デュッセルドルフ通信 2006年12月21日
参加メンバー的には世界選。
モスクワワールドカップ

世界記録を樹立したテオ・ボス。有言実行がカッコイイ


  こんにちは!早速ですが、獲りましたネェ。北津留選手。アジア大会スプリント金メダル。私は、ワールドカップ・モスクワ大会と日程が連続していたためにドーハには行くことが出来なかったのですが、毎日インターネットで結果を見ていました。そして、モスクワではテオ・ボスがやりました!世界記録更新!これまた感動しましたね。

  昨年、スマイルのない人々やサービスのないレストラン、寒さなど様々な敵にやられ、心身ともにボロボロになってドイツへ逃げ帰った私ですが、今回は2回目。人間というのは環境に順応していくもので、少々打たれ強くなったようです。
 さらに!今回は日本のテレビクルーに素晴らしいホテルを紹介してもらい、完全に調子づきました。日本人経営のホテルで日本食レストランつき!モスクワのド真ん中で朝からサバ塩、ごはんに味噌汁ですから、最高です!と言っても、ウェイトレスはロシア人だから、無言で無表情にサバ塩セットを置いていくんですけどね。
 日本でどんなに愛想悪いレストランでも、「カツカレ ーお願い」って言ったら、「ハイヨ」ぐらいは言うでしょう?ロシアって返事もしないから、オーダーが通ってるかどうかもわかんないんですよ。カキフライ頼んだのにエビフライ来るし。
 チゲ鍋を頼んで、別のものが来たときにロシア人に向かって「オイ、チゲーよ!」といってるスタッフがいましたが、そのとき言いそびれたので、今言います。「上手いっ!」
違うものが来るから、こっちもだんだん用心深くなって、「カキフライ!エビじゃないよカキだよ。カーキ!ね!ながーくて尻尾がついたヤツじゃなくって、少しまるっこい、こんぐらいのヤツ、わかる?カキ!」っていう感じの注文になって、最後にはウェイトレスも苦笑いしてました(最初に見た笑顔が「苦笑い」って、いったい・・・)それでも、昨年より気分がいいですね。これでモスクワのなかでは最高の条件なんです。
 
 でも、このホテルに着く前はやっぱり気が重かったですねぇ。法律が変わったらしくビザの取得にもすったもんだがありましたし、元ロシアのスパイの人が変死したというニュースはあるし、なんか「私も狙われてるんじゃないか」という妄想にとらわれましたよね(誰もお前みたいな小物は狙わないって)。ポロニウムが付いてるんじゃないかと飛行機の座席クンクン嗅いじゃいましたもん(嗅いでわかるもんかね?しかも付いてたら、嗅いだ時点で終わりだと思うが・・・)。

モスクワ、クリラツカヤ競技場。新しくはないが、威厳のある競技場だ


  入国審査では、例によって無表情の入国管理官が「Do you speak Russian?」
私「Not at all」
管理官「Щди※#◎×Г・・・(ロシア語らしい)」
私「・・・」(あ・・・あのね、さっきロシア語、全くしゃべれませんって答えたよね?「ドゥーユースピークロシアン」って英語覚えましたって自慢か?)
しばらく、アタマをかかえて考え込んだ管理官「フ・・フロム?」
私「ハァ?」
管理官「フロム!」
私(あー、どこで飛行機に乗ったか聞きたかったのね)「GERMANY」
管理官「・・・・」
私「じゃーまにー!」(えぇ?この人ジャーマニーもわかんないよ。こんな人、入国管理官にしといていいのかね?え~っと、ロシア語でドイツは・・ゲルマニアだっけか・・・)
管理官「デュッセルドルフ?」
私(おおっ!そうだよそうだよ)「ダー、ダー!」
管理官「ダー?」
私(ダー、だよ!おまえさんの国の言葉で「はい」だよ!1・2・3、ダー!だよ!大丈夫か、このひと)「イエス、ダー、イエス!」
管理官は、なにかロシア語で言いながら“行け”という合図。
「ダー」が通じないとなると、英語とかロシア語とかの問題でなく、コミュニケーション能力自体に問題があるのでは・・・などと思いながらゲートを出ました。
 ここで、日本から来たテレビクルーと合流。その後が、あの日本人ホテルでしょ。うれしかったですねぇ。
 今回テレビクルーと行動をともにさせてもらったおかげで、大会以外に面白いものを見ることができました。Y.O.Pと呼ばれるオリンピック専門学校です。ここでは14歳~18歳までの生徒が寄宿舎に入りオリンピック選手候補生として、日々訓練しています。
 各スポーツのロシア選手権で表彰台にのることが、入学の条件のようです。ジュニア世代の学校ですから数学や生物学など一般の学科も教えています。
 留年はなし。留年は退学を意味し、すぐに普通の学校に戻されてしまいます。
 在校生に共通して見えるのが、「プロ意識」というか、今後の自分の目的が明確だからでしょうか、「やらされている感」がないということですね。ジュニア時代から強いライバルたちと切磋琢磨できる環境、とてもうらやましく思えました。
 この学校についての詳しいことは、毎週金曜日23:30~BS-iで放映中の自転車情報番組「銀輪の風」をご覧下さい。スポーツ強国というのはダテにあるものではないことがわかるのではないでしょうか。

オリンピック専門学校は、モスクワ市内にひっそりとある

 さて、ワールドカップです。開催がはじまる前の練習日に一度競技場に行ってみました。今回はどこの国も「取りに来た」という印象がありましたね。指定練習時間が日本と同じだったオランダチームと、少し話ができました。
テアン・ムルダー「元気?アジア大会でチームスプリント、日本がゴールド獲ったねー」
私「ありがとう!君たちのいない大会でよかったよ!」
ティム・ヴェルド「アジア大会は誰が行ってるの?」
テオ・ボス「カネコ(金子貴志選手)はこっちに来てるみたいだな。ツバサ(北津留翼選手)?ワタナベ(渡邉一成選手)?」
私「そうだね。二人ともドーハで頑張っているよ。残念だけどカズナリ(渡邉)は、スプリントのクォーターファイナルで負けちゃったよ」
ヴェルド「えー?クォーターファイナル?なんで?」
私「わからない。僕ももっと上に行けると信じてたけど」
ムルダー「ツバサは?」
私「ツバサはまだ残っているよ。メダルを獲れるといいんだけど(後日、めでたく金メダル獲得)」
ボス「そりゃいいね」
私「君達の調子はどう?」
3人「いいよ!」
ボス「僕は今回スプリントに集中してるよ」
私「クレイグ(マクリーン)が今回は200のタイムトライアルで10秒を切るって言ってたよ」
ボス「僕も出すよ!」
私「すごい大会になりそうだね。期待してるよ」
3人「ありがとう」
  私がちょっとびっくりしたのは、彼らがアジア大会などの結果をチェックしていたこと、そしてヴェルドが「ワタナベはそんなところで負けないだろう」と言ったように、それがアジアの選手であってもライバルたちの客観的な力評価を自分たちなりにしているということです。
 勝つためには、まず敵をしっかりと知ること。オランダチームの、強さの理由のひとつがわかったような気がしました。


学業も非常に真面目に。 単位が取れなければ、ここにいられなくなってしまう

  ところで、テオ・ボスが200mタイムトライアルで、9″772という世界記録を出しました。ワールドカップの大会レポートにもありますが、これは、これまでの記録9″865という高地での記録を平地で更新してしまうという、驚愕の記録です。しかも、スプリントの予選では更新出来なくて、スプリントの実戦に関係なく再走を嘆願して認められ、実現した記録です。走った後にまだスプリントの本戦が残っているわけですから、1回多く走ることは、疲れの観点から言うと不利になります。それでも、挑戦したかったのですから、ボスがどれだけ記録更新に執念を燃やしていたかわかります。

卒業生、在校生には実績のある選手が続々と・・・

  ここでトラック競技初心者の方にマメ知識。ボスは1度目の挑戦の時と2度目では何かを変えて走りました。1回目は49×13、2回目は50×13です。それは、なんでしょう?
 この数字、ギアレシオというものです。競輪選手はギヤ倍なんていう呼び方もしていますね。49や50という数字がペダルとクランクに直結しているギア(チェーンリング)の歯の数、13は後輪についているギヤの歯の数です。前の数字を後ろの数字で割ると、その倍率が出ます。この数字が大きいほど、「重いが、スピードは出る」ということになります。逆に小さければ「軽いがスピードは稼げない」ということで、小さいギヤでスピードを出したければ、回転数を上げなくてはならないということになります。しかし、踏み出しが軽いわけですから、急なスピードアップにもクィックに反応出来るというよい点があります。
 トラックの自転車はギアチェンジをする機能はついていませんから、競走の最中にギヤを変えられません。つまり、事前に、自分がどんな走り方をするかや、自分の調子などを考えてあらかじめギヤを設定することになるわけですね。「今日はヨンパチのジュウサンで行きます」なんていう言葉が日本のピットの近くにいるとよく聞こえます。

  さてさて、その日本チームの話。スプリント予選で金子貴志選手がマークした10″206は私の記憶が正しければ公式記録としてはアジアナンバーワン記録だと思います。それまでの記録は成田和也選手の10″216。この大会で金子選手に次ぐ記録を出したのが伏見俊昭選手で10″213でしたから、アジアナンバーワン、ナンバーツーの記録がこの大会で出たことになります。
 しかし、この大会ではこの記録の上にまだ13人もいたのです。どれだけ、他の一流と呼ばれる国の選手達が仕上げて来ているかがわかるでしょう。明らかにレベルが上がってきています。

  ここで、あえて辛口のお話をさせてください。これまで私は、ある程度のタイム差は展開や、技術、頭の使いようで、かなりカバーできると信じてきました。しかし昨今の競走を見るに、日本選手は超一流国選手とのタイム差が開きすぎて来ています。
 ワールドカップ、世界選、さらにオリンピックという世界の土俵で表彰台を狙おうと思ったらタイムを出して行かないと限りなく偶然に近い幸運を狙いに行く話になります。
 非常に乱暴な言い方にはなりますが、誤解を恐れずに私の感覚だけでものをいうと、スプリント系種目ならば、どんな個人種目でも1kmTTは1′02台、200mのフライングスタートは10″2や3をモスクワのような高速バンクではなく普通のバンクでコンスタントに出せるような選手でないと上に行くのは難しそうです。欲張りすぎでしょうか?スピード練習に特化できない競輪選手の苦しさはありますが、ならばそういうことができる体制づくりをする必要があると思います。北京へ向けて、もう他の国は走り始めています。



世界でも指折りの高速バンク、モスクワ。走路の形状がその秘密なのか

  さあ、これから年が明けてロサンゼルス大会。まだ、ふたを開けてみないとわかりませんが、超強い選手の参加は少ないのではないかと思います。その分、その次に位置する選手達のモチベーションは高く、戦いは激しいでしょう。日本チームにはLAあたりで表彰台に上ってはやく世界選出場を確実にしてもらいたいものですね。

 
 日本もそうだと思いますが、今ヨーロッパはクリスマス一色。寒く暗い冬を越すのになにかイベントが必要なんでしょうね。今回行ったモスクワでは「クリスマスの飾り付けをしなさい」と市から御触れが出たようです。「そんな御触れ、行政が出すのか?」と思いますが、一ヶ月半も太陽が出ず、暗いままだと何か悪い考えを起こすやつがいそうだから気持ちだけでも明るくしましょうってことなんでしょうか?

オランダスプリント系3人衆。 他選手の分析力にも長けている

  ドイツではクリスマスマルクトと言ってクリスマスの露天市場が、そこここに出ます。ツリーの飾りやら、お菓子やら、いろんなものを売っていますが、私が好きなのはグリューワインというホットワインです。単に赤ワインを温めたわけではなくほんのり甘く、いろんな香辛料が入っています。きっと暖かいところで飲むと「なんじゃコリャ」って飲み物なんでしょうけど、寒い屋外で飲むと身体が温まって最高なんですよね。
 危険なのは、寒いところで飲むと酔っているのがあまりわからないことです。「うまいわ、コレ」ってことで、どんどん飲んで、そのあと車を運転して帰らなきゃいけないなんてことになったら、目も当てられません。
 車に乗って暖房がフワァ~っと来た途端、ハンドル持ったままモンキーダンス状態です。それで、事故ったり、捕まったりしたら「寒いトコでは正気だったんで・す・YO! あ~い、とぅいまてぇ~ん!」じゃ通用しませんから!最近は日本でも売りはじめたと聞きますが、車に乗る前はやめといてくださいね。味はおいしいホットドリンクでも、れっきとしたお酒ですから。

 
 まだ少し日はありますが、今年ももうすぐ終わり。一年間、デュッセル通信をごひいきにしていただき、ありがとうございました。来年もトラック競技を中心に世界の自転車競技情報をバンバンお伝えしていくつもりです!読んで下さっている自転車競技ファンの皆さん、いつも素晴らしい競走を見せてくれる選手達、裏で自転車競技を支えているスタッフ、みんなにとって新しい年が最高のものとなりますように!
「赤の広場」もこのとおり。クリスマス仕様に。ちょっと地味だけどね

  ところで、競輪グランプリのライブ中継をヨーロッパからクリアな大画面で見られる方法、誰か知りませんかぁ?

 
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