矢口啓一郎は、表彰式を終えて控え室に引き上げると、ホッとひと息つき、安どの表情で記者の取材に応じた。 「伏見(俊昭)さんと相談して、前受けから組み立てようと決めました。ただ、斬られて後ろに置かれることだけは避けたかったけど、結果的に後ろに置かれてしまいましたね。だけど、まだホームだったし自分が動けばレースも動くだろうと思って叩きました。ギアも掛けていたし、いざとなれば先行も頭にあった。身体も自然に前へと反応していましたしね」 好位を確保しても、焦らずに別線の動向を見極めていた。 「後ろを見ても誰もいなかったし、あまり早く踏んでも来られてしまうんで、しっかりタイミングを取って前に踏みました。伊藤(正樹)さんも前に踏んでいたし、直線で伏見さんと接触したんで危なかったけど、良く伸びました」 これが初のGIII制覇。直後に控える競輪祭に向けて弾みを付けたに違いない。 「やっと獲れたけど、別に焦りはありませんでした。今回は平原に人気が集まっていたし、気楽に戦えたことが良かったんだと思う。これからも自分のペースで頑張ります」 2着には、浅井の先行を利した伊藤正樹が入線する。 「ホームで前があれだけ流していたし、もう浅井が駆ける展開になっていたね。俺も自力だし、付いていくことには問題なかったけど、やっぱりスピードが凄かった。俺も車間を空けて援護できたし、最後は思い切り踏んだけど、直線がえらい長かった。この展開で獲れないのは悔しいな」 矢口マークの伏見俊昭が直線を伸びて3着に。 「最後に動いたほうが良いと思って、スタートで前を取りました。矢口は落ち着いてましたね。最後は(接触で)転ばなかっただけでも良かった。あれがなかったらはタラレバだし、今日は矢口が強かったです」 先行した浅井康太は4着に。それでも2車で積極的に駆けての結果だけに表情は明るい。 「駆けたのは最終1センターからです。ホーム過ぎ、まだ誰も駆ける気配が無かったし、順番的にも先行しなきゃいけない展開になってしまいましたね。最後は残れなかったけど、ここで行かなければダメってところで躊躇なく駆けられたし、良い感じで先行できたので納得しています。このメンバーではさすがに簡単には勝たせてもらえませんね」 地元の期待を背負った平原康多は、後方八番手に置かれてしまい成す術なし。何もできずに終わった。 「脚の感じは凄く良かったのに組み立てが最悪でした。考えていた事が何ひとつできなかった。何やってんだかって気持ちです。ダメダメすぎますね…。この分、競輪祭で頑張ります」 ライン三車で、五番手からでも十分勝機はあった荒井崇博だったが、接触した伏見が外に弾けた影響を受けてしまい、伸び切れなかった。 「ギア倍数をかけてたし、あの位置でも良かった。でも、最後に接触したのがね」