WEB月刊競輪世界選レポート(最終日)
 
第6報 【3月28日】  

 オランダのアペルドールンで観客を熱狂の渦に巻き込んだ2011年のトラック世界選手権も現地時間の27日、最終日を迎えた。男女の4種目が行われ、日本勢の大トリで新田祐大(25=福島)が1キロタイムトライアルに臨んだ。
 大会の最後を飾ったのは女子ケイリン。昨年覇者のシモーナ・クルペクカイテ(リトアニア)はもちろん、短距離三冠を狙うアンナ・メアーズ(オーストラリア)、スプリントの5連覇を阻まれたヴィクトリア・ペンドルトン(英国)、2年ぶりの優勝を狙う郭爽(中国)もいる。多士済々の強豪が繰り広げた、華麗なる高速バトルの結果は、果たして―。
  【男子1キロタイムトライアル】

 新田は出場した20選手中10番目で登場した。集中を高め、気合十分で発車台へつくと、大きく深呼吸して「よっしゃ」とひと声。カウントダウンを聞き、全速力で飛び出した。
 最初の1周は全体9位の18秒848。しかしその後、順位が徐々に下がっていく。結局、1分4秒201の16位。記録の出にくいトラックではあるが、タイムも順位も、不本意な結果となってしまった。「久しぶりに4秒台になってしまった。伸びがなくて、タイムがずっと落ちていってしまった。1年間、ここに向けて頑張ってきたつもりだったが、その1年間がダメだったんだなとわかりました」とさすがに落胆の色は隠せなかった。
 記録向上を目指し、勝負した結果ではあった。「これで世界選手権は3度目だけど、一昨年は普通に走って1分3秒台、去年は序盤から飛ばして1分3秒台。1分2秒台を狙うためにギアを大きくして、さらに後半にタレないようにと思った」と話す。しかし「ギアを大きくした分、スピードが乗っていなかった」と裏目に出てしまった。
 新田はチームスプリントでは第3走者を務める。その点からも、この種目の記録向上は意味を持つ。「残り500を切ってからのタレ具合が大きい。苦しくなったところからの持久力が課題」と克服すべき点は明確につかんでいる。では、現状をどう打破するのか。「1キロ的な練習はしてきたけど、1キロをちゃんと走る練習はしていなかった。実走で風を受けて走る練習をしないと」。「今までは自力で走る練習をしてきたけど、それで出せるのは3秒台までかな。今後はオートバイに引いてもらって、自分の限界を超えたスピードを体に染み込ませてみようと思っている。そのスピードに慣れておかないと、オーバーヒートして一気にタイムが下がってしまうので」。苦い思いを糧とするため、早くも新しいアプローチを描き、巻き返しを期した。


新田祐大選手
 

 この種目、シュテファン・ニムケ(ドイツ)が1分00秒793のタイムで2009年以来の優勝を飾った。
 昨年優勝したテーン・ムルダー(オランダ)は、レース前半、ニムケを上回る勢いでバンクの周回を重ねたが、結局は届かず1分01秒179で銀メダルを獲得した。
 ニムケは勝利者インタビューで、「昨年、優勝出来なかったので、今年は優勝したいと狙っていました。世界選で結果を出せて嬉しかったです。とても集中していたので、トラックがキレイに見えていました。メダルを獲るつもりでいたけれど、でも、ムルダーの地元だし、勝てないんじゃないかと思ったので、正直驚いています。この種目がオリンピック種目から外れているのは残念だけど、金メダルを獲れたのはとっても嬉しいです」と話した。
ステファン・ニムケ選手
男子1キロタイムトライアル表彰台
 
  【男子マディソン】

優勝:オーストラリア

 50km200周を二人で交代しながら走り、20周ごとにポイント周回(スプリント)がくるハードでスピーディーな種目がマディソンだ。
 今回を振り返ると、やや、小粒なレースだったように感じる。これは印象であって、実力を指すものではない。だが、積極的にアタックするチームがは無かったのが少し残念であった。
 レースは残り67周にチェコがラップに成功する。残り56周でオーストラリアもアタックを開始、他のチームが懸命に追うものの追いつかず、残り40周目に1位通過で5ポイントを取り、そしてラップに成功した。これでチェコを抜いて1位に立ち、結局これが逆転されることはなく、マイヤー&ハワードのコンビでマディソン2連覇を果たした。
 久しぶりにトラックの世界選手権に出場したテオ・ボス(オランダ)は、ピーター・スケップ(オランダ)とコンビを組み、ポイント周回になるとテオに交代し、その脅威的なスプリント力でポイントを重ね3位に入った。2位はラップしたチェコ。

オーストラリアチーム
男子マディソン表彰台
 

キャメロン・マイヤー(オーストラリア)

「大変いいレースだったと思います。最後まで脚はしっかりしていましたしね。他の国からマークされることは予想していました。フランスやコロンビアと争ったけども、勝てて良かったです。それは自分たちの脚がしっかりしていたからだと思います。スクラッチもポイントも金メダルが獲れなかったので、今日はどうしても金メダルが欲しかったのでとても嬉しいです。オーストラリア・チームは何個も金メダルを獲ることが出来たし、これが今後のやる気にもつながりますね」
 

リー・ハワード(オーストラリア)

「僕はマディソンが好きなので、どうしてもこのマディソンに懸けたかったんです。逃げる時は、いけると確信した時でないとならないから、周りを見ながら行きました。このマディソンはオリンピックの種目ではないけど、オリンピックに選ばれるように、これから頑張っていきます」
 
  【女子オムニアム】

優勝:タラ・ウィッテン(カナダ)

 ウィッテンが、フライング・ラップで2位、ポイント・レース8位、エリミネーション4位、個人追抜2位、スクラッチ2位、そして500mタイムトライアル5位と全ての種目で10位以内をキープし、昨年に続きオムニアムで金メダルを獲得した。

「また優勝することが出来て、非常に嬉しく思っています。もちろん勝つために来ましたが、もう一度優勝することは難しいだろうなと思ってはいました。レースは、他の人の動きなどを見ながら、上手く走れたと思います。でも、どこでミスをするか分からないし、最後まで気持ちは抜けませんでした。これからロンドンを目指して頑張りたいと思うし、ちょっと数週間休んでから、次への計画を立てていきたいと思います」
 この種目は上野みなみが出場していたが、昨日の落車の怪我でリタイヤとなっている。

女子オムニアム表彰台
 
  【女子ケイリン】

優勝:アンナ・メアーズ(オーストラリア)

 若手を代表するオルガ・パナリナ(ベラルーシ)の台頭が目覚ましく、ここも決勝戦進出を決めてきた。それらがベテラン勢の牙城を崩す事が出来るのかどうか、興味深い決勝戦となった。
 決勝戦、残り2周となったところで郭爽(中国)が前へと出るがこれに競りかけたリサンドラ・グエラ・ロドリゲスに残り1周半での落車のアクシデントが起こった。最終ホーム・ストレッチからメアーズが先行、後ろはクララ・サンチェス(フランス)が取り、その後仕掛けるも伸びず、結局メアーズが逃げ切って1位。最後、追い込んできたオルガ・パナリナ(ベラルーシ)が2位、メアーズをマークしたサンチェスは3位になった。
 メアーズは1回戦、2回戦、決勝戦と全て逃げ切って1着だった。「今日はとても充実した1日がおくれました。リラックスしてレースに臨めましたし、自分を上手くコントロールして走ることが出来たと思います。レースでは、他の人のことは考えずに走りましたよ。でも、サンチェスはよく頑張っていたと思います。自分の今回の目標は、スプリント、ケイリン、チームスプリントで金メダルを獲ることだったので、それが全部獲れたなんて嬉しいです。チームメイトのカール(・マックロック)も強いし、これからどんどん頑張ってくれると思います。自分も来年に向けて頑張っていきたいです」
 3位のサンチェスは
「もう少しだったのに惜しかったです。最後、パナリナが近づいていたことに気づきませんでした。かなり悔しいですね…」と話した。

アンナ・メアーズ選手
女子ケイリン表彰台
 
  【大会総括】

 日本の選手たちは今大会、全員が東日本大震災の犠牲者を悼み、左腕に喪章を付けて戦った。大会終了後、開会式の黙とうや募金箱の設置など、数々の暖かい思いを寄せてくれた大会主催者に感謝の意を表し、日本チーム全員のサインが入ったジャージをプレゼントした。収容5000人の会場を埋めたオランダの観衆からも、暖かい拍手が日本の選手たちに降り注いだ。
 2011年のトラックシーズンは世界選が終了して一区切りがつく。今シリーズを振り返ってみれば、日本勢はワールドカップで好成績を残したものの、世界選手権では成績を残せなかった。これはどのような事かと吉井監督代行に尋ねたところ、選手というよりも、コーチングスタッフやサポートの体制に問題があり、チームの態をなしてなかったと話された。選手個々の実力は高い事は証明されているが、そこを更に伸ばす事が出来なかったと反省されているようだ。それは、我々が取材していても感じられていたポイントでもあった。そのような事がスタッフの口から出てきたのは、日本チームが普通に強化できる体制になりつつあるのかもしれない。
 いずれにしても、優秀なコーチ、監督がいなければ、世界に太刀打ちできるわけがない。
4月以降には、早急に立て直しを図り、メダルをコンスタントに狙えるチームを目指していただきたい。外国勢はどうか。これは、きちんとしたシステムの中、新しい選手との交代も進んでいて、現在、力が無くなってしまったベテラン勢は淘汰されつつある。このようなところを見ても、我が日本ナショナルチームは、大きな課題を抱えていると言えよう。
 

<吉井功治監督代行・大会総括>

 正直、大会前のワールドカップの成績が今回はここ数年で一番良かったので、短距離男子でひょっとしたら一つメダルを、という気持ちで来たが、現実はケイリン、スプリント、チームスプリントも、すべて思ったよりも成績が良くなかったというのが正直なところ。ワールドカップの成績が良かったのはナショナルチームの合宿などでレベルを上げたというよりも、実際に各個人が普段のトレーニングの中で強くなったというのが実情。本当に個の力で戦ってきたのが今年のワールドカップだった。今後はオリンピックというレベルの高い大会を戦おうと思った時には、個人個人のトレーニングだけでは限界がある。もう少しナショナルチーム全体のコーチングスタッフ、あるいは会長や役員会にも、もっともっと理解をしてもらって、ナショナルチームが一つに固まってやっていかないと。もう強いチームとそうじゃないチームがはっきりし始めているので、そこは早急に考えないといけないと思う。
 いろんな形で連盟も変わらないといけない時期にある。実際チーム的なものでも、体制が変わるようなことで。もちろん現状の選手は変わらないが、コーチ陣や監督を含めたスタッフが一番変わらなければいけないのは痛感している。オリンピックに向けた強化体制ということで言えば、今回JISSの方が3人来て、コーチングスタッフにも解析の能力が高い村田コーチがいる。その辺の人間で、今回の世界選手権や今までのワールドカップ、アジアの大会でビデオを撮ってデータを取ってきた。今年はどうだったのかというのを、そういう部分からもしっかり反省して、分析をちゃんとした上で、今後の計画というか、どういう風に戦っていくかを考えて、オリンピックでメダルを取れるところに持っていければ。
 
 
  
~アペルドールンから~

2011年のシーズン最後を飾るUCIトラックサイクリング世界選手権は無事、3月27日に閉幕しました。
 今回のシリーズを振り返ると新旧の入れ替わりがポイントでしょうか。
各国の選手達が昨シーズンに比べ、大きく変わってきたと感じました。
特に、北京オリンピックで活躍した選手達の実力が、落ちてきているのが見られ、また若い選手が伸びてきていると感じました。
それと、オリンピックポイントで、ある意味ワールドカップの勝敗で取れている国は大胆に、若手の起用をしてきたのかもしれません。

いずれせよ、遅かれ早かれ交代はあるわけなので、上手く若い選手に交代できる体制が必要でしょう。

さて、本日は新田祐大の1000mタイムトライアルしか、日本人の活躍はありませんでした。上野みなみが出ていれば、今日も元気に走っていたはずなんですけどね。
新田祐大選手

さて本日の見どころは、やっぱりトラックの花形競技マディソン。でした。
やってくれますよねオーストラリアは。
キャメロン・メイヤー&リー・ハワードのコンビは最強です。昨年のマディソン優勝に引き続き大会2連覇を達成したのは本当に凄いですね。
オーストラリアチーム

そして、なんとテオ・ボスが出場して3位に!これは凄いですよね。近代では、短距離の世界王者が中距離に出場しメダルを獲得するなんてあったのでしょうか?
また気合いと根性をニュージーランドに見せてもらいました。
落車してボロボロでも走る!気合です!
オランダチーム
テオ・ボス選手
ニュージーランドチーム
 

アンナ・メアーズの写真はケイリンを優勝した直後の写真。頭はゲイリー・ウエスト監督です。
アンナ・メアーズ選手とゲイリー・ウエスト監督

2011年シーズンも終わり、新しいシーズンに向け大きく羽ばたいて欲しいです!
頑張ろう日本!
 
 
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