デュッセルドルフ通信 2005年8月4日
BMX世界選手権
 2008年北京オリンピックから正式種目となるBMX。今回と次回はBMX特集。トラック競技を少しはなれて(といってもBMXでもコースのことをトラックといっているのである意味トラック競技?)この勢いのある自転車競技を見てみましょう。ということで、先日パリで行われたBMX世界選手権に行ってきました。競技場はパリの中心部から少し東側、セーヌ川沿いのベルシーという地区のにあるパレ・オムニスポルト、席数17000の多目的競技場です。
 この世界選手権は、19歳以上のエリートクラス、17歳、18歳のジュニアクラスのあるチャンピオンシップレベルと16歳以下のワールドチャレンジレベルにわかれます。チャレンジレベルは1歳きざみでクラスが設定され、それぞれに男女があります。さらには、同じような区分けでタイヤ径の大きいクルーザークラスがありますから、参加人数は半端ではなく、40カ国、およそ1700人の参加というのもうなずけるでしょう。当然のことながらパドックエリアはごった返しで、大混雑。まさに人種のるつぼ状態でした。そんななかでもすぐみつかった、あの見慣れたブルーと白のジャージーに腕の日の丸。今回日本ナショナルチームは最年少7歳から40代まで24人のライダーたちが競いました。なかでも注目は15歳クラスのスタンダードとクルーザーの両方に出場する三瓶将廣君。昨年は両種目でチャンピオンになった強者です。
コース全景
コース全景
 BMXがどんな競技かは、だいたい皆さん想像つきますよね?「あぁ、よく公園とかで曲乗りやってるやつね」という人もいるかもしれませんが、あれは同じBMXでもフリースタイル。オリンピックの種目になるのは全長300mから400m、数々のジャンプやバンクのあるコースを走り抜けるレースです。自転車はタイヤ径20インチ、フレームも小さく、シングルギアで、ブレーキは後輪のみ。非常にシンプルで丈夫なつくりのバイクです。
 観客側から見てBMXのいい点はコースがコンパクトで誰がどのような動きをしているのか非常にわかりやすい点、スピード感、シンプルさ、レースが次から次にあるので、興奮が冷めないこと等があると思います。インドアでもできるし会場のなかの観客の反応などトラック競技と非常に似たものがありますね。それから、スタートからスピード全開ですから、いきなりヒートアップです。
コーナー出口
コーナー出口のコース取りも重要!
 ちょっとだけマニアックな見方をすると、コース取りだとか、ギャップを飛んで通過したのか、なめて(飛ばないように段差のショックを吸収しながら)通過したのか、ウォッシュボードといわれる連続ギャップを大きく飛んで一回でクリアしたのかひとつひとつなめていったのかなど、戦略的な部分があるんです。同じスピードでジャンプ台に入ってもエアー(ジャンプのことね)で高く飛びすぎたために時間をロスして目に見えて差がつくなんてことはざらです。・・・・が、まぁ、そういう見方をしなくても単純に誰が速いか見ているだけでかなり見ごたえがあります。
 選手の脚質的には、完全な短距離スプリント型ですね。しかもいきなりトップスピードに持っていけるスタートダッシュ型が最適です。最初のコーナーにトップで進入することがまず第一の勝利への鍵です。クラッシュも多いですから、自分が先頭にいれば巻き込まれる確率も減るということなんですね。それから状況判断。狭いコースに7から8人のライダーが全力疾走しますから、ボディコンタクトはあたりまえです。競輪でいうところのタテの脚、ヨコの脚をしっかり持っていないと勝てなそうです。クラッシュがつきものなのでラッキー、アンラッキーはありますが、そこはよくできていて、予選は一発勝負ではないので、結局実力のある人は、それなりのところまでは上がってくる仕組みになっています。
バックフリップ
レース合間のエキジビジョンより
「バーックフリーップ!!」
 BMXというと若い競技者が多いイメージですが、どっこいクルーザークラス(ホイール径が22 1/2インチより大きいクラス)には、40歳以上の人までいます。先ほどスプリント型が最適と書きました。だた、勝ち上がるためにはモトと呼ばれる予選を何度も走りますから、回数に対する持久力は必要です。個人的にはBMXの脚はトラック競技のスプリント型の脚とよく似ていると見ています。これは、2004年世界選手権のケイリンチャンピオン、ジェイミースタッフがBMX出身だということやオーストラリアのウェイドブーツのようにトラックとBMX、MTBを掛け持ちする選手がいることからもわかります。日本もトラックとBMXの選手交流をやってみると面白いと思うんですが・・・
ババ・ハリス
世界チャンピオンババ・ハリス。
見るからに典型的アメリカンって感じ?
 さて、世界選手権の結果です。エリートクラス(19歳以上)のチャンピオンシップはアメリカの20歳、ババ・ハリスが優勝。ウィニングランでは、ジャンプ台を利用してバックフリップ(自転車に乗ったまま後方宙返り)を見せるなど、エンターテイナーぶりを発揮していました。オリンピック有力候補になるでしょう。記者会見ではわりと無難なコメントでしたが、「チャンピオンになれて最高だ、オリンピック種目になったことは本当に素晴らしいことだし、すでに気持ちはオリンピックで、それを目標にがんばりたい」という風に語っていました。また、コースレイアウトについて、「今回のコースレイアウトは難しくなかったけど、オリンピックではもっとジャンプなどもでかく、難しくコンペティティブなコースになるだろうね」といっていましたが、今回のコースでも私から見ると相当大変に見えました。シロードが走るのを基本に考えちゃいけませんけどね。世界選手権なんだから。
三瓶将廣君
2位は十分立派。三瓶将廣君
 日本ナショナルチームはというと、前述の三瓶将廣くんが15歳クルーザークラスで2位。スタンダードクラスでは4位。9歳ボーイズクラスで榊原魁くんが6位。11歳ガールズで並木朱梨ちゃんが2位。藤井和音ちゃんが7位。12歳ガールズで渡辺楓ちゃんが2位、13・14歳クルーザーでは松下巽くんが7位、オッサンも負けていられるか(失礼だったかな?)と40-44クルーザーで小島勉さんが6位と続々入賞!なかなかの成績をのこしました。三瓶君は、予選のときから2着を1車身、2車身離すぶっちぎり快進撃を続けていたので、「2連覇もいけるぞ!」と思ったのですが、大舞台にはよくあること。ベルシーにも魔物が棲んでいたようです。でも、実力は本物ですので、これからも是非頑張ってほしいと思います。また、三瓶くんの弟、貴公くんも入賞は逃したけど同じ遺伝子の持ち主。これからが楽しみです。2位の大金星をあげたのに、「1位じゃなくてくやしい」と泣いていた渡辺楓ちゃん。その根性を持ち続ければきっと1位は向こうからやってくるよ!そして、日本唯一のエリートクラス、三浦進選手。今のナショナルチームのなかでは、年齢的に唯一北京オリンピックに出場する可能性を持つ選手。今回は上位進出を逃しましたが、「このままでは終わらない」という気持ちをひしひしと感じることができました。
 エリート達のテクニックや混戦に突っ込んでいく度胸に感心しながら、キッズ達のひたむきな姿に自分も彼らのお父さんになったような気持ちで感情移入せざるを得なかった今回の取材。エクストリームスポーツということでとかく誤解されがちなBMXですが、特にレースに出ている選手たちは、とても真っ直ぐで、妙な打算や欲などにとらわれず、競技そのものを愛してやまない人種でした。何年後かにここに出てきた名前が、メディアをにぎわすことになるかもしれません。さて、次回はBMXナショナルチームを率いて東奔西走するスーパーオジサマ(すみません)全日本BMX連盟会長 蒔田一さん、それから、日本BMX界が誇るエリートライダー、三浦進選手にお話を伺ったのでその話題を中心にお届けします。お楽しみに。オー・ルボワール!
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