月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2019年7月 京王閣競輪場
「同期もほとんどいなくなったけど」
橋本 忠延
高知  53期
54歳  A級1班
気づけば50代半ば。122名いた同期も現役はわずか6名。
最近になって「結構長く頑張れたかな」と自覚が出てきた。
その基盤となっているのはコツコツやってきた練習。
「誰に怒られるわけでもないけど、理由もなく休んだら自分
の中で気持ち悪いという部分があった。デビュー当時、師匠
の松村信定さんがバリバリの頃だったので、早朝・午前・午
後・夕方と練習漬けできつかった」
今の若手は絶対的に当時の自分たちより強いと話す。
「できることは限られてきたけど、練習では自分に負けたり
自分を甘やかしたりせず、離れずにみんなと一緒にゴールで
きるよう脚力を保っておきたい」
「優勝を目標にやりたい」
能代谷 元
神奈川  111期
30歳  A級1班
デビュー2戦目で落車。2年経った今も万全とは言えず、
もどかしさを抱えている。
「最近少しまた良くなってきた感じはしますが、デビュー戦
の動きに比べたらまだですね。今期、少しは勝負できるよう
にならないと」
ラインを組んで走る競輪は他の世界とは違うと感じている。
「脚力だけでは勝てない時が多々ある。展開も左右してくる
し。個人競技でありながら、1人じゃない、仲間、チームを
組むというか。恩恵を受けることもあるし、そうでないこと
もある。展開に応じて走れるようになりたいです」
まずは決勝に勝ち上がり、A級初優勝を目指す。
「今、崖っぷちです」
宮路 智裕
熊本  56期
53歳  A級2班
プロ35年目、完全休養日はない。それどころか筋力が落ち
るのが嫌で焦りを感じて自転車に乗らずにはいられない。
「開催中の指定練習でバンクに出てくるのはベテランばかり。
皆、切羽詰まっているんですよ。不安で不安で仕方ない。
不安がなくなったら選手として終わる時じゃないですかね」
崖っぷちの自分を感じながら走り続けている。
「好きなんでしょうね。子供達はもう結婚していますが、父
親が競輪選手だということを誇りに思っているみたいでした」
レースでは共にデビューした同期の息子達と対戦している。
熊本地震で被災したホームバンクの再開まで約二年半。
「走ってみたい。これが長いんですよね。あと二年半か!」
写真・文 中村 拓人