デュッセルドルフ通信 2007年4月12日
世界選手権終了、レベルアップ続ける世界に
日本は追いつき追い越せるか?
 
舞台となったパルマ・アリーナ。たった1年でこんなすごい競技場ができてしまった
舞台となったパルマ・アリーナ。たった1年でこんなすごい競技場ができてしまった
リゾートの雰囲気漂う街だが、戦いは激しかった
リゾートの雰囲気漂う街だが、戦いは激しかった
パルマのシンボル、カテドラル
パルマのシンボル、カテドラル
  スペイン、パルマ・デ・マヨルカで開催された自転車トラック競技世界選手権が終わりました。今回は、いつものくだらない話はやめて少しまじめ路線で行ってみようと思います。では、早速。06-07シーズン、トラック競技の日本チームは、アジア大会などでの活躍はあったものの、いわゆる世界大会でのメダルはワールドカップロサンゼルス大会で及川裕奨選手が1キロTTで獲得した銅メダルのみとなってしまいました。
シーズン中盤にフレデリック・マニエ監督を迎え、多くの期待を背負って再発進したジャパンチームでしたが、監督本人も言っているように結果を出すには時間が必要のようです。考えてみれば、国際大会ともなれば、各国とも中途半端な気持ちではやってきていないわけで、強豪国相手にすぐに結果を期待するのはムシがよすぎた気がします。とはいうものの、私はもう少しだけよい結果を予想していました。しかし、世界のレベルアップのスピードは日本のレベルアップのスピードを超えていました。
テオ・ボスも進化し続けている
テオ・ボスも進化し続けている
 チームスプリントでは、成田・井上両選手が「本来ならもう少しでるはず」というラップタイムで小さくまとまってしまい、ケイリンでは成田選手が敗者復活戦敗退、成田選手のサポートもあり、2回戦に勝ち進んだ伏見選手は10位。スプリントは出走3人中、永井選手、渡邉選手が予選のタイムトライアルでアシきりにあい、唯一先に進んだ北津留選手は初戦でテオ・ボス(そのあとも順調に勝ち進み、当たり前のように優勝)とあたって撃沈。スクラッチの盛選手は落車にあって棄権。ポイントの飯島選手は本人自身も納得できない14位、1キロの中川選手も体調不良のなか、タイム的にもよく頑張ったとはいうものの、まだまだ世界のレベルには及ばず11位。結果だけ見るとやはり残念さが残ります。
 北津留選手などはテオ・ボス相手にそれなりにいい競走をしていたように見えたので、別の選手が相手だったら・・・とも思いたくなります。「最終バックで“アレ?ボス、来ないよ。どうしたんだ?”とちょっとうれしかったんですけど、3コーナーで“あ、やっぱり来たよ”って感じでした」とは本人の弁。確かにバックでは先行する北津留選手になかなか追いつかなかったのでテオ・ボスも「ツバサもなかなかやるな」と思ったことでしょう。
今回の日本の結果は大振りの前のバックスイングだと思いたい
今回の日本の結果は大振りの前のバックスイングだと思いたい
 一方、スプリントで予選落ちし、落ち込んでいた渡邉選手がその翌日「これ、見てもらえます?今日の(200mTTの)練習タイムです」と見せに来た紙に書いてあった数字は「10″25」。「えぇーっ?何できのうこのタイムが・・・」「マニエからも怒られました」
このように、今のマニエジャパンは「もし対戦相手が違ったら」「昨日でなくて今日だったら」というような世界にいます。いいときもあるだけに、「ポテンシャルはあるのだ」と希望は持てるのですが、やはり運や体調といった条件が悪いときでもある程度のところまでは必ず行けるコンスタントさを持ちたいものです。
日本選手権競輪が終わってスグに疲れた身体を引きずってパルマ入りした選手も多くいました。そのことに関して中野浩一さんがいいことを言っていました。「たしかにスケジュールがきついのはわかる。でも“スケジュールがきつかったんで金メダルとるつもりだったんだけど、銀になっちゃいました”じゃないでしょ。成績はそのもっとずーっと下だもん。それ以前の問題があるんだから、それをまず認めなくちゃいけない」
 一方で、渡邉一成選手はこのようなことを言っていました。「自分で力不足なのは分かってます。だからこそ練習がしたいのに、スケジュールがつまりすぎていてその練習ができないんです」うん、これも分かる!すごく悩ましいですよね。でもオリンピックは待ってくれません。マニエジャパンはこのような問題をひとつひとつ解決して、前に進んでいかなくてはなりませんね。
 あの~。ちょっといいですか?あんまりまじめに書いてきたので、だんだん苦しくなってきたんですけど・・・今回はまじめ路線で、なんていいましたが、少し休んでもいいですか?(疲れるの早っ!)
 私も、筆がスプリンターなので1000字以上まじめなこと書くとタレてくるんですよねぇ(オイオイ!)。では、ちょっぴり息抜きを。
 世界選の最終日、「いやー、終わった。今回はチト残念だったなぁ・・・」などと思いながらホテルの部屋に帰ると、私の部屋のバスルームにブリちゃんが待っていたんです。しかも裸で!ブリトニー・スピアーズやブリリアント・グリーンじゃないですよ(3人裸で待ってたらそれも怖いけど)。なんと、キラキラ輝く褐色の肌のゴキブリちゃんです(そりゃ、裸だわな)。いや~、もう逃げまどいましたよ、私。もともと苦手なんですよ。しかも、見たことないぐらいの大きさ。
 実はその前日、同じホテルに泊まっていた後輩から「部屋にゴキブリが出たんですよ。こ~んな(ひとさし指と親指で10センチぐらいの幅を作りながら)大きいヤツ」って言われたので「まじでぇ~?それは、災難!」と、いかにも同情しながらも「そんなデカいのいるわけないやん!大げさなんだからぁ。まぁこの手の話は半分にしといていいな」と思ってました。そ、それが私の部屋に!もうね、20センチぐらいありましたよ。ホントニ。
 私、小学生のころに掃除用具入れに入って遊んでて、なんか脚にとまったんで、“ん?”と思ってつかんで掃除用具入れから明るいところに出たら、握っていたのはゴキブリだったとき以来、完全なトラウマなんです。
 部屋のトイレに行こうと思ってドアをカチャっと開けた途端、あの姿が目に入りアドレナリン出ましたもん。去年の今頃、パスポート盗まれましたけど、それ以上のピンチです。 すでに私の選択肢から「部屋のバスルームに入る」というのは消えています。トイレはフロントの公共トイレまで降りて行って、お風呂は地下にあるフィットネスジムのシャワーに入りにいくことになってしまいました。
 フィットネスジムのジャグジー・シャワーエリアには「水着着用のこと」という立て札がありましたが、マヨルカ出張とはいえ、水着なんか持ってきてないじゃないですか。もう夜中なのでフィットネスジムに人が来る確率は少ないんですが、水着エリアにマッパでゴシゴシ身体を洗っているアジア人、見つかったら変態あつかいですから。キョロキョロあたりを見回して誰もいないのを確かめて、そ~っと、パンツを脱いで、いつでもはけるようにすぐそばの手すりに引っ掛けて・・・「ガタン」なんて音がしようものなら、パンツとタオルをひっつかんで物かげに一目散です。お風呂入った気持ちしなかったっス、正直。
 それでも、バスルームという密室にゴキブリと2人っきりにされる恐ろしさを考えたら、それくらいどうってことないです。結局、チェックアウトまで、あのバスルームには入れませんでした・・・
 さて、そろそろ世界選の話に戻りましょう。くだらない話だと1000文字を超えてもタレて来ないスプリンターなんで、自分で意識的に戻らないと(どんなスプリンターやねん)。
この話はいろんな人が書いていると思うのでご存知の方も多いと思いますが、私も書かずにはいられません。スペインのリャネラスが走ったポイントレースの話。
昨年11月、ベルギー・ゲントの6日間レースで他選手との接触のためトラック外柵に激突して亡くなったイサーク・ガルベス。ロードレースでも着実に成績を残してきており、また、結婚してまだ数週間という幸せのなかにいただけに、彼の死は驚きと悲しみをもって報じられました。
 そのガルベスのマディソンレースにおけるパートナー、ホアン・リャネラス。昨年ボルドーで開催された世界選手権でこのコンビがマディソンレースを制し、金メダルに輝いたことは記憶にあたらしいところです。もちろん、亡くなったレースのときも一緒に走っていました。ディフェンディングチャンピオンとして、ホームのマヨルカでリャネラスとともに再び金メダルをファンの前にかざすことを夢見ていたガルベスはその夢をかなえることなく逝ってしまい、リャネラスは長年のパートナーを亡くしました。
 しかしリャネラスはガルベスの思いを背負ってポイントレースに出場します。会場にはなくなったガルベスの遺影と残された家族。「ガルベス、見てるか?」と言わんばかりにリャネラスは序盤から飛ばしました。そして、世界のトップライダーたちを全く寄せ付けず、ぶっちぎりの優勝。種目はポイントレースでしたが、リャネラスの頭の中ではガルベスが一緒に走っていたことでしょう。昨年の悲劇を知っているスペイン中の自転車ファン、ガルベスの家族、そしてもちろんガルベス自身の魂に背中を押され、はじめから終わりまで素晴らしい走りを見せたリャネラスにレース後も会場中の観客が惜しみない拍手を送り、その拍手はいつまでも鳴りやみませんでした。そして、リャネラスも流れ落ちる涙を拭うことなく、レース中絶えず割れんばかりの歓声で自分を励ましてくれた満場の自転車ファンたちに何度も何度も手を振り続けました。
この開催中もっとも観客を沸かせたリャネラス
この開催中もっとも観客を沸かせたリャネラス
 リャネラスの人気は、強さはもちろん、ひたむきで情に厚いところにあるのであって、決してミスター・ビーンに似ているからではないのだと、あらためて思いました。(感動のストーリーが結びの一言で台無しになる典型的一例)
とにかく表彰台のどこかにイギリス
とにかく表彰台のどこかにイギリス
女子もイギリス
女子もイギリス
  最後に今回の世界選でやはり触れておかなくてはならないのはイギリスチームの躍進です。スプリント系、エンデュランス系、男女を問わず全てにおいて強い。
 今回イギリスがとったメダルの数は金が7つ、銀が2つ、銅が2つで11。男女あわせ全17種目中半分近くの種目で金メダルですから、よくもとったもんだという感じです。もともと強いイギリスが完全なる無敵艦隊となってトラックサイクリングを征服しようとしています。少し前からこの変化にはなんとなく気がついていました。しかし、ここまでとは・・・
仕掛け人デイブ・ブレイルスフォード
仕掛け人デイブ・ブレイルスフォード
 この変化を起こした張本人はブリティッシュチーム、パフォーマンスディレクターのデイブ・ブレイルスフォードです。現在の練習方法やブリティッシュチームの構成はすべて彼が計画し、統括しているといわれています。
 大会がはじまる前、彼に「表彰台にユニオンジャックがいっぱい並ぶのが目に浮かぶねぇ」というと「どうかな?そう願いたいね。どうなるか見てみよう」と言っていましたが、「やっぱりね」という感じです。
 
温暖な気候はヨーロッパ選手の冬季トレーニングにもってこい
温暖な気候はヨーロッパ選手の冬季トレーニングにもってこい
 ブリティッシュチームのトレーニングについては、私ももう少し調査をしなくてはなりませんが(秘密をどこまで教えてくれるかな?)強化のカギは最新のスポーツ理論、映像解析などを使った徹底した科学トレーニング、抜群の練習環境、そして才能発掘システムのようです。
 才能発掘システムとはイギリス各所に拠点を設け、13歳~16歳の選手達を家から通わせてトレーニングします。そのなかから選抜された選手は16歳になるとその地域の施設の寮に移ります。そこで更にトレーニングされ、そこで頭角をあらわした選手が18歳になるとマンチェスターに移りマンチェスターで徹底的にトレーニングされます。
 今シーズン、ワールドカップなどにちょくちょく顔を見せていたジェイソン・ケニーは今、このステージにいるそうです。つまり、ポテンシャルがある選手は全てマンチェスターに住まわせて、施設・機材・スタッフなど最高の環境のなか全員を競わせながらトレーニングするのです。
 そこで認められると晴れてクレイグ・マクリーン、クリス・ホイ、ロス・エドガーなどがいるブリティッシュチームの「1本目」になれるというわけです。エリートチームはエリートチームで下からどんどん才能豊かな選手が上がってきて自分たちと同じ環境で練習するわけですから全く気が抜けません。
 このように、しっかりとしたピラミッド構造をつくり、広いすそ野から才能のある選手を発見することはそれぞれの地区に任せ、発見された才能には最高の環境でエリート教育を施す。さらにその選手達の間で絶えず競争を促すことによって、互いのモチベーションを維持するという実によくできたシステムです。
 「才能のある選手が“勝つ”という目的だけのために最高の環境で練習する」。強いチームをつくるために、当たり前のことのように思えますが、言うは易く、行なうは難し。各国は様々な事情でそれができないのです。
 ですから、システムをつくり実行したブレイルスフォード氏はもちろんすごいのですが、彼を信じ、それをしっかりとサポートしたブリティッシュサイクリング、そしてイギリススポーツ界に尊敬の念を抱かざるを得ません。このシステムでますます強くなった“Invincible(征服不能の)”クリス・ホイが5月に高地ボリビアで1kmTTの世界記録に挑戦します。日本だって負けちゃいられねーぞ!
 2007年の世界選手権が終了したことにより、これからオリンピックの権利獲得に関わる07-08シーズンに突入します。今後UCIカレンダーに登録された大会については、全てオリンピック権利に関わるポイントがついていきます。「どういうふうにつくんだよ?どうやったらオリンピックに出られるの?」そうですね。まだ、その辺をしっかりとご説明してませんでした。でも、私のヘタな文章に今度は読者の皆さんがタレている頃だと思いますので、この話題は次回あたりに。トラックのメインシーズンが終わってもまだまだいっぱいネタもってまっせー!!そうそう、クリス・ホイが世界記録を更新したらそれも忘れずにご報告します!お楽しみに!
 
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