WEB月刊競輪世界選レポート(4日目)
 
第5報 【3月27日】  

  
 オランダ・アペルドールンでの世界トラック選手権も終盤に突入した。第4日の日本勢は男子ケイリンと男女のオムニアムに登場したが、世界の壁の厚さを痛感させられることとなった。
 女子スプリントでは5連覇を狙う女王、ヴィクトリア・ペンドルトン(英国)に初優勝を狙う3人が挑み、世界一の称号を巡って激しく火花を散らした。
  【男子ケイリン】

 今年のアジア選手権覇者の浅井康太(26=三重)が満を持して今大会初登場。渡辺一成(27=福島)、北津留翼(25=福岡)とともに上位進出を狙った。1回戦、敗者復活戦とも1着のみが2回戦に進めるという狭き門に3人が立ち向かった。
<1回戦>

 渡辺が入った第1組は5人での争い。北京五輪短距離3冠のクリス・ホイとジェーソン・ケニーの英国勢ら、強豪がひしめく組になった。渡辺はケニーとホイの間の3番手を進み、残り1周で踏み込んだが外からホイにまくられると前に出られず4着。「ホイさんと踏みあいになって、負けました」と振り返った。


渡辺一成選手
 

 第2組の浅井も5人での競走。ジョサイア・ヌグ(マレーシア)の後ろの3番手で進んだ。残り2周半となったところで、マキシミリアン・レヴィ(ドイツ)が一気に前へ出ると、浅井はそれに反応できず最後尾に。そのままフィニッシュラインを通過した。「体が硬くて、何も持ち味が出なかった」と悔いの残るレースになった。


浅井康太選手
 

 北津留の第6組もミカエル・ブルガン(フランス)、サイモン・ヴァンヴェルトホーヴェン(オランダ)ら強豪がそろい、6人での争い。北津留はブルガンの前の4番手につけた。残り1周手前でブルガンが外から交わしにかかると出られず、最後尾から追い込みにかけたが5着が精いっぱいだった。


北津留翼選手
 
<敗者復活戦>

 まず浅井がシェーン・パーキンス(オーストラリア)のいる第3組で登場した。道中は最後方の5番手で力をため、ペーサーが退避した後の最終コーナーで、前が外に膨らんだ隙を狙い澄まして、内に入り前へ。残り1周で先頭に立ち、得意の先行パターンに入ったが、ゴール手前でパーキンスの猛烈な追い込みに屈し、3着に終わった。「いいスピードで行けたし、自分のレースができたのに負けた。悔しいです。ずっと課題にしているトップスピードを上げれば、もっと楽に回せるようになる。オリンピックを目標に、やるしかないですね」と今後の成長を期した。


浅井康太選手
 

 渡辺と北津留はともに第5組。スタート直後に北津留が先頭に立ち、ドイツのレネ・エンデルスがその番手を主張したが退けて渡辺が2番手を進んだ。残り2周手前で北津留が目いっぱい踏み始めると渡辺との車間が空き、2番手にエンデルスが入ってしまった。北津留がエンデルスの脚を温存させて引っ張る形となってしまい、渡辺の懸命の追い込みも及ばず、日本勢全員の敗退が決まった。北津留は「逃げ切るつもりで踏んだが、自分が中途半端になってしまった」と悔やみ、渡辺も「翼が頑張ってくれたのに、上手く立ち回れなかったのが悔しい。ちょっと意思の疎通が欠けていた。車間を空けていくのは作戦だったけど、あの状況では空けずについていった方が良かったかな」と反省。「レース展開は見えているけど、脚がついていかない。見てわかっているのと走るのは違う。もっともっと場数を踏まないと」と一瞬の隙で勝負が決まる世界レベルの戦いの難しさを口にした。


渡辺一成選手
 
<決勝>

 決勝は力が落ちてきていると思われたクリス・ホイが、優勝に向けパワフルな走りを見せるのか、あるいはまた他の実力選手たちがクリス・ホイを破ってくるのか注目の一戦となった。
 決勝に進出したのは、シェーン・パーキンス(オーストラリア)、クリス・ホイ(イギリス)、マシュー・クランプトン(イギリス)、 テーン・ムルダー(オランダ)、レネ・エンデルス(ドイツ)、エドワード・ドーキンス(ニュージーランド)の6人。
 レースはパーキンスが、イギリス勢が連係しようとしたところを、上手く崩して、最終バックから捲って、初の金メダルに輝いた。
 優勝後のインタビューには、興奮状態で「とても嬉しいです、信じられない!!」の一言。また2位のクリス・ホイ(イギリス)は淡々と「また来年頑張っていくだけです」とこちらも簡単なコメントとなった。地元の大声援の中、優勝に向けて気合いの入る一戦となったテーン・ムルダー(オランダ)は、中団から捲る展開となったが惜しくも3位だった。レース後、ムルダーは「これだけの観客が集まり、これだけの声援の中で走れたこと、銅メダルを獲れたことは幸せです」

シェーン・パーキンス選手
男子ケイリン表彰台
 
  【女子オムニアム】

 ポイントレースで日本女子最高の4位と健闘した上野みなみ(鹿屋体育大学)が出場した。「いい経験をして、今後につながるように学べたらいい」と250mタイムトライアル、ポイントレース、エリミネーションの前半3種目に臨んだ。


上野みなみ選手
 

第1種目:250mタイムトライアル

 「タイム系は苦手なんです」と本人も苦戦を覚悟していた。目いっぱいペダルを踏んだが、記録は16秒837。トップから2秒以上遅れて、24選手中最下位での滑り出しとなった。

第2種目:20キロポイントレース

 オムニアムが五輪種目に採用され、有力選手が多く出場していることもあるのだろう。序盤からハイペースの展開となった。そして10周目、大アクシデントが上野を襲う。中断でベラルーシ、香港の選手と絡んで落車。トラックに大きな傷が残り、レース後に修復作業が施されたほどの激しい衝突だった。その後もしばらく走り続けたが、痛みをこらえるような表情で、ペースも上がらない。17周目に集団から周回遅れとなり20点を失うと、30周でレースをやめた。肋骨の痛みを訴えてアペルドールン市内の病院へ直行。診察の結果、肋骨の骨折が判明し、その後の競技は棄権した。初参戦の世界選手権は好調な滑り出しだったが、最後にまさかのつらい結末が待っていた。今は一日も早い回復を祈りたい。

 この競技の注目選手は、カナダのタラ・ウイッテン、アメリカのサラ・ハマーなど。
ではレースに移ろう。
第1種目:250mタイムトライアル
 バンク1周のタイムを競うフライングラップの一番時計は、スペインのレイレ・オラベリア・ドロンソロ。14秒469をマークし、まずトップに出た。2番時計はカナダのタラ・ウイッテンで14秒691で続いた。
第2種目:20キロポイントレース
 ポイントレースは、早めからベラルーシのタチアナ・シャラコヴァ、オーストラリアのエイミー・キュアー、ポーランドのマルゴザタ・ヴォイテラがラップし勝負を決めた。
第3種目:エリミネイション
 エリミネイションは2周回ごとに1名が脱落していくレース。サバイバルレースとも言えるこのレースを勝ち抜くには、相当の体力、気力が必要となる。
このレースを勝ったのは、ロシアのエヴゲニア・ロマニウタだった。
 女子オムニアムは明日の3種目を終えた総合成績できまる。
 
  【男子オムニアム】

 盛一大(愛三工業レーシングチーム)が後半3種目に挑んだ。苦手なタイム系競技でどこまで踏ん張れるかが試された。


盛一大選手
 

第4種目:4キロ個人追抜

 盛が一番の難関だと自覚する種目だ。懸命にペダルを踏むが、やはり他の選手に比べてもスピードが乗っていかない。中盤にやや盛り返したが、後半にかけて少しずつペースが落ち、記録は4分53秒909。トップとは約29秒、20位の選手とも6秒以上の差を付けられた。21選手の中で最下位となり、総合順位も前日の16位から18位にダウン。トラックから降りる際は、わずか5段ほどの階段も手すりに懸命につかまりながらでないと降りることができず、しばらく立てないほど疲れ切っていた。「苦手というか、避けて通れないんですけど、この結果がすべてを示している。(ロードの集団走ではなく)独走力、パワーが足りない」と課題を突きつけられる結果となった。

 

第5種目:スクラッチ(15キロ)

 この日唯一の長距離種目で、少しでも順位を上げたいところ。昨年銅メダルを獲得した走りの再現に期待がかかった。しかし前日のポイントレース同様、淀みのないハイペースでなかなか前に進出できない。終始中団から後ろの位置取りとなり、残り10周を切って7人の先頭集団のペースが上がると、大集団は周回遅れにされた。さらにラスト1周の鐘で集団がラストスパートに入ると、盛はあっという間に置いていかれ、完走した選手の中で最下位の18位でゴールした。総合順位は18位で変わらず。
 

最終種目:1キロタイムトライアル

 2日間にわたる長丁場の戦いも、ようやく最後の種目。残った力を振り絞り、懸命にペダルを踏んだ。記録は1分9秒442で20位。総合順位は18位となった。

 戦いを終えた盛の第一声は「小学生と高校生が戦っている感じ。この差は見て見ぬふりができない」だった。「去年も同じことを言っていると思うんですけど、タイムトライアルの強化をしないと、話にならない。今までの練習方法では成長がないし、世界レベルについていけない。根本的な脚力、パワーや瞬発力はロードの練習では補いきれない部分がある」と来年のロンドン五輪へ向けて、危機感をあらわにした。
 スクラッチやポイントレースなど「タイム系の分を取り返そうと思っていた」長距離種目でも不本意な結果に終わったという事実も重くのしかかる。「今回は普段の走りができず、トラック用の自転車に上手く乗れていない感じがした。来年はトラックシーズンが開幕する前に、もっとトラック用の練習をして、下地を作って臨みたい。足りていない練習をやれば少なからず変化が出てくるし、参加するだけじゃなく戦えるようにならないと意味がない」と言葉の端々に、巻き返しへの決意がにじんだ。

 男子オムニアムで優勝したのがマイケル・フライバーグ(オーストラリア)だ。
 フライングラップで12位、ポイント5位、エリミネイション5位、個人追抜5位、スクラッチ1位と、タイムトライアル6位となったフライバーグが1位に輝いた。「正直、自分はかなりナーバスになっていました。出来るだけ自分の欠点をカバーするということに気をつけていました。早く両親にこの優勝を報告したいですね。これからもっともっと強くなっていきたいと思うし、オリンピックの前の年に世界選のチャンピオンになれるなんてラッキーだし、本当に信じられないです。来年に向かって頑張っていきたいと思います」
マイケル・フライバーグ選手
男子オムニアム表彰台
 
  【女子スクラッチ】

優勝:マリアンヌ・フォス(オランダ)

 地元勢がここ4日間、全く表彰台に上がれず、地元のファンのため息が聞こえる中、マリアンヌ・フォスが、意地を見せて女子スクラッチで見事優勝を飾った。
 残り15周から、6人の選手がアタックをかけ、それが前団をつくった。残り2周、最後の力を振り絞ってのスプリントが始まり、3番手に付けていたフォスが残り半周から踏み込み前に出、そのまま押し切って優勝を決めた。場内は割れんばかりの拍手に包まれた。
「非常に難しいハードなレースでした。でも、最後のスプリントまでよく頑張ったと思います。チャンスを上手く活かせたと思います。でも、いくつかチャンスはあったと思いますが、そのチャンスを逃さず走ることは決して楽ではありませんでした。とにかくベストを尽くしました。これだけの自国の観客の前で走り、勝てたことは本当に嬉しい。皆の声を聞きながら一生懸命走りました」と、ほっと安心した表情でインタビューに応じてくれた。

マリアンヌ・フォス選手
女子スクラッチ表彰台
 
  【女子スプリント】

 この世界選手権では、スプリントを一日で行うのではなく、2日間に分けて行った。ここのところ若手の台頭が目覚ましい女子スプリントではあるが、結局決勝に進出したのは、昨年の覇者のペンドルトンを準決勝で破り、昨年のケイリンの金メダリストのシモーナ・クルペシカイテ(リトアニア)とアンナ・メアーズ(オーストラリア)。しかし、クルペシカイテからストレート勝ちでメアーズが優勝を決めた。
「スプリントが本当に勝ちたかったので、本当に嬉しいです。2004年にセミファイナルに乗れた時から、いつかは優勝したいと思っていました。(ヴィクトリア・)ペンドルトン(イギリス)は非常に強くて、勝つことは容易ではありませんでした。これで英国、オーストラリアのライバル戦が続いていくということになります。来年のオリンピックに向けて頑張りたいと思います」表彰台ではただ嬉し涙を流すメアーズだった。

アンナ・メアーズ選手
女子スプリント表彰台
 
 
  
~アペルドールンから~
本日初めて、自転車競技場の外に出ました昼間に。

昨日まで、お昼過ぎのスタートで、本日からいきなり10時スタートと早くなってしまったんですね。

それでお昼に外に出れたわけなのですが、これがなんとも気持ちよかったです。
三日目までは、気温が比較的高くて、過ごし易かったのですが、今日はちょっと冷え込んで結構寒かったです。
自転車競技場の外

しかし、アーペルドールンの街の方々は当然元気!外にある臨時の売店で、寒くても平然と食事をしていました。
我々も、ここで食べるものを買い込みプレス席へ。外はまだ寒いですよね。
臨時の売店
日本への募金活動

本日の注目レースは当然ケイリン。
日本から渡邉一成、浅井康太、北津留翼の3選手が出場したわけですが、残念ながら二回戦に勝ち上がる事はできませんでした。
しかし、レース内容は、今まで以上に良いものがありました。
 
渡邉選手の1回戦は、クリス・ホイ相手に(強敵はそれだけではありませんが)、中団から先捲り、上手くホイを止めながら行った!と思ったら、その上を行かれてしまいましたが、このようなレースが出来れば、レースの組み立てのバリエーションが出来るので、今後が楽しみですね。
浅井選手の1回戦は、ちょっとレースの組み立てが思い通りにならなかったのはありましたが、敗者復活戦では、良い形で先行しているので後はパワーと持久系をもう少しアップすればかなり世界選で常時勝ち上がれると思います。
敗者復活戦の北津留翼選手と渡邉一成選手
敗者復活戦の浅井康太選手
それにしても各国、オリンピック種目に対する強化は進んでいます。外れた種目は、若手の育成の場となりつつありますね。

オリンピック種目ばかりがトラックサイクリングの種目では無いので、もっと他種目に力を入れて欲しいと思います。難しいとは思いますけど。
 
 
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