稲垣裕之が先行して後続は一本棒の展開。武田豊樹は八番手に置かれ、最終バックでは誰もが番手の紫原政文の優勝を確信したが、三番手で脚を溜めていた加倉正義が直線でその外を強襲。逃げる稲垣をゴール寸前で捕らえ、久々の記念Vを飾った。 「稲垣があんなに行ってくれるとは思わなかったし、かかりもすごく良かった。でも、前が紫原さんだし、武田さんもまくってきますからね。今日のレースでまさか外を踏める展開になるとは。余裕もそんなになかったし、今回のデキで優勝なんて信じられない。初優勝みたいな気分ですよ。練習をやってて本当に良かった」 昨年の終盤戦はFⅠシリーズでも決勝に乗れず低迷したが、その中でも腐らず練習していた成果が出た。これで気分良く地元の競輪祭を迎えられる。 「状態は競輪祭までそんなに変わらないと思うけど、気分的には楽になったかな。展開さえ向けばまだ優勝を狙える脚がある。でも、予選スタートなので、欲をかかずに一戦一戦大事に走るだけです」 稲垣裕之は今シリーズ初めての先行策。惜しくも加倉に交わされたが、表情は明るい。 「初日に不甲斐ないレースをしてしまったし、2、3日目は番手を回らせてもらいましたからね。今日は先行で自分の力を出し切るレースをしようと思っていました。荻原君の番手に入ったけど、齋藤さんが来るのが見えたので、かぶる前に仕掛けました。かかりは良かったと思うし、先行して2着なら上出来です」 人気の武田豊樹は僅差の3着。八番手に置かれたが、まくったスピードは光っていた。 「2車で先行争いしても仕方がないし、今日は優勝を狙うレースをしました。あと少しでしたね。悔しいけど、あの位置から迫れましたからね。初日、2日目は不甲斐ないレースをしてしまったけど、それほどデキが悪くないことをファンの人にも分かってもらえたでしょう。ライン3車なら届いていたかもしれないですね」 番手絶好展開の紫原政文はまさかの4着。さすがにショックを隠せない。 「稲垣があんなに積極的に駆けてくれるとは思わなかった。余裕はあったんですけど、何か後ろばかり気になっちゃって…。こんなチャンスをモノにできないようではダメですね。本当に情けない。この悔しさを競輪祭にぶつけます」 荻原尚人は初の記念決勝に挑んだが、車体故障に泣いた。 「1回下げて、赤板でもう1回踏んだときにスポークが飛んでしまった。それでパニックになり、何が何だか分からないうちに終わってしまいました。あの展開なら稲垣さんの後ろで勝負するべきでしたね」 齋藤登志信は打鐘前に荻原を追わなかった場面を説明する。 「周りからは離れたように見えるんでしょうけど、荻原の車体故障が分かったら迷ってしまった。でも、荻原が前に出た以上、追わないわけにはいかないですからね」