『第62回日本選手権競輪(GI)レポート』 最終日編
 
配信日:3月8日


 いよいよ迎えた「だんじりダービー」最終日。大阪府の岸和田競輪場には1万人を超すファンが詰めかけた。お目当ては地元近畿代表の村上義弘の姿だ。三連勝で決勝に駒を進めた魂の走りを見ようと、バンク全周に人だかりが。号砲が鳴るとバンクは大歓声に包まれ、村上が先行態勢に入るとボルテージは最高潮に達した。だが、中団五番手を占めた武田豊樹がまくり追い込みで前団に襲いかかる。長い写真判定の結果、微差で武田に軍配が挙がった。5度目のG1決勝戦にして初タイトルを獲得。「無冠の王者」の称号を返上し、名実ともに輪界トップに登り詰めた。


決勝戦ダイジェスト
  スタートで内枠3車が飛び出すも渡邉晴智が制した。海老根恵太―鈴木誠の千葉勢を渡邉が受けて前団。中団に村上義弘―加藤慎平―山口幸二―山内卓也の中近ラインが入り、武田豊樹―兵藤一也の関東両者が後攻めで周回が進む。
  赤板前の2センターから武田が上昇を開始。村上のアウトでは止まらず、前受けの海老根を押さえ込んだ。海老根が車を下げると武田が誘導員を追いながら後ろの出方を警戒する。打鐘前には村上が仕掛け武田を叩く。武田は下げて五番手、海老根は七番手となる。村上も出てからは流して、後続の巻き返しを警戒するが、武田、海老根共に仕掛けず最終ホームは一本棒のまま。村上が腹をくくって全開でフカすと車間を切った武田がバックまくりを敢行。一気に飲み込むスピードではなかったが、四角では村上後位の加藤と車を並べた。村上を交わして懸命に踏み込む加藤とまくった武田が同時にゴール板を通過。写真判定の結果、微差武田が加藤を交わし悲願のG1初優勝。微差に泣いた加藤が2着で大外強襲の海老根が3着となった。
表彰式
表彰式
胴上げ
胴上げ
ゴール
ゴール

<1R>
湊聖二選手
湊聖二選手
   渡邉一成が最終ホームからカマすと、番手の荻原尚人が離れてしまう。番手に入った小林大介が追いかけてきた荻原をけん制すると、内をすくった湊聖二(写真)がバックで番手に。粘る渡邉を捕らえて、GI初勝利を挙げた。
  「今日は中団狙いだったけど、ホームで内に差してしまった。早めに引ければカマすつもりだったんですけどね。内藤(宣彦)さんが降りてきて引いたらないと思って内をしゃくったら番手まで行けた。今日は姉夫婦も応援に来てくれてたし、GI初勝利ができて嬉しいです」


<2R>
岩本和也選手
岩本和也選手
   松岡健介が鮮やかなまくりを決めて連勝。二走目からオール連対でシリーズを締めくくった。
  「中団から組み立てて、飯野(祐太)くんに脚を使ってもらってから、行こうと思ってたんですけどね。結果、前受けになってしまいました。でも、あれ以上スタートけん制したら飯野くんは前を取って突っ張るつもりだったみたいだから、前受けで良かったみたい。今回は仕上がりが良かっただけに、初日が悔やまれます」
  2着には外を伸びた岩本和也(写真)が入り、高配当の立役者に。
  「調子は良いときの8割くらいだけど、一時の戦法とかギアの迷いが消えてレースに集中できるようになった。初めてのダービーで2連対できたし、初日に負けた時点でまたダービーに出たいと思った。当初の目標だったダービー出場って目標は達成したし、今度は勝ち上がりで頑張りたいですね」


<3R>
村本大輔選手
村本大輔選手
   藤田竜矢の先行に乗り1着入線した横田努だったが、外併走からまくってきた新田康仁を落車させ痛恨の失格。村本大輔(写真)が繰り上がって1着となる。
  「新田さんは中団にこだわるところだったし、自分もブロックを貰わないようにしっかりと構えていました。1コーナーあたりで緩んだからもう少し早めに行っていえば楽に前に出られたかも。藤田君が掛かってきたし、一番苦しいところからまくったからね」
  先行した藤田竜矢は4着に沈んだ。
  「中団がもつれていたのが分かったし良い感じで駆けられたけど、今日は風が強くて休む所がなくて苦しかった。でも、踏んだ感じは良かったんで次につながるレースができたと思う」
  菅原晃は内に包まれ何もできず。
  「新田さんに蓋をされていたけど、1センターで一回隙はあったんだけどね。強引にでも行くべきだった」
  落車した新田康仁は「怪我は軽症だったけど、今回は2度も落車しているし心の傷が…。帰ってからゆっくり休みます」と検車場を後にした。


<4R>
中川誠一郎選手
中川誠一郎選手
   金山栄治と佐藤友和が主導権を巡って激しいつばぜり合いを演じた。結局は、正攻法から突っ張った佐藤が最終バックを先頭で通過したが、山口貴弘―大薗宏の関東コンビがまくりで襲いかかる。完全に二車で出切ってワンツー決着…の展開から、後方で脚を溜めていた中川誠一郎(写真)が圧倒的なスピードで1着をさらった。
  「今日はやり合ってくれればラッキーと思っていたので、まくりを基本に組み立てていました。ホームでは後方になったけど、特に焦りもなくじっくり構えてタイミングをとっていたんですが、最後は自分でもビックリするぐらい車が出ましたね。昨日、荒井さんにセッティングを見てもらったのが効いたみたいです」
  3着の大薗宏は今シリーズ三度目の確定板行きに表情を和ませる。
  「今回は特別なことはしてこなかったけど、体調は悪くなかったですよ。今日も山口が行っちゃうと思ったんだけど、対処する間もなく横を中川が通過していった。でも、今回は上出来かな。三走目からギアを一枚上げたけど、結局、僕には合っていなかったみたい。それが分かっただけでも収穫です」


<5R>
北津留翼選手
北津留翼選手
   北津留翼(写真)がホームからカマし、稲垣裕之を叩いて先行。重たいバンクをものともせずに堂々と押し切った。
  「今日は前乗りのセッティングを標準に近いセッティングに戻したんです。後ろにすると視野が広がるし、自転車のコントロールがきくからレースでは柔軟性が出るんです。前受けからカマシ先行はあまりしないし、稲垣さんも(ホームで)来ないと思ったのでは。すんなり出られたので良かった。でも、後ろには自分本位のレースをしてしまって迷惑をかけてしまいました」


<6R>
大塚健一郎選手
大塚健一郎選手
   坂本健太郎が浅井康太を押さえて流した所を、稲村成浩が自力まくりを敢行。前団をまくり去ると、稲村の番手に切り替えた大塚健一郎(写真)が直線で追い込んで1着となる。
  「実質、二分戦だし浅井に粘らせて、押さえ込んでペースで駆ける作戦だった。稲村さんにまくられてしまったけど、それも予想していた展開のひとつ。何とか番手に切り替えて巧く1着をとることができました。昨日とその前のレースでも不甲斐ない結果だったし、一次予選も抜き損じたレースだったんで、最終日に1着がとれて良かった」
  稲村成浩は2着となったものの、見せ場を作って満足げ。
  「坂本君はカマして行ってしまうのかなと思ったら踏み止めた。前に突っ掛かってしまったんで、バックを踏むよりは自分で行った方がいいと思って出ました。苦しかったね」
  稲村を追った山田敦也は大塚に大きく張られたが、これを意地で凌いで3着を確保した。
  「本当はピッタリと付いてブロックも対処できていれば稲村さんが1着のケースだったんだけどね。でも、張られて9着のパターンだったけど、あそこからもう一回踏んで立て直せたのでよかった」
  坂本健太郎も作戦通り組み立てたが、「出切ったら一度ニュートラルに入れて、あとはコーナーまで我慢する作戦だったんだけど。稲村さんのまくりが凄かったし、自分に脚が残っていなかった」


<7R>
前田拓也選手
前田拓也選手
   地元のエース・前田拓也(写真)が最終日にして待望の1勝を挙げた。二次予選は涙を飲んだが、ようやく地元ファンの声援に応えられた。検車場で快勝に喜びを噛みしめる。
  「今シリーズ、どこでもいいから1着を獲りたかった。最終日になってしまったけど、勝ててホッとしました。前半戦の山場と思ってずっとやってきたし、何よりお客さんの声援がすごかったですからね。今日は三宅君の気持ちが嬉しかったです。地元の僕と大井さんが付いてることを気にして走ってくれましたからね。またコツコツ頑張っていきますよ」
  白戸淳太郎は前走に引き続き確定板をゲット。
  「今日は8割方粘ろうと思ってました。今回の成績は上出来ですね。来る前は、バイク誘導の練習で60キロぐらいしか出ない状態だったから。この後、合宿で体を作り直してきます」


<8R>
小嶋敬二選手
小嶋敬二選手
   8レースは五十嵐力が先行した。中団から渡部哲男がまくり上げたが、その上を小嶋敬二(写真)が3.85のギアで豪快にねじ伏せた。
  「昨日はまくりだったし、今日は先行したかったんだけどね。ラインが2車だし後ろ攻めだったから、インを斬るだけになってしまったね。今日は重たかったし、まだまだ伸びる感じがした。ギアが慣れていないから掛かっていかなかったね。まくれたのはたまたまです」
  石丸寛之が小嶋ラインを追う形でまくり、バック八番手から迫って2着。
  「ジャン過ぎに行こうか迷ったけど、前が踏んでいたし合わされてしまうから待ちました。小嶋さんも絶対に行ってくれるだろうから、小嶋さんが仕掛けたのを見てから自分も行きました」
  今節好調の五十嵐力だったが、準決、最終日と実力の違いを見せ付けられてしまった。
  「初手は中団からいって、押さえてもらった所を自分が行く組み立てだった。出切ってからは重たかったし、流れる所がなかったし脚は一杯だった。小嶋さんは一旦、脚を使って押さえてからのまくりでしょう。強かったですよ」


<9R>
山田裕仁選手
山田裕仁選手
   新田祐大が主導権との見方が濃厚だったレースだが、老獪な山田裕仁(写真)がホームガマシを敢行。これで他のラインは完全に立ち遅れてしまい、ゴール前は中部勢三車の争いとなった。結局、山田の勢いは最後まで衰えず逃げ切り。
  「もちろん最初から狙ってたわけじゃないですよ。新田君は若いんだし、普通に打鐘から駆けても逃げ切れる選手でしょ。僕はそういう訳にはいかないから。普通に(井上)昌己と中団争いになると思ってたし、そこをどちらが支配するかの勝負になるはずだったんだけど、新田君があまりにも踏まなかったから。1着はタマタマですよ」
  番手の坂上樹大も山田の強さに脱帽する。
  「さすが山田さんですね。ああいう天才的なレース勘はすごいですよ。出足も良かったし、付いていくのに必死でした。離れてしまうようでは、番手を回る資格はないですから。ゴール前は一杯だし、抜きに行ったけど届きませんでした」
  井上昌己は「何だかずっと変な感覚でした。車も出なかったし」とつぶやき、帰り支度を始める。


<10R>
吉田敏洋選手
吉田敏洋選手
   準決で敗れた吉田敏洋(写真)だが、気持ちを切り替え最終日はまくって1着。シリーズ3勝で締めくくった。
  「荒井(崇博)さんは早めの先行はないと思ったんで遅めに押さえに行ったら突っ張られましたね。でも、一気にペースが上がったし、山崎(芳仁)も僕が叩くと思っていた感じだったから車間が空きましたね。突っ張られたけど、その後は巧く対処できた」
  山崎芳仁は大外を踏まされまくり不発。一度も連にからめず今シリーズを終えた。
  「今回、ここに来る前に風邪を引いてしまったけど、それなりに踏めるとは思っていたんだけどね。今ひとつでした。地元記念までにはしっかりと調整してきます」


<11R>
村上義弘選手
村上義弘選手
海老根恵太選手
海老根恵太選手
   村上義弘の先行、中団に武田豊樹、後方からは海老根恵太が襲いかかる。力と勢いが激しくぶつかり合った決勝戦を制したのは武田豊樹だった。
  逃げた村上義弘(写真)は6着という結果にも納得の表情。大観衆が見守る中、こだわってきた先行で決勝戦を戦った。
  「連日、大声援に支えられて決勝戦まで勝ち上がれたし、とにかく今日は力を出し切ることだけを考えてました。自分の持っている力は100%出せたし、負けたのは力不足だということ。それだけです。武田豊樹さんは実力日本一の選手だし、武田さんが勝ったなら納得ですよ」
  村上の番手で四角ハコ回りの加藤慎平だが、逃したチャンスはあまりにも大きかった。レース後、検車場に引き上げると悔しさに言葉を詰まらせる。
  「自分がチャンスある位置を回せてもらったのに獲れなかったのは残念。力不足を痛感しています。武田さんがまくり追い込みみたいな感じできたけど、それでも自分が勝たなければいけない。苦しかったです。最後は脚が一杯でした」
  海老根恵太(写真)も初タイトルを期待されたが、後方で不発に終わってしまった。
  「今日は(渡邉)晴智さんに前を取ってもらって、引いてから行けるところで行こうと思ってました。打鐘で緩んだけど、前を見過ぎてしまったのが。武田さんが中団で車間を空けているのが見えたけど、最後は行かないと仕方ないところなので行きました。自分がレースを作っていないし、人任せにしてしまうリスクは仕方ないですね」
  三番手を固めた山口幸二だが、内に詰まって踏み所がなかった。
  「あれだけ被っちゃ仕方ないね。最後はどこも踏むコースがなかった。番手ならチャンスはあったんだろうけど。また(村上と)G1の決勝戦に乗れるよう頑張りますよ」

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情報提供:日刊プロスポーツ新聞社
写真撮影:日刊プロスポーツ新聞社 Takuto Nakamura
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