月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2019年4月 前橋競輪場
もう少しGIを走りたかった
池上 孝之
兵庫  69期
47歳  A級1班
「もう一度、S級のレーサーパンツを履きたい。
その気持ちを持って頑張っていこうと思っています」
父の影響で決意した競輪の道。
「中学の時点で決めていました。
頑張ってお金稼いで、一発やってやろうとの思いでした」
今もその思いは健在だが。
「気持ちはあるんですけど、身体がなかなか…」
ここまでまずまず順調にやれたと競輪人生を振り返るが、
「もう少しGIを走りたかったしS級で活躍したかった」
「自力の練習もしています」
市本 隆司
広島  72期
47歳  A級2班
年齢を重ねたからこそわかることがある。
「レースの臨み方や組み立て、練習方法にしても、
若いうちは分からないことがあった。
あの時勉強しておけば今とは違い、
もう少しできたのではないかと感じます」
脚力だけの勝負ではない競輪。
「僕はガッツリ先行選手の後ろを走るタイプじゃない。
いつでも自力を出せるくらいの余裕があれば、
レースの幅が広がるので自力の練習もしています」
時には自力で勝負をし、もう一度上を目指す。
「職業だと思っているんです」
三谷 幸宏
北海道  67期
53歳  A級2班
辞めたいと思うことが何度もあった。
「怪我をすれば辞めたい、勝てなくなると辞めたい。
でも僕は、職業だと思っているんです。
超一流でない自分は長くやるしかないと思ってやってきた」
勝負と緊張の連続、以前は嫌な奴だったと振り返る。
「昔は、他の選手や若手にレースの文句を言ったけど、
今は、ありがとうとしか言わない。笑ってばかりかなぁ」
スピードスケートのオリンピアンが転身、
現役30年の目標にあと2年だが、その先を見据える。
写真・文 中村 拓人