ワールドカップ第4戦マンチェスター大会レポート
 
配信日:2月27日
 
 
■2月25日(最終日) 天候 曇り 気温7℃ 観客3000人


 最終日の今日は、記念すべき日になるはずだった。残念だ。マディソンにワールドカップで初めて出走すると伝えた、飯島・盛チームだが、前日にマニエ監督が考え直し、出走を取り消した。これには、昨日、一昨日でスクラッチ、ポイントと調子よく好成績を収めた2人を大事にしたい気持ちが働いたに違いない。マディソンを走ることは、このあといつでもできるが、もし今日マディソンを走って、落車でケガでもしたら、1ヵ月後に控えている世界選手権を棒にふることになる。ここで、リスクをおかすのは、得策ではないと考えたようだ。

 私を含めて、ファンとしてみれば、彼らがマディソンを走るのを楽しみにしていたが、
走ったせいで、彼らが世界選手権を走るのを見られないとするならば、そっちのほうが残念なことに間違いはない。マディソンはお預けになってしまったが、それは次のシーズンの楽しみとしてとっておくことにしたい。

 マディソンがなくなったので、日本の今日の出走はワールドカップはチームスプリントのみ。そのかわり、世界のスタースプリンターが日本の競輪選手とぶつかるインターナショナルケイリンイベントが、行われる。この大会の開催は今回で3度目。残念なことだが、日本人選手が決勝に進んだことはこれまでない。


 これまで、日本チームはインターナショナルケイリンイベントのみための選手を多く用意してきたが、今回、そのためにやってきたのは、太田真一、矢口啓一郎の2人のみで、残りはワールドカップ組を投入する。昨日、スプリントを走った永井。スプリントも走って、今日はチームスプリントに出場する渡邉。成田、井上もチームスプリントと連続出場ということになる。なるべく、選手の力を温存するため、一日に複数の種目を走るようなことを避けていた日本チームだったが、これもよい練習になると判断したのかもしれない。選手への負担は大きいが、他国のチームは平然とやっているようなことなので、こういった環境に慣れていかなければならないのだろう。

インターナショナルケイリンの作戦を授けるマニエ監督
<インターナショナルケイリンの作戦を授けるマニエ監督>



 インターナショナルケイリンの予選は朝一番に行われた。エントリーしていたケイリン世界チャンピオンテオ・ボスは昨日の落車の影響が残り、出走しないことが伝えられる。直前にくじ引きで決められる出走。ヒートは3つ。日本人選手は3人、2人、1人という形で分かれることになった。

 第1ヒートは、日本人選手は太田、成田、渡邉、それにフランスのグレゴリー・ボジェ、 オーストラリアのシェーン・パーキンスなどが出場、日本人選手は一時は並んだものの速い展開の中、連係に失敗した形で、5、6、7着。

 第2ヒートは永井と矢口。他にはイギリスのクリス・ホイ、オランダからテアン・ムルダー、フランスのミカエル・ブルガン、オーストラリアのライアン・ベイリーなど。こちらもペーサー退避の段階で、矢口の踏み出しに少し遅れた永井が後退、間に選手が入り、その後その選手たちから捲られた形で、6着、7着。

 第3ヒートは、井上が単騎でイギリスのロス・エドガーやオーストラリアのマーク・フレンチ、ポーランドのダミアン・ジェリンスキーなどに挑んだが、こちらも後方で追走のまま、6着に沈み、日本人全員が、敗者復活戦回りとなった。

 敗者復活戦は5人×3ヒート。ここで、単騎になった渡邉は敗れてしまったが、フレンチ、ブルガン、ポーランドのルカシュ・クゥワイアコフスキーとの戦いとなった永井、成田のヒートは、ペーサーの後ろに永井、成田と並んで、残り3周回から成田が車間をあけ、上手に永井を逃がすという作戦で、成田、永井とワンツーを決め、2回戦進出の切符をつかんだ。
インターナショナルケイリンの出走抽選
<インターナショナルケイリンの出走抽選>

インターナショナルケイリン予選
<インターナショナルケイリン予選>

出走を待つ選手たち
<出走を待つ選手たち>


 一方、太田、矢口、井上のヒートはペーサーの後ろを取りきった太田がペーサー退避のタイミングで、矢口を連れてあがってくる井上を行かせ、その後3番手に入り、ラインを形成する作戦。しかし、3番手に入るタイミングで、ギリシャのクリストス・ボリカキスが矢口を追走してきており、競るような形に。その間に井上もスピードが鈍ったため、矢口がかわしてそのまま突き抜けて1着。矢口を引っ張った形になった井上は5着、太田が4着。

 これにより、敗者復活回りながら、1着だった成田、2着だった永井、矢口の合計3人がセカンドラウンドに駒を進めた。


 そのあと行われたチームスプリント。第1走に成田、第2走に渡邉、第3走に井上で挑んだ。
3人ともインターナショナルケイリンの予選、敗復を走ったすぐ後での競走だが、疲労に負けずに頑張って欲しいものだ。日本は14チーム7組出走中、6組目の出走。相手はイギリスのトレードチームSIS。この出走順も実績にしたがって、決定される。トリから2番目、しかもSISと走るようになったとは、少々おかしな言い方だが、出世したものだ。

 しかし、出鼻をくじかれるような事件がおきる。まずは、SISのフライング。再発走となる。気を取り直して挑んだ2回目。号砲後、3人は勢いよく飛び出す。いい発走のように思えたが、1/4周ほど過ぎたところで、再びピストル。スタートを失敗したSISチームが、再々発走したいがため、故意に落車したのだ。

 3人はこの行為にカンカン。さらに、競走中止のピストルが遅かったこともあり、選手が無駄に脚を使わされたことに対してマニエ監督もカンカン。SISチームはこれにより、競走から除外され日本は再発走ということとなったが、リカバリーの時間を取らない再発走にマニエ監督が猛然と抗議。それが受け入れられ、女子のケイリンをはさんで再発走することとなった。

 2回のお預けにあったあとの再々発走。スタート後、若干渡邉が離れ気味だったが、バックではしっかりとリカバー。その後の井上もスピードを引き継ぎ、出したタイムは、4位のオーストラリアに4/100秒足りない45″326。惜しいところで、メダル挑戦のチャンスを逃した。
スタート時のホルダーがあまり上手な人ではなく、スタート時にバランスを崩したという渡邉。バランスさえ崩さなければ、4位に入れたはずと悔しい表情を見せる。

 そのあと戻ってきた井上が「カズナリ、調子悪いだろ?」と声をかける。しかし、極端にタイムが悪いわけではないことを知ると、「あれ?じゃあ、俺の調子がいいのかな?」それもそのはず、井上のラップタイムは13秒770で、第3走としては、イギリスのクリス・ホイについで2位の成績だった。このことを考えると、渡邉のスタート時のホルダーのことが悔やまれる。しかし、スポーツに「たら」や「れば」をいうことは、さほど意味がない。この経験を次に活かすことを考えるしかないのだ。

チームスプリント発走
<チームスプリント発走>

何度も出鼻をくじかれ、イライラする。
<何度も出鼻をくじかれ、イライラする。>


   さて、全ての競技が終了した後、この開催のトリを飾るインターナショナルケイリンイベントが再び始まった。まずは、セカンドラウンド。ここで、くじ引きが呼んだ幸運か、日本人選手は同じヒートになった。スタート後、永井、成田、矢口が並ぶ。それを追うボジェ、ムルダー、エドガー。

 ペーサーが退避すると、エドガーがあがってくる。それに呼応するように永井がそのまま逃げ体制。成田がそれを援護するかのように微妙に車間をあけて、追走。矢口も少し遅れてそれを追う。外にいるエドガーを追う形で、ボジェ、その後ろにムルダー。ラスト2周の第2センター付近で、ボジェが突然パンクし落車。その影響で矢口は後退、内側で逃げていた永井にも勢いがなくなってくる。そのスキに外からムルダーが外からやって来る。成田はその2人にマークする形で、ゴール。

 結果、エドガーが逃げ切り、ムルダーが2着。成田は3着に入り、決勝に進出。このイベントで日本人選手としてはじめてファイナル出場を果たし、自分の28歳の誕生日に自身で花を添えた。日本人選手のいなかったヒートからは、ホイ、パーキンス、ビノクロフがあがっている。

 続いて、セカンドラウンドで4着以下だった選手による7-12位決定戦。先の競走でそれぞれ4着、5着だった永井と矢口はこちらに回る。ペーサーの後ろを取ったマレーシアのジョサイア・ヌグに矢口が並ぶとヌグが迎え入れ、さらに車を下げて永井にも場所を与える。これで周回は矢口、永井、ヌグ、チェコのアダム・プタクニック、ドイツのマキシミリアン・レビー。

 ペーサー退避にあわせてレビーがあがってきたのを見た矢口は、前に出られないようにスピードを上げる。うまくあわされてしまったレビーは徐々に後退。残り1周、今度はプタクニックが捲っていく。それをヌグが追走して、日本人ラインと外国人ラインの戦いとなる。結局プタクニックラインがこの戦いに勝利し、そのままなだれ込み。1着プタクニック、2着ヌグ。3着には矢口、4着永井となった。




   そして、決勝。1日で200万円強の賞金に、外国人ライダーの目の色が変わっている。初めにペーサーの後ろをとったのはホイ。程なく、エドガーがあがってきて、ホイがエドガーを前に入れる。日本の競輪に学んだチーム作戦に場内から拍手が起こる。そして、今度はエドガーが、ペーサーとの間をあけ、ホイが前に出て、順番を入れ替える。これで、ホイ、エドガー、ムルダー、パーキンス、成田、ビノクロフで落ち着き周回が続く。

 残り2周半でビノクロフが前に出てくる。これにあわせてホイがスパート。エドガーは、車間をあけ、ホイを援護。まさに敗者復活で永井と成田が演じた作戦を逆に使われた形。地元選手の応用力の早さに、会場は大喝采。残り1周、無条件に駆けさせてホイのスピードに勝てる選手がいるはずもなく、他の選手はどうすることもできない。超高速の一本棒のまま第4コーナーに突入。そこで、やっとエドガーの後ろを走るムルダーが抜け出すが、エドガーをかわすのがやっと。ホイは一人旅でゴールを駆け抜けた。2着はムルダー、3着にエドガー。あまりの高速先行にその後ろの順位もかわることなく、4着パーキンス、成田は5着。6着ビノクロフとなった。

 しかし、1着となったクリス・ホイ、超人としかいいようがない。初日1キロのタイムトライアルで金メダル、昨日のスプリントでフランスのトゥルナンと死闘を演じながらの銀メダル。そして、今日はチームスプリントで金メダルとインターナショナルケイリンでも堂々の1位だ。この人の筋肉には、疲労という定義はないらしい。
インターナショナルケイリン決勝
<インターナショナルケイリン決勝>

インターナショナルケイリン表彰台。激闘を制した3人
<インターナショナルケイリン表彰台。激闘を制した3人>


   今回のワールドカップは、いつもに増して壮絶で見ごたえがあった。日本チームもメダルこそないが、総じて見せ場を作り、世界選手権での活躍が期待できる内容だったと思う。さらに、インターナショナルケイリンでは、12位までに3人が入り、成田がこれまでで最高位の5位に入賞するなど、日本チームのレベルアップが、目に見えた形でわかるようになった。

 マニエ監督は言う。「日本人選手のポテンシャルは、素晴らしい。それを引き出すか、出さないかだ」つまり、それはメンタルな部分、そして作戦の部分だけでもかなり発揮できる。実際のところマニエ監督は、ナショナルチームの練習はまだ、あまり指導していない。現場での指揮だけで、これだけ変わってきているのだから、練習も指導しはじめたときのことを考えると、うれしい結果を期待せずにはいられない。

 ただし、結果を出すためには、しっかりとした環境づくりができなければならない。「選手だけでなく周りが変わるべき部分もあるのではないだろうか」とは、監督の言葉。日本の自転車競技界は、この問いかけにどう答えていくのだろうか。まずは、3月下旬からはじまる世界選手権。結果はもちろん、選手がポテンシャルを100%発揮できる体制を是非意識したいところだ。






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