WEB月刊競輪世界選レポート(5日目)
 
 
第6報【4月8日】
 
【男子ケイリン】
 合計6組で1着のみが勝ち上がる予選で、ともに福島に所属する新田祐大(26)渡邉一成(28)が素晴らしいレースを見せた。1組で出た新田は残り1周の鐘と同時に先頭のマレーシア選手の外側につき、最後の直線で差し切った。昨年覇者で地元ファンから大きな声援を送られたパーキンス(オーストラリア)に仕事をさせず「思った通りのレース展開になった。最高の位置にいられた」と会心の表情で振り返った。
 「後輩に負けてられない」とバンクに立った渡邉も続いた。残り1周を4番手で迎え、外から一気にまくる持ち味を生かしたスプリントを見せて1着でゴール。「走っている最中から読み通りの感じになった。勘がさえていたのかな」と日本チームのピットに戻り、白い歯を見せた。レース前日の7日は一日休みを取り、肉体も神経も休養に努めたという。「体が軽かった」と体調管理の勝利でもあった。

 準決勝は2組で行われ、6人から3人が決勝へ勝ち進む。敗者復活戦を経由せずに迎えることに渡邉は「日本選手は他の国に比べて体力も劣る。本数を少なくして上へ進めたのはプラスになるはず」と意気込んだ。

新田祐大選手

渡邉一成選手


【女子個人追い抜き】
〔予選〕
 日本からは上野みなみと田畑真紀が参加。上野は3分44秒644で20位、田畑が3分44秒501で19位。2人とも自己ベストを大きく更新し、自信につながったレースになった。特に上野は自身が持つ学生記録を大幅に更新となった。
 そして、1-2位戦に進出となったのは3分27秒268を出したシャンクス(ニュージーランド)と、3分27秒842のフーヴェナゲル(イギリス)。3‐4位戦は3分28秒474のキュア(オーストラリア)と3分28秒869のアンクディノフ(オーストラリア)の対決となった。

上野みなみ
「設定していたタイムよりも良いタイムが出たので嬉しいです! 今回走っていて、すごく楽で、一定にタイムを刻むことができました。走り方が自分に馴染んできたというか・・・良かったなと思います。でも、自己ベストを出しても世界に敵ってないので、これで喜んでいてはいけないのかなと思うんですけど、でも、少しずつ近づいているのも分かるので・・・ずっと加瀬さん、田畑さんとの差があって不安だったんですけど、今回走って2人とそんなに差がないんだって分かって自信になりました」

上野みなみ選手

田畑真紀
「タイムはもっと出したかったけど、でも、自己ベストを1年以上ぶりに更新できて良かったです。今シーズンも51秒しか出せてなかったので、最後に出せて良かったです。トレーニングの積み重ねができて、パワー値も上がっているのはデータでも出ていたし、練習の中でも出ていたので、自己新は出せるだろうなって思っていました。レースを重ねて、練習を重ねたら、また面白いレースができるのかな。まだまだやることはありますね。(自転車で)色んな経験ができて、チャレンジして良かったなと思います」

田畑真紀選手


【男子ケイリン】
2回戦(準決勝)
 2回戦に出場した渡邉一成(28=福島)と新田祐大(26=福島)はともに1組目に入った。新田が「五輪の選考レースでもあるので」と話す通り、チームで協力する作戦はとらず、真剣勝負でお互いが決勝を目指すレースとなった。残り2周となって、最後尾の位置から新田が前に上がってレースが動くと、渡邉は最終周回で内側から切れ込み、2番手を死守した。
 新田はスプリント勝負でかわされ、惜しくも4着となり、決勝を逃した。それでも「日本選手はこれまで世界選手権では予選で姿を消すのが普通だった。それがあと1人抜けば決勝というところまでくることができた。自分にも可能性があることが分かった」と胸を張った。

二回戦

7~12位決定戦
 「負けた選手の試合だから1着だけを狙おう」と飛び出した新田だが、流れにのみ込まれる形となり、最後尾の12位に終わった。「駄目だった。力と技術が足りないですね。もうちょっと力をつけないと戦えないです」と2回戦の結果からは一転、謙虚に振り返った。 今大会はチームスプリントのメンバーに入れず、悔しい思いをしたというが、「世界に出たときの走り方とか姿勢のようなものが少し分かりました」と大会を通じた収穫はあったようだ。

順位決定戦7-12位

決勝
 メダルを取れば男子ケイリンでは1993年の吉岡稔真以来19年ぶりとなる大一番となった。渡辺はブルガン(フランス)をマークしたが、レースの動き所をとらえることができず、残り2周、最後尾から抜け出すことはできなかった。内側から必死に抜け出そうと試みるも、脚力の差から前に出ることができない。「このコースを行けばメダルは狙えるというのはあるが、そのための足がないんですよね。200メートルのフライングスタートで10秒を切る力がないと厳しい。前もスプリントで伸びているわけですから。決勝は6人なのに5人で勝負をされているような感じになった」と反省の弁が口をついた。順位はヴァン・ヴェルトホーヴェン(ニュージーランド)が違反で降着となったため、5位。8度目の世界選手権で初めて決勝の舞台へ進み、世界の壁を改めて感じ取ったようだ。
 優勝したのは北京五輪覇者のベテラン、クリス・ホイ(イギリス)。「いつもだったら外側から仕掛けるけど、内側からいった。今回はうまくいったよ。ロンドンオリンピックに向けて一番の大きな試合で結果を出せた。自信がついたよ」としてやったりの表情だった。

決勝戦1-6位

表彰式


【女子500メートルタイムトライアル】
 日本から唯一出場した前田佳代乃(鹿屋体育大学)は35秒668で18位。「日本記録は狙いにいったけど、長い大会期間の最後のレースだったので」と少し疲労があった様子だった。今大会ではスプリントでの五輪枠獲得をメーンに戦っただけに、500メートルの練習は十分に積めなかったこともタイムが伸びやんだ原因という。次戦となる4月22日のチャレンジ・サイクル・トラックレース(前橋)に向けて「オリンピック代表となれるようにしっかりアピールしたい。日本記録を出せればいい」と目標を語った。

前田佳代乃選手

 女子の最終種目で有終の美を飾ったのはアンナ・メアーズ(オーストラリア)。33秒010の世界記録を樹立した。今大会ではケイリンで金メダル、スプリントで銅メダル、チームスプリントで銀メダルを取っており、4つ目のメダル獲得と大活躍。国内に熱狂的なファンを持つ女王は「8年前に勝って以来、世界選手権で10個目のタイトルになったわ。ロンドン五輪に向けていい弾みがついた」と喜んでいた。

表彰式


【女子個人追い抜き】
〔決勝〕
 決勝戦はシャンクス(ニュージーランド)対フーヴェナゲル(イギリス)。ペースで上手く駆けたシャンクスが3分30秒199で金メダルを獲得した。
 銀メダルのフーヴェナゲルは3分32秒340。
シャンクスは
「予選は本当に速いタイムでした。しかし私は決勝に進出して絶対に自己ベストを更新したいと思っていました。ニュージーランドのトラックサイクリングのファンに優勝を見せる事が出来て良かったです」

表彰式


【マディソン】
 昨日のポイントレースを見ていれば、オーストラリアのマイヤー、ハワードの二人の優勝は堅いと思われたマディソンだったが、さすがに他の国もこの二人のマディソン3連覇は阻止しようと、完全なマーク策に出て、終盤までマイヤー、ハワードペアの持ち味が生かせなかったレースとなった。
 レース前半は何チームもがアタックをかけてはつぶれ、レースになかなか進展がないまま。残り68周でオーストリアがラップに成功、一気にトップに躍り出た。残り55周で、オーストラリア、ベルギー、チェコ、オランダがアタックをかけ、残り43周目にラップに成功。それに続き、イギリス、スペインもラップした。160周が終わった段階で、19ポイントのベルギーが1位、16ポイントのイギリスが2位、3位には9ポイントのオーストラリア。昨日のマイヤーのポイントレースの大逆転があっただけに、またオーストラリアの巻き返しに地元ファンの期待が高まる。しかし、9回目のポイント周回でベルギーが5ポイントを取り、優位を固め、どこのチームも巻き返すことはできなかった。
 結果、ベルギーのデ・ケテレ、ファン・ヘッケのコンビが優勝を飾った。2位はイギリス。オーストラリアは連覇ならず3位。
「まだ信じられないです。金メダルを獲れたなんて。とても変な感じです。今日はお祝いしたいですね」と優勝したベルギーの二人は語った。

ベルギーの選手

表彰式


【大会総括】
 ロンドン・オリンピックを目前に控えた2011-12シーズンの総決算となるここメルボルンでの世界選手権は近年稀に見る記録ラッシュの大会となった。
 我が日本勢を見ると従来の日本記録を超えるタイムが8回、6種目での日本記録更新となるタイムが選手たちから叩き出された。アテネ・オリンピック以来更新されることの無かった男子チーム・スプリントでの予選、3-4位決定戦と2度にわたる記録更新によっての43秒台への突入。これは従来のもやもや感を払拭させる今後の男子スプリント陣への希望という意味だけでなく、上位陣とはコンディション、タイミングなど次第では確実に戦っていけるということを証明する結果であったと言えるであろう。中川のスプリント予選の200mフライング・タイム・トライアルも9秒台が日本勢に見えてきた、やれる、という手ごたえを感じさせる記録であった。女子スプリント陣もここにきて現れ始めた成長振りは正直、箸にも棒にも・・・といった状況から世界で伍していく、と期待させる記録更新、まだまだ伸びしろのある女子中・長距離陣も短い強化期間での中での記録更新と着実にステップ・アップを遂げている。前へ進み始めた、一丸となってやっていこうと感じさせる中身のある大会結果となった。
 他国、世界を見てみても、4種目で8回の記録更新。世界記録の設定から歴史の浅い女子チーム・スプリントと団体追抜ではそれぞれ大会内に3度の世界記録更新がなされた。男子団体追抜もイギリスが世界新と本番の地元五輪での記録更新を期待させる内容だった。今回の地元、オーストラリアのメアーズの500mタイム・トライアルでのすごい記録もある意味予想通りではあったが世界新と、各国のオリンピックへ向けての仕上がり振りからの好記録に会場が何度も沸くこととなった印象的な大会となった。
 これでオリンピック出場枠に向けての争いは終了。日本は既に確定していた男子のチーム・スプリント枠で出場権を獲得。これによって自動的にスプリント、ケイリンの出場枠と3種目でのオリンピック出場権の獲得となる。女子はここメルボルンの世界選手権でスプリントの出場枠を確定させることとなった。期待された男女のオムニアムでの出場権を獲得することは出来なかったが、男女共に日本のトラック競技でのオリンピック出場を決めることとなった。この後、4月22日に前橋で行なわれるトラック・タイムトライアル・チャレンジでの成績を踏まえて、5月1日にこれらの出場枠での活躍を期待されたオリンピック代表選手が決定、発表される見通し。選考する側としては嬉しい悲鳴であろうが、難しい選考を迫られることとなるであろう。
 各種目での記録更新、そして好成績、ここにきてその上昇度に目覚しいものを見せる日本チーム、アスリートの最大の目標、オリンピックに向けて、個々、そしてチームとして我々を楽しみにさせてくれる非常に感触のある大会となったと言えるであろう。

日本選手団


【松本監督大会総括】
 「男子スプリントについては競輪選手としての能力、そしてここまでのポイントの蓄積といったところから、チーム・スプリント枠でのオリンピック出場枠というのが決まっていた、というのがありましたので、そういう部分も含めて女子の出場枠の獲得、というのが今回は僕の中に非常に大きな命題としてありました。特に今年は女子競輪、Girl's Keirinがスタートする年というのもありますので、それなのにオリンピックに女子のトラック競技が出られない、というのでは余りにも世間へのアピール、そして関心度を引き起こすという面で弱くなってしまうので、自転車競技を盛り上げるために何とかして女子の出場枠が欲しいと思っていた部分なので、それに向けて色々考えてやってきたのでその出場枠をここで取れたというのはやはり大きなことだと思います。そして今回は誰、というのではなくてみんなが日本記録を含めて個々の自己ベストの更新などといったところで良い結果を出せた、というのがとにかく非常に大きいですね。正直まだまだ自分が思っているチームの姿には遠いんですが、時間が無い中でとりあえずロンドン・オリンピックに向けて、という部分では選手が頑張ってくれてこのような成績が出ているのでそこには満足しています。さっきも言ったように、目指すところはもっと上にあるので、ということが前提ですが、今回の世界選手権、70点が合格点だとしたらこの結果は短期間、というのも含めて合格点の70点と言えるでしょう。競いながら上を目指していって欲しいと選手には言ってきたんですが、それに応えて選手は頑張ってくれたと思います。ただ選手たちのポテンシャルはこんなものじゃないと思うし、まだまだそれを引き出していかなければならない、そしてそれが僕の仕事だと思うので、そういうことが出来るようなシステムを構築して、どんどん効果が上がっていくような日本チーム、そして日本の自転車競技の確固とした面を作り上げていけたらと思います。」


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