『第77回日本選手権競輪(GI)レポート』 最終日編

配信日:5月7日

 平塚競輪場で開催された輪界でもっとも権威のあるタイトル「第77回日本選手権競輪(GI)」は、5月7日に6日間シリーズの幕を閉じた。最終日の決勝は、熾烈な戦いを勝ち抜いたS級S班4人を含めたベスト9人により激戦が展開された。単騎の山口拳矢が、主導権を握った中四国ラインの後ろから直線で鮮やかに伸びて優勝。GI初優出でタイトルを獲得した山口は、優勝賞金8600万円(副賞含む)を手にして、年末の「KEIRINグランプリ2023(GP)」の出場権を初めてつかみ取った。

決勝競争出場の脇本雄太選手、佐藤慎太郎選手、清水裕友選手
決勝競争出場の脇本雄太選手、佐藤慎太郎選手、清水裕友選手
決勝競争出場の山口拳矢選手、新山響平選手、和田圭選手
決勝競争出場の山口拳矢選手、新山響平選手、和田圭選手
決勝競争出場の犬伏湧也選手、香川雄介選手、古性優作選手
決勝競争出場の犬伏湧也選手、香川雄介選手、古性優作選手

決勝戦 レース経過

 号砲が鳴っても誰も前に出ず、ゆっくりしたスタートから古性優作が誘導員を追う。初手は脇本雄太-古性、新山響平-佐藤慎太郎-和田圭、犬伏湧也-清水裕友-香川雄介、山口拳矢の並び。
 青板周回の3コーナーから脇本が誘導員と車間を空け始めると、2センターで犬伏が踏み上げる。誘導員との車間は大きく開く。脇本はいつも通りすんなりと後方まで車を下げ、犬伏-清水-香川、山口、新山-佐藤-和田、脇本-古性の並びとなり赤板を通過。2コーナーを立ち直ったところから犬伏がかなり前を走っていた誘導員を交わして先行態勢に入る。犬伏は緩めることなくハイペースでブンブン飛ばしたため、後続からの仕掛けはない。最終ホームは犬伏-清水-香川、山口、新山-佐藤-和田で、脇本は前と5車身ほど空いた8番手と絶体絶命のピンチ。2コーナーを立ち直ったところから新山がスパートすると、最終バック線の手前から清水が番手まくりを敢行。新山はまったく車が出ず、佐藤は山口の後ろにスイッチした。脇本は相変わらず後方のまま。3コーナーで先頭に躍り出た清水に香川が続き、踏み込んで内を空けた山口のインに佐藤が潜り込んで最後の4コーナーへ。佐藤が山口を弾いたため山口のスピードが一瞬鈍り、番手の香川は清水に続くのが精いっぱい。清水が押し切ると思われたが、立て直した山口がイエローライン付近をぐんぐん伸びて清水を抜き去りGI初Vを達成した。2着は清水で、ゴール前で香川を抜いた佐藤が3着。

<3R>

和田真久留選手
和田真久留選手
 赤板過ぎに岩本俊介が切ったところを九州勢が押さえて、阿部将大がそのまま駆ける。河端朋之が7番手の一本棒でレースは流れる。4番手でタイミングを取った岩本がまくって出ると、中本匠栄も張りながら前に踏み込む。さらに河端も外をまくり上げる。岩本がとらえるが、中本も盛り返して直線。岩本マークから、地元の和田真久留(写真)が抜け出した。
 「阿部君が積極的で展開が向いてくれた。ただ、中本さんもタテに踏んでいて、岩本さんも合わされていた。そこの見極めが難しかった。(佐々木)龍も厳しくなってしまうので、踏ませてもらいました。(佐々木とのワンツーは)岩本さんの組み立てのおかげです。今回は力不足を痛感させられた。脚を磨きます」
 南関ライン3番手の佐々木龍が流れ込んで神奈川ワンツー。佐々木にとっては初めての日本選手権が、地元でのシリーズ。落車明けも4342着とまとめた。
 「岩本(俊介)さんと(和田)真久留に信頼して、まずは付いていくことに集中しました。(和田)真久留も余裕がありそうで、自分も内か外を判断できた」

<5R>

高橋晋也選手
高橋晋也選手
 赤板過ぎに誘導を交わした町田太我が、そのまま先行態勢を取る。7番手に戻ってタイミングを取った松岡辰泰も襲い掛かるが、町田も合わせて最終ホームでは町田と松岡の体が重なる。後方で脚をためた高橋晋也(写真)が、ロングまくりを打つ。松岡を合わせて町田が主導権をキープするも脚力を消耗。高橋にのみ込まれるかに思われたが、町田も踏ん張る。直線に向いても決着はつかず、最後のハンドル投げで高橋が先着。
 「(赤板過ぎは)一瞬、どうしようか迷ったけど、内をいってしっかり(5番手を)確保した方がいいなと。(まくって行って最終)バック線くらいでは行けるかと思ったけど、(町田が)踏み直したんでキツかった。(第二子が生まれて)今日は自分も負けられなかった。脚は三角に回ってましたけど、最後は意地でした。一次予選は気持ちが弱くて小さいレースをしたけど、感触はすごく良くなっている」
 九州勢を突っ張り切った町田太我は、高橋のまくりにも猛抵抗。先行力を存分に発揮して、存在感を見せた。
 「もうガムシャラでしたけど、(2着に粘れたんで)良かった。今日(最終日)はもう突っ張りでって思ってました。いっぱいだったけど、手ごたえはありましたね」

<7R>

浅井康太選手
浅井康太選手
 佐々木悠葵が松井宏佑を警戒して合わせるように踏んで、打鐘では2人の叩き合い。佐々木が突っ張り切るも諸橋愛は連結を外して、番手に松井が入る。しかしながら、鈴木裕も最終ホームで前に踏んでゴチャつく。1センター過ぎに諸橋が落車して、桑原大志も乗り上げる。間一髪でアクシデントを外に避けた浅井康太(写真)が、番手から踏み上げる松井をまくりでとらえて1着。
 「(落車のアクシデントを)なんとか避けられた。松井君が番手に入っているんでヤバいかなと思ったけど、モガいている上を行けました。1回(最終)ホームで行こうかと思った。そしたら鈴木裕君が追い上げまくりみたいな感じだったんで、なにかあるかなと。たまたま(アクシデントの)ニオイがしたんで、恵まれました。今日(最終日)は松井君の先行1車のなかで佐々木君がすんなり中団だとキツいかなっていうのがあった。(シリーズを通しては)まだクツに慣れ切ってないし、そこら辺に課題がある。ちょっとずつですね」
 浅井マークの神田紘輔も落車の事故の影響を受けたが2着に入った。
 「僕は(落車に)当たったんですけど、どうにかもう1回踏めるところを探していきました。(あの展開で)浅井さんならひとまくりだと思った。ただ、ワンテンポ早く行ってたら、(落車に)巻き込まれてましたね」

<9R>

嘉永泰斗選手
嘉永泰斗選手
 橋本優己は誘導を残したまま下げる。赤板で嘉永泰斗(写真)が誘導を追いかけて、3番手に新田祐大が続く。嘉永も踏み上げるが、そこを吉田有希が叩いて打鐘3コーナー過ぎに主導権を握る。茨栃ラインの3車が出切り、嘉永は4番手をキープして最終周回へ。嘉永は2コーナー手前からのまくりで、番手から出る坂井を制す。襲い掛かる新田と勝負は、嘉永が新田を振り切って1着。
 「早めに押さえて切って、新田さんが来たら突っ張ってと。そしたら吉田君が飛んでくるかなと。あとは詰まったところを行こうと。自分はスレスレを(まくって)行かないと出ないので、あとは新田さんたちとゴール勝負だと思いました。状態が良かっただけに、二次予選がもったいなかった。初手でミスってしまった。去年(のダービー)よりも力はついてきているかと思います」
 新田祐大にとっては、坂井の動きが誤算だった様子。坂井と嘉永の踏み合いをひとのみの思惑が外れた。
 「あの流れでたぶん(6番手から)こうなるだろうと。あとは彼(嘉永)が仕掛けるポイントで一緒に踏んでおけば良かった。そしたらもしかしたら交わせたかもしれない。坂井が(嘉永に合わせて)番手から出ていくと思ったんで、ああなってしまった。(今シリーズは)1、2走目があまりにも消極的なレースをしてしまったので、決勝に進む道を閉ざしてしまった。そこは反省点なので、今後のレースで修正していきたい」

<10R>

吉田拓矢選手
吉田拓矢選手
 山田庸平が押さえて先頭に立つ。ペースが緩んだ赤板2コーナーで、単騎の渡邉一成が思い切ったカマシを打つ。先行策に出た渡邉は、2番手を大きく引き離して駆ける。山田が追いかけて最終ホームを通過する。山田はなかなか詰まらず、4番手から三谷竜生がまくり、続いた吉田拓矢(写真)がその上をさらにまくる。直線の入口で渡邉を三谷がとらえるが、吉田が交わして1着。
 「初手は理想通りだったんですけど、山田さんが切って自分が深谷(知広)さんを押さえて先行かなって思っていたんですけど。ちょっとイレギュラーな展開になってしまった。三谷さんのまくりに合ってしまって、フワッてなってしまったんですけど。今日(最終日)は誕生日なので1着を取れて良かったです」
 好位の4番手から単騎の三谷竜生が、別線の仕掛けを待つことなくまくって2着。
 「山田君は動くんで、まずその後ろからって感じで考えてはいました。けど、変なレースになってしまった。(渡邉のカマシは)気づきましたけど、あそこは追い掛けられない。山田君が追いつけるかなって見ていたら無理そうだったので、自分で行きました。(吉田を)振り切れれば良かったんですけどね」

<11R>

山口拳矢選手
山口拳矢選手
 赤板2コーナーから誘導を交わした犬伏湧也がペースを上げて逃げる。単騎の山口拳矢(写真)は、中四国勢の後ろの4番手を抜かりなくキープする。5番手に新山響平、前との車間が大きく空いた8番手に脇本雄太で打鐘を通過。迷いなく飛ばす犬伏の後ろで清水裕友が間合いを取って、別線の反撃の備える。最終2コーナーから新山が踏み出すと、清水が詰める勢いで番手まくり。清水に香川雄介が続き、山口も2センターで外に持ち出す。不発の新山から切り替えた佐藤慎太郎に内から当たられた山口だったが、直線は驚異の伸びで清水をとらえて優勝。20年5月デビューから2年11カ月で初めてのタイトルをつかんだ。
 「ちょっと信じられない気持ちの方が大きいですね。でも、なんとなくですけど(優勝した一昨年の)共同通信社杯の時とみたいな、いけそうな感じがあった。ただの予感ですけど。あの並びなら犬伏君が先行するかなって思っていましたし、清水さんも(番手から)出ていくタイミングもうまい、そこを見てからと。(最終)2コーナーで行こうと思ったんですけど、清水さんが出て行った。意外と踏んだ感触が良くて、いいところまでは行けるだろうと。(佐藤)慎太郎さんに当たられてスリップしたので、それでどうかなって。でも(ゴールまでの)距離は短かかったので最後まで踏み切りました。(清水を)抜いた感触はあったんですけど、ビジョンを見るまでは確信できなかったですね。GIで優勝できると思っていなかったので、衝撃が大きすぎて感情が追いついていない」
 脇本は前が遠く、清水裕友が番手まくりを打って、新山は最終3コーナーで後退。20年の全日本選抜以来のGI奪取かに思われた清水だったが、ゴール寸前で山口につかまった。
 「犬伏君があれだけいってくれたのに、僕が優勝できなかった。申し訳ないですね。(犬伏が)強かったですし、あれだけ、あんなに頑張ってくれたのに…。正直、もういっぱいでしたね。なかなか影は見えなかったんですけど。最後の最後にやられましたね。チャンスをモノにできなかったんで。悔しいですね」
 新山のまくりが止まり、佐藤慎太郎は最終3コーナーから切り替えて中のコースを踏む。Vロードが見えたものの、3着が精いっぱい。
 「やっぱり(清水)裕友も強かったですし、犬伏君も掛かりが良かったですね。(新山)響平も勝ちにいくなら、あの形になりますよね。あのコースなら脚があれば優勝まであったと思いますし、余裕がなかったですね。もう101パーセントの力で突っ込んでいっている。あそこからもう一歩踏めるようになれれば優勝もあったのかな。でも、力を出し切れなかった悔しさじゃなくて、出し切った上での悔しさ。次のモチベーションになりますね」

次回のグレードレースは、函館競輪場開設73周年記念「五稜郭杯争奪戦」GIIIが5月13日~16日の日程で開催されます。
日本選手権競輪からすぐ後の日程ながら、新田祐大、守澤太志、郡司浩平のSS班3名が参戦します。犬伏湧也、吉田有希ら若手先行型もそろっているので、熾烈なV争いとなるのは確実です。
なお、昨年はナイターで行われましたが、今年は昼開催となります。

4月29日時点の出場予定選手データを分析した、函館競輪「五稜郭杯争奪戦」GIIIの主力メンバー及び狙い目選手を紹介する「プロスポーツ号外版」は以下をクリックしてください。

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