月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2019年12月 京王閣競輪場
「目標は最年長勝利記録の更新」
宮倉勇
千葉  58期
55歳  A級1班
" 競輪の職人" という言葉がふさわしいベテラン。 33年間、常にラインを大事にすることを信条としてきた。「内容を第一に考えていけば自ずと結果はついてくる。そうして車券を買ってくれた人たちに喜んでもらいたい」 もう一つの信条は最後まであきらめないことだ。「大切なお金を賭けていただいている。たとえ8番手、9番手になってもあきらめないで走ることを意識しています」 多くの人から支持されるのはそんな真摯な走りなのだろう。 「1番の目標は三ツ井勉さんが今年64歳で達成した最年長勝利記録を塗り替えること。それは10年後だから、当面の目標はS級に返り咲くことです」 体の変化を感じる55歳の自分と向き合いながら、柔軟に新しいものを取り入れて心身を鍛え続ける。
「寺沼三兄弟で関東を盛り上げたい」
寺沼将彦
東京  111期
27歳  A級1班
初めて乗ったピストレーサーはただただ苦しかったと言う。 股擦れができるほど練習して3度目の受験で競輪学校に合格。「練習もそうですが、受からないと仕事に就けないというプレッシャーで、精神的にも肉体的にもきつかったです」 師匠(田谷勇)から「諦めるのは自由、選手になるかならないかはお前次第」と言われ、その言葉が力に変わった。大学までサッカーをやっていた。「サッカーの魅力はチームで戦うこと。絆も深まるし、人としてもスポーツマンとしても成長できることだと思います」その経験もあってか絆の強いライン戦に惹かれる。「メンタルには自信があるが、もっと脚力をつけなければ」 弟二人が115期でデビューした。負けるわけにはいかない。「三谷三兄弟ではないですが、寺沼三兄弟で関東を盛り上げて行きたい。大きな目標は兄弟でグランプリです」
写真・文 中村 拓人