2000年世界トラック選手権自転車競技大会
イギリス・マンチェスター発(現地:10月27日)

【第 5 報】
世界自転車選手権第3日目

  世界自転車選手権第3日は27日、マンチェスターのベロドローム(1周250m、板 張り)で実施され、日本勢では男子スプリント5-8位決定戦(4人で出走)に出 た伊勢崎彰大(千葉)が7位となった。

 伊勢崎は最終周でいったん最後尾に落ちたが、直線での追い上げで3番目に入線した。シドニー五輪スプリント5位のヤン・ファン・アイデン(ドイツ)が初優勝。決勝ではローラン・ガネ(フランス)を2-0で下した。ベスト4入りしたイエンス・フィードラー(ドイツ)は棄権。負けても銅メダル獲得が決まっていたロベルト・キアッパ(イタリア)もガネを転倒させ失格になりメダルを失った。今大会は記録上、3,4位が無しとなった。

 女子500mタイムトライアルはナタリア・マルコフニチェンコが34秒838で優勝。ベラルーシ選手の優勝は旧ソ連から独立後、初めてとなる。

伏兵ファン・アイデンがスプリント優勝

 スプリントの優勝争いは史上まれにみる大ハプニングが続いた。まず、準決勝 第2組に出走予定だった優勝候補のフィードラー(ドイツ)が戦う直前になっ て、胃痛を起こし走る事無く棄権。ファン・アイデン(ドイツ)が不戦勝で決勝 進出を決めた。

 第1組のガネ(フランス)VSキアッパ(イタリア)には、更に驚くべき事態が 待っていた。1本目は先制したキアッパが、反則すれすれの走りでガネの動きを 抑え込み、逃げ切り勝ち。怒ったガネは、キアッパを挑発。これが騒動の引き金 となった。2本目をガネが勝って、勝負は3本目までもつれた。

 キアッパとガネの壮絶なもがき合いはガネが制し、決着はついたはずだった。 ところが、レース後、ガネが握手を拒んだ事から、キアッパが激怒し、ガネを落 車させた。更に高々と両手を挙げて場内を一周したことで、ファンの反感まで買 ったのだ。

 この行為でキアッパは失格。銅メダルを失った。だが、落車したガネの代償は もっと大きく、決勝では力を出しきれないまま、ファン・アイデンにストレート 負けを喫したのだった。

 「あいつ(キアッパ)は許せない。残念なことだ。」とフランスのモレロンコ ーチは嘆いた。

 初優勝したファン・アイデンは、
 「先輩のフィードラーさんが棄権したのはラッキーだった。チャンピオンにな る夢を見たことはあったが、本当に実現することが出来てうれしい。」 と素直に喜んでいた。

伊勢崎彰大(スプリント7位)

 スプリント5-8位決定戦は、バラン(チェコ)が先行し、伊勢崎が2番手、ヴ ィヤヌエバー,ブルガンの順。伊勢崎がバランに突き離された瞬間、後方のブル ガンがまくり気味に追い上げ、直線を力強く伸びて勝った。伊勢崎は4コーナー で最後方となったが、直線大外から懸命に追い込み、1人交わして7着となった。

 初出場だった「伊勢崎の世界選」には非常に大きな収穫であった。「1勝する のが目標」といっていたから、2勝は上出来である。それに優勝したファン・ア イデンとは、準々決勝で顔を合わせ、2-0で敗れたものの、2本目は好機に主導 権を奪って、誰もが勝ったかと思われたほどだった。ゴール寸前でかわされた が、互角の勝負を演じたのは確かだ。

 「十分アピールできたと思う。競輪学校同期の長塚がシドニー五輪で頑張った し、これから(長塚には)負けていられない。」 と胸を張る。

 もともと高校時代から輝かしい実績を積み上げてきたエリート。長塚にはライ バル意識を持って当然。

 「シドニー五輪には行けなかったが、今回の国際大会が僕には世界の第1歩。 大舞台でいいものをつかんだ。」 とアテネ五輪への手応えを口にする。

 伊勢崎を下したフランスのブルガンも20歳と若い。4年後のアテネ五輪では、 この二人が好ライバルになっているかもしれない。

スプリント

2~4名の競技者が笛の合図とともにスタートし、先着したものを勝者とする競技。人間のスプリント持続時間は長くても10数秒間、距離にすると200m程度といわれるが、フルパワーを発揮して疾走するシーンは迫力あり。さらに選手にとってやっかいなのは目に見えない風圧と呼ばれる空気の壁。先行か追い込みかによって体力の消耗度も違うが、ゴール手前200mぐらいまでは仕掛けのタイミングをめぐって様々な駆け引きが行われる。ゴール手前の爆発的なスプリント合戦と、それまでの様々な駆け引きがこの競技のポイントだ。

参考文献:シドニーオリンピック自転車競技日本選手団プロフィール
(監修・日本自転車競技連盟)

女子500メートル・タイムトライアル

  この種目は、本命不在で今大会最も勝者の予想がつかないと言われていたが、 勝者は4人目に登場したベラルーシのナタリア・マコビニチェンコ。28日に行わ れるスプリントに絞って調整を続けてきたのだが、脚慣らしのつもりで走ったタ イムトライアルでただ1人35秒を切る34秒838のタイムで国際大会初の栄冠を手に した。このマコビニチェンコがいかに知られていないかは共同記者会見の席で最 初に質問に立った記者が「あなたのプロフィ-ルを教えてください。」というこ とからも分かる。

 「目標はなく、ただベストを尽くすことだけを考えて走った。待っている間は とても緊張したわ。」 と突然のスポットライトに戸惑い気味の新女王は、ミンスク出身の25歳。13歳か ら自転車競技を始めたが、20歳の時に結婚していったんは引退。現在3歳になる マリアちゃんをもうけ幸せな生活を送っていたが、昨年スコビエフ・スタニスラ ブ・コーチに巡り合って、瞬く間に素質を伸ばした。

 「彼のコーチングがよかったおかげで優勝することができた。きょうの勝利は 彼の勝利でもある」とコーチと抱き合って喜びを分かち合った。

 

女子個人追抜

  地元イギリス自転車界の女王:イボン・マグレガーが大声援をバックに快走。 前日のポイントレースで金、銀を分け合ったマリオン・クリニエ,ジュディ・ア デットらを押さえ、予選を1位で通過した。

 「前日まで体が重く心配な面もあったが、きょう6時に目が覚めると体がとて も軽く感じた。オリンピックの後も、体を休める選手が多い中、私は自分に厳し いノルマを課し、努力した結果が出て本当にうれしい。もちろん明日は優勝を狙 うわ。」 と銅に終わったシドニーの雪辱を誓ったママさんレーサー。今大会地元イギリス から初の金メダルなるか注目される。

 


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