デュッセルドルフ通信 2007年3月2日
世界選への出場権は取った。
兆しは明るい。さらなる飛躍を目指して
 

 どうも!皆さんお元気でしたか?今年は日本の冬も暖かかったみたいですね。ヨーロッパも250年ぶりくらいの暖冬だったとかで、私の住むデュッセルドルフも雪がほとんど降らず、「車のタイヤ何でスタッドレスにしたんだっけ?」という感じでした。2月後半から3月になるとどんどん日が長くなるように感じられます。日本で「秋の日はつるべ落とし」なんていいますが、「ヨーロッパの春の日はロケット上がり」とでも表現したくなりますね。

 ドイツ人にとってこの時期はカーニバルの時期ということで、「長く寒い冬がいよいよ終わる」という気持ちもあって「無礼講」感があり、町に出ると「何かやらかしてやろう」という、異様な雰囲気が漂っています。サッカーのフーリガン騒ぎに見られるようにヨーロッパ人(に限らないのかもしれませんが)は、勢いがつくと歯止めがきかない部分があるので、「ヤバヤバ」です。

子供たちの仮装は、基本的にみんなかわいい
子供たちの仮装は、基本的にみんなかわいい
 どうも、この雰囲気になじめないところがあるのですが、見ていて結構楽しいのが、仮装です。この時期、本当にいろんな人が仮装するんですね。私のオフィスのあるビルの1階に大きな銀行があります。昨年もちょっと気になったんですが、ここのスタッフはみんな仮装で仕事をします。今年、少しじっくり観察してみたら、かなり面白かったですよ。「融資のコーナー」みたいなところの担当のおじさんはミツバチ。アタマに触角をつけちゃって、変なメガネをかけてます。お金を借りに来ている客もネコの仮装。この2人が机を挟んで真剣に話している姿。カメラをいつも持ち歩いていなかったことをすごく後悔した瞬間でした。「もう少しお金を借りられませんかニャー」「ブンブン、もういっぱいいっぱいですよ、ブン」「そ、そこをニャンとか」「ちょっとお待ちを。女王バチ様に聞いてまいります。ブ~ン!」みたいな。しかし、お金を借りるのに仮装で来るというのは、どういうメンタリティーなんですかね?もしかして、仮装が上手なら、融資してもらえるなんていうレギュレーションがあるのかしら?大学時代に答案用紙いっぱいに黒船のペリーの似顔絵を描いて、「良(さすがに優ではない)」をもらったクラスメイトがいましたが、こういう一発逆転があるのかもしれませんね。
もしかしてジャック・スパロウですか?
もしかしてジャック・スパロウですか?
 しかし、町中がこういう雰囲気だからたまりません。カーニバル期間の金曜日、仕事を終えて電車に乗ったのが夜11時30分過ぎ。時間が悪かったこともありますが、ありえない電車に乗ってしまいました。私の乗った車両、ほぼ全員がコスプレ。しかも酔っ払い。お医者さんのカッコした人の白衣のポケットには、ワインとビールのビンが1本ずつ。エルビス・プレスリーだって、マイクの代わりにウイスキーのビンを持っています。電車のドアが開いて、乗り込もうとする私をドア付近にいた海賊やフランケンシュタインやロビンフッドなどが一斉に見ました。しかも、嘲笑めいた眼差しで。「こ・・・こいつこんな時間にフツーのカッコしちゃってるよー。ウワッハッハッハ!どうしちゃったのー?あ、わかったサラリーマンの仮装だろ!ヒーッヒッヒッヒ」と、こういうノリです。「落ち着け、オレ。オレはおかしくない。ヤツらがおかしいんだ。オレは少数派だが、まともなんだ。相手にするな。相手にするな」と自分に言い聞かせながら、その場を乗り切りました。でも、少数派ってつらいですね~。戦時中に「戦争反対!」っていえなかった人の気持ちがわかったような気がしました。

 でも、一年に一回くらい自分を変えてみるのも面白い気がしますね。来年は、挑戦しようかなぁ・・・コスプレなんか、興味なかったし、コスプレ好きな人の気持ちもそんなにわからないし、そういう関係のタレントさんもよく知らないんだけど、やってみたら、ギザタノシス!おもしろそうだお!(ん?)

 というわけで行ってきました、みんなサイクリストのコスプレした会場・・・じゃなかった筋金入りのサイクリストが集まるマンチェスターに。ワールドカップもあっという間にもう最終戦。世界選手権枠獲得の最終チャンスということで、激戦が交わされ、どのレースも見ごたえがありました。特にイギリスのクリス・ホイなどは神がかってましたね。「もともと力のある選手が、ある目標に向けて集中して仕上げるとこうなる」ということがよくわかる例でした。

若手をよくリードした太田選手
若手をよくリードした太田選手
エンデュランスとスプリント、選手間の距離も縮まっている
エンデュランスとスプリント、選手間の距離も縮まっている
  今回、日本チームは、スプリント系はインターナショナルケイリンイベントのために来た太田真一選手とその他は皆、競輪学校卒業期80期台後半の選手。エンデュランス系もベテラン飯島誠選手に若い盛一大選手と大御所+若手のトップというバランスで、よくまとまっていたように思います。スプリント系については、国際経験豊富な太田選手が隊長のようになって、練習の時などでもマニエ監督がひとつ言うと、大体言いたいことがわかるようで、それを上手に他の選手に説明していて、監督も助かっていたようです。「オオタのおかげで、仕事が楽になった」と後で言っていました。また、飯島選手も経験豊かですから、スプリント系の選手の走りにも、自分の意見をコメントしたりして、スプリント系、エンデュランス系とあまり別れることなく、終始1つのチームとして、うまく機能していたのではないかと思います。
自分のトラックレーサーが行方不明になり、ロードレーサーで練習する矢口選手
自分のトラックレーサーが行方不明になり、ロードレーサーで練習する矢口選手
 今回の日本チーム、こぼれ話をひとつ。実はインターナショナルケイリンに来た矢口啓一郎選手の自転車がロストバゲッジに遭い、行方不明になりました。来た当日は「明日ぐらいには見つかって送られてくるよ」と言われて「そうですよね。仕方ないですね」と言っていたのに翌日もまる一日出てこず、「行き先が間違ったんじゃなくて、盗られちゃったんじゃないの?タマにあるんだよね」などと言われると、もう首の蝶つがい可動範囲ギリギリいっぱいで下を向いて歩いていました。お気に入りのシューズやヘルメットも一緒に入っていたらしく、ダブルショック。私も「きっと大丈夫。出てこないわけないっしょ」なんて言っていたのですが、2日たっても出てこないと、かける言葉もなくなってきます。マニエ監督は、選手全員がいるところで、「ヤグチは不運だ。だけどこれはこういうことがあり得るといういい例だ。皆教訓にして欲しい。ヘルメットとシューズは飛行機に乗るときは手荷物にすること。プロの自転車乗りの鉄則だ」なんて、傷口に塩を塗りこむようなことを言っているし・・・3日目の夕方、ついに「自転車が見つかった」という知らせが入り、チーム全員で大拍手。「ハァァァ・・・これでやっと夜眠れます」「昨日もしっかり寝てたよ!(チームメイト達のつっこみ)」でも、気持ちはわかります。自分で買った「LOOKの496トラック」(フレームだけでおよそ120万円!)、お気に入りのシューズとヘルメットまでなくなっちゃうところだったんですもんね。

 さてさて、今回日本人選手、いっぱい走りました。渡邉一成選手は競輪祭での落車で、自分が満足できるだけの練習ができていなかったところにスプリントは予選も入れて5回走り、チームスプリントにインターナショナルケイリン。成田和也選手も初日のケイリン、チームスプリント、インターナショナルケイリン。井上昌己選手もチームスプリントとインターナショナルケイリンなどなど。もちろん、永井清史選手も。

インターナショナルケイリンも制したクリス・ホイ。強かった
インターナショナルケイリンも制したクリス・ホイ。強かった
 実は、永井選手はインターナショナルケイリンは走る予定はなかったのです。しかし、前日スプリントでインターナショナルケイリンも走ることになっていたテオ・ボスが落車。翌日も走れないかもしれないということで、1つ空き枠が出来そうなところにマニエ監督が「是非、永井選手を」と言ったのです。もちろん、マニエ監督も無理やり入れたわけではありません。「キヨ!走りたいか?」と聞いたとき永井選手は確かに「イエス」と言いました。でも、そのときはスプリントであんなに最後まで壮絶な戦いをしなくてはならなくなるなんて思っていなかったし、ワールドサイクリングセンター時代から「キヨ、キヨ」と自分のことを可愛がってくれる監督が期待を込めて言っているのに、「ノー」なんて言えませんよね。インターナショナルケイリンにはテオ・ボスもよほど出場したかったようで、出場するかどうかの答えを当日の朝まで引っ張りました。当日の朝、テオ・ボスが「走れない」と言えば永井選手が出るということに。朝、永井選手に「どうですか?」と聞くと「昨日、脚が痛くて眠れませんでした」という答え。このときは、永井選手も「頼む、ボス治ってくれ!」と祈ったかもしれません。そして、そのあとボスの欠場が決まり、マニエ監督がガッツポーズを作って「キヨ!ユーキャン ライド!」と近づいて来ました。満面の笑みで「Happy ?」と聞かれた永井選手は引きつった顔で「ハァ、ハ、ハッピー・・・」と答えていましたが、かなりアンハッピーな雰囲気が漂ってましたよ(笑)。しかし、そのコンディションで敗者復活戦では、ブルガン、フレンチ、クワィアコウスキー相手に逃げて2着。最終的にも総合10位になったんですから、たいしたもんです。

 一方、この日28歳の誕生日を迎えた成田選手。自分が誕生日だったことを忘れていたらしく、場内の実況で「バースデーのナリタはここで勝って自分で自分にプレゼントをあげられるか?」みたいなことを言っていたと伝えると、「へぇ~。そんなことまで知ってんだ~。よく調べてますネェ。全く忘れてました」と苦笑い。それだけ、大会に集中していたということですね。

 そして、今回マニエ監督と初顔合わせになった井上選手。「イノウエは、練習よりも本番に力を発揮するタイプだな」と言われ、「このヒト、わかってるよぉ~!」と、冗談めいた口調で話していました。中長距離の2人にしても、マニエ監督の期待にきっちり応え、ゆるがぬ信頼を得ましたし、渡邉選手は、監督をして「ワタナベのような自転車競技に対するモチベーションを全選手に期待したい」と言わしめました。

さらにステップアップしてほしいエンデュランスチーム
さらにステップアップしてほしいエンデュランスチーム
 このマンチェスター大会は選手と監督がお互いを理解し、信頼しあうためのよい大会だったと感じます。世界選手権まであと1ヶ月。日本は多くの種目で1国あたりのMAX出場枠を確保することが出来そうです。こうなってくると、結果を期待してしまうところですね。どんどん欲張りになってきてしまいますが、結果もさることながら、この世界選手権に関しては、マニエ体制でオリンピックの権利獲得がかかる来シーズンをむかえるにあたって、今、日本チームにとって何が強みなのか、何が足りないところなのか、強みを消さずに足りないところを補うにはどうすればよいのかを選手、スタッフ、関係者それぞれが考え、整理し実行する足がかりにしなければならないと思います。

 世界選ともなればいろんな人が集まりますから、選手達にとっても日ごろ思っていることを業界の偉い人たちに聞いてもらういい機会でもありますよね。そう考えると、フランクにものを言うためには、「誰が言ったか」なんていうのは判らないほうがいいですね。いいこと思いつきました。日本自転車競技関係者全員出席仮装パーティー。もちろん、ファン参加あり!よーし、どんな格好で行こうかなぁ。ファン代表として、なめられちゃいけないから、威厳のある格好で行かなきゃ。やっぱり、ダース・ベイダーとかかなぁ・・・でも、向こうも仮装だから、見かけで判断すると返り討ちにあっちゃうなぁ。ヨーダと同じで、見た目弱そうだけど、すごいフォース持ってる人とあたったら、自殺行為だもんなぁ・・・(って、戦うわけじゃないんだから・・・)選手は、スパイダーマンとかやめたほうがいいですよ。ああいうボディースーツ系は、体型ですぐ選手だってバレちゃうから。R2-D2とか、おすすめですね。自分の都合の悪い方向に話が進んだら、「キュルルッ!ピポパポ?」なんてとぼけましょう!

ワールドカップ総合チャンピオンチーム、オランダ。チームとしての総合力がよく判る指標だ
ワールドカップ総合チャンピオンチーム、オランダ。チームとしての総合力がよく判る指標だ
ムルダー、ボジェ、エドガーと日本人選手3人。将来的には決勝がこんなメンバーになることを期待したい
ムルダー、ボジェ、エドガーと日本人選手3人。将来的には決勝がこんなメンバーになることを期待したい
  冗談はさておき、世界選手権は1ヵ月後。最近、私は日本チームへの感情移入で、選手が厳しい環境のなか、期待を背負って頑張って走ってるのをみると胸が熱くなるんですよね。客観的な報道をする立場からすると、あまりよいことではないのかもしれないんですけど・・・しかし、選手達にはやはり、私を含めてファンを涙させるような感動的な走りを期待したいですね!その先を見据えた世界選手権、その先につながる世界選手権になることを願いつつ。今回はこのあたりで!
 
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