デュッセルドルフ通信 2006年6月23日
サッカーに日本自転車競技レベルアップのヒントが?
(というより別の話がメインか?)
 サッカーのワールドカップ、日本の一次リーグ敗退は残念でしたね。前半までは、日本中が本当に奇跡を夢を見たと思います。いろいろな批評はあるかもしれませんが、ブラジルとの試合は、その国の競技レベルがまさに浮き彫りになったゲームではなかったかと思います。私は、スポーツでは、その国における競技レベルやカルチャーを時に勢いや、戦術、そして突然変異で現れた数少ない才能によってひっくり返すのを度々見てきたのですが、やはり、コンスタントに勝ち続けるためには、国自体の競技レベルを上げていかないと、厳しいのだなぁと今回感じました。
 さて、全く関係のない話ですが、このたび私「断食」に挑戦しました。もちろん、宗教的理由ではありません。ダイエットでもありません。私、花粉症になったみたいなんです。日本では、もっともポピュラーなスギ花粉の時期はもう終わりですよね。緑の多いドイツでは年がら年中いろんな花粉が飛び交っているみたいです。私は日本にいたときはマスクにゴーグルに抗ヒスタミン剤の人たちを尻目に「かわいそうにねぇ」なんて言ってたんですが、ドイツに来て、環境の変化から体質が変わったのか、ヨーロッパでは日本と違う種類の花粉が飛んでいるからなのか、目の奥がすごく痒かったり、のどが痛くなったり、熱っぽかったり、くしゃみが連続で10回くらい出たり(くしゃみだけで腹筋強化のトレーニングになりそう)と、花粉症の症状オンパレードです。もともと、アレルギー体質で子供のころはアトピーだったし、「アレルギー性の鼻炎です」なんて言われたこともあったし、ついに花粉症まで・・・そうわかると急に焦ってきました。
 「いかん。このままでは、アレルギー性の喘息やら、もっとシリアスなアレルギー症状が次から次に襲ってくるかも知れない・・・」しばらく考えた後、ハタと思いつきました。「そうだ。体質改善だ。花粉症なんか根本的にやっつけてやる!」と、私の心はオーストラリアに逆転される前のサムライブルーのように希望と闘志に満ち溢れたのでした。
 自転車の選手でも花粉症に悩んでいる人は少なくありません。トラック競技の選手でも、鼻がつまったりするとパフォーマンスが落ちますし、一瞬の判断力が、頭がボーっとしていることで鈍ることだってあります。ローディー達は更に大変で、長距離の選手が呼吸器系に支障があることは致命的。そして、長期間アウトドアで、しかもコースによっては山岳の花粉デパートのような所を走ることもあるわけですから、これはたまりません。ランス・アームストロング引退後のディスカバリーチャンネルを牽引するパオロ・サボルデッリなんかも花粉症に悩まされていると効きます。トラック選手もロード選手も、もっと本当は強いのに花粉症のために成績が落ちるのは残念ですよね。
 「よし!ここで私が、花粉症攻略に成功すれば、悩んでいる人の症状改善のヒントぐらいにはなるかも知れない。よーし、花粉症に悩むスポーツ選手、いや、すべての人のために立ち上がるぞ!」と誰からも期待されていないのに思い込み、皆のため20%、自分が楽になりたいのが80%・・・いや、1:9ぐらいの気持ちで(結局、ほぼ自分のためじゃん)花粉症対策をインターネット上で探しまくったのでした。
 「花粉症」と検索すると、とてつもなくたくさんヒットしますね。アレルギーのしくみから、よく使われる薬、健康食品っぽいものや、なんか別の世界に連れて行かれそうなサークルまで・・・。私が、自分にあったものを探すポイントとしては、医薬品を使わないもの。お医者さんにかからず自分で出来るもの。あまりに誰でもやっている対策でないもの。お金があまりかからないもの。リスクが高くないものなどでした。
そして、私の目にとまったのが「断食」だったというわけです。断食といっても、週末だけのプチ断食。いろんな紹介があったんですが、いろんなサイトを見て断食の能書きをまとめると、
人間の消化器官は生まれてこの方、毎日毎日3度の(もっと多い人もいる?)食事ごとに働かされ、休んだためしがない。一方、現代の食生活は消化不良を起こしやすいものが多いだけでなく様々な毒素を含んでおり、様々な外的ストレスもあり体は弱っている。
アレルギーとは、免疫システムの過剰反応であり、通常であれば、問題のない物質(例えば花粉)が身体に入ったときに、害のある物質と勘違いして反応してしまうことにより起こる。消化器官の中核である腸には、免疫をつかさどる細胞が非常に多く存在し、腸が不健康であれば、アレルギーが起きる可能性が高い。従って、断食により疲れた腸を一定期間休ませ、本来の機能をとりもどしてやることは非常に重要である。
断食は、その他の臓器にも休む機会を与えられる。一方、身体全体としては必要な栄養分が供給されないことにより、身体に残っているものを積極的に取り入れ、いよいよ使えないものについては、排出するように働く。これにより身体に溜まった毒素がそとに出され、これらの相乗効果で身体は健康になり、アレルギー症状も抑えることができる。
但し長期間の断食を素人がやるのは非常に危険であり、短期間であっても断食後に過食をすれば、かえって消化器官に負担をかけるので注意云々・・・。

 「決めた。医学的にどれくらい立証されているものかわからないけど、なんとなく納得できる雰囲気がある。しかも、ちょっと頑張ればなんとかなりそうな、ビミョーに低いハードル設定が気に入った!」ということで、週末断食を挙行することになりました。
 具体的には金曜日の夜、軽い夕食を20:00くらいまでに済ませ、それからあとは水のみ。当然お酒はもってのほか。私はタバコは吸いませんが、吸う人はタバコも×。土曜日は終日断食。日曜日は回復日で朝は五分がゆ一膳と梅干、昼は普通のおかゆと梅干、夜は軽い和食を取り、終了というメニューです。この3日間、水だけは好きなときに好きなだけ飲んでよしとしました。
 ホームページを見ると、断食中、特製のお茶やスペシャルドリンクなどを飲むようなものもありましたが、「これは商売に違いない。自分は水でよし」と勝手に判断し、断食を開始しました。

 金曜日、全く問題なし(あたり前?)。土曜日、さぁやるぞ!と気合を入れ、用意しておいたボトルの水をグビグビ。午前中も全く問題なし。お昼過ぎ、ポテトチップスをボリボリ食べながら、テレビを見てゲラゲラ笑っている家族たちに何故か少しずつ腹が立ち始めました。気を紛らわすために外出。レンタルビデオ屋でDVDを物色。「ハリーポッターと炎のコブレット」に手がのびましたが「いかんいかん。ハリーの魔法学校、ホグワーツのパーティーなんかの映像が出て、バタービールやケーキなんかが、ダンブルドア先生の周りをビュンビュン飛び交った日には、テレビの前がよだれの海になってしまうかもしれない」と思って引き返し、読まずにおいてあった本を読む作戦に変更しました。夕方までに2冊を読破。
 18:00を過ぎ、「なんだ意外といけるゾ」と思った途端、ピンチが!「ん?クンクン・・・んんっ?クンクンクン・・・カ、カレーだ。カレーを作っていやがる。私が断食をしていることを知っていて、敢えて私の大好きなカレーに・・・」私に対する挑戦なのか、日ごろの気ままな振る舞いに対する復讐なのか、ただ単にメチャメチャ無神経なのか・・・。家のなかのどこへ移動してもあのトロ~リとした褐色の物体の誘惑が私に襲ってきます。そのうち「ご飯よー」の声が聞こえ、テーブルに着くと私の席にはガラスのコップに入った一杯の水。「いただきまぁーす!」「い、いただきます・・・(思いついたように)いやぁ~、んめぇ!ちべたぁ~い!やーっぱ水だよぉ。なんてったって人間の身体のほとんどは水で出来てんだもぉん。しみわたるよぉ」やけくそになって大きな声を出せば出すほどむなしく、黙り込む私。
 その夜はフテ寝で22:00には早くも就寝。おなかが空いて夜中に起きてしまうだろうと思いきや、意外や意外、朝までぐっすり。起き上がり「やった!断食達成!」と思ったのですが、そこからが大変。たった一日食事を抜いただけで、体中の細胞がのどから手を出しているような感じがします。
 日ごろいっちょ前にジムトレーニングとかをやって、基礎代謝だけは中途半端に高めてあるだけに、燃焼させるものは、わりと早めに燃やしてしまったらしく、身体に力が入りません。一膳の五分がゆをペロリと食べましたが、焼け石に水。一気に勢いがついて、身体全体が「食わせろ!食わせろ!」のデモ行進です。「こんなことで負けてたまるか!」と気を取り直し、午前中を過ごしました。
 お昼になっても身体には力が入らないまま。この日は午後から、サッカーのワールドカップのためにデュッセルドルフに滞在されている日本サッカー協会の川淵キャプテンの講演を聞きに行くことにしていたのに、身体が動くことを拒否しようとします。おかゆ一膳と梅干を食べ、ヨロヨロと会場に向かいました。
 到着すると、聴講者のために用意された美味しそうなドリンクと料理の数々が並んでいます。「ノォーッ!は、早く始まってくれ!」このままでは、ロード・オブ・ザ・リングのゴラムみたいに食べ物を口にくわえて四つんばいで走り去ってしまいそうです。
 救われたのは、講演が始まったら、川淵キャプテンの話が、とてもとても面白かったこと。Jリーグ設立当初の苦労話もとても楽しかったのですが、私が「目からウロコ」だったのは、「シーリング・エフェクト」の話。直訳すると天井効果ですが、「人間はある集団の中でトップになるとそれ以上、上を目指さなくなる」と。「Jリーグで試合中、多少ミスをしても、能力の高い選手だとそれを取り返せる。セリエAやプレミアリーグ、ましてワールドカップの舞台ではそのちょっとしたミスがすぐに決定的なものにつながる。ミスが簡単に埋め合わせできて、そのミスを責められないような環境でやっていては、ミスをもミスと思わなくなってくる。残念だが、Jリーグの限界がある。だから、才能のある日本人選手には若いうちからどんどん海外のクラブを経験してもらって、そして日本に帰ってまたプレーして欲しい。この流れが数人という単位ではなく、もっと多く、そして絶えず続くようになったとき、日本サッカーのレベルが1つあがるだろう」
 日本でトップクラスのプレーヤーになってしまったら、そこにいたままさらに自分を磨くのは難しい。もっとうまく、強くなりたければ、自分より技術が上の集団に身を置けということなんでしょうね。
世界を知るのも大事
世界を知るのも大事
 このことはサッカーに限ったことではありませんね。自転車にも他のスポーツにもあてはまることだと思います。ロードレースでも、沖美穂選手や唐見美世子選手のように敢えて海外のクラブに籍を置いて厳しい環境のなかでますます強くなっていっている選手、いますよね。トラック競技の選手もなかなか難しい部分はあると思いますが、チャンスを見つけては、海外の強い選手と時間を共有するということが必要ですね。国際大会に出場することはもちろん大切ですが、それだけでなく合宿を一緒にやってみたりするのもよいのではないでしょうか。そうすることによって、強い選手のメンタリティーを学んだり、まさに日本人選手が「ミスではない」と思っていたことが「ミスだ」と思えてきたりして修正するようなことが出てくるかもしれません。川淵キャプテンの言葉を借りれば「絶えず、海外へそして海外からの流れが出来る」こと、これが出来たとき日本の自転車競技のレベルもまた上がるのでしょうね。
 もう1つ興味深い話がありました。2002年に日韓共催で行われたワールドカップですが、日本がワールドカップを誘致しようと考えたのは1990年のことだったそうです。それから12年経って実現したわけですが、当時の日本サッカーのレベルは非常に低く、選手はもちろん、ファン(今でこそ、サポーターというしゃれた呼び方がありますが)も、数、質(競技を楽しむための知識を持っているということ)ともにサッカー先進国に大きく劣っていたということです。

自転車サポーター募集
自転車サポーター募集中

 キャプテン曰く「こんなんじゃ、話にならないからプロリーグでもつくらないかんなと・・・」話を面白くするための言い回しだったのかも知れませんが、Jリーグとはワールドカップ誘致の産物だったのです。「プロリーグが出来て、環境も整ってきたしワールドカップを誘致しましょうか」ではなく、「ワールドカップを開催したいから、Jリーグ作るべぇ」だったわけですね。そしてご存知のとおり日本サッカーのレベルは急速に上がりました。ワールドカップを呼びたいから、いろんなことをやって結果として選手もファンも急速な進化を遂げたわけです。こう考えてくると自転車も世界選手権などを誘致したら、競技のレベルがもっと上がるんじゃないか、なんて考えてしまいます。
 もちろん、日本は以前に一度だけ、自転車の世界選手権を開催したことがあります。1990年、トラック競技は前橋、ロード競技は宇都宮です。その時とは、日本の自転車競技の環境もだいぶ変わってきています。ここでもう一度、世界選手権を誘致して、その後、東京か福岡でオリンピックなんてことになれば、レベルアップの要素が増えるのではないでしょうか。夢はドンドン膨らみますね。トラック競技においては、Jリーグ設立当初ほどの世界との実力差は、ない気がするので、かなりいけるかもしれません。こんなことを考えていると、断食していることなど全く思い出しもしません。面白い話は聞けるし、つらさは忘れるしで、川淵キャプテンに大感謝の2時間でした。この講演は日本の一次リーグ敗退が決まる前のことだったのですが、一次リーグが終わってみれば奇しくも競技のレベルは急速に上がったとは言っても、コンスタントに強豪国といい勝負をするためには、「シーリングエフェクト」を取り払ってやらなければならないことを証明することになってしまいました。
 さて、川淵キャプテンの含蓄あるお話はここまで。私の断食の話に戻ってしまいますが、講演会場から満足顔で帰宅し、念願の夕食!過食はご法度。でも、待ちに待った普通食です。「おいしい!おいしすぎる!!」我が家の食事が、こんなに美味しいものだったとは。「お米一粒には7人の神様が入っている」という、じーちゃんかばぁちゃんから聞いたような話をあらためて思い出しました。
 これで、私のプチ断食体験は終わり。して、その結果は?
効果①便通がよくなる。
身体が悪いものを出そうとしているからなのか、胃腸が休んで元気になったからなのか、きたない話ですが、“食べたらスグ出る”というのが数日続きました。
効果②味覚にとても敏感になる。
しばらくたつともとに戻ってしまうんですが、断食後数日は食べ物を食べてもこれまで感じなかった味を感じるようになりました。だから、ご飯が本当においしい!常に断食の後の状態だったら、ワインのソムリエになれたかもしれません。・・・すぐ戻っちゃうんですけどね。
効果③目のかゆみが和らいだ・・・気がする。
これは思い込みかもしれないし、花粉の季節がおわってきたからなのかもしれないので断言できませんが、断食を境にクシャミの回数も減ったし、ノドのヒリヒリもなくなりました。
効果④身体が軽くなった・・・・気がする。
私の目的は減量ではなかったわけですが、週末プチ断食1回で600g痩せました。そのせいなのか、内臓が元気になったからな のか、とても軽やかに身体が動く気がします。
 ということで、この後、期間をおいて何度かやらなくてはいけないのでしょうが、アレルギー体質撲滅作戦第1回は、大成功とは言わないまでも小成功だったような気がします。但し、これはサンプルが1件、被験者は私のみというものなので、誰にでも効果があるのかと聞かれると、ちょっと自信が揺らぎます。でも、自分の精神力を試すという点でもなかなか面白かったので(おいおい、当初の目的は花粉症に悩むアスリートを助けるためじゃ??)興味のある方は試してみてはいかがでしょう?
 身体にかかわることですから、コメントが冷静にならざるを得ないのですが、挑戦される方はアレルギーは持っていても健康であるという条件で、また、通常と違うことをするわけですから身体が不調をきたすリスクがゼロではないことをご理解のうえどうぞ。(ふぅ。某局の番組でのダイエット方法に関する報道のおかげで私まですごく用心深くなってしまいました)
 はて?ここまで書いて読み返すと、これ自転車競技のコラムじゃなくて、単なる私のブログですね・・・冷や汗。(こらこら、今頃気づくんじゃない!)
 実は、今回は自転車のコンポーネントメーカー「SHIMANO」のヨーロッパ本社におじゃましたので、そのことを書こうと思っていたのに、なんでこんなことに???あまりに、断食体験が新鮮だったものですから・・・次回こそ、まじめにSHIMANOヨーロッパのお話、書かせていただきます。
 そうそう、最近よく日本にいる方から、「サッカーのワールドカップ、盛り上がってる?」と聞かれます。サムライニッポンのワールドカップは終わってしまいましたが、ホームのドイツが勝ち進むにつれ、ドイツ人はどんどん加熱してきています。ドイツが勝った日のメインストリートなどは、ドイツ国旗を持ってハコ乗りした車がクラクションを鳴らしながら、暴走してあぶないあぶない。「俺の10kmオーバー取り締まる前に、あいつら取り締まれよ」と、理不尽な文句を言いながら、歩いています。
 自転車とは直接関係ないものの、私が住んでいるドイツで行われているビッグなスポーツの祭典ですから是非皆さんに雰囲気をお伝えしたいのですが、私、チケット一枚も持ってないんですよねぇ。その代わりといってはなんですが、同じデュッセルドルフに住む私の友人が(もちろん日本人)ワールドカップ期間限定でブログを書いていますので、紹介させていただきます。
http://ameblo.jp/wm2006/
よろしかったらのぞいて見てください。ドイツ国内から見たワールドカップの雰囲気がよく伝わると思います
では、近々にまた!
TrackMania
 
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