デュッセルドルフ通信 2006年5月29日
現代スポーツビジネスの大きな要素、スポンサーシップって?
 こんにちは。日本はさえない天気が続いているようですね。このまま梅雨入りでしょうか?一方、私のいるデュッセルドルフは今から1ヶ月ほどが一番いい季節。「ジューンブライドという言葉はやはりヨーロッパで生まれたものなのだな」とあらためて感じるようなさわやかな気候です。
ドイツ人は、暗い冬の反動からか本当に太陽が好きで、この季節ライン川の河川敷などに行くと昼間から上半身裸でビールを飲んだりしている姿をよく見かけます。私もこちらに来た当初は「こっ、こいつら一体何の仕事をしとるんじゃ?こんな昼間っから裸でビール飲んでまったく、そんなことだから経済が停滞するんだよ!」と余計なお世話を考えたものですが、今では徐々にドイツ化し「日本だってあんなに勤勉に働いても経済が活性化しなかった時期もあるんだから楽しんだ人の方が勝ち組かな~?」などと思ったり・・・でも、やっぱり昼から裸でビールを浴びるように飲むなどということはできず、日本人小市民バンザイ!と自分で自分を納得させている今日この頃です。しっかし、この時期、晴れた日にライン川のほとりで飲むビールのうまいことと言ったら(やってんじゃねーか!)。
デュッセルドルフにもビールを飲ませる店がたくさんあります。こちらでは日本のキリンやアサヒのように国中どこへ行っても・・・というような大メーカーは少なく、どちらかというと地域に根付いた銘柄が多いです。ビアホールがそこで醸造しているようなものもたくさんあるので、ビール工場のできたてビールがいつでも飲める状態。おいしいのも当たり前な気がします。
強い自転車選手は子供たちにとってもアイドルだ
10杯20杯は当たり前!
1周してやっと一人前です。
 ところで、こちらのビアホールでは、面白い清算システムがあって、1杯飲むたびにウェイターのお兄ちゃん(のことが多い)が、コースターの端に円の中心から外側に向って1本線を引きます。最後、会計をするときにその線の数を数えてお金を払うわけですが、(ちょっと回転寿司の皿を数えるのに似てます)ボールペンでサッと引くので結構アバウト。しかも飲んでいる人も酔ってきているので、だんだんコースターの上にグラスが置かれていない状態になり、相席だったりすると、どれが誰のコースターだか判らないようになっていることがあります。
そこでまず最初に考えるのが(私だけ?)この線の数をごまかせないかということ。ボールペンで引かれているので普通の消しゴムでは消えません。「では砂ケシ?」(まだ売ってますか?)コースターにはその店のデザインが施されており、砂ケシで消すとそのデザインまで消えてバレるので×。「線を引きに来たときに隣の人のコースターを差し出す」・・・ドイツ人は体格のいい人が多く、腕っぷしでは95%負け。見つかった場合、マウントスタイルから打ち下ろされるパウンドのダメージは激しく、(あれ?なんか格闘技好きにしかわからなくなってきてます?上に乗っかられてボコボコ・・・でわかります?)病院代がちょろまかした分以上にかかってしまう可能性が限りなく高いので×。では、これではどうだ「事前に何も書いていないコースターを入手(テーブルの隅にいっぱい積んである)。ここに自分が飲んだ分より少ない線を引き、会計のときに隠し持っていたそちらを差し出すと同時に本物はポケットにしまう。ただし、事前に使用されているボールペンの色、太さなどをチェックしておくこと」フッ、フフフ・・・完璧だ。ウワッハッハ。完全犯罪だ・・・ 。
 しかし、よく考えるとテーブル担当の人は決まっており、正確には覚えていないにしてもだいたい何杯飲んだかは覚えているため、10杯飲んで「1杯飲みました」とはどう考えても言えないわけで、たかが1杯程度(1.5ユーロくらい)をごまかすために30分も考え込んでしまった私、しかも善良な読者の皆さんに一方的にセコイ戦術を授けようとした罪、許しがたし。よって、ビール3日間禁止の刑に自分自身を処すこととします(刑、軽っ!)
話はもとに戻りますが、ドイツ人のビール消費量は半端ではなく、ビアホールなどで隣り合わせ、「タカハラ!ナカータ!」などと話しかけてくるドイツ人のコースターを見ると、自転車のホイールに例えるなら私がせいぜい「バトンホイール」なのに対してほとんどの人は「スポークホイール」状態。異常な人は線が多すぎて真っ黒になりほぼディスクホイールになっている人いますから。
 さて、どこのビアホールに行っても今はこの話題でもちきり、ワールドカップ(サッカーのですけど)目前。このワールドカップが地元にもたらす経済効果は50億ユーロ(およそ7250億円)とも言われています。一方、ワールドカップの主催団体FIFAの収入は22億ドル(2500億円)うちスポンサー収入は4年契約で6億ドル(およそ700億円)と推定されていますからどんなにビッグマネーが動いているかわかります。
FIFAのスポンサー企業を見てみると、総合スポーツ用品のアディダス社をはじめとして、マスターカード、コカコーラ、マクドナルド、ヤフーと蒼々たる企業が並びます。全部で15のオフィシャルスポンサーのうち東芝、富士フィルムの2社が日本企業です。そして2007年からはソニーがスポンサーになることが決まっています。
それでは現段階でのIOC(国際オリンピック委員会)の北京オリンピックまでのスポンサーを見てみましょう。パナソニック、コカコーラ、マクドナルド、オメガ、ビザカード、コダックなどなど。どこにでも顔を出しているコカコーラやマクドナルドなどはすごいですね(と私が思うということは、「スポーツ大会を熱心にサポートするスポーツに理解の深い企業」というイメージ作戦に成功しているということですね)。
世界ナンバー1とナンバー2のスプリントを地元で見られるなんて、お客さんも幸せ!
よく見るとバンクの壁に「キャノン」のロゴが。日本でももっとスポンサーして!
 今度は自転車競技の国際団体UCIのスポンサーを見てみるとTISSOT(時計)、Shimano(自転車コンポーネント)、Santini(サイクリングウェア)、SKODA(自動車)、SCHENKER(ロジスティクス、輸送)など。
また日本ではつい最近、KEIRINが日本オリンピック委員会の公式スポンサーのひとつになることが発表されました。今や、スポーツにとってスポンサーは欠かせないものとなっていてスポンサーの存在が大会やチームの存続に大きく関わっていることは間違いありません。一方で企業はスポンサーする以上、それが企業のブランド力のアップであったり、社会的認知を増やすためであったり、売り上げの向上であったり何らかの見返りを求めてスポンサーするのです。つまり、ある意味で企業にとってはスポンサーシップの獲得というのは投資であるわけです。
スポンサーしてもらう側は、企業が「おいしい」と判断できる条件を提示できればいいわけですが、スポンサーシップが企業にもたらすメリットを目に見える形で測定するのはこれまた大変な作業といえます。もちろん、サッカーのワールドカップのようなメガイベントのスポンサーになることは当然効果があるはずですが、それに対して支払うスポンサー料も半端ではなく(例えばFIFAに対して支払う金額は平均で1社あたり50億円近く)、費用対効果においてメリットを説明するのは容易ではないのです。
 さて、団体や大会のオフィシャルパートナーのことばかりに目を向けてきましたが、スポーツのスポンサーシップにはまだまだバリエーションが多く、チームをサポートするもの、個人をサポートするものなどいろいろなものがあります。また、お金だけでなく物品を支給するサプライヤーと言われるものもスポンサーのうちです。
チームへのサポートとしての例をドイツに住んでいる私に近いところで探すと、ドイツサッカー、ブンデスリーガの「ボルシア・メンヘングランドバッハ」のメインスポンサーは日本企業の「京セラ」です。ヨーロッパにおいて後発の京セラは事務用プリンタ、FAX、コピー機の市場を拡大するにあたって、まず名前を覚えてもらうためにサッカーチームのスポンサーとなり、名前を覚えてもらったと見るや「サッカーのピッチにサッカーボールが転がっているシーンからズームアウトするとそのピッチはコピー機の上だった」という映像のCFを展開することにより短期間で「ボルシアチームをサポートしているのは“コピー機”の京セラだ」という認識をドイツ人に植え付けることに成功し、売り上げを伸ばしています。スポーツをうまく使えば、企業の目的達成を早めることができることの一例です。
遠征勢と地元勢にきっちり分かれてます。
自転車ジャパンのトレーニングウェア。
胸のロゴは協賛企業。
 今やスポーツにはお金がかかります。お金がないとなかなか勝てなくなってきました。自転車の例をとってみても、選手の使う自転車や部品、ウェア、サプリメント、合宿などの費用、科学トレーニングを導入すれば、トレーナーもドクターも必要になります。オリンピックに出場したければ、世界選手権やワールドカップでよい成績を取らなくてはならないシステムになっています。しかも、たくさんの大会にコンスタントに出なければポイントが稼げないのでなるべく多くの大会に出ることになります。大会に出場すればチームの遠征費、宿泊費、荷物の輸送費、マッサージ、食費・・・とちょっと考えただけでも大変です。このお金を捻出するのに企業の力を借り、代わりに企業戦略に協力するというギブアンドテイクが誕生したのは当然のなりゆきだったでしょう。
そうそう、日本の自転車競技ナショナルチームを応援してくれている企業=日本自転車競技連盟の協賛企業、知ってますか?スバル、ウィダー、ブリヂストンアンカー、JAL、ラ・ピスタ、パールイズミ、ビットリア、メダリスト、マビック。会社名と商品名が混在してしまいましたが、これもその会社の考えで一番アピールしたいものを出しているわけですからそのまま書かせていただきます。
 こう見ると日本ナショナルチームひいきの人は、なぜかこの企業も応援したくなりますよね。もう、僕なんかウィダーインゼリー、チューチュー飲みたくなっちゃいますもん。
この感覚がスポーツのスポンサリングの原点なんですね。さぁ、まだ行きますよ。自転車ロードレースでUCIのプロツアーを回るチームのスポンサーを見てみましょう。スーパースター、アームストロングが昨シーズンまで在籍し、また日本のホープ別府史之選手もいる「ディスカバリーチャンネル」はアメリカのテレビチャンネル、世界チャンピオン、トム・ボーネンのいる「クイックステップ」は床などを中心としたベルギーの建材メーカー、イヴァン・バッソのいる「CSC」はデンマークのIT企業、ヤン・ウルリッヒの「T-Mobile」は名前からもわかるように携帯電話のネットワークプロバイダーなどなど。
それぞれのスポンサーにそれぞれの思惑があり「なんでこの企業はこのチームのスポンサーなのだろう?」と考えていくと面白いですよね。なかには企業戦略的な理由はなくて「社長が自転車好きでネ」なんてところもあるでしょう。自転車競技に理解があり、選手のことも考えてくれる人情派スポンサーに当たったチームは幸せです。それが、選手のモチベーションアップにもつながるでしょう。チームが強くなれば当然スポンサーにも恩返しが出来ます。このようにうまく転がり始めるとどんどんいい循環が生まれてくるんですよね。チーム運営は選手のことだけでなく、スポンサーともうまくやっていかなくてはならないという、スポーツとはいえ、非常にビジネス色の強いものなんですね。
アルクマール競技場の地下通路。ストリート系の雰囲気です。
表彰台の後ろのボードにロゴが入れられるのもスポンサー企業の大切な権利
 日本の自転車シーンで最近話題になったのが、チーム・バンという浅田顕監督率いるロードレースチーム。「ヤフー」がスポンサーになるという噂があって注目が高まり、UCIの会長までがそのことを知っていました。すこしゴタゴタはあったようですが、どんな形であれヤフーのバックアップを受けた自転車チームが誕生したことは日本自転車界にとって大きな出来事ですから、是非がんばってよい結果を残して欲しいですね。
トラック競技も負けてはいられません。日本チームにビッグなスポンサーがついて表彰台に上る姿、見てみたいですね。以前のコラムにも書きましたが、ナショナルチーム以外に、企業が持っているトラック競技のチームがワールドカップに出られるようになっています。日本のチームはまだありませんが、すでに先シーズンは7つの外国チームが活躍しました。
先ほど企業にとってスポンサーシップは投資のようなものだと書きました。サッカーのワールドカップやオリンピックのスポンサーなどは株に例えるなら値嵩株。一方、自転車トラックチームのスポンサーは低位株ですが制度が出来てから次が3シーズン目、新しいものですから将来は化けるかもしれません。「よし!日本のトラックチーム、ウチの会社で育ててやるぜ」なんて社長さん、いませんか?
 さて、今回は前半でビールの勘定のごまかし方などというくだらない話になった分、後半がちょっぴりスポーツビジネスっぽい固い話になってしまいました。少し退屈だったですか?でも、日本のトラック競技が盛り上がるために強力なスポンサーがいたらなぁといつも真剣に考えているものですから、気がついたらこんなのが出来てました。
スポーツって表に見える部分も感動を呼びますが、その後ろに隠されている裏舞台は本当にいろんな人の思い、思惑が交錯していて深いなぁとつくづく思います。
それでは、また次回!さ、帰って日本から取り寄せたエビちゃんのドラマのビデオ見よっと!(本当に自転車のこと真剣に考えてるんですか?しかも、エビちゃんのドラマというより、森三中の村上のドラマだろ!)
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