「地元から優勝者を」という静岡勢の願いは、村上義弘の気迫の前に散った。なおも石橋慎太郎は村上ラインの後ろで粘りかけたが、ここが勝負所と嗅覚を働かせた手島慶介に追い上げられて完全に万事休す。最終周回では、ほぼ前団5人のV争いに絞れられた。果敢に飛ばす村上の後ろで番手職人の濱口高彰が車間を空けるなどして徹底援護したが、単独の3番手を確保した手島にまくり追い込みを仕掛けられてはたまらない。前二人を抜群のキレで飲み込んだ手島が、昨年の高松記念以来となるG3優勝を達成した。 「何も考えずに走ったのが良かったんでしょうね。久しぶりに体が反応するまま動いたら勝てました。こういうレースは気持ちいいですね」 勝負所となった打鐘手前での位置取り。選手紹介でも村上ラインに付けたが、「こだわっていた訳じゃないです」と話す。 「どこと決めてたんじゃなく、赤板で村上が行く気配だったから、そこって感じです。外から追い上げたので脚はきつかったけど、うまく溜められたし、踏んだ距離が短いので何とかなりました」 優勝賞金415万円は、今の手島にとって額面より大きな価値を持つ。 「最後まで諦めないのが大事ですね。去年もそうやってグランプリに出た訳ですから。今年は前半が落車続きで半分諦めかけてたんですけど、100%の状態じゃなくてもこうやって勝てることもあるし、昨日、矢口啓が頑張ってくれたのも大きい。次の花月園も頑張ります」
手島の後ろを選択した小倉竜二にもチャンスは訪れたが、道中の細かいプレーで脚力を消耗してしまった。 「(手島が)行きかけたり、止めたりを何度もするので脚が一杯になっちゃいました。僕にとっても、前の動きに合わせて踏むのは課題なんですけどね。特に作戦の事は話さなかったですけど、前々に行ってくれるからチャンスはあると思ってました。今の自分の状態としては上出来でしょう」
村上義弘はアップの段階から気合を全身に漲らせていた。 「後ろから簡単にまくれる相手じゃないでしょう。せっかく状態が上がってくる感触をつかんできたのに、しょうもないレースだけはしたくなかった。付いてくれた濱口さんには何度も迷惑をかけているし、積極的に行こうと思っただけです。展開は思っていたのと違いましたけどね。井上君が前を取ると読んでいたから、まさか突っ張ることになるとは思わなかったですよ」
井上昌己は、「村上さんがあそこまで行くとは思わなかった。ホームで中団に入れたけど、逆に入ったことで勢いを殺してしまった。でも、あのまま踏んだとしても行けたかどうか…、たぶん無理ですね」。
紫原政文が気になるのは、やはり賞金レースの行方だ。 「(井上)昌己は行けませんでしたね。今日は地元と村上がモガキ合いになる展開を想定していたんだけど…。これでまた状況が変わったし、西武園に向けてやるしかない」
石橋慎太郎はゴール前のもつれで落車。レースでも見せ場を作れず、「ケガは大したことありません。今日は駆けるつもりだったけど、初手の位置取りで手島さんが入れてくれなかったので脚を使っちゃいました。赤板で踏み上げた時もキツかったし、打鐘で踏み遅れた時点で脚は残ってませんでした」と肩を落とす。