デュッセルドルフ通信 2005年10月27日
アムステルダム6日間レース
 唐突ですが、祝!トラックシーズン開幕!!!
ついに待ちに待ったトラック競技の本格的シーズンに突入です!ワーイ、ワーイ!と空騒ぎしたくなりますが、早速シーズンの幕開けにふさわしいレースを取材してきましたよ!
 場所はアムステルダム、ヨーロッパではトラック競技のショーレースの代名詞ともいえる6日間レースです。通常6日間レースはどちらかというとマディソンなどの中長距離種目の大会なのですが、最近スプリントやケイリンといったスプリント系種目を採用する主催者が増えてきました。
レースの始まる前の会場。始まってしまうと人・・・
レースの始まる前の会場。
始まってしまうと人・・・
 オランダでスプリント種目と言えば、出てこないワケないでしょう!この人が!テオ・ボス!!競輪らんどにも「テオ・ボスは今どうしてる?」とのメールが来たとの話を聞いてましたから、今回のお話はテオ・ボス中心に行かせていただきます!
その前に「6日間レースって何?」っていう人がいるでしょうね。簡単に説明させていただきますと、6日間を1開催単位としたショーレースのことをそう呼びます。このレースは冬季を中心にヨーロッパのあちこちで開かれます。典型的な6日間レースはVIP席がバンクのインサイドに設けられ、そこでレースを見ることの出来る人たちはお酒を飲んだり、食事をしながら楽しみます。夜の開催が多く、夕方7時ぐらいから真夜中までやっています。スポーツ観戦というよりはレースを楽しむパーティーみたいな感じです。とにかく、日本にはない雰囲気のレースですね。その、おしゃれでちょっと不思議な雰囲気の中、次から次へとレースが繰り広げられるのです。レースの種類は開催によって異なりますが、今回の主なレースはマディソン、スプリント、ケイリン、スクラッチなどなどでした。
 ではいよいよテオ・ボスの話。「レースが始まってから話を聞くのは迷惑だろう」と早いうちからスタンバってたんですが、なかなか会場に来なくって、来たのは出走の5分ぐらい前!さすがにこれではインタビューできないんで最初のレースが終わるまで待つことに。(テオ・ボスはこの日、スプリントやケイリンなど合計5レースも出場。頭が下がります)
最初のレースが終わって(そのレース2着)ハァハァ言いながら戻ってきたところをついに捕まえました。
私:「テオ!」
テオ:「オー!コニチワー!」(何度か会ってるけど、そんなにハッキリは覚えていないはず。この人、日本人とみると反射的に日本語が出るところがすごい)
私:「今は、終わったばかりできついだろうから、後で少し話する時間ちょうだい」
テオ:「It’s OK now ! (イスをどこかから運んできて、日本語で)ドーゾ」
テオ・ボス。左が期待の若手ティム・ヴェルド
テオ・ボス。
左が期待の若手ティム・ヴェルド
 この人、ホントにサービス精神旺盛です。しかも、日本人にはなるべく日本語で。心得てますねぇ。日本のファンの心をつかむのにそんなに時間がかからなかったのは、わかる気がします。さて、ピットエリアではじまった彼とのやりとりを以下に。

私:「では、申し訳ないけど・・・日本のファンが君の近況を知りたがってるんでね」
テオ:「OK。近況ね。今年は、日本の国際競輪から戻ったあと、のんびりいい夏休みを過ごしたよ。そのあと夏の間は基礎トレーニングを中心にやっていた。だからレースの練習はほとんどやってないんだ。これからテンションをあげていくところだよ」
私:「今シーズンは何の種目に力を入れるつもり?」
テオ:「スプリントとケイリンとあと、オランダチームという意味ではチームスプリントかな?チームスプリントはちょっとメンバーの入れ替えがあって、ティム・ヴェルドという若手が入ったんだ。3走は若い彼に任せて、僕は2走をやることになったよ。1走は、テアン。知ってるでしょ?」(テアン・ムルダーは2005年世界選手権のケイリンチャンピオン)
私:「そりゃまた強そうだね。日本の脅威だね」
テオ:「でしょ。いいチームだよ。でも、日本も強いよね。ナガツカがいるし」
私:「ありがとう。伝えるよ。ところで1キロタイムトライアルも大事だよね。」
テオ:「実は1キロはもう走らないことにしたんだ」
私:「えぇ?それはショック。オリンピック種目からはずれたことに関係がある?」
テオ:「少しはね。でも、それだけじゃない。自分の可能性をフルに引き出すために種目を絞っていくことも大切なんだ」
私:「わかるよ。では次に行くね。この6日間レースみたいにスプリント系の種目を採用するのが増える傾向にあるみたいなんだけど、どう?」
テオ:「大歓迎!シーズンインの調整に最高だよ」(やはり、彼にとってはショーレースよりUCIの大会の方が大切なようです)
私:「じゃ、ワールドカップは第1戦のモスクワから出るんだね」
テオ:「いや、2戦のマンチェスターか3戦のロサンゼルスかな、他にも6日間レースがあるし」(あれ?意外と6日間も大切?)

テオとレネのスタンディング対決。止まること5分。
テオとレネのスタンディング対決。
止まること5分。

私:「OK。それじゃ君の今シーズンの目標は?」
テオ:「やっぱり世界選手権かな?フィジカル面では前より強くなってる自信があるんだ。でもそれは必ずしも結果となって現れない。今年は、自分が進化していることを結果で証明したいんだ」(いいね。いいね。一流アスリートっぽい発言だね)
私:「うん。日本のファンも日本選手とテオを応援すると思うよ。では、日本のファンに何か一言どうぞ」
テオ:「僕は日本の競輪の雰囲気が大好きです。日本の皆さんはとても暖かかったし、最高です。国際競輪で皆さんが“テオー!”と叫んでくれるのが僕のパワーの源でした。僕にとって日本は特別な思いのある国です。できれば、また日本に行きたいし、なるべく早くに皆さんとまた会えたらいいなと思ってます」
私:「ありがとう。次のレースも頑張ってね」
テオ:「ありがとう!もう帰っちゃうの?」
私:「いや、君のレースを見てるよ」
テオ:「OK!楽しんでね」

・・・ということで選手エリアを後にしました。
しかし、ホントにナイスガイですね。強くてカッコよくて性格がいい。非の打ち所がありまへん。日本のテオ・ボスファンの皆さん、あなたのテオは元気いっぱいでしたよ!

バルバドスのバリー・フォルデ
バルバドスのバリー・フォルデ
 さて、なかなか来ない彼を待っている間、続々と見慣れた顔が入ってきたので、他の選手にも声をかけました。彼らの近況も少し。まず、底抜けに明るいバリー・フォルデ。今はベストコンディションではないけれど、調子は上向き。今年はケイリンに特に力を入れるそう。モスクワからワールドカップ出場予定。
レネのタトゥ。もう消えないっちゅーに!
レネのタトゥ。
もう消えないっちゅーに!
 次に、この日ケイリンで優勝したレネ・ウォルフ。8月にケガをして6週間も休んだけど、今は全く問題ないとのこと。ワールドカップはロサンゼルスから参加予定。腕に入れたタトゥーは日本語で「君は人生を理解する必要はない」「人生はお祭りみたいになるんだよ」・・・う~ん。カッコいいような、そうでもないような・・・でもレネのようにオリンピックの金メダリストがやってるとやっぱりなんかカッコよく見えてくる!

      
           ドイツのレネ・ウォルフ
オランダ”手安 夢路打”!
オランダ”手安 夢路打”!
 それから最後に、私、はじめて会いましたがテアン・ムルダー。

私:「はじめまして、日本からトラック競技のヨーロッパ特派員として来てるんだけど話できる?」
テアン:「ハーイ。コニチワ、サヨナラ」(えぇっ??もう?意味わかっとんのかいな?・・・・こちらは、テオと違ってまだ初級。それにしても、オランダのライダーは日本人に会ったら、日本語をしゃべるように誰かから教育されているのだろうか?)
私:「日本語知ってるんだね。今シーズンの目標は?」
テアン:「ケイリンでたくさん勝ちたいね。世界選手権ではチャンピオンの座を守らなければならないしね!」
私:「6日間レース、走ってみてどう?」
テアン:「いいね。スプリントタイプのレースの方がお客さんうけすると思うよ。スポンサーのジャージーをたくさんの人に見せられるし、たくさん出たいね」
私:「時間とってくれてありがとう。これからも頑張ってね」
テアン:「ひとつお願いがあるんだけど。僕の名前って日本語にできる?」
私:「漢字にして欲しいってコト?」
テアン:「え?どういうこと?」(って日本語のことよくわかってないんじゃん)
私:「日本語には漢字とかカタカナとかひらがなとかいろんな文字があるんだよ」
テアン:「とにかく、日本の文字でカッコよく書いてほしいんだよ」
私:「分かった。ちょっと待って。“手安 夢路打”でどう?」(なんだビミョーに発音違うじゃん。なんて言わないで下さいね。ルって発音、“流”という字しか思いつかなくって、夢が流れるんじゃ、あまりに可哀想だと、いろいろ気を使って考えたんですから)
テアン:「これ、意味あるの?ハンドがセーフでドリームロードがヒット!いいね!気に入った!」
と付け焼刃で考えた名前に、すごく無邪気に喜んでくれました。もし彼が日本に来るようなことがあって、自慢げに漢字の名前見せてたら、それ(C)トラックマニアですから。

ケイリンのスタート。
ケイリンのスタート。
 さて、レースも中盤、盛り上がってきたころ、バンクのインサイドは完全に実業家たちの社交場と化していました。ここでいろんなビジネスのチャンスが生まれているのでしょうね。そんななか、カメラをぶらさげたアジア人が行ったり来たりしているのが珍しいのでしょう。いろんな人が声をかけてくれます。
「どこから来たんだ?日本人か?」「どこに泊まってるんだ?今度、アムスに来たら俺の経営してるホテルに泊まってくれよ」「ここより、もっといい競技場が今度できたぞ。ウチの会社がスポンサーだ。そんなに遠くないから行ってみろ」「日本の自転車レースはどうだ?強いライダーはいるのか?」等々。
皆、金持ちそうだし、押しがつよいので「こ、これは負けてはいかん。大和魂をみせてやらねば・・・」と思い、大きな声を張り上げて「日本にだって強いライダーはいっぱいいる!そもそも、今日やってるケイリンなんて、日本がオリジナルなんだ!」などと虚勢を張っていると「そうか。じゃ、日本から来たケイリンで優勝したライダーを祝ってやりたいか?」と聞かれ「もちろん!」と訳もわからず答えると、「じゃあこっちに来い」と言われました。
 「ん???」と思いつつも言われるままについていくと、きれいなオネエさん達から両脇を固められスポットライトのなかへ・・・(オネェさん達、スタイルがよくて背が高いもんだから、ほぼ捉えられた宇宙人状態)そしてなにやらアナウンスがオランダ語と英語で「日本から来たケイリンで優勝したレネ・ウォルフ!プレゼンターは日本から来たこの人です!」(えぇ?私、一般人なんですけど・・・と、一瞬狼狽。さらに、舞い上がっていたため、スポットライトの中、花束を持って首からカメラを提げていることにこの時気づく・・・アチャーすごく間抜けな図だぁ。痛恨!アーンド赤面!日本の皆さん、遠くはなれた欧州の地で日本人の恥をさらし、すみまっしぇん!えぇい止められるな切腹でござる~。
やっぱり「Keirin」って出るとなんかうれしい
やっぱり「Keirin」って出ると
なんかうれしい
 ・・・しかし、なぜか会場は大拍手!最後にはレネ・ウォルフに「グッジョブ!」なんて言って会場の皆さんに手を振り、また宇宙人状態で両脇を抱えられながら、戻っていくというように完全に図に乗ってました。調子に乗りやすい性格は直さないといつか痛い目にあいますね。メダルをとっても奥ゆかしいテオ・ボスの爪の垢を煎じて飲まねば・・・と思いました。
あ、また脱線してきましたね。さてさて、テオ・ボスはホームのオランダでももちろん大人気。手をブンブン回して声援に応えたり、耳に手をあてて「聞こえませんよー」とお客さんの声援をあおったり、発走までの待ち時間にバンクに出て、スタンディングしながらお客さんと会話したりと大サービスでした。これも選手がポイントなどを気にせず、リラックスして走れる6日間レースのいいところでしょうね。
もし、あなたが冬の期間にヨーロッパに行くようなことがあれば6日間レースをチェックしてみるのはいかがでしょう?すべての6日間レースを網羅しているわけではありませんが、日程などはこちらのサイトでわかります。
http://www.uiv.dk/
あなたのお気に入りの選手が走っているかもしれませんよ。
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