デュッセルドルフ通信 2006年2月1日
フランスの隠し玉がついに現れた!
海も空も青い。気持ちいぃ~
海も空も青い。気持ちいぃ~
  寒いですねぇ。寒い寒いっていうのが口癖になってしまって、なぜか暖かい部屋のなかなんかでも「あ~さむっ」といってしまいます。私の住んでいるデュッセルドルフはこのところ最高気温もマイナスの日が増えています。そんな時に、ワールドカップ第3戦はロサンゼルス大会!
「カリフォルニアだぁ」私のモチベーションは今回、別の要素で上がっていました。仕事をしていても頭のなかをビーチボーイズの「カリフォルニアガールズ」やレッドホットチリペッパーズの「カリフォルニケーション」などが自然にまわってしまってしまうという有頂天状態。「あぁ青い空、青い海、やしの木、カリフォルニアガールズ・・・うぉぉ!がんばるぞぉぉっ!(なにをやねん)」ということで、やってきましたロサンゼルスはADTイベントセンター。
熱戦直前の会場内。美しい
熱戦直前の会場内。美しい
  もうトラック競技の世界大会開催地としては、おなじみになりましたが、ここはアメリカでは唯一の室内自転車競技場です。木製250mバンクで最大斜度は45°。建設にあたっては、ロシアのシベリア松をドイツで加工し、その木材を長さ12mのコンテナ7つ分に乗せて海上輸送したそうです。
この敷地にあるのは自転車競技場だけではありません。125エーカー(15万坪)という広大な敷地にサッカー、テニス、陸上、ラクロス、ラグビー、バレーボール、野球、バスケットボールなどありとあらゆる競技のフィールドが広がっています。そして、それはすべてカリフォルニア州立大学のキャンパスのなかにあるのですから、アメリカってやはりスポーツ大国として世界に冠たるだけのことはありますね。
ベッカムもここを会場として選んだ
ベッカムもここを会場として選んだ
  もうひとつおまけでいうと、ここではあのデビッド・ベッカムが設立したベッカムアカデミー(ベッカムが指導する子供たちのためのサッカーキャンプ)が今年の夏から開催されます。ますます勢いを増す総合スポーツコンプレックスです。
トレードチーム、「スパイク」。スポンサーはサプリメントの会社だそうです
トレードチーム、「スパイク」。スポンサーはサプリメントの会社だそうです
  さて、自転車トラックワールドカップですが今回は37ヵ国、215人の参加。アメリカはトレードチームを含めて23人と過去最多の選手を投入しました。
今回のコラムのキーワードは「トレードチーム」と「若手」としておきましょう。さて、ここでトレードチームについて少し説明します。ロードレースでは普通のことですが、トレードチームとは企業がスポンサーするチーム、企業と選手の契約によって成り立っているチームのことです。ですから、選手は企業の広告塔としてナショナルチームのジャージではなく、スポンサーのジャージを着て走ります。
このシステムがトラック競技に導入されたのは2004年からのこと。UCIはワールドカップよりグレードの低い大会におけるトレードチームの参加を認めました。現在、UCIに登録されているチームの数は7チーム。ジェイソン・クアリー、ビクトリア・ペンドルトンなどを擁するSIS(Science In Sport)チームなど、トレードチームのユニフォームを着た選手が着実に表彰台にあがってくるようになりました。
 前回のマンチェスターではメダル45個中7個を、今回のロサンゼルスでは45個中3個をトレードチームが獲得しています。今後、この数は増えていくでしょう。これは、実は当たり前のことで、スポンサー側からみれば、強い選手をサポートしなくては企業の宣伝にならないわけで、おのずとメダルのとれる選手にスポンサーがつきます。強い選手はどんなユニフォームを着て走っても強いわけで、トレードチームが強くなるのは当然なのです。
バンクの周りはちょっとしたミュージアム。木製ローラーにびっくり
バンクの周りはちょっとしたミュージアム
木製ローラーにびっくり
 では、トレードチームに強い選手を引き抜かれてナショナルチームは損なのか?答えは「NO」です。実はトレードチームの選手が獲得したポイントはその選手の属する国のポイントにもなるからです。国にポイントは付く、遠征費はスポンサー企業が払ってくれる、出場選手などの枠はトレードチームとは別だからトレードチームの選手が抜けたポジションに若い選手などを出場させて経験を積ませることができる、世界選手権にはトレードチームの選手の獲ったポイントで出場できるなど、ナショナルチームにとっても非常においしいシステムです。
トレードチームが出場できないのはオリンピックおよび世界選手権のみ。ですから、世界選手権にはトレードチームで参戦していた強い選手がナショナルチームに戻ってくるのです。強い選手はスポンサーのサポートを受けてワールドカップを頂点にいろんな大会に出場できます。日本にもトレードチームが誕生してくれればよいなと思わずにはいられませんね。
右から「バッチ来い」ことブラッチフォード、ボジェ、ミカエル・ブルガン
右から「バッチ来い」ことブラッチフォード、ボジェ、ミカエル・ブルガン
 そして、それによって早いうちに経験をたくさん積むことが可能になった若手が少しづつ力を見せ始めています。冒頭、今回はホームのアメリカが多くの選手を投入したと書きましたが、そのなかで弱冠20歳、マイケル・ブラッチフォードがスプリントで銅メダルをとりました。この選手、2003年のジュニア世界選手権のスプリント2位ですが、その後それほど目立ちませんでした。しかし、今回ホームの大声援に後押しされてか、豪快な走りで頭角を現しました。場内アナウンスの「マーイク・ブラァッチフォード!」の後半部分が「バッチ来~い!」に聞こえるので、日本のTVクルーには「バッチ来い」のあだ名で定着しています。今後、本当に「バッチ来る」かどうか楽しみな選手です。
ボジェとヘッドコーチ、ルソー。名将に育てられ、もっと強くなるのか??
ボジェとヘッドコーチ、ルソー。名将に育てられ、もっと強くなるのか??
 それから、やっと出てきました、フランスのグレゴリー・ボジェ。強いです。昨年のロサンゼルス世界選手権のスプリントでタイヤが外れ、激しい落車に見舞われながらも最後まで走りきって4位となったのは記憶に新しいですが、今シーズン、ワールドカップになかなか姿を現しませんでした。第3戦になって初めて登場するや、スプリント優勝、さらにチームスプリントの第1走としても大活躍。今後、無視するわけには行かない選手なので、彼について少し調べてみました。
彼がはじめて自転車の大会に出場したのは14歳のときで、そのときはそれほど強いというほどではなかったらしいのですが、テレビでインデュラインとウルリッヒを見たときに自転車への情熱が爆発したのだそうです。
「インデュラインもウルリッヒもロードの選手じゃん」・・・その通り。はじめはトラックの選手を目指していたわけではないのです。ロードでは、なかなか思うように強くなれず、スポーツ医学の専門医に診てもらったところ「短い距離に向いている」といわれたこと、その直後トラックのフランス選手権に出場しスプリントで2位になったこと、その会場でアルノー・トゥルナン(トラック競技通の方ならご存知でしょう。フランスが生んだ1kmTTの世界記録保持者。現在はスプリント、ケイリンなどの種目に転向)に声をかけられたこと、トゥルナンはとても紳士的にアドバイスをしてくれたことなどが影響しているようです。
ボジェ。歯が白すぎるよぉ~!
ボジェ。歯が白すぎるよぉ~!
 フランスの自転車雑誌「ヴェロマガジンヌ」によると、トゥルナンとの出会いをを彼はこう語っています。「フランス選手権の会場で僕ははじめてアルノーに会った。アルノーのほうから声をかけアドバイスをくれたんだよ。その少し前にクリストフ・リネロに会ったとき、サインを頼んだんだけど彼は僕を無視した。確かに彼は水玉ジャージの持ち主(ツールドフランスで山岳賞をとると白に赤の水玉のジャージが与えられる)だったけど、アルノーはそのとき既にオリンピックチャンピオンと世界選のチャンピオンだったよ!」
「強くても鼻にかけないトラックの選手が気に入った」ということなのでしょう。ロードの選手でも気のいい人はいると思うけど・・・まぁヨーロッパでは強いロードの選手はスーパースターだからねぇ。たまにはこういう扱いをうけることもあるでしょう。日本の選手はロード、トラックを問わず気さくな人が多い気はしますけど(今回、スクラッチで銅メダルを獲った西谷選手もロード中心の選手だけどナイスガイでした)
さらにトラックの選手だけどトゥルナンは、そんなにフレンドリーなタイプではない(どちらかというと寡黙なタイプ)と思うんだけどどんな風にふるまったんだろう・・・なんて、ケチばかりつけちゃいけませんね。素直に喜びましょう。おかげでトラック競技界にすごい才能がやって来たんだから。リネロ選手、ボジェ君を無視してくれてありがとう!(なんじゃそりゃ)
ロサンゼルス風景
ロサンゼルス風景
 フランスの一流運動選手の証、INSEP出身(INSEP=Institut National du Sport et l'Education Physiqueフランスのスポーツ省管轄の教育機関。インセップと発音する)。INSEPの短距離記録をことごとく塗り替えてきた彼は、2002年にはジュニアの世界選でチームスプリント金メダル。昨年のロサンゼルスの世界選では第1走者として、250mを17″576で走ってしまいました。チームとしては4位でしたが、この記録、アテネオリンピックで日本の「ミスターロケットスタート」長塚選手が出した世界最高タイム17”566にせまる記録です。
チームスプリントの第1走者としては、もし宇宙自転車選手権があったら(それはないやろ~)チームスプリント地球代表第1走者の座(ない、ない)を長塚智広と争う存在。INSEPの筋力トレーニングの責任者が言うには、「彼は速い筋線維のパーセンテージが普通ではない」と。
この普通じゃない人のおかげで、今回フランスチームはチームスプリント金メダル。当然、2走3走もすごいから獲った金メダルではあるけれど、ボジェ選手のスタートなしには語れない金メダルでした。しかも、トラック競技選手になったきっかけが「気取ったやつは嫌いだ」だから、ほんと愛想がよくて、ウイニングランの時には観客に手をふって笑顔笑顔。なんとも魅力のある選手です。今回、初めて言葉を交わしたけど、百万ドルの笑顔に(絶対、鏡の前で練習してるぞ。アレは)すいこまれそうになりました。グレゴリー!今度会ったときも決して無視しないように。ボクも気取らないトラック選手が大好き!!!
ロサンゼルス、ハリウッドの象徴、ハイウッドサイン
ロサンゼルス、ハリウッドの象徴、
ハイウッドサイン
 ところでグレゴリー・ボジェさん、2012年のオリンピックでは陸上競技の100メートルで出る(「北京オリンピックの自転車での出場は間違いない」と自分でも思ってるんでしょうな)との目標を掲げているらしい。やっぱり天才は、なにかが違います。
今回、抜けるような青空のロサンゼルスで見たものは、カリフォルニアガールズ・・・じゃなかった、若い才能の息吹でした。こんな選手がどんどん出てくるんだから、トラック競技の将来もカリフォルニアガールズのように明るいぞ(なんかあったんですか???)では、また次回までごきげんよう!あ~さむっ。
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