デュッセルドルフ通信 2006年8月1日
自転車レースの王様、ツール・ド・フランス
 皆様、お暑うございます。そろそろ梅雨明けというところでしょうか?日本全国大雨で今年は大変だったみたいですね。一方、私の住んでいるヨーロッパはこれまた記録的な猛暑で、死者まで出ちゃってるみたいです。確かに気温35℃なんて日が続くと、暑さに慣れていないヨーロッパ人はおかしくなっちゃうでしょうね。先日、服のまま噴水に飛び込んで、無邪気に水をかけあう男女を見かけました。危うく「ねぇねぇ、もしかして阪神が優勝したの?」と聞くところでした。
 ヨーロッパの自転車シーンとしては、一大イベントのツール・ド・フランスが終わりましたね。優勝は、フォナックチームのフロイド・ランディス。またアメリカ人です。これで1999年にアームストロングが優勝してから8年連続でマイヨ・ジョーヌはアメリカ人に持っていかれた事になりますね。自転車大陸ヨーロッパ、ピンチ!と・・・ここまで、書いていたのですが、先ほど飛び込んできたニュースによって、これを書き直さなくてはならないかも知れません。優勝者ランディスにドーピング物質陽性反応が出ました。まだ、検体の検証がすべて終わったわけではないようなので、確定的なことはいえませんが、ドーピングの事実が確認された場合、ランディスの優勝は取り消されることになりそうです。
 ドーピングについては前回のコラムでも触れさせていただきました。ドーピングに始まりドーピングに終わる。世界最高峰の自転車イベントが・・・ツール・ド・フランスのスタート直前のドーピング問題に触れ、WADA(世界アンチドーピング機構)のパウンド会長は「自転車競技のイメージはトイレに落ちた」「自転車競技はドーピング対策に対する努力が甘い」と自転車競技を攻撃したのに対しUCI(国際自転車競技連合)のマックェイド会長は「今回、問題に関係した選手たちはこれまで何度もWADAやUCIのドーピングテストを受けて陰性だった選手たちだ。つまり、従来のドーピングコントロールでは発見できなかったのだ。さらに、今回の問題には自転車選手だけでなく他のスポーツの選手も大勢関わっている。自転車だけがクローズアップされるのはおかしいし、これはスポーツ全体で解決すべき問題だ」と反論していました。私も「そうだ!そうだ!いいぞマックェイドさん、行け!行け!」と応援していたのですが、なんか旗色が悪いです。
 前回も書いたのですが、プロの選手はその競技そのものであり、一部の愚行が不正をしないで努力をしている仲間たちのイメージまでも汚しかねないことを自覚して欲しいです。摘発の方法を改善したとしても、ドーピングとドーピングコントロールの問題がイタチごっこになっている以上、根本解決はスポーツ界全体のモラル向上にしか答えがないように思うのですが、それが最も難しいのかも知れませんね。本当にもどかしい問題です。
 さて、こんな形でケチはついてしまいましたが、やはりツールは自転車最高峰の大会ですし、ここを目指して日夜厳しい練習を積んでいるライダーも多いのですから、これで悪いものが全部出て、浄化の方向へ向かうことを期待して、気をとりなおして行きたいと思います。
沿道の観客
1ステージおよそ200km。どこの沿道も観客でいっぱい。さすがツール
 実は、私も仕事を休んでツール・ド・フランスを1ステージだけ見に行きました。観衆の一人として。「なんで仕事じゃないんだ」って?だって、ツールのアクレディテーション(取材許可証みたいなもんです)の申し込み締め切りは、すごく早くって、自分のスケジュールが見えてきて「このあたりで行けそうだな」なんて思ったときには無情にも取材許可申請は受け付けてないんですよね。で、ツールを主催しているASO社にメールを送って「なんとかなんな~い?」なんて媚びた口調でお願いするんですけど「お前なんかに例外は認められない」ってピシャリとやられるわけですよ。
 よーし、見てろよ。これでも自転車ジャーナリストの端くれ(いっちょ前にAIJC=Association Internationale des Journalistes du Cyclismeという国際自転車ジャーナリスト協会の会員。全くの無名記者ですけど)“ペンは剣よりも強し”ということを見せてやるゾ!「スゥーッ(息を吸い込んで)ASOのどケチ!ゆーずーきかないカチカチ頭!別にプレスセンターに入んなくたって十分楽しめるっちゅーんだ!ベロベロベー!!(あんたホントに自称ジャーナリスト?しかも記者証は楽しむためのものか?)」
 と、いうことで仕事はオフということにして沿道で応援ってことになったんですよね。ま、私はトラック競技中心の人間だからロードはこれくらいでいいんです(出た!いつもの責任逃れ&正当化)。
 見に行ったのはボルドー→ダックス間の超平坦ステージ。でも場所のチョイス、失敗しました。「やはり自転車の真骨頂はスプリント勝負だ(あくまで私の好みですよ)」と思っている私は、熾烈なスプリント争いが見たくて最初の中間スプリント地点の近くに陣取ったのですが(ツールではステージごとにいくつかのスプリント地点が設けられ、上位通過者にポイントとボーナスタイム=総タイムから引かれるタイムがもらえる)レースは序盤から3人が逃げ、メイン集団はその3人をあっさり逃がしてしまったため、ミルラム、コフィディス、ブイグテレコムの3チームの選手たった3人のスプリントとその後、かなりの時間差でスプリントにからまない大集団が(4位通過以下はポイント権利なし)和やかに、のんびり通り過ぎるのを見るだけとなってしまいました。
 「こんなことなら、山岳ステージの下りなんかでメチャメチャスピードが出るトコとか、上りで人気選手を一人一人じっくり見ることができるトコを選べばよかった」などと思いましたが、後の祭り。でも、自転車競技最大のお祭りの雰囲気はしっかりと楽しみました。
 「スポーツ観戦はじっくりと競技を“観察”するためのものではない」が私の持論です。サッカー観戦で中盤から球が出たときに「フォワードがちゃんと反応していたか」とか「サイドバックがオーバーラップしていたか」、野球観戦でも「あのタイミングだとセカンドよりダイレクトにファーストに投げるべきだった。フィールディングのミスだ」なんていうのはテレビで見たほうがよほどわかりやすいですよね。現場で見ることの何よりの良さは、その時間、空間を選手や他の観客と共有できることだと思います。「そこにいて何かを感じた」ということが重要なんですよね。
車1
この車が走ってきたら小さい子が怯えて泣いてました
車2
ポイント賞マイヨベール(グリーンのジャージ)のスポンサーPMUは競馬の場外馬券売り場運営会社
車3
スペインのチーム、ケスデパーニュの宣伝カー
 だから、こういうときは私、競技も見たいんですけど、まずは大声出して楽しむようにしてるんです。特にロードレースは、目の前を通り過ぎるのは一瞬です。ボヤボヤしてると楽しむ前に終わっちゃいますからね。一方で「起こったことの一部始終を見ることのできるトラックレースは、こういう意味ではおいしいな」と思ったりもしました。しかし、そこはやはり世界最高峰の自転車イベント、レース以外での盛り上げも怠りません。レースの本体が来る前に「キャラバン」という事前のにぎやかし部隊がやって来ます。数キロ手前で行われていることを実況する車であったり、主催者オフィシャルの宣伝カーであったり、スポンサーの車であったり「その車、ホントに公道走っていいの?」っていうデコレーションを施した車がガンガン通り、プロモーション用のグッズなどをバラ撒いて行きます。そのグッズの数はツール全行程で1000万個を優に超えるとか・・・グッズを投げる人は大体、子供たちに向かって投げるのですが、その子供たちを目で威嚇し、私のテリトリーに落ちたものを怯えた表情でとりに来れない子供たちの視線をあびながら、私も何個かゲットしました。
 あ、あれ?なんか皆さん反応が冷たいですね。何?大人げない?私は、「子供たちに世の中の厳しさを教えなくちゃいかん」と思ってやったまでです。あいつら、「子供」というアドバンテージを最大限に利用してやってきますからね。このままだと大人になったとき苦労します。あ、あのー・・・でも、お菓子とかは全部あげましたよ。私が取ったのは帽子とかそういう高いヤツだけです。フフン。
通り過ぎるのは、あっという間
通り過ぎるのは、あっという間
オフィシャルグッズ
バッグ、Tシャツ、帽子にリストバンドにマグネットでおよそ3000円。オフィシャルグッズとしては高くない
 そして、そのにぎやかしで盛り上がった雰囲気のなか、レースの集団がバンバン通り過ぎ「おぉ!あれはボーネン!今行った青ピンクはクネゴかな?ツァベルはもう行っちゃったか?」なんて興奮最高潮の時にオフィシャルグッズを売る車がやってくる。そりゃ、思わず買っちゃいますよね!「イ、イッヒネーメ・・・ノン、ジュ ブドレ・・・そ、そのー(カワイイ売り子のおねえさんを前に言語混乱中)」(おねえさんニッコリ笑って)「ホワットサイズ?(コイツ、フランス語ムリだなと判断したのね)」「ム、ムワィヤン、ドゥー シルブプレ(“フランス語ダメ”の烙印を押されたにも関わらず、頑固に頑張る私)」「ウィ、ムッシュー。メルシィビアン!(百万ドルの笑顔)」・・・ハー、これでもう40ユーロ寄付ですよ。私のような人が何人いることか。モォー、この商売上手が!でも、入場料というか見物料はただですから、お得感はありますよね。
 「ツール観戦はレースを見ることもさることながら、周りのお客さんと一緒にとにかく騒いで、盛り上がること」と心得ました。言葉は違っても皆、自転車好きに違いはないんですから。
 さて、某メディアカンパニーの敏腕(?)プロデューサーのおかげで、今、日本で公開になっているツール・ド・フランスを題材にした映画「OVERCOMING」と「マイヨジョーヌへの挑戦」を見ることができました。これから見る人もいるかも知れないので詳しい内容は書きませんが2本とも出色の出来!以前にブエルタ・ア・エスパーニャ(世界3大ツールの1つ。スペインが舞台)を描いた日本のアニメーション映画「茄子 アンダルシアの夏」を見たときも、「自転車が好きな人が作ると短編でもいいのができるなぁ」と関心したものでしたが、この2つはドキュメンタリー。ノンフィクションながら、映像も音楽もかなりカッコよく編集されています。
 また、スポーツにたずさわる者の「人間」としての部分がフィーチャーされていて、自転車ファンのみならず、すべてのスポーツファンの共感が得られる作品だと思います。ドキュメンタリーって本当に難しいと思うんですよね。特にスポーツコンペティションの場では選手は常に結果を出すことを要求されていますから、ナーバスにもなるし、不調のときにはいろんなもののせいにしたくもなります。時にはカメラが回っていることにヤツあたりもしたくなるんです。それは、私も自転車競技の取材をしていて感じるところです。もちろん、どんなシチュエーションにおいても「これぞプロアスリート」という振る舞いが出来る選手も大勢いますが、やはり選手も生身の人間ですからね。こういった条件下でチームの中に深く入り込んでいったという観点で脱帽ものです。
 自信、苦悩、友情、葛藤、家族愛、強いものへの畏怖そしてリスペクト、一方で燃え上がるライバル心。すべてがレースというものに凝縮されています。勝利した者にスポットがあたりがちなスポーツフィルミングのなかで、2つの映画は、参加した選手それぞれに、それぞれのレースがあり、ひとりひとりが自分なりの方法で輝く瞬間があることを教えてくれます。
 競技自体を見るだけでも、鍛え抜かれた肉体や、それが発揮する身体能力、卓越した技術に心を動かされるものですが、それぞれの選手が背負っているものを知って見れば、スポーツは最高に面白い!試合の場では見えてこない部分ももっと伝えていかなくてはならないのだなぁと、改めて考えました。「トラック競技でも、いつかこんな映画が出来たらなぁ」なんて思います。
 さて、このところ話題が少しトラック競技から離れていましたが、日本での国際競輪も終わり、強いトラッキーたちがこっちに帰ってくると思うので、近々、トラック競技情報を詰め込んでお送りしたいと考えています。またお会いしましょう!
 
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