デュッセルドルフ通信 2006年4月27日
世界選手権が終わってもトラック競技は終わらない
 いやー、大変ごぶさたいたしました!
なんか、最近この書き出しが多くなってて、自分の筆が休んでいるのを自覚せざるをえないんですが、皆さんお元気でしたか?2006-2007シーズンの総決算、世界選手権が終わりましたね。
私、世界選の直前、ちょっとしたトラブルに見舞われまして・・・
実は、パスポートやパソコン等、商売道具が一式、見事に盗まれました!地元、デュッセルドルフで!
 それはトラック競技世界選手権を2週間後に控えたある日のこと・・・「優雅にイブニングコーヒーでも飲みながら仕事するか」と、私はニッコーホテル・デュッセルドルフの前の駐車スペースに車を停め、颯爽と降り立ったんですが、そこに降りるのを待っていたかのように人が通りかかり「ヒルトンホテルはどっち?」と聞いてきたんです。私は(根が親切なもんですから)「ああ行って、こう行って・・・」と丁寧に教えてあげて「フフン、やっぱ人に親切にすると気持ちがいいな」と、ひとり悦に入りながら、助手席に置いてあったリュックサックをとろうと・・・・「ない???ない!!」状況が把握できません。「ん~?さっき寄ったスーパーに・・・いや、さっきまで助手席の上にのっていたリュックの姿が目に焼きついている・・・????いったい何が?おっ、落ち着け、俺の脳みそ!」注意深く見渡してみると、助手席側のドアが少し開いている・・・「やられた!さっき道を聞いたヤツは実は二人組で、私が道を教えようと気をとられている間にもう一人がこっそり助手席側のドアを開けて持っていったんだ!」
 一旦そう分かると、さっきのヤツは私が降りたドアのところから車の後方に移動させるように誘導し、さらに何度も聞き返したりしていたことも思い出す。「ものわかりの悪いやっちゃなー」と思ったりもしたのですが、考えてみればそれも時間稼ぎだったのですね。私の頭脳が原因調査を始めてから一定の結論を導き出すまでおよそ30秒。その間に悪党たちは影も形もなくなっていました。「ちっくしょー!あのリュックサックには俺の大切な大切なジャック・ジョンソンのCDが入っていたんだぞー。ったく!」
2秒後・・・「っていうかパソコンとかパスポートが入ってんじゃん!あわわ、大切なデータや写真がぁぁ」「パスポートがないと、飛行機にも乗れないぞ!」と真っ青。「頼むぅ。パソコンもCDもやるから、なかのデータとパスポートだけは返してくだせぇ」と祈ってみるも虚し。そんな奇特な泥棒はいるはずもなく、いろんな人に迷惑をかけながら、パスポートの再発行、パソコンデータの再構築を余儀なくされたのでした。しかも、ボルドー行きが迫っているので大慌て!
強い自転車選手は子供たちにとってもアイドルだ
強い自転車選手は
子供たちにとってもアイドルだ
 これ、しばらくデュッセル通信書けなかった言い訳になってます?なってませんよねー。すみません。そして、どうにかボルドーには行けたものの、今度はUCI関係の人との顔つなぎ、業界関係者への挨拶などで(さすが世界選手権、ありとあらゆる自転車競技関係者が集まります)あっち行ったりこっち行ったりしてる間にどんどんスケジュールは進行しており、気がつくと、選手ともほとんど話が出来ていないし、競技もじっくり見れていないというお恥ずかしい状況に陥っていたのでした。「ヨーロッパ特派員が世界選手権取材しないで、どーすんだよ!!」ほんとに、申し訳ない・・・トホホ。
しかし、そこは世界選手権。競技結果については、わたしより文章が上手な新聞記者さん達がきっちりと押さえてくれてましたし、日本チームまわり、会場まわりのエピソードなどは記者団随行スタッフがボルドー便りをきっちりと綴ってくれていました!と、いうことで今回私の出る幕なしというところだったのです(胸を張るところじゃありませんよね)。
 世界選手権情報については、KEIRIN LAND自転車競技コーナーから是非、世界選手権レポートをご覧になってください。臨場感あふれる内容いっぱいです。さて、その世界選レポートで「ボルドーより」というコーナーを書いたのは、実は私の大学の後輩です。彼は「競輪命」の男で、私がいくら競輪が好きでも彼にはかなわないと思うくらい競輪に愛情を注いでいる人間です。これまでは私が競輪以外の自転車競技の話をすると「フムフム」と聞いてはいるのですが、目を見ると、心の中では「先輩、競輪より奥の深い自転車レースは、ないんスよ」と言っているのがよくわかりました。しかし、今回の彼のレポートを読んでみるとどうでしょう!世界のトップサイクリスト達の真剣勝負が彼を魅了しています。うれしかったと同時に「いらっしゃい!トラックサイクリングワールドへ」という感じでした。
世界ナンバー1とナンバー2のスプリントを地元で見られるなんて、お客さんも幸せ!
世界ナンバー1とナンバー2のスプリントを地元で見られるなんて、お客さんも幸せ!
 まさに競輪も自転車競技のひとつ。区別する必要はないんですね。競輪もケイリンも他の競技も互いに影響しあいながらまだまだ進化中ということですね。彼はスプリントについては「少し魅力に欠ける」と言っていました。まぁ、競技の好き嫌いは個人の問題なのでそれはよいと思います。ただ、私的にはスプリントは非常にわかりやすくそれでいて奥の深い素晴らしい競技だと思います。スプリントは、200mのフライングスタートのタイムトライアルから始まります。この順位を見ておけば選手の脚力の偏差値が見えてきます。その後の本戦は普通に走ればこの順位で決まってしまうところを普通に走らないから逆転が起こりうるわけです。この逆転の要素となっているのがテクニックであったり、経験であったり、頭のよさであったり、センスであったりするわけです。皆さんご存知のマレーシア、ジョサイア・ヌグなどは、200mのハロンが決して速いほうではありません。いつもギリギリのラインで予選を通過するような選手なのですが、そこをクリアするとかなり上のほうまで上がってきます。これは、脚力をハンドルさばきや一瞬の踏み出しといったレースの狡猾さでカバーしているということです。
 スプリントはいかに自分の勝ちパターンに持っていくか、いかに相手の勝ちパターンに持っていかせないかのせめぎ合いなのです。競輪でも自分の勝ちパターンを持っているのに何度も同じ負けパターンで敗退する不器用な選手がいますが、スプリントでは相手が一人なだけに、器用な選手は必ず勝ちパターンに持っていくことができるということです。更に言うと、勝ちパターンのバリエーションが多い選手はとりもなおさず強い選手だということになります。
スプリントは上の方のレースになると2本先取したほうが勝ちとなる3本勝負になります。「1本目に負けた選手が次も同じパターンで負けないようにどういう競走をするのか?」などを考えていくと、スプリントはとても面白くなります。選手がどれだけ自分の特長を自分自身で理解しているのか、どれだけ相手の弱点を研究しているのかという頭脳戦は見ごたえ十分です。レースの表面だけではわからない裏のレースも見えるようになると最高ですよ。
遠征勢と地元勢にきっちり分かれてます。
遠征勢と地元勢にきっちり分かれてます。
 今回、優勝候補の一人であったフランスの新星グレゴリー・ボージュが1/16決勝で姿を消しました。相手はイタリアの32歳ロベルト・キアッパ。タイムトライアルでは秒速にして35.6cmの差がありました。1秒で36cm近くの差があっても、逆転が可能なのです。ボージュにも過信や経験不足から来る油断があったでしょう。しかしガチンコタイマン勝負に「恵まれた」ということはほとんどありません。逆に言うとスプリントで負けるということは然るべく、負けたということなのです。そういう意味でスプリントは本当に総合的に強い人が勝つ種目であり、ケイリンとともにスプリント種目の王様にふさわしい競技なのです。
 なにやら私もアツく語りすぎて押し付けがましくなってしまいました。ちょっと競技の話を離れましょう。ボルドーはワインで有名ですよね。当然、高級なワインを売る店がいっぱいあります。そういうお店をひやかしに行ったときのこと、お店の人から「ジャポネ(日本人?)」と聞かれ「ウィ」と答えると「シクリスム(自転車競技?)」「ウィウィ!」すると「オー!ムッシュ ナカーノ!」と。「おぉ!おっちゃん知ってるね!」とこっちがうれしそうな顔をすると、「コジマ?」「ヒトシ・マツモト?」「ジュモンジ?」とあとからあとから日本人選手の名前が出てくるわ出てくるわ。
そういえば、数年前までボルドーは、ケイリンのチャンプを決める「オープン・デ・ケイリン」の会場でしたね。その店員も後で世界選手権を見に行くと言っていましたが、やっぱりボルドーの街には自転車競技好きが多く、会場でのあの熱烈な応援も納得できました。しかし店員が名前を覚えているのは、走りが印象的であったのと同時に、お店の顧客としても最高だった選手なのだろうと私は推測したのですが、小嶋選手、もしかしてワインのオトナ買いなんてしました?
さてさて、「お前、後輩が来てるのをいいことに取材はまかせてワイン店めぐりかよ!」という声がふと聞こえました。ちがいますよぅ。私は日本からの取材がないようなニッチなところを皆さんにお伝えするのが私の役目だと思っているので、別の人がちゃんとやってくれた今回はいいんです!(すごい開き直り)
アルクマール競技場の地下通路。ストリート系の雰囲気です。
アルクマール競技場の地下通路。
ストリート系の雰囲気です。
 それが証拠に世界選手権が終わってすぐの4月21日、オランダのアルクマールで行われたレースを取材してきました。「世界選手権リベンジ」と銘打たれたこのレースには、おなじみテオ・ボス、そのボスに世界選スプリントで敗れ銀メダルだったイギリスのクレイグ・マクリーン、ドイツのマキシミリアン・レビー、オランダからもう二人、昨年の世界選ケイリンチャンピオンで今年は5位のテーン・ムルダー。1kmTT4位のティム・ヴェルド、国際競輪で来日経験もあるドイツのヤン・ファンアイデンなど世界選が終わったばかりだというのに蒼々たるメンバーが顔をそろえました。
世界選の前から選手たちには出場の約束をとりつけていたとは思うけれど、テオ・ボスとクレイグ・マクリーンなんて、世界選スプリントの金と銀。リベンジマッチとしては、はまりすぎで主催者も「してやったり」だったでしょう。
アルクマール競技場はオランダ・アムステルダムの北およそ40kmにあり、オランダトラック競技チームの練習地で合宿などもよくやっているそうです。世界選の直後と言うこともあって選手たちも完全に本気モードではなかったのですが、集合したトップライダーたちにお客さんも大喜び。そして図ったかのように行われたスプリントのリベンジもテオ・ボスがクレイグ・マクリーンを返り討ちにし、「むかうところ敵なし」を印象づけました。
 会場で来日を目前に控えたクレイグ・マクリーンとテオ・ボスに少し話が聞けましたのでどうぞ。

クレイグ・マクリーン(イギリス)
クレイグ・マクリーン。久しぶりの日本ではどんな走りを見せてくれるのか。しかし、クビ太っ!
クレイグ・マクリーン。久しぶりの日本ではどんな走りを見せてくれるのか。しかしクビ太っ!

私「まずは世界選銀メダルおめでとう。今日は残念ながらリベンジは果たせなかったね」
クレイグ「ありがとう。やっぱりテオは強いね。僕も調子はいいんだけどね」
私「もうすぐ日本だね。3年ぶり?」
クレイグ「うん。すごく楽しみ。ずっとまた行きたいと思い続けて来たんだ。最初に国際競輪に参加したときは落車でひどく怪我をして走るのが怖くなったときもあったけど、今は前より経験もたくさん積んだ。オリンピックにも出たし、以前よりずいぶん強く、かしこくなったと思うよ」
私「それは、僕らも楽しみだねぇ。今回日本に来る選手のなかで年齢は上の方だから君が外国人選手のリーダーになるかもね」
クレイグ「そうだね。前はフィードラーがいたから彼が仕切っていたけど、今度は前とは違うね。僕は、自分では皆より年上だなんて、意識してないんだけどね」
私「日本での活躍を期待しているよ」
クレイグ「ありがとう。まだ少し日があるから、ロードトレーニングやジムでしっかり練習するつもり。久しぶりの日本だから全力を尽くして頑張るよ」
テオ・ボス(オランダ)
テオが乗ってきた車。テオぐらいになると車も支給?
テオが乗ってきた車。
テオぐらいになると車も支給?
私「今日は誘ってくれてありがとう(実はこのイベントはテオが“来られたら来て。面白いと思うよ”と教えてくれた)」
テオ「こちらこそ来てくれてありがとう」
私「世界選での君は神様が乗り移ったみたいだったね。ケイリンなんかまる2周逃げちゃったじゃない」
テオ「はじめからああいう戦法で行こうと考えてたんだけど、うまく決まってよかったよ」
私「ところでヘアスタイルが変わったね」
テオ「うん。少しカッコよくみせようと思って」
私「これ以上まだカッコよくなりたいのかい?」
テオ「ヘヘヘ」
私「なんかテオ、前より大きくなったね。筋肉つけてるの?」
テオ「前より年齢も上がったし、年に合わせた身体づくりが必要だからね。しっかりと計画してやってるんだ。予定どおりだよ」
私「企業のコマーシャルフィルムに出るって聞いたけど?」
左からテオ、テアン、ティムのオランダチーム。強さ、ルックス、キャラどれをとってもエクセレント。テオはもちろん、個人的には3人とも日本に来て欲しい。
左からテオ、テアン、ティムのオランダチーム。
強さ、ルックス、キャラどれをとってもエクセレント。
テオはもちろん、個人的には3人とも日本に来て欲しい。
テオ「本当?僕、聞いてないよ」
私「いや、僕もちょっと聞いただけで本当かどうか・・・なんか飛行機と競走するフィルムだとか・・・」
テオ「ああ、あれね。あれはオランダのサイクリング月間のプロモーションだよ。飛行機っていってもセスナね。(セスナでも十分すごいと思いますけど・・・)明日の朝早く、アムステルダム空港で撮るんだ」
私「もう、夜の11時だよ。そりゃまたハードなスケジュールだね」
テオ「そうだね。でも、自転車競技全体が盛り上がるためだから頑張らなくちゃ」
私「日本行きもあるし体調壊さないでね」
テオ「日本には戻るの?」
私「いや、僕は行けないんだ。(横で聞いていたテーンムルダーとティムヴェルドにむかって)テオが日本に行っている間にパーティーやろうぜ!」
テーン、ティム「いいね、いいね!」
テオ「エー?じゃ僕は日本で小さなパーティーを自分でやるよ」
私「ウソウソ。君が戻ってからウェルカムバックパーティーをみんなでやろう!」
テオ「OK、サンキュー!」

ちょっと疲れ気味であくびばかりしていたテオ。でも「自転車競技を盛り上げるためには自分が頑張らなくては」という自覚が彼の強さの原動力になっている気がしました。

ケイリン。「見てろよ!」とレースに臨んだファンアイデンだったが・・・
ケイリン。「見てろよ!」とレースに臨んだファンアイデンだったが・・・
 「番外編」ヤン・ファンアイデン(ドイツ)
ヤン「あ゛~!なんでオレは国際競輪呼ばれないんだよー!!」
私「(そ、そんな僕に言われても・・・)だ、だってヤンは最近あんまりレースに出て来なかったじゃん。レースに出ていい脚見せないと選ばれないらしいよ」
ヤン「よしっ!次のレース見てろよ。(次はケイリン)ガンバッテ!ガンバッテ!(使い方が間違ってるよ。お前が頑張れよ)」

ヤン・ファンアイデンの走り
号砲後、第5コースから「ウォー」と声をあげ、強引にかぶせてペーサーの後ろにつける。その後、上昇してきたマキシミリアン・レビーを迎え入れ、後ろはマクリーン。その後ろはヴェルド、ムルダー、ボスのオランダライン。ペーサーが退避するとマキシミリアンがスピードを上げるが、オランダ勢を引き連れてヴェルドがまくっていく、内でマキシミリアンが粘るも後ろを走るファンアイデンはつきバテしたのかズルズル後退。結局ヴェルドの後ろから最終コーナーで抜け出したムルダーが1着。ファンアイデンは末着。「ダメだぁ」という顔をして帰ってきたファンアイデン。
私「ジブンデ、センコーセンコー」
ヤン「センコーダメ、ベリーショートマクリか、オイコミガトクイデス」
私「国際競輪、呼ばれないよ」
ヤン「国際競輪はもういい。デュッセルドルフの近くに行ったら電話するからスシおごって」
私「(なんやねんそれ!と思いながらも)わかったよ。すしレストラン探しとくよ。安いとこね」

 トラック競技のメインシーズンが終わり、あるものは日本の国際競輪へ、あるものは国内の賞金レースへ、あるものは休む間もなくトレーニングへ、あるものは充電のためバカンスへ、とヨーロッパライダーたちのそれぞれのオフシーズンが始まります。
オフシーズンとはいうものの、トラック競技選手のオフの様子や、たまには少し浮気して別の自転車競技の情報などこれからもどんどん発信していきますので、お楽しみに。では、今回はこの辺で。
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