デュッセルドルフ通信 2009年2月19日

ワールドカップ・コペンハーゲン大会。
中長距離に日が昇る。日本トラックにさらなる希望

 
興奮せずにはいられなかった盛選手の走り
興奮せずにはいられなかった盛選手の走り
  興奮しましたぁ!ええもん見せてもらいました。もぉ~ぉ、今回は一にも二にも盛一大選手のワールドカップ、スクラッチ金メダルですよね。これ、大げさな言い方ではなく「日本トラック競技中長距離の夜明け」です。本人も言っていましたが、やっと結果がでましたね!数年前なら、エンデュランス系で金メダルなんて、なかなか考えられなかったことです。これも先人たちが積み上げてきた努力の上になりたっていることですが、ついにそれを形にしてあらわした盛選手に拍手を贈らないではいられません。
 プロフィールを少し紹介しておきましょう。盛一大(もり かずひろ)Aisan RACING TEAM(愛三工業レーシングチーム;UCIコンチネンタルチーム)のエース級選手。ロードとトラックの2足のわらじを履いて世界を転戦する26歳。ロード・トラックともにその武器であるスピードを活かした走りには定評があります。トラックでは、昨シーズン、飯島誠選手とともにマディソンでのオリンピック出場を目指してきましたが、本当に惜しいところでマディソンでは出場枠はとれませんでした。飯島選手が今シーズンはトラックを走っていませんから、今は実質、盛選手がひとりで中長距離を背負っているようなものです。
 もちろん、今でもトラック中長距離の第一人者と言っても過言ではない飯島選手や、歴史を振り返ると吉井功治選手など優秀な選手はたくさんいるわけですが、私にとってはワールドカップの中長距離ではじめて生で銀メダルを見せてくれたのも、盛選手ですし(2006年ワールドカップシドニー大会ポイントレース)日本人がワールドカップでマディソンを走るのをはじめて見せてくれたのも盛選手と飯島選手だったわけで、今度は金メダルまで・・・本当に彼にはすっごいモノを見せつけられてばかりです(なんか言い方がいやらしい?)。  
やっと結果出しました!感激のあまり、私は日の丸撮り忘れ・・・
やっと結果出しました!
感激のあまり、私は日の丸撮り忘れ・・・
 毎回のことながら(いつも後になって反省するが、なかなか直らない)日本選手がいい走りをすると私、必ずとりみだしてしまうんですよね。中長距離種目は、上から見ていたほうが全体の展開がわかりやすいので日本の中継、番組取材用の固定カメラの横で見ていることが多いんですが(いつもは、ジャマにならないように気をつけているつもりなんです。これでも)、今回もカメラマンさんから「あのさぁ、カメラマイクが声拾いまくってるんだけど」「え?どんな風に?」「残り6周あたりから、“盛くんいいんじゃな~い?”とか“これいけるかもよぉ!!”とか“あと2周!あと2周!!逃げ切れ~ぇぇ!”とか。デンマークなのにそんな声入ってたら、テレビで使えないじゃん」「すっ・・・すみませんです・・・」
 こういうところが報道のプロと一般人に毛が生えたぐらいの人の違いですよね。ビデオなんかも後で見るために結構撮ってるんですけど、落車なんかがあると動揺してそのあと、ほとんど映像撮れてないですもんね。競走から戻ってきた盛選手の顔を見たら、胸がいっぱいになって、ろくなインタビューとってないし、表彰台では「君が代ってやっぱいいなぁ」とジーンとして聞きほれていたら、写真撮る前に掲揚台から日の丸はスルスル降りて来ちゃうし・・・「あ、降ろしちゃダメェー!!」みたいな・・・プロってすごいなぁ(自分がそうなるように努力せんかい!)。
 そうそう、プロといえば日本TVチームの通訳でいらしている増田恵美子さん。アテネオリンピックまでは日本ナショナルチームの通訳も務めていた、元カンタス航空キャビンアテンダントのエレガーントなおネエさまですが、普段から外国チームのスタッフや選手に話しかけたりして、いざインタビューになったときに選手が言いにくいことでも思わず話しちゃうような雰囲気を作っておくんですね。
元日本サッカー代表監督のことを綴った「オシムの言葉」という本に「通訳は、監督と同じくらい重要だ」というようなくだりがあったと思うんですが、同じ意味のことを言うにしても言葉のニュアンスや雰囲気で感じ方が全然変わってきますから、シビアな仕事ですよね。通訳の物言いひとつで監督と選手の間に誤解が生まれたりするということで、空気の読めない人にはつとまらない仕事です。
増田さんが前日本監督のゲーリー・ウエスト氏の言葉をそのまま「テメェ、殺すぞ!」と訳しているのを聞いたことがありますが、本人より迫力ありました(オイオイ)。ダイレクトに訳していいときと、悪いときを見極める。これがプロなんですねぇ。
 ニュアンスを伝えるためには日本語に関しても多くの語彙を持っていなくてはなりません。私がコーヒーをズボンの前にこぼして、恥ずかしい姿になった状態を称して、「局部にコーヒーをこぼすようなこと」と・・・いやー、さらりと言えます。勉強になります。使わせてもらいます!「局部」ですよ。こんな言葉なかなか出てこないです。いいですねぇ「局部」。・・・なんか、何度も言っているとかえってナマナマしく聞こえますね。
コペンハーゲン市内での滝澤先生。花粉症なのでマスク着用。あ~!その手袋ゴワゴワテックスじゃないですか!!
コペンハーゲン市内での滝澤先生。
花粉症なのでマスク着用。
あ~!その手袋ゴワゴワテックスじゃないですか!!
 通訳には到底なれませんが、敬愛するプロフェッショナルのひとり、英語の師匠増田さん。これからも勉強させてもらいます!
 え?コーヒーですか?その夜、ホテルで超ゴシゴシやって落としましたよ。前に茶色のシミつきのズボンで「盛選手オメデトー!」なんてやったら、その道の(どの道やねん!!)プロフェッショナルかと思われちゃうじゃないですか!
 さて、きれいにシミを落とした私のズボンを見ての滝澤正光先生の一言「おぉぉッ!きっちり仕上げて来たねぇ!!」って、選手に対するコメントと一緒じゃないですか!・・・ってことで、「月刊滝澤先生通信」はじめまーす!
 「今回のデュッセル通信は、盛君の記事一色だね・・・」って、なんですか?先生、ちょっと寂しそうじゃないですか!もしかして、この企画続けていいってことですか?嫌いじゃないって受け取っていいですか?それなら、話が早い。こんなに読者から人気のあるコーナーなかなかないですから。自信を持って、存分にやらせていただきます!
  その1.先生スーパーの売り物になる
 滝澤先生は本当に勉強熱心です。各選手の走りを見ては、細かくメモを取ってます。いつでもメモがとれるようにだと思うのですが、今回は首からぶら下げているIDにボールペンをさしていらっしゃいました。先生の最大の失敗は、ボールペンをプッシュして、ペン先を引っ込めていなかったことです。首にペンをぶら下げて、ペン先が出たまま立ったり座ったりしたものですから、一日の終わりごろには、先生の「局部」に無数の縦線が・・・・「なぁんじゃこらァァァ?!!」太陽にほえろのジーパン刑事のように自分の局部をのぞきこみながら叫ぶ滝澤先生の姿が目に焼きついて離れません。ほとんどバーコード状態でしたから、あのままスーパーに行ったらレジのおばさんに“ピッ”ってやられてたと思います。もちろん、その後、アロエエキス入りのウェットティッシュで超ゴシゴシやって、滝澤先生も「きっちり仕上げてきた」ことはいうまでもありません。
流れるようなラインでスコーンと前に出る。彗星みたいじゃないですか?
流れるようなラインでスコーンと前に出る。
彗星みたいじゃないですか?
  その2.不採用
 盛選手のゴールドメダルに、先生もいたく感動。「すごいね。たいしたもんだね」を連発。日本のスタッフの間では、香港のワン・カン・ポーも「アジアン・ドラゴン」とか「アジアン・タイガー」とか、かっこいいニックネームがついてるんだから、盛選手にもカッコいいニックネームをつけてあげたいという話になりました。
 「ダッシュ王子」や「中長距離ミサイル」などの凡作が却下されるなか、腕組みをした滝澤先生が、「ここまで来るには、相当努力したんだろうなぁ・・盛君は。これでどう?“アジアの努力家”」
 ・・・一瞬の沈黙のあと、みんな聞こえないふりをして話を続けていましたが「ねぇ、アジアの努力家は?」と何度聞いたことか。聞こえてましたよ!先生!偉大な滝澤先生にあの場では、面と向かって言えませんでしたが、ここでハッキリといわせていただきます。
 却下ですっ!!
 その後も「アジアの大砲」だの「アジアの壁」だのパクリとも、うわ言ともつかぬ迷案を立て続けに繰り出す先生。そもそも「壁」ってサッカーのキーパーにつけるニックネームじゃないですか!(怒)・・・コホン、すみません。ちょっと言葉が過ぎました。尊敬してます先生。(とってつけたようなフォロー)
 あの場では、やっぱり「スピードスター」かなという話になりましたが、盛選手の場合、速いだけでなくライディングに流れるような美しさがあるんですね。それを表現したいです。後で思いついたんですが「Comet(彗星)」というのはいかがでしょう?まだまだ案を募集中です。いいのを思いついたら、こちらあてに送って下さいね。
先生、そのページ「モチベーションはどうやってあげるの?」とか「週何回ぐらいロードトレーニングしますか?」とかそういうページですよね?ね?
先生、そのページ「モチベーションはどうやってあげるの?」とか「週何回ぐらいロードトレーニングしますか?」とかそういうページですよね?ね?
  その3.本気
勉強熱心は先ほど言ったとおりなんですが、ワールドカップで少しでも多く知識を吸収して競輪学校の生徒たちにフィードバックしようと先生も必死です。「“いつも、どんなトレーニングしているんですか?”って英語でどう言うの?」なんて聞いたりして、「やっぱり滝澤先生は熱いなぁ。生徒のためなら英会話だってバリバリ勉強しちゃうんだ」と感激しました。「英会話入門」みたいな本も自分で買われて、暇があれば読んでいるし「先生、本気だな」と思わせました。
 先生がぶつぶつ独り言をいいながら熱心に読んでいるページをそーっと後ろからのぞいて見ると・・・

 第○○章 ショッピング編
 「もう少し安くなりませんか?」
 「別の色が欲しいのですが」

  滝澤先生・・・・(T_T)
 いや、あれは偶然そのページが風で開いたんだと信じてます。トラックはインドアで無風でしたけど間違いなく、あれは風です。
  今回は、日本人選手のレースがいつもより少なかったこともあって、たくさん滝澤先生とお話ができました。競輪学校のトレーニングのこと、生徒の心構えのこと、才能発掘の難しさのこと、あるべき教官とは・・・現場主義の滝澤先生の魂に触れて、まさに「事件は、走路で起きているんだ!会議室で起きているんじゃな~い!」と叫びたくなりました。「俺はやるよ。学校からスゴイ選手を送り出すよ。競輪にも、世界にも」「そうですよ。先生、やりましょうよ。先生なら絶対できます!僕ついていきます!!」「おーし、道は厳しいぞ弱音はくなよ!」(←ふたりともしらふ)
 ワールドカップのプレス席での会話ですが、ほとんど新橋かどこかのガード下居酒屋の雰囲気でしたね。私がつぶれて寝込んじゃって「オイ、カゼひくゾ」って先生がジャンパーかけてくれたら、完璧でした。
 最近、学校制度のせいか熱血先生が少ない気がします。だって、このところヤンクミぐらいですもん。(あの~、それドラマですけど)そういう意味では、競輪学校は普通の教育制度上の学校ではないにしても、滝澤先生に見てもらえる生徒は幸せです。(話をきくとかなりハードにやらされてるみたいですけど)滝澤チルドレンが世界で活躍するのを早く見たいですね。
イギリス・フランスのスプリント競技戦争、世界選ではどうなるか?
イギリス・フランスのスプリント競技戦争、
世界選ではどうなるか?
「ジャパンのモリ?あいつを自由に逃げさせるとまずいぞ」外国人ライダーの間でも、もうそういう認識のはず
「ジャパンのモリ?あいつを自由に逃げさせるとまずいぞ」外国人ライダーの間でも、もうそういう認識のはず
  さて、まもなく世界選です。スプリント系種目は、イギリス・フランス真っ向勝負になるでしょう。それにオーストラリアのシェーン・パーキンス、マレーシアのアジズルハスニ・アワン、ギリシャのクリストス・ボリカキスなどがどうからんでくるか、このあとオーストラリア・パースで最終調整合宿に入る日本チームがどう食い込んで行くのかに注目です。
 エンデュランス系は、クリス・ニュートン、ブラッドリー・ウィギンス、エド・クランシーなどのスター軍団を擁するイギリス、グレン・オシェア、レイ・ハワード、キャメロン・メイヤーなどのオーストラリアも侮れないし、アメリカのダニエル・ホロウェイなどもマークすべき存在です。そして、もちろん日本の盛一大。名前が売れて来ましたから、もはや簡単には逃がしてもらえないでしょう。一方で有力選手も、すでに盛選手の実力を認めていますから、うまく連携できれば有利な面も出てきます。これまで「逃げた後、さらにもう一回駆けられる脚が必要」とよく盛選手は言っていました。ワールドカップでその「もう一回」を見せてくれました。世界選では「もう一回」とさらに最終スプリントで粘る脚も必要になってくるでしょう。「終盤に、連携したビッグネームたちに競り負けなければ行けるゾ」と世界選でのメダルまで期待してしまいますね。
スプリント王国の頂点に君臨するホイ。王座をひっくり返すのは誰?奮起せよ日本チーム!
スプリント王国の頂点に君臨するホイ。
王座をひっくり返すのは誰?
奮起せよ日本チーム!
  最後に、コペンハーゲン大会のケイリンで派手なクラッシュをして、途中欠場となったクリス・ホイ最新情報。落車では、後続選手に頭を轢かれたらしく、ヘルメットにタイヤのあとがついていた(スゴイ!)彼ですが、通訳の増田さんがコーチに聞いたところ、「頭にはたいしたものが入っていないから大丈夫」だそうです(笑)。イギリス人特有のブラックユーモアですが、頭の回転が早く、インタビューに対する受け答えも上手ですし、クリス・ホイの頭には相当つまっているはずですよね。
 私がデュッセルドルフに戻ってから「大丈夫かい?」というお見舞いのメールを出したら、5分で返事が来て「まだ打撲した部分がガチガチで痛みと戦っているけど、骨折もなかったし、世界選には間に合うと思う!世界選でいい成績をとって来年には日本で走りたいね!」と、力強いコメント。ますます楽しみになってきたぞ!トラック競技世界選手権は3月25日から5日間、中央ヨーロッパはポーランドで開催!Don’t miss it !!
 
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