号砲が鳴るとためらわずに渡辺が出ていく。渡辺は岡村を迎え入れ、最初の並びは岡村―渡辺―佐藤―俵―榊枝―高峰―藤原―小橋―阿部ですぐに落ち着いた。 戦闘が始まったのは青板バック過ぎから。後方から高峰以下が上がっていくと、すかさず岡村も応戦。高峰を突っ張ると、岡村は赤板手前で早くも誘導員を交わして何が何でも主導権を譲らない構えを見せた。高峰もひるまず踏み上げて岡村を叩きにいくが、追走の藤原は離れてしまい、打鐘では出切った高峰の後位に岡村以下がはまる形になった。しかし、岡村はすぐに高峰を叩いて先行態勢に入った。すると高峰は、今度は岡村マークの渡辺の内で粘った。この競りは渡辺が勝つが、最終一センターから満を持して藤原がまくって出た。脚を使った岡村と渡辺に抵抗する余力は既になく、バック過ぎには藤原、小橋、阿部がきれいに出切った。このまま直線に入り、末脚を甘くした藤原後位から小橋が抜け出してVを奪取。2着にも阿部が続いた。バック過ぎに阿部へと切り替えた佐藤が3着に入線した。
まさに“見事”というしかない地元勢の連係だった。矢口啓一郎、太田真一が準決を乗り切れなかったために、関東の先行型は不在となってしまったが、高峰が先導役を買って出て、高峰―藤原―小橋―阿部で結束。高峰の動きを警戒した岡村が突っ張る構えを見せたために、高峰と後続の地元三者の連結は外れてしまったが、すかさず態勢を立て直した藤原は二角手前からまくって前団を飲み込む。藤原追走から小橋がゴール前で鋭く抜け出した。 「(藤原)憲征が見事な競走をしてくれた。本当に(藤原の)お陰ですよ。ずっと良かったり悪かったりが続いてたけど、今シリーズに入って、日に日に上向いて来ていたからね。でも、いくらいいって言っても、この世界は結果を出さないことには認められないから、その結果を出せて良かったですよ。ケンちゃん(高峰)と憲征が頑張ってくれて、阿部さんが後ろを固めてくれて、ラインの大切さを改めて感じさせられた優勝です。記念の優勝はいつ以来かな? 去年は記念の優勝戦にも1回しか乗ってないし。3年ぶりくらいになるのかな。ただ、その間も地元に帰れば、“頑張れ”って声援があって、それが励みにもなってたし、そういうお客さんの声援はありがたいですよね」 2着にも阿部が続く。 「“先付け”で踏んで行って何とか抜けないかなって思ったけど、前がまくりでは番手、三番手の差が出ちゃいますよね。(藤原は)スピードが違ったんで、出切れると思いました。ケンちゃんがうまく(別線に)脚を使わせてくれるっていう作戦がはまりました。ケンちゃんも自分の脚力では出切れるかどうか分からないって言ってたから、どちらかと言えば出切れなかった時の対策の方を考えてましたからね。その時は今日みたいなレースの方が憲征の持ち味も生きるから」 “地元から優勝を出す”という大役を果たした高峰、藤原はホッとした表情を見せた。まずは高峰から。 「早めに斬りに行くけど、もし突っ張られるようなら俺を追うな。俺は俺でやるからって。自分の中では今日のレースは作戦の一つでした」 藤原は、「高峰さんが出て、閉めてるのに内からどんどん掬われちゃったから、立て直してまくりに構えました。あれだけ戦って岡村君も一杯な感じだったけど、番手(渡辺)、三番手(佐藤)がまくれる選手だったので、早めに仕掛けました。最後はもう一杯。それが俺の持ち味だから(苦笑)」 一方、地元勢の作戦にはまってしまった形の岡村は言う。 「向こうが二段駆けしてくるのも後ろ攻めになるのも分かってたから、絶対に出させないつもりでした。あとは後ろ(渡辺)に任せて。藤原さんも脚があるから、前を潰しても、まくり頃になる可能性はあると思ってましたけど、とにかくスンナリ行かれて番手まくりでワンツースリーみたいな競走はしたくなかった」 渡辺にとっては、叩かれた高峰が番手で粘ってきたのは誤算。競り勝っても、外のまくりを止める余力は残ってなかった。 「アホだよね(苦笑)。併走になった時点で俺は終わった。もう一杯」 その渡辺の後ろにいた佐藤は苦しい。しかし、直線で強烈な伸びを見せ、阿部とは僅差の3着に迫る。 「乱れる展開になるのは分かってましたが、対処出来なかったな。高峰さんとの連結が外れた(藤原)憲征が、態勢を整えてまくってくるのはもう少し遅くなると思ったから。俺も出来るだけ脚を溜めてまくりたいし、一番いいタイミングで来られちゃいました。でも、今シリーズは北日本の目標がない中ではそこそこ戦えたかな」