今年のGIも、残すところあとひとつ。北九州メディアドーム・小倉競輪場を舞台に「第65回朝日新聞社杯・競輪祭(GI)」は、11月21日に熱戦の火ぶたが切って落とされる。ナイター開催で行われる6日制のロングランシリーズ。シード番組のないオール一次予選での2走の合計ポイントで勝ち上がりが争われ、S級S班をはじめとした選考上位選手に大きなアドバンテージはない。それだけに実力者といえども隙を見せれば、二次予選にたどり着けないことも十分に考えられるシビアなシリーズだ。優勝者は、19年の松浦悠士から、郡司浩平、吉田拓矢、新山響平と4年連続でこの競輪祭がGI初制覇。今年も初戴冠で年末の「KEIRINグランプリ2023(GP)」のプラチナチケットを手に入れるニューヒーローが生まれるのか、それとも…。また、グランプリの出場権をかけた獲得賞金争いも、この競輪祭でピリオドが打たれる。11月26日の最終日が終わると、新S級S班、すなわちグランプリのメンバー9人すべてが決まり、優勝賞金1億3000万円をかけた一発勝負、12月30日のグランプリへ盛り上がりは一気に加速する。

 今年も始まりは古性優作(写真)だった。23年のGI第一弾となった2月に高知で行われた全日本選抜を古性が連覇。昨年同様にグランプリ一番乗りを決めた。5月の日本選手権の舞台は平塚。脇本雄太、古性の近畿コンビが人気を集めたが、“持ってる男”山口拳矢(写真)がビッグタイトルをつかんだ。中部地区が劣勢になって久しいGI戦線で、単騎の山口がGI初制覇を遂げた。岸和田での6月の高松宮記念杯は、地元の古性が優勝。脇本の番手から高松宮記念杯連覇を遂げた。古性、山口と西日本地区の活躍で目を引くなかで、8月のオールスターでは西武園で地元、関東勢がラインの絆を見せて別線を撃破。番手まくりで眞杉匠(写真)が、タイトルホルダーの仲間入りを果たした。そして山口、眞杉に次ぐ新星誕生の期待もあった10月の寬仁親王牌では犬伏湧也、小松崎大地らも決勝にコマを進めたが、脇本不在も古性が4連勝の完全Vで今年3回目のGI優勝を飾った。古性は史上6人目となるGIの年間3Vを記録して、いまだ誰も成し得ていない年間4度のレコードに競輪祭で挑む。そしてグランプリに出場できる9枚のチケットをすでに手にしているのは、古性、山口、眞杉の3人。この3人以外の選手が競輪祭で優勝をしたとしても、獲得賞金枠で5人の選手がグランプリの権利を得られる。ヒートアップするラストGIでの賞金バトルも、競輪祭ならではの見どころだ。


古性優作選手

山口拳矢選手

眞杉匠選手

 前述したように、ここまで行われた5つのGIを優勝して、グランプリの出場権を得ているのが、古性、山口、眞杉の3人。そしてグランプリ選考用の獲得賞金額(11月13日現在)とランクに目を移すと、1位の古性で独走状態で離れた獲得賞金ランク2位が山口。今年タイトルを獲得した2人が上位にいるは当然のことだが、驚くべきは1億2934万円(千円単位は四捨五入、以下の賞金額もも同様)で3位の佐藤慎太郎(写真)だろう。記念などを含めても、今年はここまで優勝がない。それでも日本選手権、高松宮記念杯、寬仁親王牌と3度のGI優出。決勝でも3、2、2着とすべて表彰台入りを果たしている。今月11月の7日にバースデーを迎えて47歳になった佐藤の超一流の安定感は、誰にもマネできるものではない。獲得賞金でグランプリ出場を争う次位の松浦悠士(写真)とも3000万円以上の賞金差があり、5年連続のグランプリは安泰だ。4位は眞杉。5位の松浦は、現在の獲得賞金が9610万円。仮にグランプリの獲得賞金圏外の選手が優勝したとしても、賞金差から松浦より下位の選手4人以上に抜かれることはないため、松浦も5年連続5回目のグランプリ出場を確定的なものにしている。古性、山口、眞杉の3人に加えて、佐藤、松浦までの5人の枠がうまり、残るは4枚のグランプリチケットだ。


佐藤慎太郎選手

松浦悠士選手


 S班返り咲きに視界良好な清水裕友が、獲得賞金8931万円で6位に位置している。一次予選から4日目のダイヤモンドレース、準決で4連勝をすると290万円加算できることを考えると、獲得賞金10位の新田祐大が無傷の優出で準V。清水が獲得賞金を積めないで終わると、新田が逆転できる計算になる。さらに7、8、9位の深谷知広、脇本、新山響平のうち2人が、決勝で上位の成績を収めるとグランプリチケットがするりとこぼれ落ちることも。かなりの確率でグランプリへのカムバックが濃厚な清水は、まずはシリーズを一戦、一戦、大事にして勝ちがることがポイントになってくる。9月の共同通信社杯で9年ぶりのビッグ制覇を飾った深谷が獲得賞金7位。8386万円で6位の清水との開きも500万円以上あるがこの位置をキープできれば、17年以来、そして静岡に移籍してからは初のグランプリ出場がかなう。昨年のグランプリ王者、脇本が獲得賞金8253万円で8位。8月のオールスターで落車に見舞われて、肩甲骨骨折などの大怪我を負った。そこから3カ月の長期戦線離脱を余儀なくされ、11月の四日市記念で復帰して2119着。決勝こそ不発になったが、勝ち上がりでのパフォーマンスは周囲を唸らせるものだった。今年は5度のビッグ優出だが、優勝はGIIIのみでなかなか賞金を積み重ねられないでいる。前回の四日市記念からも、6日間で5走を強いられるタフな今シリーズに不安がないわけではない。しかしながら、連覇もかかるグランプリ出場へは、ここが正念場。手堅く賞金を重ねてというよりも、競輪祭Vでグランプリという思いは強いだろう。獲得賞金9位、7799万円の新山響平にとっては、プレッシャーのかかる6日間でもある。ただ、10位の新田祐大とは、賞金差が1000万円以上あるのは大きなアドバンテージ。圏外の選手が優勝なら、この位置をキープしてもグランプリからもれるが、S班として葛藤し成長した新山なら、己のスタイルを貫いて2度目のグランプリ出場も十分だろう。

 現在は次点の10位には新田がいる。新田以下の選手にとっては、まずは決勝進出が最低条件になってくる。17年には競輪祭を制して、昨年はグランドスラムまで達成した新田は、GIでの勝ち上がりは心得ているはず。前回の四日市記念の動きは一息だったが、GIでの変わり身に期待したい。新山をはじめ他の選手のシリーズ中の成績次第にはなるが、新田は決勝3着以上が欲しい。117期の山口以上に今年のGI戦線に新風を吹き込んだ犬伏湧也が獲得賞金11位。日本選手権、オールスター、寬仁親王牌と3度のファイナルを経験して、GIに手が届くところまで確実にきている。年末はヤンググランプリの出場が予定されているが、そこを飛び越えて頂上決戦のグランプリ出場の夢も膨らむ。獲得賞金6207万円の郡司浩平は、条件つきで決勝2着でもグランプリ出場がかなうが、やはり狙うは2度目の競輪祭V。ともに南関をリードしてきた深谷とグランプリの大舞台は、ファンにとっての願いでもある。獲得賞金13位の守澤太志、14位の三谷竜生、15位の山田庸平、16位の浅井康太、17位の稲川翔、18位の香川雄介までは、決勝2着でも獲得賞金で滑り込みの可能性が残されていて、一次予選から目が離せない。とくに直前の地元、四日市記念で自力で脇本を撃破してV奪取の浅井は、18年に競輪祭優勝の実績もあり、5年ぶりのグランプリ出場があっても不思議ない力と勝負センスを備えている。