デュッセルドルフ通信 2007年12月27日
ワールドカップ2戦終了。オリンピック出場枠獲得へ、要フルパワー。
 
 メリー、クリス・ホイ!(いきなりダジャレ。しかもトラック競技ファンしかわからないような・・・)お寒うございます。(気候が?それとも?)私の住んでいるデュッセルドルフもマイナスの世界です。
 私、トラックのワールドカップシリーズが始まる直前に友達の結婚式で、常夏のハワイに行って、ちょっとドイツに戻りましたけど、すぐに夏のシドニー大会。そこから直接第2戦の北京に乗り込みました。いやー、完全にアロハな気持ちが続いていたもんですから、ギャップがすごくて、しばらく思考停止状態に陥りました。脳みそは、ほぼ爬虫類ですからね。寒いとなんにも考えなくなるんですよね。「あったかくても、爬虫類の脳で考えてるんでしょ」って?咬みつきますよ、ホントに。(リアクションまで爬虫類)
オリンピックまであと250日を切った
オリンピックまであと250日を切った
オリンピックのメイン会場となる通称「鳥の巣」。一帯はまだまだ建設中。
オリンピックのメイン会場となる通称「鳥の巣」。一帯はまだまだ建設中。
 さて、ついにトラック競技ワールドカップシリーズ、始まりました。第1戦シドニー大会と第2戦北京大会がたてつづけに終わったわけですが、日本の成績、芳しくありません。原因?日本チームの実力が落ちたわけではないと思います。他の国のチームがレベルアップしているんです。オリンピックに向け、各国とも超気合が入ってきています。
フランス、フランス、イギリス。強国は輪をかけて強くなっている
フランス、フランス、イギリス。強国は輪をかけて強くなっている
 シドニー大会の参加選手数381名、北京大会380名。昨年のシドニー大会が232名の参加だったことを考えると差は歴然です。シドニー大会のスプリントなんてエントリー68人ですよ!「もう、記念受験はやめてよ!」と、いいたくなりましたが、これがそうでもないんです。昨年のシドニー大会、200mタイムトライアル予選通過ラインは10″6台だったのに、今年は10″3台で予選落ちですからね。恐ろしいレベルアップが数字だけでも見て取れるはずです。
 目立つのは、やはりイギリス、フランス、オランダあたり。そしてオーストラリアでしょうか。今年から「チームTOSHIBA」がオーストラリア国籍の(なんで日本じゃないのかな?日本企業なのに。裏切り者っ! 泣)トレードチームとして登録していますが、大活躍です。これまでも、強国であったに違いはないのですが、短距離、中長距離ともに一層強くなった感があります。一方、ポーランドなどは力が発揮できていない雰囲気です。オーストラリアは、スプリントも強い選手が多いので上位のほうでフランスなんかと対戦するのですが、オーストラリアのマーク・フレンチとフランスのミカエル・ブルガンがあたった時の実況は「?」の連続でした。
 “フレンチ(フランス人の)ブルガン、アーンド オーストラリアン フレンチ!オーストラリアのフレンチはフレンチのブルガンを打ち負かすことができるのか?おーっと、ここでフレンチが前に出た!フレンチのブルガンが追い上げフレンチに並びます!最後のコーナーを回った!フレンチブルガン、フレンチ、オーストラリアンフレンチ、フレンチ、フレンチ、フレーンチ!!!”(ややこしいわっっ!!)・・・今後、フランスの選手にジョエル・オーストラリアンなんて名前の選手が出てこないことを願います。
 シドニー大会はもうワールドカップ恒例になっているわけですが、やっぱり皆さんが気になるのは北京ですよね。いやー、北京はくたびれました。予想はしていましたが、やはり思ったようにはいかないですね。それを見越して、大会の取材IDなんかも随分前から申し込んでたんですけどね。大会の事務局から「ID、OK」の返事もわりと早くに来たのですが、それとともに「ビザはどうした?」と・・・「え?ビザって別にモノを売りに行くわけじゃないし、日本人なら15日以内の滞在はビザなしでいいんじゃないの?」大会事務局曰く「ビザのないものには取材はさせない」「ぐぇぇ。ではビザをとりましゅから、招待状をおくってくだしゃい。グスン」ということで、またこまごまとした書類を送ったわけです。
これからが、長かった!招待状が最寄りの在フランクフルト中国領事館に届くのを待ってたわけですが(大会側の招待がなければ、ビザが発給されない)待てど暮らせど連絡はなし。とうとうシドニーに出発する前日になっても「手続き中」という返事。
 「おいおい、オレはシドニーから直接、北京に向かうんだぜ。ここで、もらえなきゃもうムリじゃねーか!」と、「もうドイツではビザを受け取ることが出来ないので、シドニーで発給を受けたいのですが、シドニーに招待状を送ってもらえますか?」とメールを打ってデュッセルドルフを出発しました。途中、乗り継ぎのバンコクで見たメールには「わかりました。シドニーに送るよう手配しなおしました」の返事。
 ここまできても「ホンマに大丈夫かいな???」の疑いいっぱいですよ。シドニーに到着して数日、ついに「招待状を送りましたのでビザの発給を受けてください」のメールが!「ヤッター!」当然のことなのになんか、物事が異常にうまく進んだときのような達成感がありましたね。ごきげんで早速手続きに行こうと車に乗り込む私。「そ・・・そういえば、シドニーの中国領事館ってドコ?」「フフン、だいじょーぶだもんねー。ナビゲーションシステムという強い味方がいるんだもぉぉん!」独り言を言う私。
 通りの名前を入力すると、距離20km、時間30分。「なんだ、意外と近いじゃん。楽勝!」「ターンライト、ターンレフト・・・・・ユーハブ リーチト ユアデスティネーション(目的地に到着しました)」「・・・・・」「ど、どこやぁぁ?ここぉぉぉ!!!」ナビゲーションは「着いた」と言っているが、牛を飼っている農家のような建物の前にたたずむ私。
 「なにが起きた?どうしたっていうんだ?うーん、これどーみても中国領事館じゃないよな。しかし、なんてったって中国4千年の歴史だ。なにがあってもおかしくないぞ。この牛小屋のなかにビザ発給所が・・・」「住所は、あってるんだよな。どれどれ、ダンブレーンストリート39・・・ん?ここ、AじゃなくてUじゃん!フニャフニャフニャ・・・1文字違いで、領事館が牛小屋かよ!いや~、ビックリ。ホント、中国って恐るべし!4千年の歴史だよなぁ(この場合、中国のせいでも、4千年の歴史のせいでもないような気がするが)」と、いうことで紆余曲折の後、やっとビザを受け取りました。あれ、自分を信じきって、パスポート持って牛小屋に入っていってたら、「変なアジア人が赤い手帳を持って、ウチの牛を狙いに来てる」なんて、通報されるところでした。
漢字は日本人にとってもなじみやすい。ゴミ箱に書いてあることもよくわかる。「美化環境」フムフム。「熱愛生活」ハァ?
漢字は日本人にとってもなじみやすい。ゴミ箱に書いてあることもよくわかる。「美化環境」フムフム。「熱愛生活」ハァ?
 受け取ったビザですが、Place of issue(発行場所)「悉尼(シドニー)」と書いてあります。中国ってすごいですよ。ほとんどの横文字はすべて漢字に直してますから。ケンタッキーなんて「肯徳基」ですからね。外国人選手の名前も全部漢字に直してました。これは面白かったので、また新たに機会を設けて特集したいと思います。
 しかし、ビザが受け取れてよかったです。もし、ビザがなかったら、入国はできたものの、取材ができずに他の観客の人といっしょに「チャーヨー!!!(がんばれー)」と叫ぶだけになっていたと思います。
ラオシャンベロドローム。東京ドームをビッグエッグとすると、ビッグマッシュルームか?
ラオシャンベロドローム。東京ドームをビッグエッグとすると、ビッグマッシュルームか?
同じ敷地内にさらにもうひとつ屋外型の競技場が
同じ敷地内にさらにもうひとつ屋外型の競技場が
 さて、数々の困難を乗り越えて上陸した北京。寒いうえに砂埃まじりの風が容赦なく吹きつけます。髪の毛なんかすぐにガビガビ。「アワワ、オ、オレの万俵鉄平カットがぁぁ!」気がつくと、大泉洋状態に・・・ドラマ「暴れん坊ママ」の佑樹君の髪型(大泉洋と何の違いが??)で乗り込んだ老山(ラオシャン)ベロドロームは、なんともゴージャスな競技場でした。
天井の高さが写真でもわかりますか?
天井の高さが写真でもわかりますか?
「すごく走りやすい」走路は選手たちにも好評
「すごく走りやすい」走路は選手たちにも好評
お隣の石景山遊園地。ビッグサンダーマウンテン??
お隣の石景山遊園地。ビッグサンダーマウンテン??
 とにかく存在感がすごい!天井が高い!選手たちに聞くと、「非常に走りやすい」とすごいことだらけ。簡単にデータを紹介しておきましょうね。北京中心街の西およそ20kmの老山という地区にあり、オリンピック村や「IBC」と呼ばれるオリンピックのテレビ放送の本拠地からは南西27kmの地点にあります。建築面積は32,920平方メートル、東京ドームのおよそ3/4程度の大きさといえるでしょうか。屋根の高さは133m、総席数は6000席。当然のことながら周長250m、シベリア松材使用の板張りトラックです。最大カントはおよそ45°とのこと。2004年10月の着工からおよそ2年半をかけて完成しました。お隣にはディズニー(似)でお騒がせだった石景山遊園地があります。
 大会レポートにもあるとおり、大会の運営はすごいセキュリティでした。毎日、入場するためにはマスメディアスタッフもライダーも、飛行機に乗るときのセキュリティゲートのようなところを通されて、持ち物検査を受け、さらにバンザイした格好で若い女性の検査官から(男性もいたのですが、足がどうしてもそちらへ・・・男性の検査官は空いていても、並んでまでも、やはりそちらへ)目を閉じて(別に目は閉じんでいいっ!)ボディーチェックを受け、やっと入場です。オリンピック本番もこのような体制で運営されるのでしょうね。
今一歩乗り切れていないチームスプリント。逆転を狙いたい
今一歩乗り切れていないチームスプリント。逆転を狙いたい
「ここの線がもっと長ければ、天下がとれるから」「え?どの線ですか?」「これ、これ。このまーっすぐなヤツ」
「ここの線がもっと長ければ、天下がとれるから」「え?どの線ですか?」「これ、これ。このまーっすぐなヤツ」
「ちょっと短い場合どうすればいいんスかね?」「書き足しちゃえば?」「頭には線、書き足したんですけどダメですか?」※フィクションであり実際の会話とは異なります
「ちょっと短い場合どうすればいいんスかね?」「書き足しちゃえば?」「頭には線、書き足したんですけどダメですか?」※フィクションであり実際の会話とは異なります
  さて日本チームのお話。よく最近、「日本トラックチームはオリンピック出場は大丈夫なのか?」と聞かれるのですが、私の個人的感覚からすると「すごく悲観的になる必要はないけれど、予断は許さない」といった状況でしょうか。
 種目別に現況をお伝えすると、まずチームスプリントはワールドカップ2戦が終わった段階でUCI国別ランキング14位。10位までがオリンピックに行けますが、日本より上のランキングにいる国から世界選やワールドカップのチャンピオンが出る可能性が高いですから、ダブった部分が下に繰り下がって(レギュレーション詳細はバックナンバーをご覧下さい)12位ぐらいまでに入っていれば出場可能性が高いと言えますよね。しかし、この条件でいくと、今は圏外ということになります。これからの大会で日本より上にいる国々を追い越していかなくてはならないということです。勝手な予想をすると、今、日本よりも上位にいるカナダ、イラン、キューバ、マレーシアなどは、射程圏にありそうです。ですから、今後、これまで以上のタイムをしっかりと出すことが出来れば、出場は可能ということになります。しかし、ベスト10にも入れない成績が続いてはどうなってしまうかわかりません。まず、トータルタイム44秒台突入を実現させていくべきでしょう。北京大会では北津留選手が「ラップタイム17秒台を出せなければ丸刈り」という条件で出走し、18秒0台と目標に肉薄したのですが容赦ないチームメイトは「約束は約束」と、翌日にはバリカンが入った状態で登場。トータル44秒の壁を破るまであと少しなのですが・・・
 マディソン、こちらは13位までが出場できる条件で現在12位。すでに圏内にいますが、日本よりも下にロシアやイギリスなどまだ強い国がいますので、ひっくり返される可能性もあり、こちらも今後の頑張り次第でしょう。
 個人種目を見てみます。ケイリンでは伏見俊昭選手が9位までの出場条件で4位に位置しています。しかし、伏見選手の下にいる選手に目を転じるとトゥルナン、ムルダー、エドガー、ボジェ、ボス、ニムケと強い選手のオンパレードなので、この種目も今後コンスタントに上位進出を狙っていかないと安心できません。でも、今、世界第4位。北京では準決勝に進めず、頭をかかえていた伏見選手ですが、なんの、まだまだ可能性大です。
 ランキング5位まで出場できるスプリント。渡邉一成選手が10位で北津留翼選手が16位。こちらはかなりの難関と言わざるを得ませんが、ミラクルを信じましょう。
 ポイントレース、6位までの枠で飯島誠選手が4位。こちらも気は抜けませんが、楽しみな位置にいますよね。
場内でも人気だったオリンピックマスコットの1人「ファンファン」。8月にファンファンと記念撮影できる日本選手が1人でも多くなることを祈りたい
場内でも人気だったオリンピックマスコットの1人「ファンファン」。8月にファンファンと記念撮影できる日本選手が1人でも多くなることを祈りたい
 ここまで話してくると「つまるトコ、今、日本がオリンピックに出られる可能性のある種目と人数はどうなってんのよ?」と聞きたくなるでしょう?
 はい、まずチームスプリントが出場できたとします。そうするとボーナス枠でケイリンとスプリントに1人ずつの出場が決定。これに加えてケイリンで伏見選手、スプリントで渡邉選手もしくは北津留選手が1つずつ個人枠をもたらすとします。さらにマディソンに出られれば、ボーナス枠でポイントレースに出場できます。ポイントレースでの個人枠で飯島選手がいい位置にいますが、ポイントレースではマディソンのボーナス枠を取ってしまうと、個人枠の追加が出来なくなってしまうため、どう頑張ってもポイントレースの枠は1です。
 かと言って、ポイントレースの個人ランキングで上位にいるのはムダかというとさにあらず。万が一、マディソンで出場できないことになってしまったとき、少なくともポイントレースだけでも出場することができるからです。 「なんだか面倒くさくてよくわからない」という人は、次のように理解してもらえば十分です。男子はチームスプリント1チーム。ケイリンに2人、スプリントに2人、マディソン1チーム、ポイントレースに1人。そして、女子はすでに枠を獲得しているポイントレースとスプリントが1人ずつ。これが今日本に考えられるMAXの出場枠です。男女合わせてのべ12名が走れる可能性を残しています。 考えたくはありませんが、最低の結果になった場合は既に決まっている女子の2枠のみとなります。出場数を限りなくMAXに近づけるべく、日本チームの戦いは3月の世界選手権まで続きます。
LAでのひとり修行に挑む渡邉選手。ブレークスルーに期待!
LAでのひとり修行に挑む渡邉選手。ブレークスルーに期待!
万里の長城。ロード競技では、ゴールに設定されている
万里の長城。ロード競技では、ゴールに設定されている
 直近の日本トラックチームのチャレンジは短距離に関しては、タスマニア・スポーツカーニバル。現ナショナルチームから渡邉、永井、北津留選手が出場します。渡邉選手はそれが終わったあと、日本に戻らずにダイレクトにロサンゼルスに向かいワールドカップ第3戦ロサンゼルス大会に備え2週間以上の現地武者修行に入ります。
 先日、タスマニアに出発する渡邉選手から「行ってきます!ロスではメダルを狙うつもりで頑張ります」という感じの頼もしいメールが届きました。今頃は、タスマニアで大和魂を見せつけているころかも知れませんね。
 タスマニアに行っていない選手たちにとってはワールドカップロサンゼルス大会が次なるオリンピックへのステップとなります。伏見選手はその前にケイリングランプリ、飯島選手や盛選手はロードレースの大会や自分の所属チームの合宿など、それぞれのスケジュールを過ごし、ロサンゼルスに再集合です。
 来年はいよいよ正念場。私が現場で出会った感動を独り占めせずにドンドン皆さんにお伝えして行きたいと思っています。今年、一年デュッセル通信をご愛読くださいましてありがとうございました。来年も、是非、日本の旗を背負って奮闘するナショナルチームを応援していただきますようお願いいたします。
 
TrackMania
 
COPYRIGHT(C) JAPAN KEIRIN ASSOCIATION, All Rights Reserved.