だけで、脇本雄太はスプリント予選で9秒518の日本新記録で9位通過。結果は1/8決勝敗者復活戦で敗れたところまでとなりましたが、これも近年のオリンピックでは到達できなかった順位です。それだけパワーアップできた証しです。今後のオリンピックでは日本人でもスプリントでメダルが獲れると言い切れる内容と結果だったと思います。ただし現状ではまだパワーアップが必要で、世界のトップスプリンターはパリオリンピックまでに200mFDは9秒を切る選手が出てくる可能性もあります。限りなく上を目指してパワーアップしていかなければならないのは確実です。

 新田には非常に悔しい結果だったと思います。ある意味なぜタイムが出なかったのか、わからなかったのかもしれません。

脇本雄太 9位
新田祐大 26位
〇男子ケイリン

 脇本、新田の1回戦の仕上がりを見れば、二人とも確実に1-6位決勝に進出することは間違いないと確信できました。それぐらい今までのなかで良かった1回戦でした。
しかし、翌日の準々決勝では新田が敗退。そして準決勝では脇本がトリニダード・トバゴの反則によって1-6位決勝進出ならずという悪夢のような結果となってしまいました。これは落車しなくて本当に良かったと思うくらい、悪質な反則でした。
その後の7-12位決勝では先行逃げ切り勝ちという素晴らしいレース内容で7位となり東京オリンピックをフィニッシュ。メダル獲得はなりませんでしたが、きちっと〆たレースでした。
 ケイリンは本当に難しい種目だと思います。心技体だけではなく運も持ち合わせないと金メダルはないのかもしれません。今回優勝したジェイソン・ケニーはリオデジャネイロオリンピックでも金メダルを獲得しており2大会連続でした。両大会の決勝の展開を振り返るとわかりますが、リオでは反則を取られず優勝、今回は展開に恵まれて優勝となりました。運も実力のうちと言われるのがケイリンだとしみじみ思った今回でした。

脇本雄太 7位
新田祐大 16位
〇女子ケイリン
 ケイリンは1回戦を突破するのが非常に厳しい競技で2着以上が準々決勝に進めます。負けると敗者復活戦となるので1回戦でクリアしたいところなのですが、小林優香は2着で突破し翌日の準々決勝へ進出を決めました。若干、危ういレースではありましたが進出できたのは良かったと思います。準々決勝では、最終的に後方になり敗退。一回戦とは違い、大事に行き過ぎたのか様子を見る展開となってしまいました。調子が良さそうだっただけに悔しい結果となってしまったと思います。小林本人も、東京オリンピックでは燃え尽きることはできなかったと言っていたので、本人が決めることですが、パリも目指してほしいと思います。

小林優香 16位
〇女子スプリント
 小林が1/16決勝敗者復活戦で敗退となりましたが、こちらも大きな成長があったと思います。スプリントはケイリンとは違い、偶然で勝てる競技ではありません。予選の200mFDでは10秒711の17位。1/32決勝ではケイティ・マーシャントに負け、1/32決勝敗者復活戦へ。そこで勝って1/16決勝に進出。結果1/16決勝敗者復活戦で敗退となりましたが、そこで少なくとも1勝し、次に進めたことは日本のオリンピック史上初めてのこと。パリオリンピックではその先に是非行ってもらいたいですね。

小林優香 14位
●中距離
〇男子オムニアム
橋本英也が出場し、スクラッチ8位、テンポレース16位、エリミネーション12位、最後の種目ポイントレースで順位を上げることができず、15位となりました。
 本人は想定以上のスピードだったことが敗因や、オリンピックの特殊性もあると言っておりました。これに対応するためには更なる強化プログラムが必要でパリに向けてその強化プログラムを実行して臨みたいと望んでいます。

橋本英也 15位
その他の日本の順位
〇女子マディソン

梶原悠未・中村妃智 13位
〇女子オムニアム

梶原悠未 2位
 東京オリンピックのトラック自転車競技全体を振り返れば、男子団体追い抜きの世界新記録(イタリア3分42秒032)、女子団体追い抜きの世界新記録(ドイツ4分04秒242)、女子チームスプリント(中国31秒804)など次々と更新されたことも挙げられます。
それだけ各国はそれぞれの種目に注力し、レベルアップを図ってくることが明確にわかりました。これは今回に限ったことではありません。オリンピックはそういう大会なのです。
 また、一つわかったことがあります。これは、日本で開催されたことによってはっきりしたことです。それは、男子スプリントで判明したことですが、反則であろうと思われるところをスルーするという事です。これは東京オリンピックで始まったことではありません。リオデジャネイロオリンピックの男子チームスプリント、男子ケイリン決勝を思い出した方は素晴らしいです。反則を取るところをとらなかった事象がありました。今回はリオよりひどくはありませんでしたが、反則行為として警告等を出すべきところを全く出しませんでした。これが、男子ケイリン準決勝における脇本雄太に対する反則につながったと思います。反則行為をきちんと審議し取っていれば、全く空いていない内側から入ってきてどかすという事をやらなかったのではと思います。反則だとジャッジしなければこれだけは大丈夫などの気持ちでやってくるでしょう。反則行為により大きく着順が変わり勝ち上がれなくなるのは本当に悔しいとしか言いようがありません。
 忖度なく審判することを行ってほしいですね。
 もうすでにパリオリンピックに向かって時間は進行しています。
コビット19の問題はそう簡単に収まりそうにありませんが、2024年はすぐそこです。
 しかしながら2016年リオデジャネイロオリンピックの終了時と比べて、やるべきことが明確で向かうところがはっきりと道ができているのでパリオリンピックでは、メダルを獲得することは今回より確率は高くなるはずです。
東京でメダルを獲得できなかった分をパリオリンピックでは取り返してほしいです。